第10回
えっ、みんなでアナキズム!?(1) 自分の持ち場でアナキズム
2019.11.13更新
先月18日、荻窪の本屋Titleさんにて、『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台Vol.5 「宗教×政治」号』の刊行記念イベントを開催しました。
「えっ、みんなでアナキズム!?」と題したこのイベント、ちゃぶ台編集長の三島がTitle店主の辻山さんを聞き役に、災害、政治、そして宗教という今号のキーワードを熱く語りあってきました。
災害や政治問題の続く昨今、こんな状況の中で私達にできることは何か、たくさんのヒントが出てくる対談となりました。
ミシマガジンではこの日の様子を2日間にわたって掲載します。
(構成:岡田森 写真:星野友里、須賀紘也)
『ちゃぶ台 Vol.5 「宗教×政治」号 ミシマ社編 (ミシマ社)
分からないことを、分からないままに飛び込む
辻山 今日はミシマ社さんが年に一回発行している雑誌『ちゃぶ台』の刊行記念イベントなんですが、ちょうどの去年の10月19日に、一年前の『ちゃぶ台Vol.4 発酵×経済号』のイベントもここで同じような形でやらせて頂きました。
三島 去年はありがとうございました。
(去年の記事) もっと菌を!? ミシマ社が考えるこれからの10年(1)「未来の種はこんなふうに」
辻山 今回の5号は「宗教×政治」というテーマということで。
三島 はい。『ちゃぶ台』をご存知でない方のためにちょっとだけ説明すると、5年前に突然立ち上げた雑誌なんです。2015年の4月に初めて周防大島に行って、同世代の人たちの動きが面白いと思って、すごく感動して、これを何とか伝えたいというところから始まったんです。
辻山 そこからずっと周防大島とのお付き合いが始まっているんですね。『ちゃぶ台Vol.5』の中をご覧いただくと、1ページ目に三島さんがなんでこの本を編集したかという巻頭の辞が載っていて、周防大橋にドイツのタンカーがぶつかって40日間も断水になったという話が語られていますね。
三島 はい。ただ、その話の前に、『ちゃぶ台』と今日のトークのあり方がかぶるので、最初にご説明したいと思うのですが、「分からないことを、分からないままに飛び込んで、いろいろ知っていきたい」というスタイルで雑誌を作っているんですね。ミシマ社の普段のあり方もけっこうそういう感じなんです。これをしたらうまくいくはず、ということでは全然なくて、よく分からないけどやろう、という。
今回のイベントも「え!? みんなでアナキズム」というよく分かんないタイトルをつけました。「どういうことだろう」と思って参加されて、僕が持っている答えを聞こうと思ってる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕、答え持ってないんです。
会場 (笑)
三島 これだけ最初に申し上げときたいなと思ってて・・・。
辻山 「みんなで」考えようということですね。
三島 学者の先生だったら答えを知ってて教えると思うんですけど、僕は編集者として常に「分からないから、じゃあ作ってみよう」というスタイルで本を作っているので、こういうイベントの場でもそうやっていきたい。今回の「宗教」も「政治」も、一冊作って逆に疑問が増えました。今日はそういうこと含めて、みなさんと対話をしながら、何か少し光が見えるといいなと思っています。
辻山 いま「分かりたい」と三島さんがおっしゃったんですけど、今回の特集になっている「宗教」も「政治」もなかなか普段語らないし、特に政治は「上で何かをやっている」というイメージで、私達と同じ目線で考えようという動きは、今まであまりなかったですよね。
三島 そうなんですよ。やっぱり『ちゃぶ台』でも今までそこまで踏み込めていなかったんです。「仕事」とか「経済」はテーマにしてきたんですけど。
その中で、今回の周防大島の断水の事故を取材する中で「これは政治問題だ」と感じて特集にしたわけです。
ちゃぶ台編集長・三島
政府に頼るほうが間違っているな
三島 さっき辻山さんがおっしゃったように、政治っていうのは「上のほうで行われている」ものではなく、僕らの日常と地続きなんです。その地続きの政治というものを一生活者としてどうとらえるのか、というのが今回のちゃぶ台で目指したことです。
周防大島の断水で今後の見通しが全く立たない中で、国も全然動かなかったと聞いて、政府に頼るほうが間違っているなと思ったんです。ちゃぶ台の第一弾で掲げたコピーが「自分たちの生活、自分たちの時代を、自分たちの手で作る」だったんですけど、まさにそれが求められているということを突きつけられたのが、去年の周防大島の断水だったと思っています。
ある種の無政府状態が始まっているのではないか。その中で、一生活者がどうやって政治や宗教をどう考えていけば良いのか、ということを考えたのが今回の号です。
辻山 本書のうしろのほうで書かれてますけど、「宗教」というテーマは以前から考えていたけれど、「政治」を絡めようと思ったのは、かなり直前なんですね。
三島 はい。刊行の3ヶ月前ですね。7月です。
辻山 それは三島さんの中に「政治」というトピックを扱うのにためらいがあったんですか?
