第60回
災害を伝える側に求められること
2023.10.24更新
先日、シンガーソングライターの高橋優くんがナビゲーターを務める『HEART TO HEART』というラジオ番組に呼んでいただいた。月1回、震災という悲劇を未来の礎とするべく奮闘する人と対談し、被災から学ぶ人間の知恵を探求しようという骨太な番組。しかしながら、優くんの誠実且つ、軽やかなトークのもと、重すぎない番組になっている。そんな高橋優くんとの出会いは、彼の出身地である「秋田」だった。
秋田県のお仕事を引き受けたことから、毎月のように秋田に通うようになって3年くらい経った頃だろうか。秋田出張中、いつも行くカフェでモーニングを食べながら読んだ秋田魁新報という地元紙で『AKITA CARAVAN MUSIC FES』なるイベントの開催を知った。多くのメディア関係者を呼んだ記者会見が行われており、その内容が記事になっているようだった。
それによると、『AKITA CARAVAN MUSIC FES』は、CARAVANの文字があるように、秋田県内13ある「市」を順番に開催地にしていくのだという。言わずもがなそれは、秋田県内各地を盛り上げたいという彼の思いの現れだ。しかしそれは即ち、毎年会場になる場所を探し、駐車場を確保し、交通手段をととのえ、現場の動線を考え、その土地ならではの魅力を盛り込み、開催にのぞむということ。つまり、せっかく構築したオペレーションが毎年リセットされるということでもある。これはどう考えても、運営側に膨大なエネルギーが必要になることは明らかだった。
その挑戦の壮大さに、心震えるほど感動したと同時に、彼や運営チームの思いをちゃんと伝える役割が必要だと手前勝手な思いを膨らませた僕は、もともとお世話になっていた彼の事務所の役員さんの携帯に不躾なショートメッセージをお送りした。「彼が主催するフェスのパンフレットとかガイドとか、絶対僕が編集したほうがいいです」。なんと自惚れたメッセージだろう。それでもその役員さんは僕の言葉を信じてくれて、優くんを見出し育ててこられた現事務所社長のYさんを紹介してくれた。その結果、フェスやフェス開催の魅力を伝えるガイドブックの編集制作をやらせていただくことになった。
僕がそんな無謀な行動に出るほど熱を持ったのは、優くんのやろうとしていることがあまりに大変なことであるにもかかわらず、それを記者発表の段では微塵も表現していなかったからだ。フェスを開催するというだけで大変なのに、せっかく構築したオペレーションを毎年リセットせざるをえないフェスの壮絶さを本人もマネージメントのみなさんもしっかり覚悟した上での決定だったのはわかる。だからこそ、新聞紙面からも僕はその熱を感じた。けれどそれは僕が秋田県人じゃないからこそ感じることができた熱量なのかもしれないと不安に思った。
今回、呼んでいただいた優くんのラジオのテーマは「災害を伝える側に求められること」。番組ディレクターのMさんが、熱心にリサーチをしてくれたあとに掲げてくれたテーマゆえ、僕にとってはとても自然で語りやすいテーマだったけれど、聴く人にとってはどうなんだろうと、少し不安に思ったのも事実だ。けれど、ある意味でニッチなテーマであるほど、体温を感じられるようなラジオというメディアで、たまには発信側の立場に思いを馳せてみてもらうのもよい機会だと思い、甘えさせてもらった。
フェスのガイドブック編集に携わらせていただいた前述のエピソードでも感じてもらえるかと思うが、優くんはもちろんのこと、秋田の人たちは、自らの覚悟やそれに伴う苦労を前に出すことをしない人が多い。その努力を胸に抱えてなお、利他的に動く人が多いのは東日本大震災のときに強く感じたことだった。死者数0名。それはとても幸福なことだったが、そのおかげで 経済的な復興支援を受けず、それでも隣県の支援に奔走していた秋田県を僕は見逃すことができなかった。
辛いときに辛いと発信すること。まず自分を大切にすること。自らを横に置いて行動する利他的精神はシンプルに魅力だけれど、それで心や身体が潰れてしまっては元も子もない。災害時においてなお、我慢すること、心配をかけないことに懸命な東北の人々に対して、メディアはどんな働きかけができるだろうか? と、そんなことをラジオ収録のなかで考えていた。
地震であれ、豪雨であれ、被災地における情報発信というのはとてもセンシティブなものだ。しかし、それでも発信する立場である我々には「届ける」という強い意志が重要だ。「うちはまだマシだから、もっと大変なところを支援してあげて」と優しい声を発してしまう東北人のみなさんに、あなたはじゅうぶんに大変な状況だし、助けを求めていいんだと伝えることは僕たちの大きな使命なんじゃないかと感じる。それは震災から10年以上経ったいまもなおだ。それは何より、呼んでいただいたこのラジオ番組が、震災復興をテーマにしながら現在も東北の状況を伝え続けていることに現れている。届け続けることの大切さをあらためて学ばせてもらった。