第8回
渡邉康衛さん×三島邦弘トークイベント 「本づくりと酒づくり〜ちいさいものづくりで目指すこと〜」
2019.10.21更新
9/7(土)、秋田市のヤマキウ南倉庫で、福禄寿酒造の渡邉康衛さんと代表ミシマのトークショーが開催されました。
渡邉康衛さんといえば、『ちゃぶ台』Vol.4「発酵×経済」号の巻頭にご登場いただき、酒蔵が経営危機に陥った際に、「大量生産の普通酒の生産量を減らして、手間がかかるので大量生産ができない純米酒に力を入れる」という大きな決断をされたことを語られております。
ミシマ社は今年7月より、新レーベル「ちいさいミシマ社」を始めました。「ちいさいミシマ社」には「生産量を抑え、少部数の本をつくる」という考え方は、渡邉康衛さんの日本酒づくりから着想を得たものです。
今回トークショーでも、「ものづくり」について、面白いお話をたくさん伺えました。ぜひお楽しみください。
※こちらのトークショー、『ちゃぶ台』Vol.5で編集長のミシマによる編集後記でも触れられています! (『ちゃぶ台』Vol.5の目次とみどころはこちら!)
『ちゃぶ台』Vol.5「宗教×政治」号 ミシマ社編(ミシマ社)
(聞き手:三島邦弘 構成・写真:須賀紘也)
金太郎飴ではつまらない
ーー 僕は本づくりをしているとき、「生き物をつくっている」というイメージを持っています。「良い本をつくりたい」という想いは込めるんですけど、本ができあがったところで終わりにするのではなくて、これが本屋さんに置かれたとき、たまたま通りかかった人に「ちょっと君、これ読みな」と語りかけるような空気感がある本づくりをしていきたいなっていうふうに思っているんです。康衛さんは福禄寿という蔵におけるものづくりについて、どのような思いを持っていますか?
渡邉 はい、やっぱり今は、お米も五城目のものを使ったり、酒づくりをする蔵人も五城目出身だったり、水ももちろんそうなんですけど、地元のものを使って、そこで五城目を知っていただければなって思いで今はやってます。今はやってますけど・・・。
ーー 「今は」、というのは?
渡邉 昔は一切そういったことはしていませんでした。「良い酒をつくろう」、もうそれだけ。「良い酒ってじゃあなんなのか」と考えていた当時、「欠点のないお酒」がいい酒だともてはやされていました。
ーー なるほど。
渡邉 そうすると、どの蔵も「いかにマイナスをなくしていくか」に焦点を当てて酒づくりをすることになるんですけど、そうやってできた酒はどれも金太郎飴みたいに同じ酒になってしまうんです。
ーー たしかにそうなってしまいそうです。
渡邉 そうなんですけど、当時の僕も当時の流行や、大学の醸造科で学んだことの影響を受けて、最初は金太郎飴を目指しましたよね。データを集めたりして、金太郎飴、つまり欠点のない酒がつくれるようになってみると、みんなと一緒の酒をつくるのではつまらないと思うようになってきた。だから今は、「他の酒とは違う味を見つけていかなきゃいけないな」というふうに思いながらやっております。その違いとか個性を考えるなかで、浮かんでくるのはやっぱり地元のことです。改めてこの五城目に生かされているんだなというのを最近感じています。そういう恩返しも含めて、お酒をつくっているような気がします。
(写真右が渡邉康衛さん、左が三島)
日本酒つくりの原点
ーー 去年、康衛さんの話を聞いて、「僕たちの時代の一歩先を行っているな」と感動しました。というのも、出版業界と同じように、日本酒業界も20年前から低迷しているというニュースが出ていました。福禄寿さんも経営がかなり追い込まれたときに、普通酒から、純米酒づくりに切り替えたわけですよね。同時に効率よく機械で酒づくりをしていたのを、手間暇をかけて職人仕事でつくるように戻した。そのことによって生産量が下がった。生産量を下げるほうに舵を切るというのは、たとえ生産量を抑えることで質が上がるとわかっていても、効率化を志向してきた近代の産業は取れなかった動きです。そこの舵をどう切ったのかというのを、伺いたいです。
渡邉 あんまり思い出したくないですが・・・(笑)。追い込まれたことで、「とうとういい酒をつくるしかなくなった」と思いました。
ーー おおー。そうやって純米酒づくりを進めて、もっと地元の五城目のものを使っていこうとなったときに、お水を五城目の水を使うようにされたと伺いました。それまで五城目の水は使っていなかったんですね。
渡邊 そうなんです。福禄寿の蔵で湧き出ている水は硬水なんです。しかし大学時代に「なんか軟水がいいぞ」と勉強していましたので、最初は湧き水を使わず、水道水使ったり、山から水を汲んだりしていました。
そういうのを3年くらい続けているうちにやっぱりなんかおかしいなというのに気づいて。たとえばワイナリーがなんでその場所で酒づくりを始めたかという原点は、きっとその土壌でいいブドウができるからでしょう。日本酒で言うと、実は米じゃないんですよ。そこでいい水が出てきたからそこで酒づくりを始めたというのが原点なんです。うちも創業331年目迎えるんですけど300年前のご先祖さんがここでこの水見つけて酒づくり始めたんだなっていうのを信じ込んでですね、今はもうお風呂の水もお茶の水もコーヒーも全てその水で今、はい、どっぷりつかってます。
ーー ご先祖から、原点が受け継がれているんですね!
