本屋さんはじめました

第4回

高久書店(静岡)

2020.03.16更新

 2020年2月7日、静岡県掛川市に新たな町の本屋さんが開店しました。

 「高久書店」というこのお店は、実はミシマ社とも縁の深い方が作った書店さんなのです。本屋が減り続ける時代に、なぜ、地方で町の本屋を作ったのか。静岡県の営業担当であり、店主の高木さんのファンでもある営業・モリが、高久書店にお邪魔してお話を聞いてきました。

(構成・写真 岡田森)

「あの高木さんが個人書店を開くらしい」

 静岡の書店界隈で、そんな噂が飛び交っていました。

 高木さんこと高木久直(たかぎ ひさなお)さんと言えば、ミシマ社の本をたくさん届けてくださっている戸田書店掛川西郷店の店長さん(当時)であり、しかも休日は「走る本屋さん」という移動書店を個人でやっていて、さらに自宅の前に無人古本販売所まで作っているという「年中無休で本屋な人」です。その上、「静岡書店大賞」という全国的に有名な賞を立ち上げたすごい人でもあります。

 社内でワタナベやモリが勝手に「聖人だ・・・」と呼んでいる高木さんが、今のお店を退職して、新たに個人書店を立ち上げる。しかも、その本屋はいわゆる「町の本屋」らしい・・・。

 これは大変だ、というわけで、開店間もない高久書店さんに向かいました。

 掛川駅から徒歩5分、大通り沿いでひときわ目を引く真っ青な建物が、高久書店さんです。

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 中に入ると、10坪ほどの小さな区間に、ぎゅっと本が詰まっています。

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小さいながら充実の話題書コーナー

 一見、どこにでもある(あるいは、どこにでもあった)町の本屋らしい話題書や雑誌が並んでいるのですが、棚をよくよく見ると、ところどころに珍しい本があったり、全国の書店で品切れ続出の『鬼滅の刃』が全巻そろっていたり、ただならぬ雰囲気が・・・!

 これは、すごい!

 というわけで、お客さんが次々訪れる中で、高木さんにインタビューさせてもらいました。

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カウンターに立つ高木さん

ちいさな総合書店

――開店おめでとうございます! 素敵なお店ですね・・・。

高木さん ありがとうございます。ようこそ! 開店から一週間、ありがたいことに予想を上回るペースで本が売れています。嬉しかったのは、近所の高校生が、参考書やコミックだけでなく、人文書やリトルプレスなどにも興味を持って買ってくれていることですね。

――話題書から芸術書、郷土書など、本当にいろんな本を置いていますね。

高木さん 近年オープンする小さいお店は専門店が多いですが、高久書店は町の本屋として、幅広い本を扱うことにしています。
 学生が多いので、参考書やコミックを充実させる一方で、実用書やビジネス書など幅広く置いて、間口を広くしています。セレクトショップにするのではなく、お客さんに寄り添った品揃えをする「ちいさな総合書店」なんです。

――おお、「ちいさな総合出版社」のミシマ社と同じですね!

高木さん ホントにね(笑)本屋は誰でも来ていい空間なので、敷居を下げて、みんなが興味のある本を置きたいんです。ただ、そういう品揃えの中に、9:1ぐらいの割合で、どうしても届けたい本を混ぜています。ライトノベルとコミックの間に古典のコーナーを作ってみたり、若者向けの本として中田考先生の『13歳からの世界征服』を混ぜてみたり・・・。

――それは劇薬ですね(笑)

(扉が開く音)

お隣さん こんにちは~

高木さん いらっしゃいませ! こちらはお隣のおばあちゃんで。うちが開店準備をしているときから毎日来てくださっている方なんです。

お隣さん ハハハ(笑) 隣にどんなお店ができるんだろう、変な人が来たらヤダなと思って見に来たら、本屋さんだったのよ。もう嬉しくって。はい、これ、どうぞ(水筒を差し出す)。

高木さん ああ、いつもありがとうございます。美味しいお出汁を差し入れてくださるんです。もう掛川での僕の母だと思ってます(笑)

――開店間もないのに、ご近所さんとこんなに深い関係が!

