第3回
『東京あたふた族』刊行記念!「私の上京物語」座談会(前編)
2022.11.18更新
こんにちは。ミシマガ編集部です。
11月15日、益田ミリさんの『東京あたふた族』が公式発刊となりました!
本書は「上京物語」「東京あたふた族」「終電後」の3部構成となっており、第1章の「上京物語」には、益田ミリさんが26歳で、イラストレーターになるために大阪から上京したときのことが描かれています。
本日のミシマガでは、平均年齢25.2歳(!)、まさに上京当時のミリさんとほぼ同年齢のミシマ社若手メンバー5人が、「上京物語」を読んで語らった座談会の模様をお届けします!
一人暮らしをはじめる、社会人になる、という経験のまっただなかで、まさに毎日「あたふた」しまくっている私たち。・・・それぞれがどんな思い出を重ねて、本書を読んだのでしょうか?
【メンバー紹介】
スガ
入社4年目。1994年生まれ。神奈川県出身。生粋のハマッコとして育ち、ミシマ社入社と同時に実家を出て東京都内に引っ越す。「永遠の新人」の称号を恣にしている彼は、ミリさんの下積み時代のエピソードをくりかえし読んでは、笑ったり笑えなかったりしながら、深く深くジーンとしている。
ヤマダ
入社3年目。1997年生まれ。愛知県出身。大学進学と同時に上京。ミシマ社入社と同時に京都に引っ越す。最近「どの土地にも自分のアイデンティティはない」という孤高のセリフを口にしていた。
スミ
入社2年目。1995年生まれ。島根県出身。大学進学と同時に上京。メキシコにも約2年間滞在。過去9年間で7回引っ越し経験のあることを謎の自慢にしている。
ニシオ
入社1年目。1998年生まれ。千葉県出身。大学進学のため沖縄へ引っ越し、4年間過ごす。ミシマ社入社と同時にふたたび関東へ。沖縄で仕込んだ語尾の「さ~」も、東京では必死にこらえてます。
オオボリ
入社1年目。1999年生まれ。神奈川県出身。ミシマ社入社と同時に実家を出て、京都に引っ越す。人生初の一人暮らしに大奮闘中。たった4年間しか住んでいない御殿場に一番のふるさと愛を持つ。
(左からスガ、ニシオ、オオボリ、スミ、ヤマダ。座談会はオンラインにて行いました)
「これで旨いもの食べろ」
スミ 『東京あたふた族』の「上京物語」を読んで、心に残った一節を教えてください。それではさっそく、新人のニシオくん。
ニシオ 僕の一番好きなシーンはここでした。
上京する一週間ほど前だっただろうか。父が自分の郵便局のキャッシュカードをわたしに差し出し、
「必要なだけおろしてきたらええ」
と言った。
(...)
三万、五万では父に華を持たせられない。それで一〇万円おろした。
「なんや、そんなけか」
カードを返すときに金額を言うと父はひどく拍子抜けしていた。P36-37「母がくる」より
自分を心配してくれる親という人のことが伝わってきます。これは僕自身の経験ともすごく重なるんです。
僕は大学進学で千葉から沖縄に行くことになったのですが、もちろん貯金は一切ないので、一人暮らしをはじめるために親に除湿器を買ってもらったりして・・・。
スガ え、いきなり除湿器ですか? 電子レンジとかじゃなくて?
ニシオ あ、沖縄では除湿器が生活必需品なんです。湿気がすごくて、壁とか衣類がすぐにカビちゃうので。もちろん電子レンジとかカーテンも買ってもらいました。
一同 へぇ~。
ニシオ そこですごく驚いたのが、これまで親からは「こんな高いもの買えない」とか「1万円超えるスパイクなんかだめ」みたいに、「買っちゃだめ」と言われつづけてきたのに、いざ一人暮らしをはじめるというシーンになると、「いいよいいよ、買ってあげる」と言ってくれるんだ! と
スミ たしかに!
ニシオ そのまったく変わってしまうところがすごく印象的で。とくに覚えているのは、いよいよ両親と別れるというときに、家族でファミレスに行ったんです。そこで父が最後に、「これで旨いもの食べろ」って、数万円くれたんです。「ん、これ」って感じで、ぶっきらぼうに。その姿がミリさんのお父さんと重なりました。
スミ 買っちゃダメと言う存在だった親が、人生の節目でいきなり自分にすごい買い物をしてくれるみたいなことって、めっちゃありますね。もう一緒に暮らせないから、親としてもやれるだけのことをやりたいみたいな感覚があるのかもしれないです。
(章扉の数字もあたふた! 装丁デザインは大島依提亜さんです)
言葉のトンネルをくぐる
ヤマダ 僕は関西弁と東京の言葉の違いを描いたいくつかのお話が印象的でした。
その中でも「言葉のトンネル」という一篇のなかの、この表現。
あの整骨院はわたしにとって大阪と東京の間にある言葉のトンネルだったのかもなぁと振り返る。
P47「言葉のトンネル」より
ヤマダ 散歩の途中で見つけた整骨院に入り、「テレビドラマの人たちが話している風の言葉をまねて」(同頁)標準語で話してみる、という試みをした話で、これをミリさんが「言葉のトンネル」と表現しているのがとても好きです。すごく美しいたとえだなぁと。ミリさんのエッセイは、本当にひとつひとつの言葉が丁寧に選ばれていて、読んでいるこちらも優しく包み込まれているような気分になります。
あと、この言葉の違いのお話から、自分の上京直後のことも思い出しました。
僕は愛知県出身で、自分では標準語を喋っているつもりなんですよ。でも、東京の友人からは「イントネーションおかしくない?」って言われて、驚いた記憶があります。
たとえば、「服」や「靴」は愛知だと関西と同様に、単語の前の文字にアクセントがあるんですよ。でも、東京だと後ろにアクセントがくる。東京の人っぽく振る舞うために、がんばって直しました(笑)。
言葉が変わると、人格も変わる?
