第4回
長田杏奈さんインタビュー 美容は自尊心の筋トレ、という提案(2)
2019.09.10更新
美容やメイクというと、見た目を美しく・可愛くしたり、見た目を整えるという印象があります。
しかしふだん、なんとなーくお肌の手入れをして、なんとなーくメイクしている私(アライ)のような人間は、「美容」と言われるとちょっと怯んでしまうというのが本心。ただでさえ、ふつうに生きているだけで「美人」「ブサイク」とか外見を他者に勝手に診断されることも数多くあって辟易とするし、年を取らないことをもてはやす風潮もどうなんだろうかと思ったりします。
でも、綺麗になるためでも若返るためでもなく、化粧をするのは社会人としてのマナーとかいう押しつけも関係なく、「自尊心を高める」ために、美容という方法を使うことができるとしたら? そんな、多様な美を発見して謳歌するこれからの時代のための美容を提案する、これまでにないエッセイ『美容は自尊心の筋トレ』(ele-king books)を読んで、心が震えました。この本を読んで救われる人が多くいるはずだ! と思い、著者の長田杏奈さんにお話を伺いました。
著書の話や美容のことについて伺った前編はこちらから。
(聞き手・構成・写真:新居未希、撮影協力:誠光社)
現実だけじゃ自分の好奇心を満たせないから本を読む
ーー前編では著書のことや美容について伺ってきましたが、本のなかに北欧ミステリーや女子プロレスの話が出てきたりと、多趣味でいらっしゃいますよね。本もいろいろなものを読まれているんでしょうか。
長田 最近忙しくてすごく読めているわけじゃないけれど、飽きっぽいので、現実だけじゃ自分の好奇心を満たせないんです。自分の現実の用事だけで一日が終わると、最後に何か全然現実と遠いものを寝落ちするまで見たくなるんですよね。
昔から本を与えておけばおとなしいという子で、まったくお金持ちの家ではないけど、本代だけは出してもらえました。神奈川県の相模原市という文化度がそれほど高くないところで育ったんですけど、当時はAmazonなんかもないので、小さい本屋さんの本棚から「これはいい」っていう掘り出しものを探し出して読んでいました。ジャンルは、広いっていうのかな・・・、自分的には一貫してるんですけど。
ーーこの人が好き!という作家さんはいらっしゃいますか?
長田 私、一番最初にインターネットをやりはじめたのが就職活動のときだったんですけど、ホームページビルダーを使って最初に作ったのが内田百閒のファンページだったんですよ。当時はYahooが運営している掲示板があったんですけど、内田百閒板にマメに書き込んだりしてました(笑)。すごく好きだったんです。
百閒先生の著作は、今はちくま文庫や中公文庫、いろんなところから出ているけれど、当時は全集や文庫を出していた福武書店もなくなってしまって、けっこう廃刊になっていた本が多かったんです。だから、失われてしまう!みたいな焦りもあって、めちゃくちゃ内田百閒関連の掘り出し活動をしてました。掲示板で仲良くなった人と百閒先生の自宅跡を見に行ったり、大手まんぢゅう(*2)ってなんだろうと食べてみたり。
ーー熱がすごいですね。自作でホームページまで作るとは!
長田 和風のホームページを作ってましたね。のめり込みやすいタイプで、そのときはそれに相当のめり込んでたんです(笑)。
反骨精神のお手本は内田百閒と車谷長吉
長田 内田百閒スピリットは今でもよく思い出します。内田百閒と、『赤目四十八瀧心中未遂』の車谷長吉さんが反骨精神のお手本みたいなものなんですよ。
車谷長吉さんはけっこう自虐が多いんですけど、「下足番からいつでもはじめてやるぜ」という心意気なんですよね。「下足番からいつでもはじめてやるぜ」って思っていたら何にも怖くないじゃないですか。私も、いつでも使い走りからやってやるぜみたいな気持ちがあるので。
百閒先生は、『東京焼盡』という戦時中の話が私は好きです。戦時中は大政翼賛会に文学界隈も全部囲い込まれて、作家も「お国のため」になるようなことを書かされたりしていました。文学だけではなくて、華道なんかの伝統文化も次々取り込まれて。だけど百閒先生は、大政翼賛的な文学協会(日本文学報国会)に入れという命令を断るんです。そんなの何されるかわかんないじゃないですか。今でいうと、ネトウヨが強くなりネトウヨ文化協会に入れって言われて、友だちの作家も渋々入っているから、嫌だけど今だけ便宜的に入っとけ、みたいな感じの雰囲気が形成されていた。でも百閒先生は「イヤダカライヤダ」と自分の心に忠実で、それを行動に反映できる。もしかしたらそれで殺されるかもしれないんだけど。
面白いのが、すっごく戦うわけじゃないんですよ。憲兵にギャーギャーと対抗するとかじゃなくて、ちょっとからかったり、いじわるや嫌味を言ったりする。そういうチクチクした戦い方がめっちゃ好きだなって思ってて。
