第18回
Punto 本と珈琲(千葉・千葉市稲毛区)
2023.01.22更新
本日のミシマガは、京成みどり台駅から徒歩3分にある「Punto 本と珈琲」を営む上野洋子さん、上野太一さんへのインタビューをお届けします。
洋子さんはスペイン語通訳、太一さんはグラフィックデザイナーの仕事をされながら、ご夫婦で本屋を営まれている方々です!
デザイナーと通訳者の仕事をされていたお二人がどういう経緯で本屋を始めることになったのか。個人的に気になりお店の営業担当であるニシオがお話を伺いました。
グラフィックデザイナーとスペイン語の通訳という必ずしも固定の場をもつ必要がないお仕事をされているお二人が、本屋という「場」を持つことで生まれる化学反応の数々には目から鱗でした。ぜひ読者の皆様の本屋を始める一助になれば嬉しく思います。
「スペイン語」と「デザイン」の本を軸に棚をつくる
ーー洋子さん、太一さんのそれぞれの仕事とゆかりのある本が並ぶ棚作りはとても面白いです! そもそもお二人が通訳とデザインの仕事を始めた経緯からお聞きできますか?
洋子 私は中学・高校時代を南米のパラグアイという国で過ごしました。通訳の勉強を始めたのは20代半ばで、その後、日韓ワールドカップをきっかけに5〜6年ほどサッカー関係の仕事(代理人事務所やライター)をしていました。フリーのスペイン語通訳になってからは10年ぐらいです。
太一 私はグラフィックデザイナーで、主に地域の商売のお手伝いをするようなお仕事をしています。たとえばHP作りだったり、お店の看板を作ったりしています。あと、デザイン学校の講師業もしていますね。
洋子 プントの特徴は2人の仕事である「スペイン語」と「デザイン」に関連した本が多いというところです。本以外にも、「スペイン語」と「デザイン」の掛け算で何か面白いことがやれたらなあと思って、こんなブックカバーも作りました。
ーーこれは何のイラストですか?
洋子 これはInstagramで出会ったメキシコ在住のベネズエラ人イラストレーター、マヌエル・バルガスさんに描いてもらったんです。 こちらから伝えたのは、セルバンテス(1547-1616 近世スペインの小説家で『ドン・キーホーテ』が有名)の「多くを読み多く歩く者は、多くを見、多くを知る」っていう言葉だけで、あとは全ておまかせです。まず、日本の本屋さんにはブックカバーをつけるという習慣があるんだよ、と説明するところから始まりました。
ーーということは中南米ではブックカバーはないと・・・?
洋子 ブックカバーをつけるという習慣はないと思います。サイズの大きなペーパーバックが多くて、紙の質感も日本の本とは違いますよね。
――そうなんですね。
洋子 イラストレーターさんを見つけたり、ブックカバーの制作をお願いしたりする部分は「スペイン語」で、実際に届いてきたイラストデータのサイズ調整とか、印刷の発注、用紙選びなどは「デザイン」の作業です。こんなふうに、これからも私たちの強みを活かせたらいいなと思っています。
コロナがきっかけで本屋をはじめた
洋子 コロナがなければ特に迷うこともなく、通訳の仕事だけを続けていたと思います。でも実際は、海外の人が日本へ入ってこられない状況下で仕事がほぼゼロになってしまった。そこで「通訳以外にも何かできることを増やしたい」と思いました。
私の父が脱サラして50歳を越えてから南米で起業したということも頭の中にあったかもしれない。自分がそれに近い年齢になってきて、もう少しここで冒険してみてもいいんじゃないか、と思い始めました。
――そんな中でなぜ本屋さんを?
