西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(2)

第4回

西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(2)

2018.10.12更新

 みなさん、最近、仕事どうですか?

 ナカムラケンタさんの『生きるように働く』と、『いま、地方で生きるということ』の著者でもある、西村佳哲さんの『一緒に冒険をする』(弘文堂)の2冊の刊行を記念して、2018年9月18日、代官山 蔦屋書店にてトークイベントが行われました。

 「最近〝仕事〟どう?」をテーマに、それぞれの角度から「仕事」について考え続けてこられたお二人が、自著の話、人が働くことの根っこについて、そして「働き方改革」までを語り合いました。

 そんなお話の一部を、前・後編2日間連続でお届けします。どうぞ!

(構成:須賀紘也・星野友里、写真:池畑索季)

1011-1.jpg左:『生きるように働く』ナカムラケンタ(ミシマ社)/右:『一緒に冒険をする』西村佳哲(弘文堂)

最近〝仕事〟どう?

西村 今日のトークのテーマについても話しましょうか。個人的な仕事の話でなく、この社会の「仕事」について、最近気になっていることありますか?

ナカムラ 最近、インテリアライフスタイル展のディレクションをさせていただいていることもあって、ものづくりの方たちの話を聴く機会がとくに多いのですが、ものづくりの業界では、分業が減って統合が進み、役割分担がなくなってきていると感じます。今回の本でも少し書いているのですが、「一緒に」「つなげる」という流れがあって。商品をつくるところから届けるところまでを1つの会社がするようになったり、あるいは業種を超えて協業したりすることも増えてきている。

西村 車の部品だけつくっていた会社が、部品だけでなく、

ナカムラ 車を全部つくるっていうこともあるし、

西村 場合によっては道路というか、交通システムまでつくるみたいな。

ナカムラ つながるっていうことは、とっても良いことだなという気はするんですよ。自分がこうしたいと思うようにつくって、ちゃんと顔が見える相手に届けるってなんか良いじゃないですか。

 でもたとえば、日本仕事百貨にしても、大手のIT企業が採用事業に乗り出してきたら、仕事が来なくなってしまう可能性もなくはない。これまではみんながそれぞれの役割をこなしていたから、ある意味平和だった。でもその役割からどんどんはみ出したとき、そこの境でなんか問題が起きやしないか。そこはちょっと気がかりです。西村さんが最近、「仕事」について気になることは?

西村 いろんなことが気になっているけど、たとえば大学の奨学金ですね。いまそれで大学に通っている人が5割ぐらい。

ナカムラ すごく具体的な話ですね。

西村 日本育英会はあるとき組織名が変わって、実態は学生相手の金融のようになり、子どもたちの返済負担が大きくなったと理解しています。返さなくちゃいけない借金がある状態で働き始めるから、会社に入って「この仕事どうなんだろう?」と疑問が浮かんできても辞められない、ということがすごく増えているんじゃないか。なんとかできないかなって思います。

ナカムラ 西村さんが具体的に、「こうなったらいいのに」って思うことはありますか?

西村 これから、高卒で働き始める人が自然と多くなると思う。そのときに、欧米社会に似ているんだけど、早いとこ働き始めて、自分のテーマが見つかったら大学に行くみたいな、そういうふうになるといいなって思うね。

「血中意味濃度」の高い仕事を作る人

西村 あとはこの頃、「働き方改革」という言葉をよく耳にしますが・・・、働き方改革どうよ?

ナカムラ 働き方改革どうよ(笑)。国が考えていることって批判されることが多いんですけど、働き方改革も含め、「いきなり本当の目標まではいけないから、とりあえずそこを目標に」というふうだったり、意外とよく練られていると思うことが多いんですよ。

西村 というのは?

ナカムラ たとえば、僕は裁量労働っていいんじゃないかって思ってて。もちろん残業代がないというところだけを切り取っちゃうと、ブラック企業がさんざん働かせてるんだろうと思われそうですけど、僕らは基本的に、残業はダメだと思っています。それでも仕事が楽しくてしょうがないみたいで、残業する人がいる。僕は今、役員だから残業がつかないので、裁量労働制みたいなものなんですけど、やることをやっていれば、どこにいてもいいっていう自由さがあります。そういうことも考えると、働き方改革は、もちろん「こうしたらいいのに」っていうのはありますけど、一旦は前進だと思います。

西村 「働き方改革」という社会記号のもと、企業はオフィスのリニューアルや、育休制度の用意、会議の効率化。いろんなことに取り組んでいる。1個1個はいいんだけれど、本当に大切なことには触れていない。すごくよくなったワークスタイルの中で、やっている仕事自体はどうしようもなかったら、本当に救われないなと思っていて。

 いま足りないのは、いい働き方じゃなくて、いい仕事だと思う。いい仕事というのは、働く人も、その仕事の影響を受ける人たちも、みんな「より生きている」状態になるようなことだと思います。

ナカムラ なるほど。中身が大事?

