第8回
句読点(出雲)
2021.11.16更新
2021年の10月、島根県出雲市の本町商店街に、古書と新刊を扱う書店・句読点さんがオープンしました。お店をやられているのは、ともに20代の嶋田和史さんと栗原晴子さん。
栗原さんは以前大阪の書店にお勤めで、ミシマ社はそのときからお世話になっていました。
おふたりが若くして書店をはじめられた経緯や、「句読点」という店名に込められた思いなどをぜひうかがってみたいと思い、オープンしてまもない11月はじめにオンラインでインタビューさせていただきました。
出雲は空が広くて気持ちがいい
――嶋田さんは埼玉県ご出身で、栗原さんは大阪府ご出身とうかがいました。なぜ出雲という地で書店を始めようと思ったのですか?
嶋田 京都の大学に通っていた学生時代に一人旅にはまっていて、日本全国をまわっていたんです。そのときに訪れた土地のひとつが出雲でした。ちょうど就活や進路に悩んでいた時期だったので、宿泊したゲストハウスのスタッフに相談をしていたら、「ブラブラしてもいいんじゃない? どこも行くあてがなかったらうちを手伝ってもらってもいいし」と冗談半分で言ってくれました。結局その後就活はせずに、このことを覚えていたので、卒業式の前日くらいに「昔泊まらせてもらった者なのですが、働かせてください」といきなり連絡したんです(笑)。それを機に出雲に住むようになりました。
――全国各地をめぐっていた嶋田さんの目に、出雲の地はどう写ったんですか?
嶋田 思い返してみると、出雲に最初に来たときの印象として「空が広くて気持ちがいい」というのがありましたね。「出る雲」という地名だけあって、空とか雲の表情が豊かで毎日見ていても飽きないんですよ。それと、出雲時間という言葉があるくらい時間の流れがゆっくりしているんです。そういったところを魅力に感じました。
ただ、これといった強い決め手があったわけではなく、住み始めたら居心地がよくてずっと住んでいる、というのが正直なところかもしれません。
――栗原さんはお店をはじめるタイミングで移住されたんですか?
栗原 前に勤めていた大阪の書店が閉店したのを機に、以前から2人で計画していた本屋を始めることに踏ん切りがついた感じです。やるなら出雲でやる? みたいな感じで移ってきました。
嶋田和史さん(右)、栗原晴子さん(左)、句読点(qutoten)のqのポーズで
商店街に新たな流れが
――お店のある本町商店街はどういう商店街ですか?
嶋田 明治ごろからある歴史の古い商店街らしく、昔は出雲の銀座だと言われていたくらい栄えていたそうです。ただバブルが終わって、郊外に大きなショッピングセンターなどができたこともあり、駅の近くから郊外に人がどんどん移っていき、最近では昔の賑わいはありませんでした。句読点をオープンする前は開いているお店が数軒という状況だったんです。
昔は商店街に本屋さんが3つくらいあったそうで、「昔はよく本屋に行ってたわ。懐かしい。本屋ができてとても嬉しい」とおっしゃってくださる年配の方もいらっしゃいました。
――句読点さんがオープンしたことにより、商店街全体に新しい流れが生まれていきそうですよね。
嶋田 たまたま同時期だったんですけど、11月に近所にケーキ屋さんができるんです。あと、今美容室もオープンに向けて工事中らしくて。少しずつ空いているところを直して新しい人が入ってくる流れができつつあります。
お店をやっていくしか生きる道はない
――自分のお店を持ちたい、ということは昔から思っていらっしゃったんですか?
嶋田 大学は建築学科だったんですけど、当初はみんなと同じように建築家になりたい、という漠然とした思いを抱えていました。ただ途中から、建築士として働くっていうイメージが全然湧かなくなっちゃったんですよね。その時期くらいにちょうど本の世界にもはまりだして、ビジネス書から古典から、さまざまな書籍を読むようになりました。矢内東紀さんの『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)という本や、21歳で倉敷で蟲文庫という古本屋を始められた田中美穂さんの『私の小さな古本屋』(ちくま文庫)という本には、お店をはじめるときに背中を押してもらいました。
あともうひとつ、鳥取にある書店・汽水空港の存在がすごく大きくて。店主のモリさんが縁もゆかりもない鳥取に移住してきて、何もわからない状態から本屋をセルフビルドで作り上げる過程や、できてからの日々を綴ったブログや、Twitterなどを通じて発信されていることなどを読んで日々勇気をもらっていました。
ただ「お店をやるしかない」くらいの感覚もありましたね。一般的な経歴を歩んでいないし、これはもう自分で小さなお店をやっていくしか生きる道はないんだ、と思っていました(笑)。
公民館のような本屋へ
――以前はスケボーショップなどの一部を間借りして古本屋さんをやられていたとうかがいましたが、実店舗をオープンされて変わったことはありますか?
