第2回
日本人はけんかをしない?日本で暮らす留学生座談会
2019.02.20更新
みなさま、ミシマ社の新刊『イスラムが効く!』(内藤正典・中田考著)の発売日が23日(土)に迫っております!
日本が抱える諸問題を解決するために、「イスラムの知恵」を借りようと呼びかける『イスラムが効く!』にちなんで、「日本で暮らす外国人の考え方を聞いて、日本社会のあたりまえを見直そう」という企画が立ちあがりました。そこで今回は『すみちゃんのメヒコ日記』の著者であるデッチのスミと、同じくデッチのスガが、スミのカラオケ仲間である3人、スペイン出身のパブロさんとサラさん、アルゼンチン出身のマティアスさんを自由が丘のオフィスにお招きして、座談会を行いました。「働き方」、「心の病」、「友達」、「経済」、「政治」、「差別」について語られた、その模様をお伝えします。
生きづらさと向き合うための、今までとは別の視点が見つかるかもしれません。
行かなければいけない飲み会が、ありませんか?
――(スガ) 本日はお集まりいただきありがとうございます。さっそくですが簡単な自己紹介をお願いします。
サラさん 大学院で日本研究をしています。原宿ファッションとポップカルチャーが好きです。
マティアスさん 大学院で日本文学を研究しています。特にラテンアメリカに興味があった日本人作家を研究しています。カラオケも大好きです。
パブロさん 大学院で日本史を研究しています。趣味はカラオケとビールを飲むこと。今日来た人はみんなカラオケ好き(笑)。合気道は趣味以上ですね。みなさんも合気道いかがでしょうか?
一同 (笑)
――(スミ) 日本は気に入っている?
パブロ まあ気に入っていなかったら日本に住んでいないですよね。もちろん、ちょっとツッコみたくなるところもありますけど、今のところは住みやすいと思いますね。
――(スガ) 「ツッコむところ」はどういうところですか?
パブロ まず、「働き方の文化」が日本とスペインでは全然違う。「残業」という言葉・・・。
――(スミ) スペインには「残業」という言葉はないの?
パブロ あると言えばあるけど・・・。商社に入った日本人の友達が、「たくさん残業してたくさん稼ぎたい」と言っていましたが、スペイン人だったら8時間以上は「1分だって働かない」という考え方をする人が多いですね。
マティアス あと、「その日の分の仕事を終えたから帰る」というのが海外だとできるんだけど、日本ではダメ。
――(スミ) そうだね。終わってても、やること探して時間まで働くよね。
マティアス 雇用の制度も違うでしょ。
サラ 日本の大学生はほとんどアルバイトをしているけど、スペインにはアルバイトというものはないです。
パブロ アルバイト・非正規雇用・正規雇用というふうに細かくわけられていなくて、期限付契約と無期限契約という区分しかない。全体的に期限付契約が多くて、終身雇用は珍しい。
スペインにも、カフェなどで日本のアルバイトのような働き方をする大学生は、いないことはないけど少ないよね。大学が厳しいから勉強に専念しなきゃ卒業できないし、学費が日本ほど高くない。僕の地元の国公立大は年間15万円だった。
――(スガ) それはうらやましい。それにしても「残業」も「終身雇用」もないとは、本当に「文化」が全然違いますね。
サラ あと、日本には行かなければならない飲み会が、ありませんか?
一同 あー。
パブロ スペインにはないね。
――(スミ) えっ、ないの。
パブロ もちろん。「行きたくない」と言ったら、「じゃあまたね」という感じ。
マティアス だいたいみんなお酒が好きだから行きますが(笑)、行かなくても大丈夫です。
パブロ それに「お酒飲みたくない」ということがはっきり言える。日本では飲み会に行くと「最初はビール」となって、「すみません、お酒飲めないんです」とはなかなか言えないですよね。
だから友達がいるんだよ
――(スガ) 働き方の問題もあり、日本ではうつ病になる人が少なくありません。うつ病については、『イスラムが効く!』でも触れられています。
パブロ 一般化はできないですけど、スペインやアルゼンチンだと、自分がなにか問題を抱えたときに、打ち明ける相手がいるものです。日本だとひとりで問題を抱え込んじゃって、話せない人が多い。僕のサークルの後輩も、苦しい思いをしているのに話さない。それで飲み会に呼んで、こちらから「はい、話して」と言って、やっと話し出したと思ったらボロ泣きしちゃう。そういうこともうつの原因になるんじゃないかな? 自分の思いとか考えをシェアできない。
――(スミ) 悩みを抱えているときは誰に相談しますか?
