飲食店×本屋さん

第1回

pelekas book(埼玉・草加)

2022.07.11更新

こんにちは。ミシマガ編集部です。本日は、ミシマ社営業チームによるインタビュー企画、「飲食店×本屋さん」をお届けします!

ミシマ社は最近、食堂や喫茶店、銭湯など、本屋さん以外の商売を営むお店から、「本を置きたい」とお声がけいただくことが増えてきました。レストランで食についての本を読んで考えを深めたり、喫茶店で本棚に並ぶ本を眺めて一息ついたり。生活と本が溶け合う場となるお店が増えることは、これからの出版界を豊かにしていくに違いありません。

現在、書店以外のお店が本のコーナーをつくる際に、「一冊!取引所」をお使いいただくことが多くなっています。「一冊!取引所」を使っている、喫茶店や銭湯などのお店は、どんなお店で、どんな活動をされているのか。そしてお店の本業と、並んだ本はどのような関係を結んでいるのか。

本企画の初回は、草加にあるPelekas bookの店主の新井由木子さんにお話を伺いました。もともとイラストレーターをされている新井さんは、2016年に喫茶店の一角に本屋pelekas bookを開きました。イラストの技術を活かしながら、町の工場と協力して紙のものの制作を行い、「一冊!取引所」では出版社側として書店へ卸しています。

あさって13日には、ミシマ社の代表三島との対談「町で小商いをするために コーヒーと一冊と書店と共有地」に登壇される新井さんの活動に迫ります。

a152b57cd3542e2ab1052.jpeg【7/13(水)MSLive!】『ちゃぶ台9』刊行記念・書店 pelekas book×三島邦弘
「町で小商いをするために コーヒーと一冊と書店と共有地」

(取材:西尾晃一、須賀紘也 構成:西尾晃一)

人気作家の小説の挿絵を担当

ーー 新井さんはイラストレーターとしてご活躍されているんですね!

新井 1998年にHBギャラリーのコンペで大賞をいただいたんです。それをきっかけに自分で文芸誌に営業に行き、文芸誌の挿絵を手がけるようになりました。皆川博子さんや桐野夏生さんや中島京子さんなど、出来立ての小説を誰よりも先に読んで挿絵するのは本好きとして幸せな仕事でした。

スクリーンショット 2022-07-07 18.13.46.png

新井さんと手がけた挿絵たち

ーー すごいですね!

新井 でも挿絵の仕事だけでは生活費の全てはまかなえなくて。生活をしていくための副業として、別の仕事ができないかなと考えました。それもどうせならなるべく楽しく、自分がドキドキしながらできる仕事。それで本屋さんをやろうと思ったんです。甘い考えだとあとで気づきましたが(笑)。初年度の売り上げはわずか100万円だったのですが、確定申告をしたら、儲けはほんの20万円あまりだと判明。それで震えがきちゃって、本屋は儲からない商売だとわかりました。

町工場の人と顔の見える仕事を

―― それから活動に変化はありましたか?

新井 書店の仕事を継続するために、町のお店が必要としている印刷物の制作をお手伝いしようと考えました。地域からお金をもうらう取り組みですね。更に自社製品として紙の文具なども制作をしています。作ってくれるのは草加市の隣の足立区の工場さんたちです。このあたりは江戸時代から紙の工業が盛んで、今でも小さな紙工場がたくさんあるのです。顔が見える町工場との関係性だと、製品の特別な作り方が工夫できます。パンフレットを目分量で斜めカットしてもらったり、たくさんのバリエーションの栞を一度に切り出してもらったり。工場の職人さんたちも、町の人の顔が見える仕事ができて嬉しいと言ってくれて、忙しい仕事の中にわたしの小さなお願いを組み込んでくれます。

ーー 素晴らしいですね!

新井 あとは地域をテーマにした仕事としてユニットを組んで(その名もgrass(草)plus(加))、さまざまな切り口で草加の地図を繰り返し作っています。草加のランチ特集とかパン屋さん特集とか草加全体を意識できるカレンダーとか・・・。その活動が大きな仕事につながったことがあったのは、ちょっと意外でした。ある不動産会社さんが「草加に住みたくなる地図を作ってほしい」と言うお題で仕事をくださったんですよ・・・。

ーー そうやって、町の中で仕事をしていくなかで、いつの間にか引き受けることが増えてきたということでしょうか?

