地域編集のこと

第43回

サウナ施設を編集する その5

2022.05.06更新

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 自らの思いに薪をくべ、ひたすら温度を上げるだけではその情熱は伝わらない。ロウリュよろしく、蒸気に変換しなければその熱はうまく届かないということに気づかせてくれたのはチームクラプトンの存在だった。

 地元工務店さんの確かな経験値は、地域に根ざした建築事業において欠かせないけれど、それはときに固定化した方法論やルールとなり、あらたなチャレンジや可能性を阻んでしまう。そこで大切なのが素人力とも言うべき知らぬが仏の突破力で、そこに関しては僕も「プロの素人」として自信があるのだけれど、こと設計施工という世界においては、その力を発揮するのが非常に難しい。一歩間違えば命に関わるのだから当然のことだ。

 そこで、きっちり安全に仕事を進められるように尽力してくださる地元工務店さんと、スーパー素人な僕との間を取り持ち、見事にロウリュしてくれたのがチームクラプトンだった。

地域編集のこと 第22回「にかほのほかに」のこと02 〜DITとTEAMクラプトン〜

 井戸を掘りたい。
 女性専用サウナもつくりたい。
 スピーカーをつけたい。
 椅子は3段ほしい。
 寝転がれる幅が必要。
 サウナ室から鳥海山を眺めたい。
 水風呂の水を上から降り注がせて欲しい。

 などなど、僕の一方的な要望を地元工務店さんとの間に立って翻訳し、結果的に理想のサウナに近づけてくれたのは本当に彼らのお陰。まさにサウナにおけるロウリュの役割を果たしてくれたからこそ、地元工務店のおじさんたちも、僕のわがままな要望をなんとか叶えようと頭をひねらせてくれたのだと思う。ほんと感謝しかない。

 ではクラプトンメンバーはいったい何をしてくれたのか?

 それは僕の心の焼き石に何度も何度も微量の水をかける作業。具体的に言うと、いちいち一緒に現場に行き、長さや高さを測ってみたり、手描き図面を僕に描かせてみたり、つまりは徹底的に僕の手足を動かすよう促した。そうすることで僕の頭の中は見事に整理されていった。実際に現場でメジャーをあててみたり、慣れない図面を描いてみたりするほどに、イメージと現実との距離の遠さを実感して、熱量がほどよくクールダウンしていくのだ。そのお陰で、ただ熱いだけだった思いが蒸気となり、地元の工務店さんにも理解してもらえるイメージや言葉に変換され、イメージを擦り合わせることができた。

 これってまさに僕が日々やっている編集作業じゃないか。そのことに気づいて僕はずいぶん興奮した。ふだん考えていることでも、ジャンルや業界がちょっと変化するだけで、見えなくなるから人間ってやっかいだ。

 僕は雑誌や書籍の取材インタビューで大切にしている信念のようなものが3つある。それは、取材対象に対して

1)リスペクトしていること
2)向き合うこと
3)楽しむこと

 けれどこれらはインタビューに限ったことじゃない。地域編集でも雑誌編集でも、「相手をリスペクトする気持ち」と、「逸らさず向き合う姿勢」。そして何より「現場を楽しむ力」が大切で、チームクラプトンはこれらを兼ね備えているからこそ、日本全国多くの現場で頼られているのだと思う。

 行政のスケジュール感のもと進んだサウナづくりは、年度末で一旦その進行をストップした。いまは概ねカタチができあがり、ここからは消防や公衆浴場法などをクリアするべく、さらなるテコ入れをしていく。それを終えてようやくテスト運転ができる予定だ。懸案事項だった地下水についても、想定していた掘削50m目前にして水が出た。いまはその水質検査も進めているところ。実際に営業できるまでは、まだまだ乗り越えなきゃいけないハードルが沢山で、先は長いけれど、かつて子どもたちの更衣室だった小屋が、サウナ小屋として生まれ変わった姿に、ひとまずホッとしている。

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 しかし、地域編集はうまくいかないことばかりで楽しい。サウナ編集についてはまた進捗をご報告するとして、このシリーズは今回で終了。次回からは、また別の切り口で地域編集についてさらに深掘りしていきたいと思う。

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藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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