渡邊 やっぱりそこが原点だと思って、その水ありきで酒づくりの設計をしてるので、やっぱり他の蔵とは配合や麹の具合とかそういう配合とかちょっと変えています。
ーー だからそれが唯一無二の酒になっている。
渡邊 そう思っています。
効率と伝統のあいだ
ーー 渡邉さんが蔵に戻ってすぐのころは、「欠点のない酒」を目指したと先ほど聞きましたけど、そのときはデータを取って効率も重視されていたわけですよね?
渡邊 データを見せるというのは、人を説得する最後の材料なんですよ。蔵人がずーっとやってきたものを、頭ごなしに言って変えることは難しいです。ある作業を「どういう理由でやってたんですか」と聞いても、「いや、昔からやってきたから」と答えられたり。そういうときにデータを見せながら「これやったらこうなりますよ。ほらね」とすると、「ああそうだね」と言ってもらいやすい。そういうふうに、効率化といううたい文句を使わさせていただいていました。
ーー (笑)
渡邊 だけど今思うと、そういう「理由は知らないけど昔からやってきた作業」というのもいいなって最近ちょっと思ってきました。それが蔵の「スタイル」とか「引き継がれてきたもの」といいふうに捉えればいいのかなと最近思ってきたかな。
ーー そうやって「やる意味ないんだったらやめよう」と言ってやめたのに、最近復活させたものってあったりしますか。
渡邊 お米を一回袋から出して、米を洗うその前に、もう一回袋に戻すという作業をやっていたんですよ。「意味がわからない」と思いました。だから「なんでこんなことやってるんだ」と聞いて見たんです。
ーー うーん。
渡邊 「いや昔からこうやってきたんで」と蔵人には言われましたが、「やめましょう、そんなこと意味ないじゃないですか」とやめさせたのですが、今思えば米の性格とかキロ数などを正確を見極めることに役立っていたんですね。そのことに気づいて、「やっぱりまたやりましょう」と言ったら、今度は蔵人のほうが嫌がるんですよ。「それは効率が悪い」とか言って。
ーー 時代が変わりましたね(笑)
渡邊 蔵人さんは年上が多いんですけど、そんな話をしながら、まあ楽しくやってます
ーー 面白いですね。こういうのってどこの組織にもありますよね。一個の様式美になったりして。ミシマ社はまだ13年目の会社なんですけど、やっぱりありますよ。ミシマ社の最初の社員がワタナベといいます。彼は営業事務の担当として、システムや伝票処理などをしていたのですが、その作法へのこだわりが強いです。パソコンの電源ボタンを押す角度からこだわってきた人で。全く意味ないですから、それ(笑)。
渡邊 はははは(笑)。
ーー でもちょっと古いパソコンだったりすると、ワタナベが主張する手順を踏んだ方が実際早かったりしたりするんですよね(笑)。
渡邉 そういう無意味なこだわりを、歳のとったおじいちゃんがやっているとかっこいいなぁと思います。ぜひやり続けてください(笑)。
日本酒と神
ーー 酒には神様がいますよね。
渡邊 松尾さま。私も毎年必ず京都まで行っています。
ーー やっぱりそうですか! 地元にはあるんですか?