マティアス うーん、たぶん家族か友達。
サラ 私もそうですね。
パブロ 家族と友達の両方だと思います。しかもなんかあったらすぐに、そのまま吐き出す。
――(スミ) じゃあ、もしこのなかの誰かがすごく落ち込んでいたら、「じゃあみんな集まって飲もう」というふうになるの?
パブロ それでもいいし、ひとりやふたりに「こういう悩みがあるから聞いてよ」と声をかけてもいい。
サラ 全然大丈夫。
マティアス 最近日本人の友達が、その人が抱えている、自分の家族についての悩みを話してくれたんだけど、そのあとすぐに謝り始めたんです。「自分の個人的なことを話してしまって、すみません」と。でも、それは海外ではふつうのことでしょ。だからびっくりしました。
あと、日本では精神科やカウンセリングに通う、ということのイメージが悪いですよね。
――(スミ) 日本だとそういうところに相談に行くことは、ハードルが高いように感じられる。だけどスペインやアルゼンチンの人は、「ちょっとつらいな」って思ったら行こうと思えるのかな。
パブロ スペインでも、昔は偏見があったね。だから悩みを飲み込んじゃって、薬が無いと治らない状態になることが多かった。だけど最近は変わってきているかな。
サラ そう思います。今はふつうになりました。
――(スミ) そうなんだ。じゃあ、みんなが日本でつらい思いをしたときはどうする?
サラ 友達と、あと、スカイプで毎日、家族と話をしています。
パブロ 今の時代は、家族と話すのも簡単だよ。
マティアス でも、アルゼンチンではあいさつのとき、キスやハグをよくする。日本ではめったにないから、懐かしく思うことがある。
パブロ だから、ここにそのための友達がいるんだよ。(マティアスと肩を組む)
一同 (笑)
意見が一致しなくても大丈夫
――(スミ) みんなは日本でどうやって居場所をつくったの?
パブロ 僕はラッキーだった。たまたま入った合気道のサークルですごくいい友達に恵まれた。最初は言葉の壁がありました。でも、稽古しながらちょっとずつお互いに知り合っていった。その時から日本語も上達していって、コミュニティが広がったのかなと。
マティアス 日本人と同じ興味があれば、友達になるのが簡単になると思う。だからおもしろそうなことを探して、部活やクラブなどに参加できればいいと思います。
サラ 私は、大学で友達をつくったこともありますが、まずSNSで同じ趣味を持っている人たちと友達になって、そのあとに直接会いに行くということもあります。
――(スミ) サラちゃんはスペインにいるころから、今みたいにポップカルチャーが好きだった?
サラ そうですね。スペインに住んでいた時も、毎年一回ぐらい日本に来て、SNSでできた友達に会うこともありました。
マティアス でも、共通の趣味から友達になるのにも問題はありますね。同じ趣味のなかでも、意見が合わないことがあるから難しいです。日本では特に難しい。
アルゼンチンやスペインなどでは相手と違う意見を持っていてもいいと思います。賛成しなくても大丈夫。
パブロ 互いに尊敬しあえるっていう感じ。
マティアス そうですね。日本ではちょっと違う。
パブロ 例えば日本人はあまり政治や宗教の話をしない。個人的な意見なんてそれぞれ違うものじゃないですか。でも、違う意見が出てくると、「あっ、この人は仲が良かったけど、私と意見が正反対だからもう仲良くしづらいな」と感じてしまう。だから、和を乱さないためにそういう話ができないという感じじゃないですか?
