第7回
神奈川の嘉登先生
2021.11.28更新
今月登場いただくサポーターさんは、「こんな先生に授業を習いたかった!」と会うたびに思う、高校の国語の先生です(現在は学校での教員生活はお休みされています)。課外授業で生徒さんと一緒に自由が丘オフィスに来てくださったり、ミシマ社の本を題材に授業をしてくださったこともあります。先生のクラスはいつも楽しそうで、作った本がこうして読者に届き、広がっていくのを目の当たりにするのは、私たちにとっても大きな喜びです。今回はそのうちの一冊にまつわるお話をご紹介くださいました。
『THE BOOKS』が結んでくれた「ご縁」いろいろ ー サポーターNo.242 嘉登隆さん
はじめまして、神奈川県の県立高校で国語の教員をしていた嘉登と申します。内田樹さんの『街場の教育論』(2008年刊)でミシマ社と出会い、朝日新聞の夕刊紙面で三島邦弘さんと巡り会いました。それがきっかけで、校外学習として生徒と自由が丘のオフィスを訪ね、三島さんやスタッフの皆さんと卓袱台を囲むことになります(2010年1月)。その時のことを生徒は次のように記しています。
元下宿屋だったというオフィスには昭和の香りがする一昔前の台所や共同トイレがあり、アットホームで庶民的な生活感が満ち、あまり会社という雰囲気がしない。会社ができて4年目に入ったが、社長の三島さんを含めて社員は七人しかいない。会議は畳の和室に置かれたデスク脇の卓袱台を囲んで行っている。その卓袱台をみんなで囲んで昼食をとるなど、家族のように仲がいい。
ところで、自由が丘はぼくの青春の思い出の地でもあります。話は1981年にさかのぼります。
アルバイト先で知り合った、大学で日本史を専攻している河合奈保子似の子にゼミの課題の古文書の解読を頼まれ、チャレンジしたものの自信がなかったので、ぼくの通う大学の日本史の教授に事情を伏せて教えを請うことにしました。窓際の机で書き物をしていた先生は、突然訪ねてきた見知らぬぼくの求めに応じ、優しく教えてくれました。解読を終えると、先生は机に戻り、また書き物を始めました。その背中に向かって礼を述べると、先生はペンを走らせながら「それはK大学のA先生のゼミのテキストだね。君の彼女のでしょ」と静かに言いました。大学を後にしたぼくは渋谷で彼女と落ち合い、自由が丘の彼女のなじみの喫茶店のテーブル席で件の古文書を解読してみせました。
40年の月日が経ち、その店があった路地には生活雑貨のお店が軒を並べています。今でも、当時、巷に流れていた西田敏行の「もしもピアノが弾けたなら」を聞くと、あの路地のたたずまいを思い出します。ちなみに教授とのエピソードは、来春から高校で使用される、とある国語教科書の関連書籍に掲載されます。
そんな思い出の地から『THE BOOKS』が生まれ、ぼくと書店員さんとの間に様々な縁を結び、生徒の学びを広げていきます。そのきっかけとなったページと、それにまつわる思い出をいくつかご紹介します。
『THE BOOKS ー 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』
全国365人の書店員さんによる「どうしても届けたい」一冊を、手書きのキャッチコピーと共に紹介するブックガイド。
1)『THE BOOKS』No.348『おんなのことば』茨木のりこ(著) ー 選者:ジュンク堂書店 那覇店(掲載当時)香川紀子さん
ぼくも茨木さんの詩が好きだったので、茨木〝推し〟の一人として香川さんに電話をかけました。そのご縁で2012年から7年にわたり沖縄研修旅行の事前学習で制作した生徒作品を、旅行日程に合わせて店舗に展示していただきました。その間、沖縄の関連本を教材にしてPOPやリレー小説といった様々な手立てを用いて創作活動を行い、その成果を沖縄の皆さんに届けることができました。
2)『THE BOOKS』No.013『あなたの中のリーダーへ』西水美恵子(著) ー 選者:石堂書店 石堂智之さん
石堂さんとは『THE BOOKS』を頼りに本屋さん巡りをしたときに出会いました。石堂さんから「地元に縁のある西水さんが高校生と話したがっている」と聞き、帰国した折、学校にお招きして授業をしていただくことになりました。西水さんの生徒の言葉にじっと耳を傾ける姿が今でも印象に残っています。
3)『THE BOOKS』No.135『対訳ディキンソン詩集』エミリー・ディキンソン(著) ー 選者:SUNNY BOY BOOKS 高橋和也さん、『THE BOOKS』No.147『芸術家Mのできるまで』森村泰昌(著) ー solid & liquid MACHIDA(掲載当時)北田博充さん
左:高橋さん 右:北田さん
お二人とはミシマ社の渡辺さん(掲載当時)を通じて知り合いました。その二人を架空のラジオ番組(MCは高校生)にお招きし、それぞれのおすすめ本を紹介していただきました(収録は学校近くの花屋さんで行いました)。授業では収録テープを聴き、その本の紹介文を作りました。
こうして『THE BOOKS』が結んでくれたご縁で、ぼくはミシマ社のサポーターになりました。そして、今は地元の無料塾でボランティアとして様々なしんどさを背負った中学生に国語を教えています。『THE BOOKS』からいただいたミシマ社とのご縁をそんな子どもたちとも分かち合いながら、これからも無料塾を通して「街場の教育」に関わっていこうと思っています。
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