第18回
福岡の宇都宮さん
2022.12.25更新
月のはじめ、あるサポーターさんが京都オフィスを訪ねてくださりました。お仕事の関係で近くまで来たから、と寄ってくださったそうです。
お仕事をはじめ本のことやミシマ社のこと、たくさんのお話をしてこのサポーター名鑑にぜひご登場いただけないかご依頼したのですが、後日この文章をお送りいただいて、こんなにも素敵な方にサポートしていただいてるのか! と朝からじわーんと感動していました。つい目の前のことでいっぱいいっぱいになり何かを見失ってしまうこと、ひとつひとつのちいさな積み重ねや気づきこそが歩みになること。なにかと一年を振り返ることが多い12月に改めて、ミシマ社にいるからこそ出会えたメッセージだなと思いました。宇都宮さん、ありがとうございます。
サポーターNo. 362 宇都宮咲子さん(福岡県)
皆さん、こんにちは。福岡県の北東部、行橋市に住む宇都宮咲子です。
私がミシマ社の事を知ったのは、読者からの感想ハガキに返信を送る出版社のことが書かれている新聞記事を読んだことがきっかけです。へ~、そんな出版社があるのか、ありそうでない、一方通行の関係ではないところが良いなと思いました。その後、偶然、代表の三島さんの書かれた『計画と無計画のあいだ』を本屋さんで見つけて読み、なんという情熱! と更に興味を持ったところから始まります。熱量というのは伝播するのですね、とても共感することも多く、サポーターに申し込んで今日に至ります。
私の仕事は理学療法士と鍼灸師です。理学療法士はリハビリに係わるお仕事で、病気やケガで障害を負った方が日常生活を送れるように手助けをするお仕事です。救急外来で運ばれ、しばらく意識のない方や目が覚めたら手足が麻痺し、混乱する患者さんも見て来ました。人生で最悪の瞬間に出会った、と言われたこともあります。リハビリそのものはものすごく地味で、毎日毎日同じことの繰り返し。つらい・きつい・苦しいとネガティブな表現をされることもありますが、私はそれを覆すような、楽しくて仕方がない時間にするにはどうしたらよいだろうかと新人の頃はいつも考えていました。
良いリハビリにするためには、その患者さんの人となりを知ることも重要です。入院中の患者さんのお部屋にお邪魔する際は、さりげなく、枕元や棚に置かれた本がないか見ておきます。入院中に病院に持ち込む本は、暇つぶしに読みたい本か、よほどの愛読書のことが多いからです。
島崎藤村の『初恋』を枕元に置かれていた患者さん。お好きなんですか?と水を向けると、妻との思い出の本なんですと言われます。写真を飾る柄でもないけれど、この本を見ると家族のためにもう一度頑張ろうと思えるんです。と言われていました。
公的な医療支援を頑なに拒む患者さん。鴨長明の『方丈記』が愛読書のようです。無口な男性で、子供の頃、被爆したものの、原爆手帳の申請もせず、結婚もせず一人で生きてきたと言われます。頑なに医療保険サービスを固辞する姿に何かわけがあると思っていたのですが、愛読書を知ったことで、なんとなく理解出来ました。
どちらの患者さんも、それぞれに応じた目標を達成したり、医療支援につなげることが出来ました。
患者さんと最近面白かった本の情報交換をすることもあります。お世辞ではなく、ミシマ社の本やご縁のある作家さんのお名前が挙がることも多々あります。
以前専門学校で講師をしていた時は、クリスマスの時期に、その年に私が読んで面白かった本を学生にプレゼントしていました。希望者全員のじゃんけんは白熱し、負けた子も自分で買いました! とわざわざ報告してくれ、それが一人や二人ではなかったので、本好きの人が一定数いることが分かり、そのことも嬉しかったです。微力ながら、ミシマ社のことも宣伝しておきました。
砂場で砂金を集めるようなもの
私は理学療法士の役割は砂場で砂金を集めるようなものだと思っています。
