第11回
子どもの本屋ぽてと(大阪)
2022.03.13更新
2021年12月14日にオープンした、「子どもの本屋ぽてと」。北浜で10年つづく新刊・古書店「FOLK old bookstore」の店主・吉村祥さんが、FOLKのすぐお隣ではじめた本屋です。
ガラス張りの入り口をあけると広がるカラフルな世界。明るい店内には展示スペースもあり、現在は網代幸介さんの絵本『てがみがきたな きしししし』の原画を展示中です(〜3月21日まで)。
吉村さんに、「子どもの本屋」をオープンすることになった経緯や、お店への思いを伺いました。
(構成:新居未希、取材日:2022年3月3日)
通りすがりのおばあちゃんが入ってきてくれる
ーー「子どもの本屋」をオープンしたのには、どういう経緯があったのでしょうか?
吉村 2021年の夏ごろに、ここにもともと入っていた印刷会社さんが「もう出るねん」と、廃業しはることを聞いたんです。それから「えーっ、となり、空くんか・・・」と毎日悶々としていて(笑)。印刷会社のときは、横の建物と2軒繋げて使ってはったんですよ。1階だけでなく地下もつなげていて。「これ全部お店にできたらワンダーランドやん!」と思ったんですけど、やっぱりそれは家賃がたいへんで、実際にここでお店をやろうと決めたあと、横とつながっていた壁はふさがれました。半分でよかったです、今思えば(笑)。
ーー店内も素敵ですね。この床の感じとか、かっこいいです。
吉村 ありがとうございます。本棚たちは制作をお願いしたんですけど、床と壁は自分たちでやったんです。めっちゃ大変でした(笑)。床のタイルがところどころ剥がれていて、もう全部剥がしてしまおう! って、ノミで必死に剥がしました。
ーーお店をオープンされる前から、「子どもの本屋ぽてと」としてポップアップストアをされていたんですよね。
吉村 谷六(谷町六丁目)にある「POL」(吉村さんが共同運営するギャラリー/イベントスペース)でやっていました。イベントやブックフェアなどに出店するとき、絵本がよく動くなぁというのはずっと思ってたんです。となりのFOLKでも、マヤルカさん(マヤルカ古書店)とか、ゲストを2店舗呼んでうちの古本とまぜて展示スペースで大きく展開する「絵本の古本市」というのを何回かやっていて、それも反応がよかったんですね。希望があるな、絵本にはと(笑)。それが実感としてあったし、自分も絵本が好きなので、絵本だけのイベントもいいなと思ってやってみたのがそのPOLでのポップアップストアです。ポップアップの時点で、ノリで架空の店名もつけて、ロゴも作って、ステッカーもつくりました。
吉村 お隣のFOLKは本屋スペースが地下なので、お子さん連れの方はなかなか入りにくいんです。絵本も(ぽてとができる前は)そのFOLKの地下に置いてたんですけど、これ、もうちょっとオープンな場所に並べたらもっと売れるやろな、という気持ちがありました。
ぽてとは1階なので、入り口を開け放つことができる。通りすがりのおばあちゃんが入ってきてくれるなんて、FOLKではありえないです(笑)。FOLKは、展示の情報をSNSで得たりして、存在を知っている人が来てくれることが多いんです。でもここ(ぽてと)は、通りすがりのOLさんがマスキングテープを買っていってくれたりして。めっちゃ希望を感じていますね。
店主の吉村さん
新刊を扱うことがすごく楽しい
吉村 隣のFOLKは、この場所にできてちょうど10年なんです。もともと天神橋(南森町)で1年2カ月やっていました。それが2010年オープン。2012年1月からこの場所ではじまり、丸10年北浜ライフを過ごしてます。
僕自身は東大阪出身なのでこのあたりには全然詳しくなかったんですが、オープン当時はすぐ裏の川横に大きな木もあって、ロケーションがすごくよかったんですよね。木はもう切られちゃいましたが・・・。北浜はサラリーマンの町なので、もともと喫茶店やラーメン屋さんは多かったんですけど、この10年でだんだん雑貨屋さんや立ち飲み屋さんなど小さいお店も増えて、すごくうれしいですね。
ーーFOLKとぽてとも、きっとその一因を担っていると思います。
「ぽてと」には、大人向けの読み物も置いてありますが、絵本が大半です。ほとんど新刊書ですよね。
吉村 古本に飽きた・・・というわけではないんですけど(笑)。古本は受け身というか、何がくるかわからないところが楽しいけど、新刊は自分からとりにいける楽しさがすごくある。それに夢中ですね、いまは。また変わるかもしれないですけど・・・新刊を扱うことがすごく楽しいです。狩りにいく気分で、検索エンジンを駆使しています。
絵本を扱わなければ知らなかった出版社を知れたり、「長新太はほんまにいろんなところから出してるなぁ」とか、発見がたくさんあって。
あと、もともとがオタク気質なので、この作家とこの作家が仲良いとか、この作家の影響を受けているとか、そういうのを調べたりするのが好きなんですよ。SNSで情報を得ることも多いですけどね。漫画家や写真家、詩人が絵本を手がけたり、他ジャンルとクロスしている絵本も多くて。もともと漫画やイラストレーションが好きだったので、そういう流れとかも調べてみたり、楽しいですね。
とにかくつづけること、毎日店を開けること
ーーオープンしてから3か月、いかがですか?
