雨宿りの木

第38回

ユマニチュードを学ぶ手段 1 TBS・報道特集

2024.11.28更新

 こんにちは。

 ユマニチュードを知った方が、「自分もやってみたいな」と思ってくださるのは、いつもとてもうれしいです。この連載もユマニチュードとはどんなものかをご紹介することで、読んでくださった方に暮らしの中で役立てていただけたら、と思いながら書いています。

 よくいただくご質問に「ユマニチュードを勉強したいのですが、どうしたらよいですか?」ということがあります。いろんなやりかたがあると思うのですが、今日はそのひとつをご紹介します。

 ユマニチュードとはどんなものかまず見てみたい、と思われる方には、映像があります。TBSの報道特集でご紹介いただいた内容は、TBSのYouTubeチャンネルで 公開されています。この番組では、ユマニチュード考案者のYves Gineste先生と私たちが急性期病院や介護施設にお伺いし、そこで日常のケアに困っている方々に対してケアを行う様子がまとめてあります。番組の中では、看護師さんたちが患者さんのために奮闘しているにもかかわらず、結局ご本人に激しい言動で拒絶されてケアができない様子が映し出されます。ここでぜひお伝えしたいと思いますのは、担当の看護師さんが「一生懸命やっているのに、馬鹿野郎と言われたり、殴られたりしてしまって、じゃあ一体どうすればよいのか・・・」と途方に暮れているインタビューです。翌日に私たちが「同じ患者さんに同じケアを違うやり方で」行ったときには、ご本人は笑顔でケアに協力してくださり、「さっぱりいたしました」とおっしゃり、横でご覧になっていた患者さんの息子さんが「こんな笑顔を何年振りかに見た」と喜んでくださいました。

 ここで大切なことは、担当の看護師さんも、同居している息子さんも、患者さんご本人のことが大好きで、大切にしたいと思っていらっしゃるのに、それが相手に届いてないことです。

 ケアの専門職は、誰もが「相手のために良いケアを提供したい」と思いながら仕事をしていらっしゃることと思います。優しい気持ちがあっても、それが「相手に理解できるように表現できなければ、伝わらない」ことをこの番組では視覚的に伝えています。

 ユマニチュードは「あなたのことを大切に思っています、ということを相手が理解できるように表現するための一連の技法」です。これまでご紹介してきた「4つの柱」や「5つのステップ」はそのための技術です。報道特集では、ユマニチュードの基本的な考え方と動きについて、番組の5分ごろからキャスターのインタビューを受けながらGineste先生が説明しているのでぜひご覧いただきたく思います。とても分かりやすくまとまっています。

 とはいえ、「そうは言っても、実際に困難な状況に陥ったときにどうすれば良いかわからない」ということもあるかと思います。報道特集では、先ほどご紹介した看護師さんがどうしても口腔ケアを受け入れてもらえない様子を撮影した映像を教材として、Gineste先生が「どこに問題があるのか、どうすれば良いのか」を解説しています。番組の16分くらいのところです。

 たとえば、看護師さんが患者さんの顔が向いている方向とは逆の方向から近づいている(つまり、「見る」の技術がよくない)、相手との距離が遠い、触れる時につかんでいる、ことが指摘されています。また、看護師さんたちがノックなしで部屋に入っていく様子(つまり、5つのステップを使わずにケアを始めている。その一方で、翌日に私たちがお伺いした際には、ご本人がノックの音で私たちを笑顔で迎えてくれています)なども、ケアをするご本人にとっては全くそんなつもりはなくても、ケアを受ける相手が「自分が大切にされている」と感じるのは難しいのではないか、という場面がたくさんあります。

 インタビューで「一生懸命やっているのに、馬鹿野郎と言われたり、殴られたりしてしまって、じゃあ一体どうすればよいのか・・・」と困っていた看護師さんにユマニチュードの基本を実践するという観点から提案できることは、実はたくさんあるのだ、ということをこの番組ではお伝えしています。

 ケアがうまくいかないときに考えるべきことは、「自分の思いやりがたりないのでは」と自分を責めることではなく、「自分の技術のどこに問題があるのか」と自分の行動を検討することだと思います。行動の検討にあたって必要なのは、ユマニチュードの4つの柱と5つのステップの要素が確実に実施されていたかどうかを振り返ることです。誰かに見てもらって指摘してもらっても良いですし、ケアを受ける方の許可を得て自分のケアの様子を撮影し、映像を客観的に見直すことも役に立ちます。自分のケアの様子を撮影することは最初はとても勇気がいります。でも、もしよろしければ一度やってみてください。「こんなふうに相手を見ていた(もしくは見ていなかった)とは・・・」や、「ここで手をつかんでしまっていたな」などこれまで気づいていなかったさまざまな自分の行動が見えてきます。時には、途中でケアがうまくいかなくなった瞬間の様子を見直すことで、その原因となった自分の動きを確認することもできます。

 TBSの報道特集はこれまで233万回再生されています。多くの方にユマニチュードの実践を見ていただける機会を設けてくださったことに、心から感謝しています。

本田美和子

本田美和子
(ほんだ・みわこ)

国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職、高齢者・認知症患者のケアに関する研究に従事。2011年より『ユマニチュード』の研究・日本への浸透を担い、2019年7月一般社団法人日本ユマニチュード学会を設立、代表理事に就任。

※一般社団法人日本ユマニチュード学会は、フランス生まれのケア技法『ユマニチュード』の普及・浸透・学術研究と会員間の相互交流を通じ、誰もが自律できる社会の実現を目指して様々な活動を行っています。会員としてご一緒に活動いただける方、会の趣旨に賛同してのご寄附など、随時募集しております。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。

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