一見、気の遠くなるような毎日同じことの繰り返しのように見えても、患者さん本人が気付いていない些細な変化を見逃さず、変化を伝え、次のモチベーションに繋げる。この仕事はとてもやりがいがあるのですが、理学療法士として患者さんに接する中で、患者さんが「こんなことなら病気にならないように気を付けていたら良かった」と悔やむ姿を何度も見て来ました。後遺症として麻痺を抱えた患者さんに「先生のおかげでここまで良くなりました」と言われるより、そうならないための予防の段階から関わりたい、次第にその思いは強くなりました。
また、レントゲンや検査をしても異常がないけれど、体調がすぐれない患者さんが一定数いらっしゃることも気になっていました。
その時たまたま目にした『徹子の部屋』に鍼灸師の方が出ていて、これだ! と思いました。鍼灸は、目に見えるものだけでなく、目に見えない気の流れを捉えようとします。それに、病気を限定的に捉えず、身体的にも精神的にも人間自体を丸ごと見る、その考え方も面白いと感じました。
鍼灸はとても奥の深い世界で、働きながら学んでいた私は、師匠と呼べる先生はいませんでした。資格を取った後、この先生にお会いしたいと思った先生に会うためにイギリス・ロンドンのセミナーに参加したのは良い思い出です。それから数年、毎年のようにその先生のセミナーに参加していました。ある時、「あなたにしかできないことをやりなさいよ!」と言われ、それをきっかけに、それまでお誘いいただいていた専門学校での講師のお仕事もお引き受けすることにしました。
理学療法科・鍼灸科、学生もいろんなタイプの人がいるので、伝え方を変えたり、個性を見極めながら声を掛けるように心がけていました。患者さんにも学生にも共通して言えることは、人にはやる気スイッチがあって、自分で押せる人は良いのですが、本人の分かりにくい場所にある時には、ここにあるよ! と教えてあげるのが私の役目だと思っています。人が変化するさまを見るのが私にはとても楽しいことです。
教えることを15年ほど続けましたが、そのお仕事も一区切りつけることにしました。毎年、国家試験に向けて学生に話していたことを、kindleで一冊の本にしました。国家試験を受ける学生向けの本ではありますが、お陰様でAmazonで1位にもなり、誰かのお役に立てていると思うと嬉しい限りです。
『3分で心が軽くなる 鍼灸師国家試験の必勝合格勉強術』(電子書籍のみとなります)
それから、緊急事態宣言をきっかけに、Twitterを始めました。1日1つ、自宅で出来るエクササイズやツボを紹介しています。直接お会いしたことのない方からもコメントを頂くこともあります。これをきっかけにご自分の身体に目を向けて頂けたらいいなと思っていたので、これからも続けていきたいと思います。
鍼灸の良さを知ってもらいたい
昨年、鍼灸院を開業しました。患者さんが言葉にされなくても、顔の肌艶はどうか、筋肉の付き方や所作から職業は何か、普段の生活を連想したり、どうして今の状態に至るのか、気分はシャーロック・ホームズです。観察力はそのまま仕事に役に立っていると思います。ベッド1つの小さな鍼灸院ですが、完全予約制で目の前の患者さんに丁寧に向き合う日々です。鍼灸は体調が悪くなくても受けて頂けます、というと驚かれるのですが、近くに来られることがあれば、ご連絡ください。
最近、力を入れているのは、もっと鍼灸の良さを知ってもらうための活動です。
福利厚生の一環として、ご契約いただいた企業を訪問し鍼灸治療を行います。働いている方は職場で治療が受けられ、導入された企業様からの感想は、大変好評です。
出版業界と医療業界、分野は違いますがミシマ社からはいつも刺激をもらっています。今後も応援しています!
営業日時:9:00~12:00 14:00~18:00
定休日 木曜日:午後 土曜日:午前
(臨時休業あり)
住所:福岡県行橋市下検地155
電話:090-8351-1971
ウエブサイト: https://sks-saki.com/
ツイッター:@saki_alpha