くすみ書房ってどんな本屋さん?

第2回

くすみ書房ってどんな本屋さん?

2018.08.15更新

 今月末に『奇跡の本屋をつくりたい〜くすみ書房のオヤジが残したもの』が発刊となります。多くの人に愛されながらも、2015年に閉店した札幌の書店「くすみ書房」の店主、久住邦晴さんの未完の遺稿を再編集し、書籍化したものです。

 ミシマガの「奇跡の本屋をつくりたい」のコーナーでは、本の編集に込めた思いとは? くすみ書房ってどんな本屋さん? 著者の久住邦晴さんってどんな人? そんな疑問にお答えしつつ、くすみ書房店主の久住さんと親交のあった方々や書店員さんからのコメントなど、盛りだくさんでお伝えしていきます。

 第2回目の今日は、くすみ書房と久住さんについてご紹介します。なお、本文中の写真は、久住さんの娘さんであるフォトグラファーのクスミエリカさんが撮影したものです。今回の本でもエリカさんの写真がたくさん入っています。

くすみ書房のはじまりと久住さん

 くすみ書房は1946年に、久住さんのお父さんがはじめた町の本屋さんです。札幌市の中心地から少し西にいった琴似という町で誕生しました。

0815-1.jpg

(琴似 くすみ書房)

0815-2.jpg

(琴似店店内の様子)

0815-3.jpg(くすみ書房ブックカバーとフリーペーパー「くすくす」)

 一方、久住さんは1951年生まれ。1999年にお父さんの後を継ぎます。不況や都市開発の影響もあり、この頃、くすみ書房は何度目かの経営危機に直面。何とか挽回しようと、久住さんはさまざま企画を打ち出します。この時に生まれた数々のフェアは、地元の新聞やテレビで大きく取り上げられ、くすみ書房は、札幌のみならず、道外でも有名な本屋さんになりました。

0815-4.jpg(久住邦晴さん)

くすみ書房のユニークなフェア

 久住さんが取り組んだ企画をいくつかご紹介します。


〈なぜだ⁉︎ 売れない文庫フェア〉
 いい本なのに、なぜか売れない。売上最優先で「売れ筋」の本ばかりが店頭に並び、良書がどんどん絶版になってしまうことを残念に思っていた久住さんは、「売れない」本=忘れられた「名作」にスポットを当てたフェアを思いつきました。このフェアはくすみ書房の代名詞に。

0815-5.jpg(久住さん手書きのフェアチラシ)

0815-6.jpg(「なぜだ⁉︎ 売れない文庫フェア」店内の様子)


〈本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!〉
 ある日の夕方、レジに立っていた久住さんはふと、学校帰りの中高生が以前に比べてぐんと少なくなったことに気づきます。子どもたちの読書離れのみならず、そもそも自分のお店には彼・彼女ら向けのコーナーがない。それは、他の大型書店にも言えることでした。読書が苦手な中学生にも「面白い」と思える本との出会いを作ってあげたい。全国でも初の、中学生向けの選書棚が誕生しました。このフェアは北海道にとどまらず、全国の書店やマスコミからも注目を集め、静岡県や愛知県、岐阜県、三重県、石川県でも開催されました。

0815-7.jpg(「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」店内の様子)


〈ソクラテスのカフェ〉
 この頃はまだ全国的にも珍しかった、札幌初のブックカフェをオープン。この場所で行われた学者や作家などの講演には、たくさんの人びとが耳を傾け、ソクラテスのカフェは徐々に琴似の文化の拠点となっていきました。

0815-8.jpg

(ソクラテスのカフェでの「本談義」の風景。右から久住さん、中島岳志さん、矢萩多聞さん。『奇跡の本屋をつくりたい』では、中島さんが解説を、多聞さんが装丁を担当してくださっています。)

くすみ書房の閉店と、その後の久住さん

 こうした取り組みで、くすみ書房はかつての活気を取り戻すも、2006年に突然売上が落ちます。近所にオープンした大型チェーン店の影響でした。再び苦境に立たされるようになったくすみ書房は、2009年に琴似から大谷地へ移転し、新たなスタートを迎えますが、2015年、多くの人に惜しまれながら、閉店しました。