嶋田 間借りの本屋だと「いつもやっているわけではないから行きたくてもなかなか行けなかった」という声をいただくこともあり、お店があると「いつ来てもいいよ」という態勢が整った気がしますね。街の風景の一つとして開いているというか。
――SNSを拝見していると、ちいさなお子様からお年寄りの方まで、幅広い世代の方が足を運んでらっしゃる印象があります。
嶋田 それは本屋さんの強みだと思います。洋服屋さんだったら好みがありますし、ご飯屋さんだったらお腹空いていないと入れないですしね。
本屋は本を売るだけでなく、公民館のような役割を果たすこともできる気がするので、そういう場にしていきたいです。
お店の前の道が小学校の通学路にもなっていて、毎日下校時間になると「よっ!」とあいさつして帰っていって、宿題が終わったらまたすぐに来てくれる子もいます。すごく嬉しいですね。
――イベントなどもさまざま企画されているようですね。
嶋田 もちろん本屋なので本にまつわるイベントを中心にやっていくつもりです。ちょうど衆院選のこともあり、普段から政治について考えるイベントもやっていけたらな、とも思っています。身近な困りごとを解決するのがそもそもの政治の役割だ、というところから、汽水空港さんがみんなの困りごとを共有する「WHOLE CRISIS CATALOGをつくる」といったイベントをやってらっしゃいます。そういったイベントはうちでも今後やっていきたいです。
句読点が文章の意味を決めることもある
――古書の学割などもやられていますよね? 若い人に本を読んでもらうためにできることを考えていらっしゃるのかな、と思いました。
嶋田 本を読む人を増やしていかないことには本屋も続かないですからね。
栗原 「本を読んで~。本を読んで~。」と今は種をまいている状態ですね。
嶋田 自分たちも若いって言われるけど、若い世代をもっと応援してくれ! と言うだけでなく、自分たちよりさらに若い世代を応援していかないといけないなとも思っています。
――若い方がお店をやられているのを学生さんとかが見て、どのように感じているのか気になりますね。
嶋田 僕自身学生時代を、個人でやっているちいさなお店の多い京都で過ごしていて、「就職だけがすべてじゃないな」と思えるようになりました。
栗原 私は中学から大学までオーストラリアに住んでいたんですけど、オーストラリアでは日本みたいに一斉に就活を始めるなんてことはないし、大学卒業後も、みんな旅でも行って落ち着いたらそろそろ仕事でもしようか、という感じなんです。
――日本にいるとどうしても、就活して、就職して、ということしか道がないと思い込んでしまいがちですよね。
嶋田 まさに本屋って、これしかないって思い込んでしまっているところをガラっと変える可能性があると思っています。
句読点という店の名前にはいろいろな意味があるんですけど、ひとつにそれがあるんです。
「ここではきものをお脱ぎください。」という文章も、句読点の配置ひとつで「ここで、はきものをお脱ぎください」にも「ここでは、きものをお脱ぎください。」にも変化するじゃないですか。句読点自体には意味がないけど、句読点が文章の意味を決めることもあるんじゃないかと思って。
句読点の日(9周年の10月10日)をめざして
――他にはどんな意味が込められているんですか?
嶋田 本は生活必需品ではないので、無くてもどうしても困るものではないじゃないですか。ただ、本が無くなってしまったら、句読点のない文章がめちゃくちゃ読みづらいように、本のない世の中はめちゃくちゃ味気なく、生きにくい世の中になると思います。
今って、一見意味のないものをどんどん切り捨てる世の中じゃないですか。世の中の無駄とか余剰とかがなくなったらおもしろくないと思うんです。自分たちが句読点となることで、そんな世の中へのアンチテーゼとなる意味も込めています。
――最後になりますが、お店のこれからのことについて考えていらっしゃることはありますか?
嶋田 「句読点」の語呂合わせ「9・10・10」、つまり 9周年の10月10日をめざしたいっていうのはあります(笑)。とにかく本屋として続けていくことが第一目標です。
栗原 誰かの成長を見守れるような、誰かの人生の一部になれたら嬉しいですね。
まだ本屋を続けていくことの大変さがわかっていないところもあってビクビクはしていますけど、困ったときは困ったときに対応して、今はそんなに難しく考えないようにしています。
(終)
句読点
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