――(スミ) そうかも。
パブロ 異なる意見を述べあって、話し合って、なおかつ和を守る、という関係があってもいいんじゃないか。スペインとかアルゼンチンでも、もちろんたまにけんかになったりとかはあるんですけど、けんかの後は、一緒にビール飲んで仲直りすればいいんです。
一同 (笑)
格差の見え方
――(スガ) 経済についてお聞きします。日本社会とみなさんが過ごされてきた国とを比べて、お金持ちの人と、貧しくて困っている人の格差が目につきやすいと思いますか?
パブロ 日本ではお金が無くて困っている人は、公園とかで隠れるように過ごしているじゃないですか。スペインだったらふつうに道で寝ています。あと日本の場合だと、物乞いは違法でしょ。スペインでは町によってかわるって感じですよ。観光客を呼びたい町は、街の中心部だけは物乞いを違法にするとか。
――(スガ) へー。
パブロ だから「見せたくない人をほうきでどこかに掃き出している」という印象を受けるんですよ。そういう排除のしくみがあるとはいえ、日本と比べるとスペインにはそういう人が街中にもいるっちゃいます。でも、僕はスペインですごいお金持ちの人をあんまり見たことがない。
――(スミ) お城に住んでいるの?(笑)
パブロ お城に住んでるのかな(笑)。あの人たちはあの人たちだけで一緒に住んでいて、僕たちも上下の一番近い階級の人と混ざるぐらい。だからスペインも格差は見えにくいと個人的には思う。日本の場合は近所の人がフェラーリに乗っていたり、お金持ちも山手線を使う。経済レベルによって、利用する交通機関がかわるということもスペインに比べたらまだ少ない。
――(スミ) じゃあ、スペインの方が階級によって、生活圏が違うの?
サラ そうだと思う。それにスペインでは、ブランド物を持っているのはお金持ちだけです。でも日本では、お金持ちではない人も、古着屋さんとかでブランドのカバンなどを買ったりして持っていますよね。私は日本に引っ越してから古着屋さんが好きになりましたけど、スペインにはこんな文化はなかったです。
――(スミ) そうなんだ。買い物の話を続けると、日本は消費社会だと思いますか。
パブロ 間違いないね。世界一だと思うよ。
サラ 売っているものの選択肢が多くて、消費をしたくなるようにできていますね。
パブロ そのかわり、金がないとなにもできないよ。
――(スミ) スペインやアルゼンチンと比べて、お金がないとなにもできないと感じている?
マティアス そうだね。特に東京では。
パブロ 交通費も高いし、喫茶店でコーヒーを飲むにも、一杯が1~1.5ユーロのスペインに比べると、お金がかかる。ただ移動をしたり、街中で休憩したりするだけで、それなりのお金がかかる。だからお金を使うまいと思ったら、歩いて公園に行って食パンの耳をかじるしかない(笑)。
けんかも政治の話し方
――(スミ) さっきパブロは「日本人は政治の話を全然しない」と言っていたよね。
パブロ スペインの大学生は、「政治は好きじゃない」と言いながらも、みんな政治のことを熱心に考えている。だけど日本人の大学生はどうなのかな?
――(スミ) 政治に対する意見を持っている人は少ないと思う。みんなの場合は、まわりが自然にしゃべっているから、自分もしゃべれるようになるのかな。
――(スガ) みんな政治の話をしているんですか?
マティアス ときどきはね。
パブロ スペインのバーでは、みんなビール飲みながら、「ああ、大統領ダメだな」、「我々が大統領になったらこういうことをするんだ!」と意見を言い合っている。いい意見でも、ダメな意見でも。
マティアス アルゼンチンでも社会に深く影響するようなできごとが起こると、いろんなところで議論が起きて、けんかになることも多いです。それも政治の話し方のひとつ。
――(スミ) アルゼンチンは大変だもんね。
マティアス 大変です。アルゼンチンは経済危機を繰り返し経験している国。だから政治運動が多いですね。
――(スミ) ラテンアメリカは、どこの国も問題があからさまに露見する政府ばっかりなんだよね。だからこそ人々の間に問題意識が生まれやすいのかもしれない。
話は変わるけど、アルゼンチンは、軍事独裁はいつ終わったっけ?
マティアス 1983年。スペインはフランコ独裁政権が終わったのは?