新井 そうですね。今のところ町のお店さんたちからは、ちょくちょくお仕事をいただけるようになりました。草加のChaviPelto(チャヴィペルト)という農家さんのシールやお弁当の帯など、さまざまな印刷物を作らせていただいたのは楽しかったです。都市型農業の特徴を生かした完全オーガニックの農家さんなんですよ。住宅街の中だからこそ、農薬の無い環境が実現できるんですって。畑の中ではミツバチも暮らしていますよ。

―― 住宅街だからこそできる農業がある、というのは目からうろこです。

新井 草加には素敵だなと思う企業がいくつもあって、森紙器さんというダンボール工場も大好きなんです。ペレカスブックの紙製品のパッケージや、chavipeltoの通販箱など作ってくださいましたが、いつも設計から親身に相談に乗ってくれます。大きな企業が小さなお店のやりたいことに時間と手間を裂いてくれる、地域のことをしてくれるって本当にありがたいですよね。

本屋さんが文具の制作もおこなうことの強み

―― 他にも活動はされていますか?

新井 地域ではボランティアの仕事もあるんです。大変なのに全くお金にならない仕事。例えばこの「かわら版」は町内会の新聞なんです。わたしを含めた町内のおばさんたちが中心となって作っています。町ってすごく難しくて、口づてでの勘違いや、時には作為で良い取り組みもポシャったりしてしまう。こうして新聞にすることで、大切なことが正しく伝わっていけば、少し町の風通しが良くなるかもしれない。それでも、あんまり変なもめごとが起きるようなら、新聞に書いちゃうよって思っています(笑)

スクリーンショット 2022-07-07 21.37.34.pngかわら版

ー一 本屋、紙もの文具の制作、そして町づくりのボランティアの活動をして、ご多忙な中で、どんな働き方になるのでしょうか?

新井 おそば屋さんってテーブルからおそばを打っているところがみえるじゃないですか。ああいう風に書店で営業しながら絵を描くことが理想です。ただ集中しないとできないので、終わってからやることも多いですが。

―― 大変ですね。

新井 でも普段の店番では、いろんな気づきがあります。お店に小学生が来て、コロナ禍で学校に行けなくて、本当に本当に退屈だと言う声を聞いた時は、少しでも家での時間を楽しんでもらおうと、お小遣いで買える巨大な紙の迷路をつくってみたりしました。そういうことを経験すると、リアル店舗があるって、いいことだなあと思います。

―― 声があって、ものが生まれるというのは、制作もして店舗もあるpelekasbookさんならではですね。そんな中で、一冊取引所は役立っていますか?

新井 出版社と直取引をしたいなあと思うと、まず出版社にラブレターを書くんです。「御社の本が大好きなので、うちで取り扱いさせてください!」と。勇気を振り絞るんですよ、けっこう心が疲れます。でも一冊取引所には最初から、小さな書店を相手にしてくれると言ってくれている魅力的な出版社さんがずらりと並んでいるじゃないですか! これは大きなことです。更に取引を開始しても直取引が増える毎に支払い伝票業務が増えていく。これも煩雑で辛かったのですが、一冊決済で解決されてしまいました! 今、幸せです。

ーー ありがとうございます。

新井 それと、モーニングレター(一冊取引所が出版社や書店のユニークな取り組みや業界のニュースを平日の毎朝メールで配信しています)はすごくいいですね! ひとり書店ってけっこう孤独で、業界の情報を知らないままだったりします。だから毎朝のように選ばれた情報が届くのは、すごくありがたいです。

「コーヒーと一冊」コラボフェアが開催中!

―― 現在、「コーヒーと一冊と書店と共有地」フェアが開催中です。そして、いよいよ7/13は『町で小商いをするために ~「コーヒーと一冊と書店と共有地」』の対談がありますね! 町で本に関わる小商いをはじめることが、町や他の小商いの人にどのような影響を与えているのか。お話を伺うのが楽しみです。そこで、ひとつ気になるのは、pelekas bookさんは、cafe gallery conversionさんというカフェの中にありますね。カフェのなかに本屋があるということは、どういう相乗効果がありますか?

新井 私たちも相乗効果を狙って始めたんです。だって、コーヒー飲みに来たら、帰りに本を買いたいじゃないですか。そう思って始めたんですけど、その相乗効果はほとんどないみたいです。

ーー そうなんですか!

新井 そうなんです。最初はカフェに来たひとが好きそうな本を一生懸命置いていたんですが、お客さんには全く見てもらえませんでした。これはカフェも私も驚いているところなんですけど、満腹になると人は満足して帰っちゃうみたい。今は自分が本当に売りたい本を置くようになりました。そうすると本を目指してきてくれるひとが現れるようになりました。まだまだ少ない人数ですが。カフェとの効果としては、お互い年代や職種が違うことでの助け合いができることが大きいと感じています。例えばカフェ店主は子育て真っ最中。早く帰宅したい時には、子育てを終えてひとり暮らしのわたしがお店を閉めてあげたり。わたしが取材に行きたいときは、カフェのスタッフが書店を見ていてくれたり。狙ったものは形にならず、思わぬところに「ありがとう」と言えるものが生まれることが、なんか、よくあるんですよ・・・。

―― 面白いですね!

