第74回
個人の情熱を支える、行政の胆力
2024.12.12更新
Re:Scover MIYAGI(リスカバーみやぎ)というプロジェクトに関わることになった。牛タン、笹かまぼこ、ずんだ餅といった食のイメージに加え、伊達政宗や、仙台七夕、さらには名勝、松島など多くの観光コンテンツを持つ宮城県。
しかし、こういった強いコンテンツのむこうにもさまざまな宝物の存在があるのは、日々、日本中を旅しながら編集を続ける僕の実感。
各地で静かな光を放つ、そういった魅力的なモノや場所を、未来の観光コンテンツに育んでいきたいという宮城県庁のみなさんの気持ちに共感して、そのプロデュースをお引き受けすることにした。
そのスタートとして県内各市町村の観光部署の担当者さんにアンケートを実施。「魅力的だと思うものの、どう伝えればよいかわからない」「それなりに施策を打っているのだが、思うように反響が出ない」といった悩みとともに、多くの回答が寄せられて、各地の担当者さんがいかに課題意識を持って悩みながら仕事を進めているかがよくわかった。そして何より、そこであげられるコンテンツのほとんどが僕にとって未知のもので、ある程度想像はしていたものの、それらを拝見するだけでワクワクした。
しかしながら、それらすべてをフォローすることは難しい。予算が限られていることもあるが、それ以上に、僕自身が積極的に関わりながらプロジェクトを進めたい気持ちが強く、限られたエネルギーと愛を分散させないように進めていくためには、僭越ながらタッグを組む市町村やコンテンツを一つ一つ見定めていくしかない。
その過程で、あらためて見えてきたのは、やっぱりもって、そのコンテンツを真に届けたいと情熱を持って活動している人の存在なくしては、なにも始まらないということ。
各市町村のみなさんへのアンケートに僕は、魅力発信について協力してくれるキーマンの存在の有無についても記入してもらえるようお願いした。しかし半数近くの回答で、その欄の記入がなかったことに驚いた。アンケートの文面から、その土地の観光部署で奮闘する担当者さん自身の情熱を感じればまだよいのだけれど、そうでなければ、せめてそこに情熱をもって活動されているキーマンの存在を見たい。それがないというのは、よそ者の僕にとってはどうしようもない。それはすなわち、担当者が街場に出ていないことの現れのようにも思えたし、そもそもそういう組織となっているのが地方自治体の現状のような気もする。それを担当者の怠慢と考えるのは酷な気がした僕は、アンケートだけでは読み取れなかった部分を確かめるべく、気になる場所に実際に赴いている。
これまでも実感してきたことではあるが、現場というのは実に大切で、そうやって現地に訪れると、各コンテンツに対して尽力し、情熱を持ってアクションを続けてきた人たちに出会う。そしてそういう人の存在に出会うことで僕の編集脳がまた動き出していくのを感じた。
世の中の大きな変化のすべては、たった一人の情熱が起点となっている。その当たり前の事実にあらためて気付かされる日々。しかし、そういった情熱をせいいっぱいフォローして育んでいくには時間がかかる。それは今日明日の成果で評価されるものではなく、5年、10年、積み重ねてきた上で花開くもの。つまりは、育むとか、耕すとか、醸すとか、そういった感覚が必要で、それこそ経済至上主義の民間企業ではなく、県のような公の立場が胆力をもって取り組むことが重要だ。静かにスタートしたRe:ScoverMIYAGIだが、この取り組みは相当素晴らしい地域編集の試みじゃないかと、また、そうなるべく丁寧に育むことこそが僕の役割じゃないかと考えている。
編集部からのお知らせ
【12/12(木)】藤本さん出演「Re:Scover MIYAGI」ディナーイベント開催
■開催概要
・タイトル:
「めぐるめく夜」 "ひと 森 里 海 いのちめぐるまち 南三陸" を 食で体感する、スペシャルディナーイベント
・開催日時:2024年12月12日(木) 18時30分〜22時00分(受付開始 18時)
・会場:KAMOSUBA 醸場(〒980-0803 宮城県仙台市⻘葉区国分町1丁目8-14 仙台協立協立第二ビル 1 階)
・募集定員:20名
・参加会費:1名様 15,000円(アルコール/ノンアルコール ペアリングコースを選択)
※当日追加でのお飲み物は会終了時にお支払いいただきます
【12/13(金)】藤本智士さん出演トークイベント「編集のチカラって何?」開催!(秋田・鹿角市)
「狭義」な編集を、「広義」なものに変えたとき、編集は途端にぐっと身近なものとなり、ときにそれは、目の前のさまざまな問題の解決に役立ったり、行き詰まった状況を突破してくれたりします。「魔法をかける編集」より
りんごの不作、令和の米騒動、大小さまざまな課題に直面しながら過ごす私たちの暮らし。 これまでと同じようにはいかない状況に、頭を悩ませている人もいるのではないでしょうか。解決の糸口となるアイデアの種は、もしかしたらすでにもう、足元に落ちているかもしれません。その種を見つけて育てる方法を、編集者の藤本智士さんは、誰もが使える「編集のチカラ」だと言います。本や雑誌を作るだけでなく、地域とのつながりを育み、暮らしをより豊かにしていくときにも役立つ「編集」について、一緒に聞いて、考えてみませんか?
【イベント詳細】
第1部18:00〜トークイベント
会場kemakema
(秋田県鹿角市十和田毛馬内字下小路51-8)
▷参加費¥1,500(ワンドリンク付き)
第2部21:00〜懇親会
会場yuzaka
(秋田県鹿角市十和田大湯字下ノ湯19)
▷参加費¥3,000(ドリンク別)