パブロ 1978年。
――(スミ) ということは、みんなの国にはわりと最近まで独裁政権があった。だから「あの時代を繰り返してはいけない」という考え方が濃く残っているんじゃない?
パブロ でも、「前の方がよかった」と言う人もいる。
マティアス アルゼンチンにも多い。経済危機のせいで。
パブロ 経済危機の時には政治の雰囲気が偏狭になります。スペインにも今、極右政治家が支持を集めていて、「スペインのためのスペイン。移民をみんな追い出します」と言っている。
マティアス だけど移民に対するイメージのつくられ方はさまざまで、「いい外国人」がいれば、「悪い外国人」もいるね。
サラ 例えばロシア人移民は「金持ち」なので大丈夫です。
パブロ あと肌の白さも関わってくる。かならずしも経済的窮乏や政治問題から移住しているわけではなく、白人の割合が高い東ヨーロッパ・ロシア・ドイツなどからの移民は、「いい移住者」とされているよね。それに対して、有色人種が多いアフリカや中東からの移民は、「悪い外国人」とみなされがちだね。
地下鉄で誰もとなりに座らない
――(スガ) 日本で「差別」にあったことはありますか?
マティアス 日本でも、外国人に対する差別はときどき感じる。例えば地下鉄で自分のとなりに誰も座らない。
一同 あー。
マティアス あとはアパートを探すとき。
サラ 家探しは、一番大変かもしれません。
――(スガ) そうなんですか?
マティアス 「この物件は日本人向け」と言われる場合が多いです。
サラ それと、お店に行ったとき、こっちが日本語で話しても、店員さんは英語で話す。
パブロ 頑張ってくれるのはありがたいけど、結局日本語でやりとりする方がスムーズなこともある。
逆に日本に来てすぐのころは、病院の受付で「こんにちは」とあいさつしただけで、「はい、あなたは日本語話せるんですね」と判断されて(笑)、漢字や専門用語ばかりの書類を渡されたり、早口で難しい説明をされることがあって苦労した。これは差別ではなくて期待のようなものなのだろうけど。
マティアス 日本語が話せるだけで、日本での正しい立ち振る舞いをすべて知っていると期待されると、少し困ることがありますね。
パブロ 僕が一番ショックだったのは、はじめて日本に留学した年に、1年間で15回警察官に呼び止められて、身元に関する質問を受けたこと。
――(スガ) えーっ。
パブロ 最寄りの駅前の交番にいる警察官に「あの~、すみません、なにをされている方ですか?」在留カード(3ヵ月以上滞在できる在留資格と適法に在留する者であることを証明するカード)の提示を求められた。「〇〇大学に留学していて、この近くに住んでいるんです」という説明をしながら、在留カードや学生証を見せると解放される。
――(スミ) サラやマティアスも同じような経験がある?
サラ 道端で在留カードの提示を求められた経験のある留学生は多いと思う。
マティアス でも一年間で15回というのは多すぎるね(笑)。
パブロ いや、僕の学生証の顔写真を見たら納得すると思うよ。
マティアス パブロは今でこそサラリーマンみたいになりましたが。
――(スミ) 昔は(笑)。
パブロ (財布から学生証を取り出して)まあこんな顔してたら止めるよね。
一同 (笑)
パブロ とはいえ差別やろ!(怒)
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座談会を終えて(スガ)
座談会が友達についての話になったとき、「最後に家族以外の人とけんかしたのはいつだっけ」と考えました。高校生のころは、小さな言い合いから、同級生とけんかになることもありました。しかし、20歳を過ぎたころから、けんかというものがなんだか取り返しのつかないことのように思えて、相手に対して疑問や違和感があっても、飲み込むようにしていました。だから、「けんかしたら仲直りすればいい」という言葉に、ハッとしました。けんかと仲直りなんて、子どものころにはあたりまえのできごとだったのに、いつのまにかできないようになってしまっていたなと気づかされました。
他にも、「スペインやアルゼンチンの人は、精神科やカウンセリングに気兼ねなく通う」や、「東京はお金がないとなにもできない」話が印象深いです。みなさまはいかがでしたでしょうか?