渡邊 地元というか、蔵に必ず祀ってあります。松尾大社から毎年お札が送られてきますし、毎月13日は松尾さまの日で、社員一同松尾さまに手を合わせています。12月13日はその年の醸造祭をして、「これからも怪我のないように、いい酒をつくれるように」と、神主さんを呼んでやっております。
ーー へえー。
渡邊 そもそも日本酒自体が神様に捧げるものなので。捧げた後のものを我々が飲むもの、とされて来た歴史があります。酒づくりは「データ」をすごく重要視しますが、最後は神頼みなんですよ。「もうここまでやっていい酒つくれなかったら終わりです、あとは神様お願いします」と。日本酒をつくるときの原料になる米がよくなるには、何が必要かっていうとやっぱり天候です。今年はもう荒れずに平々凡々な天気でお願いしますねと。あと、一時期地下水が止まったときがある。ただのポンプの故障だったんですけど(笑)。その時はやっぱり、神頼みするんですよ、人間って。
ーー そうですか!
渡邉 そういうこともあって、日本酒は日常酒、つまり「いつも飲むお酒」になっちゃいけないなと思いまして。「毎日晩酌で美味しく飲んでます」と言っていただけるのはうれしいですが、それも嬉しいんだけど、日本酒を節目とか、そういう時に飲んでもらうことが、私はすごく嬉しく思います。今日誕生日だったから飲んだよとか。今、1年間通して一番酒売れる時期ってわかりますか。やっぱりお正月なんです。皆さん忘れてないと思う。節目はやっぱ日本酒だろっていうのはまだたぶんね、日本人の中にあって。
―― 残ってますよね。
渡邊 私はそれを信じて、皆さんとお付き合いしている(笑)だからやっぱ日本酒ってこう、日常酒になっちゃいけないし、そういう節目の時に是非こう、まあワインとかシャンパンも良いんですけど、日本酒を是非飲んでもらえればなと思います!
渡邉康衛(わたなべ・こうえい)
1979年秋田県生まれ。福禄寿酒造代表取締役。1688年創業と秋田でもっとも古い酒蔵のひとつで、16代目蔵元を務める。昔ながらの「福禄寿」と、自ら立ち上げた「一白水成」の二つの銘柄の日本酒を二大看板とし、伝統を守る一方でこれまでになかった発想による酒造りで注目を集める。酒米の9割以上は秋田県五城目町産を使用するなど、地元産の酒造りに重きを置く。地元秋田県内の5つの蔵元からなるグループ「NEXT5」メンバー。
編集部からのお知らせ
ちゃぶ台ツアー、今年も開催します!!
天草 11月3日・4日(日・月祝)
日程:11月3日(日)
場所:本屋と活版印刷所(天草市中央新町19-1)
出演:
三島邦弘(ミシマ社 代表)
永田有実(本屋と活版印刷所 店主)
長島祐介(九州活版印刷所)
森本大佑・森本千佳(屋根裏books)
【第1部】19:00~20:00
「寺子屋ミシマ社がきっかけで本屋ができました。その名も…」
本屋店主さんと三島のお話
<チケット代>
両方参加・・・・・・・・・1,500円
(すべてコーヒー・鯛焼き付)
<お申し込み方法>
・電話番号
・<一般/ミシマ社サポーター/学生>のいずれか
・<1部のみ参加/2部のみ参加/両方参加>のいずれか
~「さばく(捌く、裁く)」時代から「ゆるす(聴す)」時代へ~
日程:11月4日(月祝)10:00〜
場所:天草市民センター 大会議室
2,000円(当日券 2,500円)
※前日開催の森田真生さんトークイベントとの2回公演チケットは3,000円
または
天草市経済部産業政策課 0969-23-1111 代表
※当日券もございます。当日券は会場受付にて開演30分前より配布いたします。
岩国 11月10日(日)
「寺子屋ミシマ社 『ちゃぶ台』次号をみんなで企画会議!」@himaar(岩国)
【出演者プロフィール】
中村明珍(なかむら・みょうちん)
1978年東京都生まれ。ロックバンド「銀杏BOYZ」のギタリストとして活躍後、周防大島に移住。現在は、梅やオリーブを栽培する農家であり、僧侶でもあります。
三島邦弘(みしま・くにひろ)
1975年京都生まれ。ミシマ社代表。「ちゃぶ台」の編集長です。
日程:2019年11月10日(日)18:30~(開場18:00~)
会場:himaar(ヒマール)
山口県岩国市今津町1-10-3
定員:35名様
入場料:1,500円(1ドリンク付/税込)
お申し込み方法
・ヒマール店頭
・電話0827-29-0851(店休日を除く10:00〜19:00)
・メールinfo@himaar.com(お名前、人数、電話番号を明記してください。返信をもって受付完了としますので、受信設定をお願いします。)
主催:himaar(ヒマール)協力:ミシマ社
お問い合わせは TEL:0827-29-0851(ヒマール)まで