0815-9.jpg(大谷地 くすみ書房)

0815-10.jpg

(大谷地店店内の様子)

0815-11.jpg

(学生が書いたポップを店内に掲示)

 くすみ書房を閉店した後も、久住さんは「本屋のオヤジ」であり続けることをあきらめませんでした。次なる「奇跡の本屋」をつくることを目標に、新たな構想を考えていたことは、前回ミシマが書いたとおりです。その矢先、病が発覚し、2017年永眠。享年66歳でした。

 発刊日は、久住さんのご命日である2018年8月28日(火)です。本好きの人、本屋好きの人、それを超えた多くの人にぜひ手にとっていただきたい一冊です。どうぞお楽しみに!

kiseki_shoei.jpg

『奇跡の本屋をつくりたい』久住邦晴(ミシマ社)

編集部からのお知らせ

出版記念イベント「奇跡の本屋をつくりたい〜くすみ書房のオヤジが残したもの展」を開催します

日時:2018年8月28日(火)~9月24日(月)
10:00~20:00 年中無休

『奇跡の本屋をつくりたい〜くすみ書房のオヤジが残したもの』(久住邦晴著・ミシマ社刊)発売を記念して、同タイトルの展覧会を、札幌の新古書店 書肆吉成にて開催します。長女で写真家のクスミエリカ氏が撮影した記録写真をメインに、くすみ書房ゆかりの品や書籍の生原稿などを展示します。

〈オープニング&トークイベント〉
日時:2018年8月28日(火)
17:00~ オープニング
18:00~19:30 中島岳志×矢萩多聞×三島邦弘×クスミエリカ トーク(入場無料)

詳しくはこちら

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 斎藤真理子さんインタビュー「韓国文学の中心と周辺にある

    斎藤真理子さんインタビュー「韓国文学の中心と周辺にある"声"のはなし」前編

    ミシマガ編集部

    ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞により、ますます世界的注目を集める韓国文学。その味わい方について、第一線の翻訳者である斎藤真理子さんに教えていただくインタビューをお届けします! キーワードは「声=ソリ」。韓国語と声のおもしろいつながりとは? 私たちが誰かの声を「聞こえない」「うるさい」と思うとき何が起きている? 韓国文学をこれから読みはじめる方も、愛読している方も、ぜひどうぞ。

  • 絵本編集者、担当作品本気レビュー⑤「夢を推奨しない絵本編集者が夢の絵本を作るまで」

    絵本編集者、担当作品本気レビュー⑤「夢を推奨しない絵本編集者が夢の絵本を作るまで」

    筒井大介・ミシマガ編集部

    2024年11月18日、イラストレーターの三好愛さんによる初の絵本『ゆめがきました』をミシマ社より刊行しました。編集は、筒井大介さん、装丁は大島依提亜さんに担当いただきました。恒例となりつつある、絵本編集者の筒井さんによる、「本気レビュー」をお届けいたします。

  • 36年の会社員経験から、今、思うこと

    36年の会社員経験から、今、思うこと

    川島蓉子

    本日より、川島蓉子さんによる新連載がスタートします。大きな会社に、会社員として、36年勤めた川島さん。軽やかに面白い仕事を続けて来られたように見えますが、人間関係、女性であること、ノルマ、家庭との両立、などなど、私たちの多くがぶつかる「会社の壁」を、たくさんくぐり抜けて来られたのでした。少しおっちょこちょいな川島先輩から、悩める会社員のみなさんへ、ヒントを綴っていただきます。

  • 「地獄の木」とメガネの妖怪爺

    「地獄の木」とメガネの妖怪爺

    後藤正文

    本日から、後藤正文さんの「凍った脳みそ リターンズ」がスタートします!「コールド・ブレイン・スタジオ」という自身の音楽スタジオづくりを描いたエッセイ『凍った脳みそ』から、6年。後藤さんは今、「共有地」としての新しいスタジオづくりに取り組みはじめました。その模様を、ゴッチのあの文体で綴る、新作連載がここにはじまります。

ページトップへ