三島 手がかりがなかったんです。もちろん投票とかは行ってますし、安保法案の反対デモとか行ったんですけど、あまり深く考えられていなかった。一冊作るような手がかりが自分の中にストックとしてなかった。その状態で、『ちゃぶ台』と政治をつなげようと思った時に、アナキズムだ!と思ったんです。
そのきっかけは、『うしろめたさの人類学』の松村圭一郎さんにデイビッド・グレーバーの『アナーキスト人類学のための断章』という本を紹介してもらったことです。
アナキズムは「無政府主義」と訳されて、「全部クチャクチャにしたれ!」みたいなイメージがありますけど、そういうことではないんですね。
みんな国家がないと生きられないと思っているかもしれないけど、グレーバーが行ったマダカスカルでは「ある日、気づいたら政府がなくなっていた」ということが起きたんです。なのに、ちゃんと強盗が起こったら自治的に皆で解決するし、役所がないはずなのに、存在しているかのようにみんながふるまっていた。国家がなくなっても、秩序が崩れなかったんです。
辻山 少しだけ『ちゃぶ台Vol.5』から引用をすると、「いまのような政府などの国家組織がなくても、人類はずっと秩序を維持する仕組みを持ってきたし、そうした秩序を生み出せる能力があった」とありますね。
三島 はい。今回の『ちゃぶ台』の中で、最初のほうにこの原稿をもらったので、これでこの雑誌の目指す方向が決まったんです。
聞き手のTitle辻山さん
自分の持ち場で何ができるか
辻山 アナキズムと言うと既存のものを壊すと思いがちなんですけど、自分の人生をよりよく生きようとして自分の状況を変えたいときや、「もっとやるべきことがあるんじゃないか」と気づいたとき、どういうふうに行動したら良いか、と一から考えてみることが、すでにアナキズムなんですよね。
三島 そうなんです。松村さんの原稿で、「アナキズムは日常のこの瞬間からできる」ということを書いてくれているので、これは「みんなのアナキズム」と名付けられるなと思ったんです。
辻山 政治への関わり方と言った時に、数年に一度の選挙しかタッチする機会がない、となりがちですよね。選挙以外にもロビイングとか別の手段もあるんですけど、なかなかハードルが高い。
三島 そうですよね。
辻山 そういうふうに考えると、例えば三島さんは出版社の社長で本を作ってらっしゃるし、私は個人の書店主をしているんですが、普通の経済活動、普通のシステムから少しズレたところでやっているんですよね。こういう形で自分の生き方を探ってみるというのも、一つの政治活動かなと思います。
三島 そうなんですよね。いまある自分たちの持ち場でいっぱいできることがあるんです。ちょっとした日常で何を使うか、みたいなところ、例えば同じ本でも、どこで買うとか。そういう事に可能性があると思います。
辻山 権力者の側としては、我々にあんまり勝手に考えてほしくないというのがあるんでしょうから、自分で考えて行動するだけでなぜかそれがアナキズムになってしまうわけですね。
三島 そうなんです。消費行動を変えることだけじゃなく、日々のちょっとした習慣を変えるだけでも思考が変わっていく。どうやって次の時代を作っていけるかを、自分の持ち場で考えていけば良いんです。僕で言えば出版です。
