第1回
京都 玉の湯
2019.06.27更新
京都市役所の近くで100年以上つづく町の銭湯「玉の湯」さん。現在は3代目の西出英男さん・晴美さんご夫妻が中心になって、お店を切り盛りしています。近くの染物屋さんとコラボ展示会をしたり、クリスマスの時期にはイルミネーションを飾ったりと、玉の湯さんは、これまでの銭湯にはなかったおもしろいことを、たくさんされています。ミシマ社も昨年、業界初(?)の銭湯でフェアを開催しました(玉の湯さんでのフェアの様子はこちら)。
3人のお子さんを育てながら、番台に立つ、晴美さん。「自分や家族はお客さんに育ててもらってる」と常々おっしゃる町の銭湯の若女将に、お話を聞いてきました。
お風呂屋さんをする気はなかった
ーー 結婚を機に、銭湯のお仕事をするようになったんですか?
晴美さん ううん。英男さん(晴美さんの夫)は最初、サラリーマンしてはって、お風呂屋さんする気は全然なくって。英男さんには、自分が好きなこと、ずっと続けられる仕事を見つけたほうがいいよ、って前から言っていて、そしたら、自分が趣味で行ってたアクアショップに突然、募集もしてはらへんのに、「すいません、僕、結婚するんで働きたいんですー」って。そしたらそこの社長さんも「そうかー。大変やなあ」って、それで働かはることになって(笑)。
ーー そんなことあるんですね(笑)。
晴美さん 私はずっと焼き物屋さんで働きながら、自分の(作品を)販売とか出したり、臨時の講師をしたり。
脱衣所の棚には、晴美さんが焼いた陶器が。希望すれば購入もできます。
ーー そこからお風呂屋さんには、どういう経緯で?
晴美さん 旦那さんのお義母さんが病気になって。当時私らは結婚して別のとこ住んでて、英男さんは、朝早く会社行って、夜はお風呂屋さん手伝って。朝家を出て行ったっきり、12時くらいまで帰ってこない、それがずっと続いて。私も子供産んだところだったから、ちょっと、育児ノイローゼみたいになっちゃって。一日ひとりでいて、夜もひとりでお風呂入れて。英男さんが帰ってきてくれへんやったら自分が行こう、と思って、旦那さんの実家ででご飯を食べてお風呂入って帰る、っていうのを(子供が)7ヵ月頃にはじめたんかな?
ーー それは・・・大変ですね。
晴美さん めっちゃ大変やった。その頃、お風呂屋さんをどうするかって話になって、英男さんが継ぐことになって。
子育てとの両立があったからこそ
晴美さん 上の子が2歳になるまで、そんな生活。私もまだ前の会社務めに必死で、すごい、不安で。こんなん言ったらあれやけど、玉の湯も今よりもっとすごいボロボロで(笑)。だいぶ綺麗にしたんよ、あれでも。お客さんも、いまの半分くらい。
ーー えっ、そうだったんですか?
晴美さん うん、もう全然お客さんいなくて。せやのに、店番はいるやんか。私が会社から帰ってきたら、番台で英男さんが「もう心折れそうやわ、人が来なくて」って言って(笑)。昔から一番風呂の人っていうのは結構いはるんだけど、そっからもー、全然人がいなくて、ここをテナントビルにしよう、って。そうじゃないと暮らしていけへんかもしれへん、ってくらいお客さんがいなくて。
そんな感じやったんやけど、そっからいろいろ、自分らなりに工夫して。(お客さんが)そういう怖い系の人とかも、割とまだ多かったから、明るい感じ、親子が来やすいようにしよう、って。いまとは違うお客さんの層も開拓しないと、ちょっともたないよ、という話をして、店内の照明を全部明るくして、床貼り替えたりとか、壁もクロスも全部変えて。
ーー 前に玉の湯さんに行ったとき、ちょうど、昔常連だった男の子が、大きくなって何年かぶりに来てた、って日ありましたよね?
晴美さん ああ、「あっくん」。あっくんぐらいやってん、当時来てた子どもがね。あんま笑顔のない子で、いつもお風呂めんどくさそうな感じやったから、来るのが楽しくなるようにって、スーパーボールの当てくじみたいなん買ってきたり、子どものためにおもちゃの貸し出し始めたり。
ーー 脱衣所の絵本とかもそうですけど、玉の湯さんは、小さいお子さんもどうぞ〜、っていうのがすごく伝わってきますよね。
晴美さん イベントもやったよ、赤ちゃんの入浴の貸し切りみたいなんとか。
ーー 予約はすぐに埋まっちゃったんですか?
