第5回
北海道の 暮らしと珈琲 みちみち種や さん
2021.09.23更新
今月ご登場いただくサポーターさんは、2013年にミシマ社サポーター制度が始まって以来ずっと、私たちの活動を応援してくださっています。今年の春、社内の企画会議でこのコーナーを提案したときに、「お話を聞いてみたい!」とメンバーから真っ先にお名前が上がったサポーターさんの一人です。「お手紙を書くように」書いてくださったという文章には、いつもミシマ社に届くはがきやFAX同様、あたたかいお人柄がにじみ出ています。
サポーターNo.139 たゆうさん(北海道)
みなさまはじめまして。わたしは「暮らしと珈琲 みちみち種や」という屋号で、夫婦ふたりで珈琲の焙煎を生業にしているたゆう(愛称)です。東日本大震災で、一念発起して開業しようと準備してきたものや場所を失い、夫婦ふたりで落ち込み、ゼロからのスタート、ではなくだいぶマイナスからのスタートを改めて決意できるまでに、2年ほどかかりました。生まれ育った宮城県を出て憧れの地で、縁もゆかりもない北海道という場所で、再チャレンジ、再スタートしようと2013年に愛猫4匹と人間ふたりで現在の北海道石狩市に移住してきました。
わたしとミシマ社さんとの出逢いのはじまりは益田ミリさんの『ほしいものはなんですか?』という本でした。確か震災の一年前ぐらいに購入した記憶です。そこに挟んであったハガキに、本の感想を綴って投函したら、当時のスタッフの方がお返事をくださいました。ミシマ社ってなんだろう? どんな会社なんだろう? またミシマ社さんから出ている本を探しに本屋に行ってみよう! と思ったのでした。
震災後2年ほど落ち込んでいたあのときは本当に複雑な気持ちの日々でした。準備してきたものたちは全部失ったけど、命はある。でも、失った。大声をあげて泣くにも、すぐ隣には身内を亡くした方々がたくさん居て、祖母の住む隣の福島県では原発の問題が続いている・・・。どこを見渡しても、わたしたちよりも大変な人たちがいっぱい。失ったものはあっても、わたしたちには命があり、恵まれている状況にある自分たちは楽しいことをしてはいけないし、泣いてはいけない、みたいな閉塞感に包まれていました。とにかく苦しい時間のなかにいました。
そんなとき突然、以前購入して持っていた益田ミリさんの本を唐突に読み返したくなってもう一度読んだのです。タイトルの『ほしいものはなんですか?』が、わたしに話しかけてきたようにさえ感じました。読んでいる途中で「そうだ、生きている! ただそれだけで丸儲け! それでいいじゃない! それじゃあ、今のわたしのほしいものはなんだろう?」といつまで経っても失くしたものを数えてしまい、落ち込むだけのマイナス思考のループから、どう生きようか? どうしたいか? 何が欲しいのか? と考えが前向きというか、少なくとも、後ろ向きな思考から外側へと変わった瞬間があって、益田ミリさんという方に出逢わせてくれたミシマ社さんの存在を大切に思ったのです。
暮らしがまず先にあって
そうして北海道へ移住してきました。
最初の半年は、全く知らない場所であわてて開業して生活基盤をつくるんではなくて、暮らしていくために必要最低限の農家収穫パートに出ながら、まずは「この地で暮らす」ということに集中しました。自分が住む土地やご近所さんとの関係づくりをしようと思ったのは、震災時、小さなコミュニティによって支え合い、乗り越えられた実感があったからだと思います。
それに、「暮らし」というものがどれだけ幸福で奇跡なのかを思い知らされたから。わたしたちの屋号を「暮らしと珈琲」としたのも、暮らしがまず先にあって、そこに珈琲というものを傍においてもらえたら、と思ったからでした。「種」はきっかけ=場や時間、「みちみち」というのは、太っちょのわたしが、みちみちっとした狭いところが大好きで抜けられなくなってもそこに入りたい!という変な衝動(病気!(笑))があって「暮らしと珈琲 みちみち種や」という屋号が生まれました(よくお客様には「みちみち」が、「満ちる」や「未知」にかかっているんでしょ?って言われるんですが、ただの狭いところ好きのわたしのわがままでした (笑))。
そうこうしているうちに、ポルシェを乗り回すほどお金が欲しいわけではなくて、家猫たちと夫婦ふたりで暮らせればいいということと、自分たちが震災でたくさんの方に助けてもらったように、誰かの何かの役に立ちたいということ、そして故郷の復興への思いを、離れたこの土地から届けていこうと強く思い始めました。
心の向く方へ生きようと決めて、あの日に戻りたい、でなくて、新しい日々を生み出していこうと、震災の前日を開業日として、2014年の3月10日にWeb通販ショップ「暮らしと珈琲 みちみち種や」は始まったのでした。
移住した土地で、新たに購入した焙煎機が届いた日、はじめての炭火を起こした写真です。あの日のワクワクした気持ちが忘れられません。
自然の知恵である炭火という熱源に魅了された夫が焙煎しています。炭火が燃え上がり、炭化して日が消えるその様子に、なんだか思いが込められるように思う。と言っています。内側からふっくらと遠赤効果で豆が焼きあがります。
