クモ博士にきいてみよう!

第2回

クモはどうやってねむりますか? ほか

2019.08.12更新

 暑い日が続いていますが、みなさまよく眠られていますでしょうか? なんだか毎年暑くなっているような気がして、これからどうなってしまうのでしょうか?

 9月に発刊予定『クモのイト』の著者である、中田兼介先生が、みなさまのクモに対する質問に答える『クモ博士に聞いてみよう』。

 本日は、「眠り」と「生活環境の変化」についてのお話です。
 皆さまも、クモに関する質問・疑問がありましたら、奮ってお寄せください。受付の方法は、記事の最後に掲載しております。


質問1:

 クモはどうやってねむりますか?

0724_111.jpg 私は寝つきが良くない人で、布団に入ってから眠りに落ちるまで、かなりの時間がかかります。一方、私の妻(通称ヨメサン)は横になると一瞬で寝られる人なのですが、こればっかりは生まれつきの性質なので羨んでも仕方がありません。ですので私はすぐに眠れなくともジタバタせず、あれやこれやと考え事をしたり妄想にふけったりして過ごします。そうしていると、良いアイデアを思いつくこともあるので、寝つきが悪いのにはそれはそれで良い面もあります。

 とはいえ、翌日早く起きなきゃいけない時など、いつまでも眼が覚めていると焦ります。ので、ともかくもリラックスした姿勢をとって目をグッとつぶり、眠りの女神が降りてくるのを待つわけです。内面的には、心を静かに落ち着かせようと懸命に努力をしていて寝るどころじゃないのに、そんな私を外から見ているヨメサンには「よく眠っているわ」と思われています。

 一方のヨメサンは薄目を開けて眠る特技を持っていて(何か見えているのでしょうか?)、結婚当初の私は「この人は起きているように見えるのだが、寝息を立てているようにも聞こえる。いったい何なんだろうこれは?」と戦慄していたことを覚えています。

 かように外見から眠っているかどうか見分けるのは厄介です。それがクモともなれば、瞼はないし、起きている時に立っているわけでもないし、まちぶせしてエサを取るので休んでいるのと見た目違わないしで、いよいよ区別が難しい。クモでも人間のように、1日周期で活発な時間帯とそうでない時間帯(昼行性の種類なら昼と夜)を繰り返すことはわかっているのですが、静かにしているからといって眠っているとは限りません。

 人間なら脳波を測れば確実に「眠っている」と言えるのですが、残念ながらクモの脳波を測った人はまだいません。つまり、クモがいつどうやって眠っているのか、いや眠ることがあるのかどうかすら、確かなことはまだ何もわかっていないのです。

 ですが、最近ショウジョウバエの脳を調べることで、小さな虫も私たちのように「眠っている」らしいことがわかってきました。そのうち、クモでも色々なことがわかってくるでしょう。エサをまちぶせしている時についウトウト、みたいなことが見つかるかもしれません。楽しみですね。


質問2:

 先日、ミシマ社自由が丘オフィス(古い民家)の台所のシンクの中にクモがいました。

 自宅でも洗面台の中でクモを見かけたことがあります。

 そこにエサはいないと思うんですが、クモは何をしているんでしょうか?
水を飲みに来て、シンクの壁がツルツルで登れなくなってしまったのでしょうか・・・?


0724_111.jpg もう少し眠りにまつわる話を続けさせてください。私が寝る前に耽るお気に入りの妄想の1つが、もし私が火星人だったら、というものです。タコ型じゃなくてブラッドベリの「火星年代記」のイメージ。高度な文明をもち、あくせく働く事もなく、豊かだから争いもない。

 そんな火星人、巨大望遠鏡で地球を観察したり、漏れ出る電波を傍受して地球のテレビを眺めたりしているかも(妄想です)。彼らが私たちの有り様を知ったら「大事な生活環境を自分たちでドンドン壊しておいて、この二本足は何をしているのだろうか?」と、きっと不思議に思うでしょう。

 ここに来ても環境破壊に対する人間の危機感はあまり盛り上がっていないように見えます。チミチミした人間関係を処理するために進化してきたわたしたちの脳では、問題のスケールが大きすぎて、うまく処理できないからかもしれません。小さな世間なら、特に訓練しなくても直感と本能だけでうまく渡っていけるわたしたちですが、今の世界はそれだけでは到底やっていけない状況になっています。想像力が必要です。

 生き物はそれぞれの種類がそれぞれの偏ったやり方で世界を見ています。必ずしも事実をありのままに受け止められるわけではありません。火星人にはなんなく理解できることを私たちがうまく扱えないのも十分あり得る話です(だからといってそれで良いわけではありませんが)。

 くだんのクモも似たような状況なのでしょう。彼らが進化してきた環境に洗面台はありませんでした。ですから、エサがいない上にツルツルして歩くのもままならないところに入ってきてしまったということを、クモは理解できていないのではないかと想像します。そして、事態を飲み込めないまま決まり切った行動を繰り出しては脱出に失敗するという隘路にハマっているのかもしれません。

 ということで、優しく助け出してあげましょう。手のひらに乗せても向こうは噛み付いてきたりはしないので何の心配もありません。もしどうしても触るのに抵抗があるのなら、彼らが進化してきた環境にありそうなもの、例えば割りばしをシンクの縁から底に渡してやれば、無事に出ていけることでしょう。

 火星人も地球にきてくれませんでしょうかね。個人的には大歓迎なのですけど。

クモにまつわる疑問を募集中!!

本連載では、クモ博士・中田兼介先生に質問したいクモにまつわる疑問を募集しております

質問がある方は、質問の内容(200字程度)を、
hatena@mishimasha.com宛に、【件名:クモ博士に質問】としてお寄せくださいませ。

中田 兼介

中田 兼介
(なかた・けんすけ)

1967年大阪生まれ。京都女子大学教授。専門は動物(主にクモ)の行動学や生態学。なんでも遺伝子を調べる時代に、目に見える現象を扱うことにこだわるローテク研究者。現在、日本動物行動学会発行の国際学術誌「Journal of Ethology」編集長。著書に「まちぶせるクモ」(共立出版)「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」(ミネルヴァ書房)「昆虫科学読本」(共同執筆、東海大学出版会)など。こっそりと薪ストーバー。

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