吉村 オープンした12月はすごくよかったんです。クリスマスもあるし、開店のお祝いムードというか、みんな来てくれて。「うわ、いけるわ〜!」と思ったら1月、コロナもまたどんどん増えて、寒いし、そう甘くはないな・・・と打ちのめされて、2月またすこし戻ってきて、という感じです。1月はすこしナーバスでした(笑)。お店の入り口を開けっぱなしでいける気温かどうかというのもけっこう大きいですね。ふらっと入ってきてほしいので。
ーーお店の片側の壁には、広々と展示のスペースがとられています。すごく目にはいってきますね。
現在開催中の展示の様子。網代幸介さんの絵本『てがみがきたな きしししし』
吉村 となりのFOLKにも展示スペースがあるんですが、予定をけっこう先まで入れてしまっていたときに、お誘いいただいたけれどタイミング的に難しくて断っちゃってたものもあったんです。それも「惜しいなぁ」「もう一つスペースがあったらな」と思ってたんで、いいタイミングでできました。
今後はぽてとでの展示も、週末を3回くらいはさむペースでやっていけたらなと思ってます。
ーー来るたびに違うものが展示されているのは、とても素敵ですね。新しい作品を知るきっかけにもなります。
吉村 そういうことをちょっとずつやっていったら、通りすがりの人がふらりと寄ってくれたりするかな、と。とにかくつづけること、毎日店を開けることですね。それが難しいんですけど。
この「ぽてと」の開店もそうですけど、勝負するごとにお金がすっからかんになっていきます、ほんまに(笑)。でも今年は絵本の出版もやってみたいなと思ってます。去年『肝腎』をはじめて出したんですが、これも本を出しつづけることで前の本の存在も知ってもらえたりするから、何事もつづけないとですよね。
ここで少しでも逃避してもらえたら
ーー『タンタン ソビエトへ』が面で出ていたり、谷川俊太郎さんとNoritakeさんの『へいわとせんそう』が入り口にあったりも。
吉村 本屋がなにできるかな、すこしでもできることはなんやろうとやっぱり考えますね。
ーー『ドラえもん』などの王道から掘り出しものの絵本まで、幅広いラインナップです。
吉村 定番も抑えておきたいと思っています。古本でもそれはやっていたし、なによりも本を買うのが好きなんですよね。買ったものを放出する場所を得ているというか(笑)。
ーーいち子育て中の身として、「どこなら子どもと一緒に行けるか」をいつも探しているところがあるんです。「〇歳児以下NG」という場所もあるので・・・。ぽてとのように、「子どもと一緒にどんどん来てね」と言ってくれる場所があることで励まされる気持ちになります。
吉村 お父さんと娘さんとか、ご家族で一緒にきてくれたりする姿はやっぱりすごく嬉しいですね。
あと、大人もけっこう、疲れている人が多いなと感じています。いまの世の中、「こうじゃないと」というのがたくさん目に入ってきて、しんどいなと思うんです。でも絵本って自由やし、ファンタジー作品とか、大人も子どももみんなすごく読んでほしいですね。ここではない世界、ここ以外の世界にいってほしい。どう生きてもいいのにね、ほんまは。いろんな考え方があんのに、「こうじゃないとあかん」が多いから・・・ここで少しでも「いいんや」と思ってもらえたらいいなと思っています。
(終)
子どもの本屋ぽてと
場所:大阪市中央区淡路町-1-8 1階101号室
アクセス:大阪メトロ「北浜」駅から徒歩約10分
営業時間:火-金 13:00-19:00/土日 13:00-18:00
定休日:月曜日(3月21日祝日は営業)
Twitter(FOLK old book store):@FOLKbookstore
《現在開催中の展示》
網代幸介さんによる絵本『てがみがきたな きしししし』(ミシマ社)原画展示を開催中です!
サイン本やオリジナルグッズも販売いただいています。
開催期間:〜2022年3月21日(月祝)