日々の暮らしを丁寧に、楽しいことを真剣に
そんなこんなで、Webページで完全受注焙煎での対応をしながら北海道内のイベント出店を続けていましたが、昨年6月、コロナ禍の中ご縁をいただき、お花屋さんの一角を間借りして「やかんbyみちみち種や」という名前で焙煎した珈琲豆の販売と東北のたべもの(わたしのおばあちゃんから教えてもらったおやつやごはん)をご提供する場所にようやくたどり着けたところです。
わたしが育ったのは宮城県北の田舎町で小学校が木造校舎で、教室の真ん中には大きなだるまストーブがあって、そのうえには大きなアルマイトのやかんが置いてありました。家の中でもストーブの上にはアルマイトのやかん。おばあちゃんがお茶を飲むのに「やかん取って!」って言われたり、父が仕事仲間とお酒を飲むとき、焼酎のお湯割りをするのもわたしの役目でした。わたしの思い出の中でやかんは親しみの象徴ですので、このお店がそういう場所になりますようにと願いを込めて、「やかん」と名付けました。コロナ禍で思い通りにはできていませんが、震災前に失くした、手渡しができる場所にたどり着けたことに感謝し、誰かの何かの役にたてますようにと願いながら、「日々の暮らしを丁寧に、楽しいことを真剣に」をモットーに日々努力している最中です。
いつか、焙煎機を置いて営業ができる自分たちのお店、ご近所さんのおばあちゃんやおじいちゃんと若い世代が交流できる場所を持つことが、わたしたちの目標です。
2021年8月現在、ご縁の数珠つなぎで、今では北海道内と本州合わせて29店舗さんに珈琲を卸させてもらっています。人と人との出逢いの繋がりに、ただただ、感謝の気持ちでいっぱいです。Web通販ショップで繋がったお逢いしたこともないお客様に、ずーっと支えられています。そして今わたしたちは、Webページのリニューアル作業の大詰め中です。お客様とのやりとりで気づけたことや教えてもらった大切なことを盛り込んだページにできるように、素人ふたりで四苦八苦しているところです。
まだ途中。まだ、夢の途中のわたしたちです。ミシマガジンを心待ちにして、ミシマ社さんが出版してくれる宝物の本を楽しみにして、えいえいおーーーって言いながら暮らしていきます。これからも。
暮らしと珈琲 みちみち種や たゆうより
暮らしと珈琲 みちみち種や
住所:〒061-3483 北海道石狩市緑ヶ原2-22
電話/FAX:0133-77-5203
メール: taneya.petota@gmail.com
ウェブサイト:http://www.taneyaka.com
編集部からのお知らせ
2021年度ミシマ社サポーターのご案内
サポーター期間:2021年4月1日~2022年3月31日
*募集期間以降も受け付けておりますが、次年度の更新時期はみなさま2022年の4月となります。途中入会のサポーターさまには、その年の特典をさかのぼって、すべてお贈りいたします。
サポーターの種類と特典
下記の三種類からお選びください。サポーター特典は、毎月、1年間お届けいたします(中身は月によって変わります)。
◎ミシマ社サポーター【サポーター費:30,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約25,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
【ミシマ社からの贈り物】
* ミシマ社サポーター新聞(1カ月のミシマ社の活動を、メンバーが手書きで紹介する新聞)
* 紙版ミシマガジン(非売品の雑誌。年2回発行・・・の予定です!)
*生活者のための総合雑誌『ちゃぶ台』(年2回発刊)と今年度の新刊1〜2冊(何が届くかはお楽しみに!)
* 特典本に関連するMSLive!(オンライン配信イベント)へのご招待
* ミシマ社オリジナルグッズ
・・・などを予定しております!(※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。)
◎ウルトラサポーター【サポーター費:100,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約95,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
【ミシマ社からの贈り物】
上記のミシマ社サポーター特典に加え、
*ウルトラサポーターさん交流会
◎ウルトラサポーター書籍つき【サポーター費:150,000円+税】
上記のウルトラサポーター特典に加えて、その年に刊行するミシマ社の新刊(「ちいさいミシマ社」刊も含む)を全てプレゼントいたします。いただいたサポーター費のうち約100,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
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