西村 中身っていうよりは、さっきの「意味も大事」につながるけど、「この仕事はこのためにやってるんだ」っていうところへの命の投入しがい。でも、そういう「血中意味濃度」の高い仕事を作る人の絶対量が少なくなってきている。

ナカムラ そうなんですか。

西村 そういうふうに感じる。小さいころ近所の子どもたちと遊ぶじゃん。そうすると、一人ひとりの学年とか身体能力とかも考慮したりして、「今日はこういう遊びをしよう」って提案したり、その場で遊びをつくり出したりする人がいたと思うんですよ。いまは「こういうのやろうぜ」って、みんなが乗りたくなる遊びを提案する子がいたように、やり甲斐のある仕事をみんなに提案してくる人が少なくなっていると思う。

ナカムラ たしかに。

西村 でもケンタさんたちの日本仕事百貨には、そんな仕事をつくっている人の含有率が高いだろうと思う。そういう経営者や、そういう職場、それが個人であったり、ひとつのグループだったり、年間を通して、たくさんそういう人たちに会う仕事をしているわけで、素敵だなと思ってます。

ナカムラ ありがとうございます。

西村 2冊目もその調子で書いてみてください(笑)。

(終)

1011-4.jpg


プロフィール

西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年 東京生まれ。リビングワールド代表。働き方研究家。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。開発的な仕事の相談を受けることが多い。近年は東京と、徳島県神山町で二拠点居住を始め、同町の「まちを将来世代につなぐプロジェクト」に参画。著書に『自分の仕事をつくる』『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)など。最新刊は『一緒に冒険をする』(弘文堂)。

ナカムラケンタ(なかむら・けんた)
「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表取締役。1979年、東京都生まれ。明治大学大学院理工学研究科建築学修了。不動産会社に入社し、商業施設などの企画運営に携わる。居心地のいい場所には「人」が欠かせないと気づき、退職後の2008年、"生きるように働く人の求人サイト"「東京仕事百貨」を立ち上げる。2009年、株式会社シゴトヒトを設立。2012年、サイト名を「日本仕事百貨」に変更。ウェブマガジン「greenz.jp」を運営するグリーンズとともに「リトルトーキョー」を2013年7月オープン。いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」や誰もが自分の映画館をつくれる「popcorn」などを立ち上げる。著書に『生きるように働く』(ミシマ社)がある。

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 斎藤真理子さんインタビュー「韓国文学の中心と周辺にある

    斎藤真理子さんインタビュー「韓国文学の中心と周辺にある"声"のはなし」前編

    ミシマガ編集部

    ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞により、ますます世界的注目を集める韓国文学。その味わい方について、第一線の翻訳者である斎藤真理子さんに教えていただくインタビューをお届けします! キーワードは「声=ソリ」。韓国語と声のおもしろいつながりとは? 私たちが誰かの声を「聞こえない」「うるさい」と思うとき何が起きている? 韓国文学をこれから読みはじめる方も、愛読している方も、ぜひどうぞ。

  • 絵本編集者、担当作品本気レビュー⑤「夢を推奨しない絵本編集者が夢の絵本を作るまで」

    絵本編集者、担当作品本気レビュー⑤「夢を推奨しない絵本編集者が夢の絵本を作るまで」

    筒井大介・ミシマガ編集部

    2024年11月18日、イラストレーターの三好愛さんによる初の絵本『ゆめがきました』をミシマ社より刊行しました。編集は、筒井大介さん、装丁は大島依提亜さんに担当いただきました。恒例となりつつある、絵本編集者の筒井さんによる、「本気レビュー」をお届けいたします。

  • 36年の会社員経験から、今、思うこと

    36年の会社員経験から、今、思うこと

    川島蓉子

    本日より、川島蓉子さんによる新連載がスタートします。大きな会社に、会社員として、36年勤めた川島さん。軽やかに面白い仕事を続けて来られたように見えますが、人間関係、女性であること、ノルマ、家庭との両立、などなど、私たちの多くがぶつかる「会社の壁」を、たくさんくぐり抜けて来られたのでした。少しおっちょこちょいな川島先輩から、悩める会社員のみなさんへ、ヒントを綴っていただきます。

  • 「地獄の木」とメガネの妖怪爺

    「地獄の木」とメガネの妖怪爺

    後藤正文

    本日から、後藤正文さんの「凍った脳みそ リターンズ」がスタートします!「コールド・ブレイン・スタジオ」という自身の音楽スタジオづくりを描いたエッセイ『凍った脳みそ』から、6年。後藤さんは今、「共有地」としての新しいスタジオづくりに取り組みはじめました。その模様を、ゴッチのあの文体で綴る、新作連載がここにはじまります。

ページトップへ