地域編集のこと

第45回

チームのつくりかた

2022.07.07更新

 編集のスタートとも言えるディレクションの大切さについて書いた前回の記事。「そうは言っても、自分には能力のある知人や、著名な知り合いがいないから、いきなりよいディレクションなんてできない」そう思われる人も多いだろう。そんな風に思ってしまうのも無理はないけれど、僕が思うよいディレクションとは、実はそういうことではない。今回はそのことを説明するために、2019年の7月にスタートさせた『Re:School(りスクール)』というオンラインコミュニティの話をしたい。

 2017年に出版した『魔法をかける編集』(インプレス)。その出版記念ツアーと称して、半年間で日本全国62ヶ所をまわったときのこと。移動しては喋って本を売ってまた移動して、という日々は正直体力的にかなり大変だったけれど、その分、得るものも大きく、何より各地域で出会ったみなさんが吐露してくれたリアルな悩みは僕の視界を大きく広げてくれた。しかし、その悩みが切実であるほどに、その場で大喜利的に答えることの不誠実さに悩み、もっとしっかり寄り添いたいという気持ちが芽生えてきた。また、僕自身、より真摯に「編集」について考える場所が必要だと思うようにもなった。そこで閃いたのがRe:School(りスクール)だ。

 編集者の藤本智士(Re:S)が、雑誌・書籍編集で培ってきたスキルを、いまこそ地域編集に。
 仲間とともに編集の概念をポジティブに拡張するオンラインスクール的サロン。

 そんなメッセージともに募集を開始したRe:Schoolは、現在約65名のメンバーがいて、職種も、住んでいる地域もさまざまで面白い。北は北海道から南は沖縄まで。さらにはアメリカやデンマークにもメンバーがいて日々刺激をもらっている。ここで僕が伝えたいのは、学びの場を編集しようとまず最初にやったことが「仲間集め」だということ。

 前回、編集の起点が自らの無力さを受け入れることだと書いたけれど、無力さを自覚したときに立ち上がってくるものはまさに仲間の存在だ。逆に言えば、人は仲間に出会うとき、自分の無力さに向き合える。編集について考えを深めていくためにも、僕は自身の弱さや無力さに向き合えるような仲間が欲しかった。WEBメディアであれ、紙媒体であれ、オンラインコミュニティであれ、編集の実践にチームプレイは欠かせない。そのためのチームづくりを別の言葉で言い換えたのがディレクションだ。

 しかし多くの人はそこで出来るだけ優秀なチームをつくろうと考える。そのことは当然なのだけれど、その際に、まるでサッカー日本代表のように、選りすぐりの才能を集めようとしてしまうと、自分には無理だと諦めが生まれ、結果、思いの希薄なチームづくりをしてしまったりする。そもそもチームプレイの素晴らしさは、一人一人の弱さを補い合えることにある。個人的な実感で言うならば、弱さこそが、組織の思いがけない強みを呼び覚ましてくれるのだ。アベンジャーズ的な突出した才能の集合体が、よいチームになるとは限らない。それどころか、かえってうまくまわらなくなることの方が多いと言っていい。チームというのは住まいと同じで、出来てからが大事なのだ。デザインマンションのショールームみたく、住む前の状態が一番よくみえるチームよりも、そこに住んで生活をしていくほどに馴染んでいく昔ながらの木造建築のようなチームづくりを意識した方がいい。一人一人の弱さや脆さが再生可能で柔軟な強さを生む。

 ここで、Re:Schoolの応募条件を転載してみる。

・自分の弱さや苦手意識を明らかにできる人
・自分のものさしを他人に押し付けないよう心がけている人
・語るよりも、聴くチカラのある人
・おおらかな気持ちや、良い意味でテキトーさのある人
・他人へのダメ出しよりも、褒めポイントを見つけるのが得意な人
・自分とは違う考え方を受け入れる努力をする人
・対話を大事にする人

 以上、7つある条件の一番上に掲げているのが"自分の弱さや苦手意識を明らかにできる人" つまり、自分の弱さを他人に開示できる人だ。僕自身、最近まで「僕はこんなことができます!」「これが得意です」「私の強みはここです!」と、出来ることをアピールすることが大事だと思い込んでいた。特にビジネスやスポーツの世界においては、いまもなおそれが重要だと言われ続けている。しかしそれは決してたった一つの正解ではない。強みのアピールからはじまるチームづくりよりも、弱さの吐露からはじまるチームづくりの方が、より強固なチームが生まれるというのが僕の持論で、それを実践したのが「Re:School」だ。

 実のところ、上記7つの条件は、あくまでもこういう人に入ってもらいたいという、僕の切実な希望であり、入会条件に限りなく近いものだと補足している。実際この条件はかなり厳しいし、僕自身がこれらを満たしているかというとまったく自信がない。けれど、少なくともこういう気持ちを持ちたいと願っている人。心がけている人。意識している人。に、入ってもらいたいと思って書いた。結果、とてもよいフィルターになってくれたように思う。

 あらためていま、申込時のメンバーのメッセージを読み返してみると、みんながしっかり弱みを吐露していて素晴らしい。「オリジナリティのある人間ではありません」「観光地だけではない各地域の魅力を多くの人に伝えることができたら、と考えていますが、具体的にどのように取り組めば良いのかが分かりません」「次の一手が見つからず、もっと何かできることがあるのではなないかとモヤモヤしています。そのモヤモヤの正体がわかりません」「今まさに地域の編集を行っており、自分の未熟さを痛感しているところです」「色々一人でやるのが好きな性分なので不安もありますが、そういう苦手なことも乗り越えてみたいと感じています」「足りないところだらけで、特に自営のときには、思いばかりが強くて、ひとりよがりで、編集などという形にはいたらずだったな、という残念な気持ちが今でも強く残っています」「地域にまつわる情報を発信していきたいとぼんやり考えているのですが、何かのせいにしながらなかなか踏み込めなくて」「日々の業務に追われ、何も具体的に動くことができていません」「ただの一会社員の私なんか場違いだなぁと尻込みしましたが、前進したい!もっと編集力を身につけて仕事や暮らしを有意義なものにしたい!と思い入会を決意しました」「妄想に妄想を重ねるばかりで、はじめられていない、自分を後押ししたいです」「地域の魅力を伝えることが仕事なのに、その魅力をどのように伝えればいいのかわかりません。」「良さがあるのに気付いてなかったり、活かせてなかったり、そうしている間になくしてしまったり」「発信することに恥ずかしさを感じてしまって思ったことを素直に言えないもどかしさを感じています」

 このように、誰一人として、自分の強みをアピールする人はいなかった。何度も言うけれど、自身の無力さに向き合うことは編集のスタートだ。こうやって自分の弱さやダメさを言葉にして送ってくれる人たちは、いわば、あれこれ兼ね備えたハイスペック素材ではなく、無垢な自然素材。この実直な人たちとならば強いチームづくりがきっと出来るはずと僕はとても嬉しくなった。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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