第4回
もっと菌を!? ミシマ社が考えるこれからの10年(2)「黄金時代がやってくる」
2018.11.11更新
『ちゃぶ台vol.4「発酵×経済」号 』の発売日である先月の19日、ちゃぶ台編集長の三島が、荻窪の本屋「Title」さんにお邪魔して、店主の辻山良雄さんと対談を行いました。
辻山さんの聞き上手で穏やかな人柄に乗せられて、三島は全国各地で出会った「すでに起こっている、ちょっと先の未来」について、情熱的に語り続けました。
平成の後の元号が取りざたされていますが、「黄金」というのはどうでしょうか。「青春」なんてのもいいですね。暗いニュースが多い今ですが、そんな気持ちになれるくらい、未来を前向きに捉えた対談になりました。
■前編の記事はこちら
(構成:須賀紘也 写真:池畑索季)
平川克美さんによる『ちゃぶ台』で「ちゃぶ台返し」
三島 今回の『ちゃぶ台』は平川克美さんの『21世紀の楕円幻想論』がひとつの核になっています。
経済一辺倒というのは、正円、真円。つまり中心があって、その価値が絶対で、その周りに一つの円をつくっている。対立的な人は、もうひとつ真円を作って、こっちの社会を目指そうよという話になりがちなんですけども。実はこれ、「形が真円」ということでは同じです。それがすごい拝金主義か、すごい自然主義か、という違いがあるだけで。
辻山 どっちかに純粋に偏ってしまうというか。
三島 はい。それぞれの生き方は全然違うにもかかわらず、中心点を中心に生きているという意味では、一緒と言えなくもないです。
平川さんが言っているのは、楕円なんです。「その両方を行き来しないといけないんだ」という。経済的なものも必要だし、もう一方で自然も大切。他にも「『有縁』社会と『無縁』社会」など、2つの焦点による楕円というものを作ってやっていこうと。
辻山 『21世紀の楕円幻想論』、すごくよかったです。平川さんが実際に経験した、お父さんの介護をして、それが終わって会社も畳んで、「俺にはもう何もない」というところからはじまる。経済学という硬いものが語られているのですが、体温のようなものを感じる。人間がそこにあるというか。経済書なんですが、読んでいて何回も泣きそうになりました。平川節ですね。
三島 僕も本当に名作だと思っています(笑)。今回の『ちゃぶ台』で、平川克美さんが語ってくれたのが、「自分のふるさとをつくる」。平川さんはズバズバ言う人なので、「俺さぁ、あの、移住とか嫌いなんだよ」と(笑)。『ちゃぶ台Vol.1』の特集のひとつは「移住のすすめ」なのに。
会場 (笑)
三島 移住しようが、どこかのコミュニティに入ろうが一緒なんだと。つまりお金だとか会社だとかいうものに寄りかかっていたのが、移住することで新たな土地であったりとかコミュニティに寄りかかる、それではあまり変わっていない。「自分のふるさとをつくる」ことはどこであっても、いまここでできるはずだよ、ということを言っていて。本当にもう、「はあ~」という感じだったんですよね。もちろん、すごく制約もありますけど、大企業の中でもできるはずだと思います。
辻山 うん。
三島 今回の『ちゃぶ台』は、各地を取材したり、移住している人の記事が並んでいるんですけど、最後に平川さんが「ちゃぶ台返し」をしてくれたおかげで、特別いいものになったなと思っています。ひとつの結論が全然ない本になりました。だから、そこからもう一回、読者の人たちがそれぞれ考えて、「それでもやっぱり移住で行くんだ」となるなら、それはいいと思うんです。無条件に寄りかかっているものを一回取っ払ったあと、もう一回自分で選択的に主体的にこういうことにするというのが、自分のふるさとをつくるという行為であると思うので。
菌がブレンドされている棚を
三島 今回の『ちゃぶ台』はどうでした?
