はじめての住民運動――ケース:京都・北山エリア整備計画

第1回

街を勝手に変えないで!

2021.07.17更新

 2021年7月9日、私ははじめて住民運動に参加した。と言っても、7名の小さな規模の集まりに過ぎない。大掛かりな呼びかけをした集会ではなく、知り合いの延長といった面子。私も一週間前にたまたま知人から聞き、行ったのであった。
 案件は、京都・北山エリアの整備計画。
 京都府が京都植物園とその周辺を整備しようとしている。それは私も知っていた。数ヶ月前、ネットの署名運動を目にして以来、これは困る、と思っていた件である。そのとき私は以下のようなツイートをしている。

 それから一ヶ月ほど経ったころ、京都新聞の記事を見て胸を撫で下ろした。多様性は守る、ということに落ち着いたのだ。そこに至るまで署名活動などで尽力された方々には感謝の思いしかない。
 ただ、私個人で言えば、その記事を読んで、少し油断してしまっていた。この問題は解決した。こう思ってしまったのだ。
 しかし、根本的な計画はほとんど変わっていなかった。
 園内にイベントスペース、植物園横の角地にシアターコンプレックスをつくる。
 これらは何も変わっていなかった。
 問題は、なぜ、今、こうした大型施設なのか? そこに住む人が普段づかいとして行く場ではなく、観光客などを意識したハレの場なのか? そもそも、こうしたハコモノをつくって人を集めるという発想自体、コロナ以降の社会を見据えたとき、かなり時代遅れではないか?
 などなど、あげ出せばキリがないが、最後に一つだけ加えたい。
 それは、住民(この場合、府民)になんの説明もない、ということである。府民の意見を聞く機会は一度としてないまま、住む人たちが望まない「整備計画」が進められようとしている。いや、正確に言えば、府民への説明と意見募集は一度だけあった。町内単位で回ってくる回覧板で、である。
 繰り返すが、回覧板で、である。
 府が府民に説明し、意見を求めたのは、一住民の認識としてはこの一度きりだった。(*あとで教えてもらったのだが、府のホームページにはあった)
 
 当日。府の担当者が、ヒアリングということで対応くださることになっていた。少なくとも、私たちはそう思ってその場へ出向いた。
 約30分、府の担当者がこれまでの経緯を説明した。聴きながら、気持ちがどんよりどんどん曇っていった。
 渡された「北山エリア整備基本計画〈概要〉」のペーパーには、「5つの将来像と基本コンセプト」と題した欄があり、その中央に「憩いの緑と躍動するまちが融合した「文化創造の森」の創出」と書かれてある。その周りを囲むように、5つの将来像が横長の楕円の中に記されていたーー「将来像1 豊かな自然に包まれた環境」「将来像2 オープンに繋がる空間」「将来像3 多様な人々が集まり交流するまち」「将来像4 新たな文化・芸術の創造・発信の拠点」「将来像5 文化・芸術・学術・スポーツに触れられる魅力的な空間」ーー。
 ・・・どうだろう?
 一見しての感想は、「何も書いていないに等しい」。あえてよく言えば、ツッコミを受けないために、「全方位に目配りはできている」。明らかなのは、将来どういう街にして行きたいか? そうしたビジョンのある計画ではないということだ。
 そもそも、この計画は、どういう時代状況を想定してのものなのか? 例えば、今私たちが迎えている気候危機やコロナの問題などは踏まえているのか? 
 そうしたことを見据えた上で、どういう空間であれば、自然環境と共生していけるのか? そこに住む人たちにも喜ばれるのか?
 このような問いをじっくり時間をかけ、話し合いながら進める。このプロセスが欠かせないのは当然だろう。ほかならぬ、公共の建物、公共の場所を税金をつかってどうするか、を決めるのだから。
 だが、残念ながら、こうした一切は、担当者の説明からはなかった。
 私は、上記を伝えた上で「このままビジョンなく、ただ建てること前提に進めていくのは、それこそ将来に責任ある行動とは思えません。いったん白紙にしてください」と述べた。
 すると、担当者は、「まあ、一意見としては聞きますが、大きく変えるのは無理ですね」
 (えっ、無理??)
 「もう、府議会で通った件ですから」
 (は?)
 わが耳を疑った。今日は、府民の意見を聴いて、よりよい街にしていくためのヒアリングの時間ではなかったのか!?
 一度、議会を通れば、それが市民が望まない公共空間であっても、黙って完成するのを待つしかない・・・。そんなバカな。このままいけば、未来世代に、「なんであんなものつくったの?」と言われる事態になることは必至だ。(*ここでは、京都市民というより住民という意味で「市民」を使った)
 ここからなんとか阻止し、いいふうに方針転換していけないものか?
 ・・・と考えたとき、自分にはまったくそのすべがないことに気づいた。
 いったい、どうしていけばいいのだろう?

 本連載では、はじめて住民運動(のような動き)に向き合うことになった自身の記録を綴る。その理由は、このケースだけでなく、同じような問題(止めたいけどどんどん進んでしまう開発など)が、日本全国で頻発しているにちがいない。そして、私同様、こういうことにど素人な人であっても、「なんとかしていきたい」と一念発起する人たちが少なからずいるだろうと確信するからだ。
 また、住民運動は素人だが、メディアの仕事をする者としては、公共事業の決定プロセスをオープンにしていく、その一つのやり方の参考になればという思いもある。
 もう一つ付け加えれば、府の担当者に接して思ったのは、公共事業に携わる担当者もまた、私たちとあまり変わらない、ということ。つまり、「密室で決めたことを十分な説明のないまま進めてしまう」あの古い「自分たちのやり方」しか知らないのだ。その意味で、本連載が、心ある公共事業担当者にとってなんらかのヒントになっていくものでありたいと思っている。
 けっして行政、自治体と対立するつもりはない。むしろ、未来に対して同じ方向を見ながら、できるだけ協働していくつもりだ。
 そのためにも、次回、私たちが遭遇し衝撃を受けた、第一回会合の様子を今一度ふりかえってみたい。

三島 邦弘

三島 邦弘
(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。 ミシマ社代表。「ちゃぶ台」編集長。 2006年10月、単身で株式会社ミシマ社を東京・自由が丘に設立。 2011年4月、京都にも拠点をつくる。著書に『計画と無計画のあいだ 』(河出書房新社)、『失われた感覚を求めて』(朝日新聞出版)、『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』(河出書房新社)、新著に『ここだけのごあいさつ』(ちいさいミシマ社)がある。自分の足元である出版業界のシステムの遅れをなんとしようと、「一冊!取引所」を立ち上げ、奮闘中。 イラスト︰寄藤文平さん

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