空襲があるからみんな疎開するのに、自分の生活を変えたくないからといって東京から逃げないんです。奥さんとか巻き添えでかわいそうだって思うんですけど。で、空襲警報が鳴るといちいち逃げるんです、防空壕に。そのとき、今だったら携帯とお財布と通帳と、パスポートと・・・というような、役に立つものを持っていけばいいじゃないですか。だけど百閒先生は鳥かごと酒ビンを持って逃げる。いけすかないけど、自分の声をめちゃめちゃ聴いてる。体制がどうなっても侵害され得ないくらい自分に忠実で、長い物に巻かれきらない姿勢がかっこいいなって思ってます。内田百間と車谷長吉は、私の中ではヒーローです。
いま興味があるのは生理と性教育のこと
ーー先日の参議院選挙の際は、「政治音痴のための7.21」という記事も書かれていましたよね。すごく面白くてわかりやすかったですし、ここにも反骨精神を感じたというか。見せ方もポップで素敵でした。
長田 ありがとうございます。美容なら美容、ファッションならファッションのことをやっていればそれが求められていることだし、それをやっている限りは誰からも文句は言われないっていうのはあるんです。けどメディアに携わるものの責任として、今みんなが向き合わなければいけないことを、読む人にわかりやすいように味付けしてやるのがミッションなんじゃないかと思っていて。
ViViのことがあって(*3)、ふだん私が関わっているメディアのなかでも「政治のことはやっぱり触れないでおこう」というような雰囲気になってしまっていたことに対しての反骨精神でもありました。この記事が180万PVぐらいあったんですよ、ちゃんと読んでくれた人がたくさんいた。やっぱりやりようがあるんだと思ったし、それを作り手側にも感じてほしいと思って自腹を切った記事でした。
いま興味があるのは、生理や性教育です。ちょうどムーブメントもあるから、加担して盛り上げたいなって思ってます。
ーーこれまでしっかりと語られてこなかった2つですね。
長田 「自尊心の筋トレ」って言って美容で応援しても、自尊心を破壊するようないろんな出来事が現実に起こっています。性暴力もそうだけど、性の知識はないのに簡単にアクセスできるところに主体が偏ったポルノ動画があるとか、現実に女性の自尊心が踏みにじられかねないという状況は変えてかなきゃいけないなって。
だから、仲間を見つけ、今の仕事のノウハウを活かして、超イケてる性教育の冊子を作って、全国の小学校に配るというのを50歳くらいまでにやりたいです。まず生理で、次に性教育かな。それはセックスが好きだからとかじゃなくて、権利として知る必要があると思ってるから。女性が自分の身体のことや選択肢を知らないで、ただ活躍しろって言われたって難しい。
ユネスコが発表している性教育の指針(*4)では、5歳から性教育がはじまるんです。もちろん5歳からセックスを教わるわけじゃないです。自分の水着で隠れているところを人に触られたら、それは大切なものを侵害されているから近くの人を呼びに行こうとか、そういうところから。でも日本ではそういうのもない、変だなって思います。自分は普通に大人になって、子どもを産むくらいまで、平等の風のもとにすいすい泳いでいるような気がしてたから。どうもそうじゃなかったみたい・・・という現実に本当にイラッとするので。次世代には、オギャァと生まれてから、骨になるまですいすい泳いでもらうために、できることはやったるぜ!という気持ちでいます。
ーー今後のご活躍も楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました!
(*1)ホームページビルダー:Webページを作成する際に必要なHTMLタグなどを知らなくても、Webページを作成することができるツール。
(*2)大手まんぢゅう:内田百間の大好物である岡山の酒饅頭
(*3)ViViのこと:講談社の発行する女性向けファッション誌『ViVi』のオンライン版で自民党とコラボレーションをしたPR記事が批判を受け、講談社が企画の意図を説明するに至った。
(*4)ユネスコが発表している性教育の方針:ユネスコがWHOなどと協力して2009年に発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」のこと。「5~18歳を4段階に分け、学習内容を提示。5~8歳で受精など赤ちゃんが生まれる過程を知り、9~12歳で無防備な性交は意図しない妊娠や性感染症の危険があり、コンドームなどの正しい使用が有効と学ぶ。中学生は健康な妊娠や出産の知識、高校生は性的な接触には互いの同意が必ずいることの理解が重要としている」(2018年4月7日付 東京新聞夕刊より)。日本では2017年に邦訳が出版されている。
お話を伺ったひと:長田杏奈(おさだ・あんな)さん
1977年神奈川県生まれ。ライター。中央大学法学部法律学科卒業後、ネット系企業の営業を経て週刊誌の契約編集に。フリーランス転身後は、女性誌やWebで美容を中心にインタビューや、海外セレブの記事も手がける。「花鳥風月lab」主宰。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(ele-king books)。