僕たちは今年「ちいさいミシマ社」というのを始めたんですが、これも一個の新しい時代を作るための挑戦なんです。これは去年の『ちゃぶ台Vol.4』で特集した、福禄寿さんという秋田の蔵の話から影響を受けています。日本酒業界は20年前くらいに落ち目になっていて、「絶滅危惧酒」と呼ばれていたんですが、それが、秋田の蔵元の活躍でV字回復したんです。福禄寿さんの「一白水成」というお酒はなかなか手に入らないほどの人気になっています。
なぜそういうことが可能だったかというと、近代産業の効率化と大量生産の流れに乗って醸造アルコールで大量に作る日本酒作りをしていたのを、製造量を7分の1くらいに減らして、職人と手間暇をかけて純米酒を作りはじめたんです。
近代になって生産量を増やして売上を上げることが絶対的な価値だと思われていたんだけど、人口減の時代になっていち早く、秋田の蔵元たちが違うことをやりはじめたんです。
それを聞いて、もう一回僕らも生産量の少ない本造りをしなければならないと思ったんです。
辻山 なるほど。
三島 あと実は、「ちいさいミシマ社」の誕生の背景には、1年前にTitleで辻山さんと話していたことがあるんです。
辻山 本当ですか。
三島 はい。Titleの棚のよさって、リブロという大きな書店にいた辻山さんが、いろんなシステムを分かった上で「これ」というお店を作っているところにあるんですね。本好きな人が趣味的にやっている棚とはぜんぜん違う。
同じことをミシマ社もしなければならないと思っています。ヒットを作りつつも、一方で、小さい部数がしっかり届くという本作りと届け方を実現する。
そして、本屋さんとの共存を考えた時に利幅をもっと高くするということですね。「ちいさいミシマ社」というレーベルでは、初版部数を少なくして、買切条件で55%で卸すということをやっています。
辻山 普通に問屋から入れると78%くらいですからね。20%ぐらい違いますよ。
三島 辻山さんがいま赤裸々に言ってくださいましたが、そうなんです。全然違いますよね。
人口が減ってるわけですから、冊数を売る時代じゃないんです。読者に届くものをしっかり作って、一冊を届けると小売業も成り立っていく、というふうにしたいんです。
こういう風に言うと当たり前のことのように聞こえるんですが、いまはそれが当たり前になっていないんです。今までの当たり前がおかしかったんです。いま実現していない当たり前のほうにしっかりと合わせていくということをやっていきたいなぁと思っています。これも、松村さん風に言ったら、ちょっとしたアナキズムだと思っています。
『ちゃぶ台Vol.5』の中の松村さんの表現で面白いのは、「みんな間違ったことに、真面目になりすぎている」と言っているんですね。
辻山 なんでも真面目にやってしまう、ということですよね。その前に、自分で考えるということが大事と言いますか。
三島 そうなんです。いま動いてるシステムに対してちょっと不真面目になってみる、ってこともあっていいよ、と。それがアナキズムの第一歩、と書いているんです。(つづく)
編集部からのお知らせ
ちゃぶ台ツアー、今年も開催中!!
みんなのアナキズム 『ちゃぶ台 vol.5』刊行記念 三島邦弘×松村圭一郎 対談イベント
日 時:12月8日(日)16:00 – 17:30
場 所:スロウな本屋さん / 岡山市北区南方2-9-7
参加費:(A) 3,300円 書籍代『ちゃぶ台 vol.5』1,760円込み / (B) 参加費のみ2,000円
注:『ちゃぶ台 vol.5』をすでにお持ちの方は、同誌バックナンバー、またはミシマ社刊の他の書籍との差替えも可能です。お申込み時にその旨お知らせください。