新井 狙うとコケるんですよ!これはわたしが紙工場と協力して作った絵本専用の『ぞうのえほんバッグ』です。絵本にもっともっと出会って欲しいという熱い思いがこもっています。書店やイベントで一生の友達になる絵本に出会って、家まで持って運ぶ間が楽しくなるバッグ。ぞうの耳を持ち上げたら絵本の顔が見えるという、ね。子供がニコッと笑ってくれるんでるよ。これは全然売れていない。在庫が山のようにあります(笑)。 これは狙っていった結果、コケたやつです(笑)。

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―― (笑)

新井 でも、これを柏の葉蔦屋書店さんが気に入ってくれて。工作の土台にもなるというので、バッグの表面にいろいろ段ボールをペタペタくっつけたりしてワークショップになりました。8月に2回目の開催になります。
ぞうバッグ01ヤマネコ.jpg

ぞうの絵本バッグの工作作品

―― 自分だけの絵本バッグをつくろうということですか?

新井 そう。狙ったところには刺さらなかったけど、狙っていないところで、また別の可能性を誰かが作ってくれるような感じです。

―― 今回のイベントでは、本とコーヒーがコラボするというのも非常に楽しみで、コーヒーきっかけに今度は本を手にとってくれたらと思いますね!

新井 ですね! でもあまり狙っているとダメかもしれない(笑)。

―― 思わぬ出会いを期待しましょう(笑)。対談イベント楽しみにしています。よろしくお願いします!
pelekas book(ペレカスブック)
住所:埼玉県草加市高砂1丁目10−3
カフェコンバーション内
営業時間:11:00〜19:00
定休日:日曜日

編集部からのお知らせ

【MSLive!】7/13(水)開催!『ちゃぶ台9』刊行記念・書店 pelekas book×三島邦弘『町で小商いをするために 〜「コーヒーと一冊と書店と共有地」』

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pelekasbook店主 新井由木子さんが聞き手となり、ミシマ社代表三島邦弘が語る、その名も『町で小商いをするために 〜「コーヒーと一冊と書店と共有地」』と題し、イベントを行います!書店や紙ものの制作という小商いが、どのような共有地を築いているのか?本屋さんに興味がある方も、これから小商いを始めようと考えられている方も、まちづくりについて模索されている方も、みなさま草加の町の例を一緒に見てみませんか?

日時:7月13日(水)19:30
会場:perekas book
住所:埼玉県草加市高砂1丁目10−3 カフェコンバーション内 
参加費:1100円(税込)

※本イベントは「Pelekas Bookと共催するリアルイベント」と「ミシマ社のMSLive!(オンライン配信)」の同時開催です。
リアルイベントの会場でのご参加をご希望の方は、pelekas bookさんのアドレスまで、下記の情報を添えてご連絡をお願いいたします。

(会場での参加費も、配信と同様1,000円+税です。当日会場でのお支払いをお願いします)
(アドレス)pelekasbook@gmail.com ※@は半角に置き換えて下さい。
(メールに記載いただきたい情報)
・お名前
・連絡先電話番号
※タイトルは「7/13イベント申し込み」としてください

配信お申し込みはこちら

7月末まで開催中! pelekas bookさん(草加)コラボフェア「コーヒーと一冊と書店と共有地」

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pelekas book(ペレカスブック)さんで、ミシマ社フェアが開催中です。その名も、「コーヒーと一冊と書店と共有地」。「コーヒーと一冊」シリーズがお気に入りとおっしゃる店主の新井さんが、草加の町の共有地で、ミシマ社の本を片手に、読書とコーヒーの両方を味わってほしいと企画くださりました。『コーヒーと一冊』全冊セットをお買い上げの方には、pelekas bookさんと「コーヒーと一冊」がコラボした素敵なトートバッグのプレゼントがあります! また、フェア期間中に共催している草加の喫茶店にお立ち寄りいただいた方には、pelekas bookさん特製の小さな紙のタグをプレゼントいたします。

pelekas book(ペレカスブック)コラボフェア「コーヒーと一冊と書店と共有地」
住所:埼玉県草加市高砂1丁目10−3 カフェコンバーション内
営業時間:11:00〜19:00
定休日:日曜日
会期:7月末まで開催

詳細はこちら

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この記事のバックナンバー

07月11日
第1回 pelekas book(埼玉・草加) ミシマガ編集部
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