辻山 自分の本屋と重なるところがありました。「自分のふるさとをつくる」の話だと、この本屋も、私が神戸出身だし、妻も福岡なので、ここ(荻窪)とは全然地縁がないんです。でも、やっているとお客さんが入ってきて、近所の人も来て、次第に自分の場所になっていきました。そうやってここが自分の場所として育っていったんですけど、それはたまたまで。全国どこの場所でお店をやっても、その土地に合わせた本屋になったんじゃないかなと思います。本屋に並べる本は、自分の店は荻窪だからこそ、こういう本棚になっていますけど、場所や来る人に合わせて、変わっていっていいと思います。
三島 それって「地元産の本屋さん」ということになりますね。福禄寿さんが菌でやっていることを、Titleさんもここでやられているんですね。
辻山 はい。福禄寿さんが「菌は引越しができない」と言っていましたが、本屋も同じで、その土地に元からある菌を発酵させていかなきゃなと思いました。あとは、本の一冊一冊も菌なんだなって思えてきました。
三島 本が菌というのはいいですね。そうか、それで隣の菌とまた反応しあうということですね。
辻山 そうですね。だから、うまく菌がブレンドされている棚を作らないと、それこそ本がカビになってしまうかもしれない(笑)。
三島 それは結構あるかもしれないですね。
辻山 はい。そんなことを考えながら読みました。
三島 そんなふうに読んでいただけると、めっちゃ嬉しいです。
それって青春だと思ったんですよ
三島 今回の『ちゃぶ台』に「黄金の10年がやってくる!!」というコピーをつけました。これは全ての産業、全ての社会のどの状況においても言えることかなって思っています。もともとは秋田で出会った農家の方が、「これから10年が黄金時代だ」とおっしゃっていて。というのも、大昔に米を無農薬で育てていた時代のこととか、まだそういうことを覚えているおじいさんもいる。しかも秋田でいったら、80歳というのは若手で。
辻山 80歳で若手。
三島 全然若手で体力も知力もある。しかもお金もそんな気にしなくて良いから、彼らは今、できるだけ下の世代に受け継いでおきたい。だから「こっちが望みさえすればどんだけでも与えてくれる、こんなにやりやすい時代はない」という意味で、その農家の方が「黄金時代だと思ってんだ」と言ったときに、僕は本当に感動しました。
僕らの出版も同じだと思って。たとえば、この場所、Titleさんの空間がもつ素敵さも、そうですよね?
辻山 え?
三島 いや(笑)、これは寄藤文平さんが言ってたことなんですけど、「辻山さんは元リブロですよね」と。「だから大型店のオペレーションを知っている。Titleさんは、大型店のオペレーションを小さな空間で再現しているんだ。だから、棚がすごく見やすいし、セレクトショップ的な窮屈感がない」といったようなことを文平さんが語ってんですよね。
辻山 そうだったんですか。
三島 はい、そうだったんです(笑)。それを聞いて思ったのは、ああそうか、辻山さんも『ちゃぶ台』に登場した日本酒の方々と一緒で、たんに過去に戻ったわけではない。つまり、近代産業が積み上げてきたものを全否定して、「小商い」を始めたわけではない。大型店はじめ近代産業の「いいところ」は踏襲しつつ、行き過ぎてしまったところを改める、というかたちで運営されているんだな。僕はそんなふうに捉えたんですよね。
辻山 それこそ、Titleをはじめるときにつけたコピーは「まったく新しい、けれどなつかしい」です(笑)。
三島 Titleさんは黄金時代の先鞭をつけていらっしゃると思います。
懐古主義になるっていうわけではなく。今は、次の時代の産業のあり方っていうことを、ゼロから作っている時代なんだな、ということが僕の発見です。それって青春じゃないですか!
会場 (笑)
三島 つまり青春って、全く何の保証もないし、うまくいくかわからないけど日々何かに向かって突き進んでいくしかない。裏を返せば、「それしか無い」ところにいる。
「近代産業」の中で改善しようとしても、結局ずっと変わらなかった。そうじゃないところにいよいよ来たんだ。ということに気がついて、京都のカフェで「うわぁー!」と叫んでしまいそうになりました。たまにそういうことがあるんですけど。
辻山 怪しいですね。
三島 はい(笑)。久しぶりにそういうのが来た、というのを最後のご報告にして今日は終わりたいと思います。
辻山 ありがとうございます(笑)。
(終)
編集部からのお知らせ
『ちゃぶ台』編集長三島邦弘が、『ちゃぶ台Vol.4』ツアーとして全国を巡りイベントに登壇します。ぜひ足をお運びください。
「もっと菌を!? ミシマ社が考えるこれからの10年」 〜『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号』刊行記念トークイベント〜
■日程:2018年11月15日(木) 19:30 – 21:00
■場所:香川県高松 本屋ルヌガンガ
「本」で世界を面白く。「一冊」が起こす豊かさ。
■日程:2018年11月16日(金)18:30~20:30
■場所:高知県土佐郡土佐町 町の学舎 あこ
もういちど「近代」を考える:次の『ちゃぶ台』Vol.5はどうなるの?
■日程:2018年11月23日(金) 13:30~
■場所:岡山県 スロウな本屋