スミ 私も、言葉についての話が心に残りました。
わたしは整骨院に通いながらあることを実践していた。大阪弁を使わない、である。大阪弁を封印し、テレビドラマの人たちが話している風の言葉をまねて先生たちとの会話を試していたのである。するとこれまでの自分の雰囲気とは違う人物が形づくられていった。ちょっとおっとり気味のわたしである。元来せっかちなほうだから、それはとても新鮮だった。
P47「言葉のトンネル」より
スミ 私はメキシコに留学していたことがあるのですが、まさにこれを経験しました。
スペイン語を使うのですが、最初のうちは特に簡単な単語しか知らないし、頭の中でいちいち翻訳しながら話すので、会話がワンテンポもツーテンポも遅れるんです。そうしたら、みんなが私に、子供をかわいがるように接してきてくれて(笑)。私は日本語だとわりとずけずけ話してしまうほうなのですが、メキシコに行った途端に、子供っぽい、妹っぽいキャラになって・・・。
一同 (笑)。考えられないですね。
スミ ちょっと甘え上手になれるのが新鮮で、すごく幸せでした(笑)。
その土地の言葉を話してみるのはすごく楽しくて、ちょっと違う自分になれるから好きです。京都で関西弁を使うというのも、なかなかやりづらいですけど、ほんとはやってみたいです。
初版限定特典で「あたふた東京タワー」の写真も!
あと、もうひとつ忘れられないのが、ミリさんがタバコを吸ってみるシーンです。
上京してきたのだ。東京でわたしを知る人はほぼいない。新しい自分を演出するチャンスである。
(タバコを吸ってみよう)
今から思えば妙ちきりんな発想であるが、本来わたしはマジメであるので結構マジメにそう考えたはず。P27「新しい自分に」より
スミ 住む場所、生活する場所を変えたときに、新しい自分になれるんじゃないかって思う気持ちはすごくわかります。新しいカルチャーのなかに入ってみよう、みたいな気分になって、私もメキシコでタバコを吸ってみたんです。そういえば、ピアスも開けました。21歳だったんですけど。なんか超初々しいですね・・・。
ちなみに私はその後めっきり吸わなくなったので、習慣にならなかったぶん、かえってメキシコの思い出として残っていて。すると、たまにタバコの匂いを感じたときに、当時を鮮やかに思い出すんです。
これはやっておいてすごくよかったと思ってます。タイムスリップするみたいに、そのときを思い出せるから。新しいことをするときにタバコを吸ってみるのはけっこうおすすめかもしれません。
編集部からのお知らせ
くまざわ書店グループ×ミシマ社×益田ミリ記念コラボフェア開催!
『東京あたふた族』発刊に先駆けて、全国のくまざわ書店グループ店(くまざわ書店、アカデミア、いけだ書店、球陽堂書房)約100店舗にてコラボフェアを開催中です!
フェア期間中に、ミシマ社より刊行の益田ミリさんエッセイ・コミックエッセイなどの対象書籍をお求めの方には、新刊『東京あたふた族』をモチーフにした益田ミリさん描き下ろしイラスト入りのブックカバーをプレゼント!(※)
くまざわ書店グループ限定デザインの、ここだけのブックカバーです。この機会にぜひ、益田ミリさん作品をお求めくださいませ。
※特典ブックカバーはなくなり次第、配布終了となります。ご了承ください。
■開催期間:2022年10月20日から順次スタート(1~2ヶ月程度開催予定)
■開催店舗:全国のくまざわ書店グループ店 約100店舗(店舗リストはこちら)
(※グループ店でも開催しない店舗もございますのでご注意ください)
■購入特典:益田ミリさん描き下ろしイラストを使用したオリジナルブックカバー(紙製)
対象書籍ご購入の方にプレゼント(書籍1冊につき1枚)
東京あたふた族 エッセイのことば展@山陽堂書店
『東京あたふた族』の刊行を記念して、益田ミリさんの「ことば」に焦点を当てた特別展を開催します。
会場には、描き下ろしイラストもたっぷりと展示されます! 「益田ミリの世界」を、じっくりとお楽しみください。
■開催期間:2022年11月22日~12月3日
■場所:山陽堂書店 2F GALLERY SANYODO
〒107-0061 東京都港区北青山3-5-22 山陽堂書店2F
東京メトロ表参道駅(銀座線、千代田線、半蔵門線)A3出口から徒歩30秒
■営業時間:平日11:00〜19:00 土11:00〜17:00 日祝休