晴美さん うん。「行くとこない」っていう人が多くて。子どもとか赤ちゃん連れて行けるところが。私もそれを思ってて。カフェとか椅子のあるところって、子ども連れてってもすぐ寝転んだりとかするし、座敷みたいに、靴脱いで上がれるようなところで遊べたら、お母さんも子供も楽しいんじゃないの?って英男さんに話して。
ーー(当時のチラシを見ながら)「通常よりぬるめの温度でお待ちしております」っていうの、いいですね。
晴美さん 昔はもっと熱かったんやけど、やっぱり、こういうのをやったときに、熱い熱いって、子どもさんが入れなくって。だから基本、浅いところはぬるめにしてて、熱いのが好きな人はそういうところに行ってもらおうって。
伝統は守りつつ、新しいことも
ーー お子さん向け以外にも、何か工夫されたことはありますか?
晴美さん 前は女湯の脱衣所の入り口に、ついたてしかなかってん。
ーー いまはカーテンがついてますよね。
晴美さん 最初、あそこにカーテンをつけたいって言ったら、お義父さんたちにすごい猛反対を受けて。そんなん、危ないって。貴重品とられたりとか、抑止力になるから、見えるほうがええんや、って。当時は若いお客さんもそんなにいなかったし、「誰も見られても、何にも思たらへん」って言われて。でも、そんなこと絶対ないわと思って、もう英男さんに半ば強引に、カーテンつけてもらって。
そしたら、「つけてくれてありがとう」ってみんな言いに来てくれはって。めっちゃ腰まがったおばあちゃんとかが、「やっぱりなあ、いくつになっても嫌やねん」って言ってはって、それ聞いたときに、すごいうれしくって。
いまは古い体質のところと、そうでないところが、二極化してるかもね。変化するのって結構めんどくさいから、上の世代の人とかは、それもしんどいやろうし。私らも少しずつ、自分らでできる範囲で変えていって、いろんな人に刺激されて。
ーー SNSを見ていると、玉の湯さんって、他の銭湯とのつながりや交流が結構あるのかなと感じました。
晴美さん 密に、ってわけじゃないけれども、それこそ、SNSでフォローしてくれて、自然とお互いに。うちが好きで、お風呂屋さんになります、って東京に修行に行った子とか、銭湯始めようと思ってるんです、って会いに来てくれたりとか。みんな若いのに頑張ってる、応援する〜!って気持ち。
ーー 去年のうちのフェアとか、晴美さんたちも、いわゆるみんながイメージする銭湯の枠にとらわれず、いろんなことをされてますよね。
晴美さん いまやっている染物屋さんの展示も、息子さんが継いで、新しいことやろうと思ってるんです、って言ってはって。それやったらうちでなんか展示してみて、何になるかわかんないけど、なんかにつながるかもよ、みたいな話をして(編集部注:この展示は終了しました)。
一見さんももちろん大事やけど、常連さんに、楽しいんでもらえたらいいなと思って。毎日来る人とか、週に一回でも来る人に、あー今日はこんなんしてはんねやとか、思ってもらえるようなところにできたらいいなと思ってる。
脱衣所に置いてある、お客さん用のノート。
玉の湯の二階に住んでいる、晴美さんご家族。実はお家のほうにお風呂はなく、みなさん、お客さんと一緒に入っています。 常連さんと世間話をしたり、お子さんの面倒を見てもらったり。地域の人に見守られながら、日々を過ごす晴美さん。常連さんも、一見さんも、みんなを受け入れる玉の湯のアットホームな雰囲気は、そんなお客さんとの関係からできているのかもしれません。仕事帰りや旅の途中、みなさんもぜひ、行ってみてください!
お知らせ
玉の湯さんで、6月28日&29日の二日間限定で、珈琲風呂をやります!ブラジルの豆を大阪のカフェから仕入れて、お風呂をいれるんだとか。 ほか、関西の3箇所の銭湯で同時開催です。お近くにお住まいの方はぜひ〜!
同時開催の銭湯・都湯さんが作った紹介動画です↓