洋子 栃木県の那須町を旅行したとき、たまたま「那須ブックセンター」という本屋さんに行く機会があったんです。残念ながらすでに閉店してしまいましたが。そこは7割ぐらいが一般的な品揃えで雑誌や漫画も取り扱っていましたが、所々に「お!?」と目を引く本が置いてありました。たとえば「薪ストーブ」の本がたくさんあったり(笑)。
ーー那須っぽいですね(笑)。
洋子 そうなんです。おそらく別荘地っていう地域の特徴だったり、そこで暮らす方々の暮らしを意識して選んでいらっしゃったのかなと。あとは小屋作りみたいなDI Yの本や、ガーデニング、マタギの本とか。
私はガーデニング好きなので、これまでも大手の本屋さんでよくそういうコーナーを見てきましたけど、「那須ブックセンター」では日陰植物に特化した本が平積みで置いてあったりして、それは那須のような森の中だと木陰になる場所が多いから、あえてこういう本を前面に出しているのかな、なんて想像したりして。その本屋さんを見て彼(太一さん)も興味を持ったようでした。その店作りにすごく惹きつけられました。
太一 「こんなふうに陳列を工夫できたら面白そう!」と興味が沸きました。もともとデザイン事務所がほしいとは考えていたので、そこを本屋にすることでセミパブリックなスペースになって緊張感が生まれるのもいいと思ったんです。
洋子 他に本屋さんがない地域であれば、幅広いジャンルの本を取り扱う責任を多少なりとも担うことになると思います。ただ幸いなことに、ここは駅なかのチェーン書店さんが近くにあるので、プントっていう、ちょっと風変わりな本屋があっても許されるかなと思って、今はこういう選書にしています。
お店があることで生まれるつながり
ーー本屋をやってよかったことはありますか?
太一 物理的な場所ができた、ということでしょうか。通訳とデザインの仕事だけをしていたら絶対に出会わなかった人たちとお話できるのは楽しいです。「場」があることで生まれることがたくさんあるなあとお店を始めて知りました。
洋子 昨年10月には、スペイン語圏の文化普及に取り組んでいるNPO法人、イスパJP 主催の文学イベントでプントのスペースを使って頂いたんですが、普段通訳(発言を口頭で別の言語に変換する仕事)だけやっていると、翻訳(テキストや映像を別の言語のテキストに変換する仕事)をメインにされている方とは、ワークスタイルが異なるので意外と接点がないんです。でも「スペイン語」という軸で本屋を始めたら、そんな繋がりも生まれました。そういうところが面白いですね。
太一 また西千葉にある屋外の公共空間 HELLO! GARDEN で「『環境』をテーマにしたイベントに参加しませんか?」と声をかけいただいて出店できたことも良かったです。自然や環境もプントが大事にしているテーマなので。そんなふうに「場」によって「地域」とのつながりができた、というのもかけがえない経験ですね。
ーーお店があることで地域とのつながりが生まれるわけですね!
洋子 そうですね。あとは自分が選んだものをお客さんが購入して下さるという体験をこれまでしたことがなかったので「あ、それ気に入ってくれたんだ!」という発見がとても新鮮だし嬉しいです。
本屋さんに勤めた経験はないですが、だからこそ何か枠にはまらない面白さを出していけたらと思っています。低空飛行でいいからこれからも続けていきたいですね。
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〈取材後記〉
今では千葉市の海岸線沿いのほとんどが埋め立て地で、商業施設やタワーマンションが立ち並んでいますが、埋立前の海岸線沿いはリゾート地(別荘地)だったそうです。Puntoさんはそんなエリアに店を構えておられます。それも影響しているのでしょうか。妙に街の空気がゆっくりしており、Puntoさんもその街に溶け込むようにお店を構えておられました。
インターネット環境があれば仕事ができる、そんな仕事が一般化したいま、リアルで店舗を持つことで人との出会い、街との出会いが生まれるんだなあと、改めて考えた取材でした。
プント 本と珈琲
〒263-0042
千葉県 千葉市 稲毛区 黒砂 1-5-14-2F
(京成みどり台駅 徒歩3分)
営業時間: 不定休 (twitter, instagram, HPに掲載)
Twitter:@LibreriaPunto