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高木さん入魂のフェアコーナー。

子どもたちが冒険できる空間

――ちいさいお店なのに、絵本や児童書がたくさんありますね。

高木さん こちらの壁面は、赤ちゃん絵本から始まって、絵本、童話、児童書、ライトノベルと、子どもが成長にしたがって読み進められるように作っています。

――すごい! 子どもが育つ棚ですね。

高木さん やっぱり自分が町の本屋に育てられてきたので、そういう本屋にしたいんですよね。本屋というのは特別な場所で、お客さんと話していると、「本屋なら子ども一人で行ってもいいと思う」と言ってくれる人が多いんです。ただ、そう言ってもらえる割に、本屋は子どもにとって実はちょっと危ないというか、冒険できる場所だと思っています。

――確かに、ここにある本を見ても、古典のコーナーとか、読んだら人生変わってしまうような本がありますよね。

高木さん 本屋は冒険できる空間なんです。僕も最初は絵本や児童書を読んでいて、お兄さんに憧れてジャンプを読んで、そのうち参考書にも興味が出てきたり、ちょっとエッチな本に目が行ったり(笑)・・・というように、本屋の中で新しい本と出会ってきました。そんな風に、お客さんが新しい本と出会える本屋にしていきたいと思っています。自分が目的としない本と出会えるのが、本屋の良いところだと思うので。

(扉が開く音)

高校生 こんにちは!

高木さん おお、いらっしゃい!

高校生 今日ちょっと報告があったんですけど・・・、大学、合格しました!

高木さん おおお! おめでとう!!

高校生 東京の大学なので、せっかく近所に本屋さんが出来たのに、あと少ししか来れないんですよね・・・。あと一年早くこのお店が出来ていたら通えたのに、と思います。

高木さん 帰省の時にいつでもおいでよ。いやー、嬉しいなぁ。こんな報告が聞けるなんて。おじさん、本屋やってて良かったよ。泣きそうだ。

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ミシマ社コーナーを手入れする高木さん

町に本屋を作るために

――去年の「静岡書店大賞」の閉会式で、「町の本屋でも食っていけるということを、我が身をもって証明したい」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

高木さん 町の本屋はもうダメだ、というけれど、本当にダメかどうか、身をもって試しているつもりです。今までとやり方を変えて、他がやらないことをやっていけば、きっとやっていけると思っています。
 ただ、現実的には、今は開店直後のご祝儀みたいなものでたくさん売れているけど、これはそんなには続かないんです。書店員を長年やって数字を眺めて来たからわかるんですが、おそらく、これからの半年は客足が減って売上も下がります。「近くに本屋が開店したから」といって覗きに来てくれた人の中から常連さんが出てくるには、それだけ時間がかかります。本屋は種を蒔く仕事なので、儲けを焦りすぎてはいけないと思っています。そんなわけで、初期投資がいつ回収できるのやら・・・。

――それが分かっていながら、本屋を始めたんですね。高木さんの本への愛を感じます。

高木さん ちょっと変態なんだよね(笑) 本が好きすぎるという。でも、一方で家族もいるし、ちゃんと利益をあげないといけない。

店番をしている奥さん うんうん(激しく頷く)

高木さん 店頭の売上だけでは厳しいので、配達をしたり、他の場所で本棚のプロデュースをしたり、講演をしたり、一人で何でもやろうと思っています。そうやってこのお店を成功させて、地方の町の本屋でもやっていけることを証明して、もっと他の場所にも書店を広げて行きたいんです。

――このお店を成功させることより、もっと大きな目標があるのですね。

高木さん 「走る本屋さん」でも無書店地域に本を届けるということをやって来ましたが、この高久書店を成功させて、自治体や企業とも協力しながら、全国の書店のない地域に書店を増やして行きたいと思っています。町には本屋が必要なんです。
 実はおととい、良いことがあって。20代の青年が来て、「本屋さんをやりたいです!」と言ってくれたんです。

――おお!

高木さん ただ、僕は彼に「5年くらい他の書店に勤めてみて、もしその後に気持ちが変わらなかったら、もう一度おいで」と伝えました。やってみないと分からないことも多いし、この仕事には下積みが必要だと思っているので。

――早くも高木さんの後に続きたいという人が現れたのですね。これから町の本屋を始めようという人にとっては、高久書店の存在が希望になっていくと思います。

高木さん だから、なんとしてでも成功させないといけない。もし、これでうまくいかなかったら、本屋をやろうという後輩たちが失望するので。

――「あの高木さんでもダメだったのか・・・」となりますよね。

高木さん そうかもしれませんね(笑) 責任重大なんです。がんばらないと。

(扉が開く音)

お客さん (店内を覗き込みながら)ここは本屋さん?

高木さん はい、そうです。いらっしゃいませ!

お客さん 見るだけでもいい?

高木さん もちろん! 立ち読みだけでも。どうぞ、お入りください!

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高久書店

住所 〒 436-0079 掛川市掛川642-1
アクセス 掛川駅から北に徒歩5分、掛川駅から車で1分
営業時間 月曜日~土曜日 10:00~19:00(日曜日定休)
※閉店時間は、店主の気分で延びることがあります

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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