月刊ちゃぶ台

第16回

ちゃぶ台編集室レポート(2)コロナの時期の周防大島

2020.07.15更新

 2020年6月、ミシマ社が毎年秋に刊行している雑誌『ちゃぶ台』の次号を考える連続オンラインイベント「ちゃぶ台編集室」がスタートしました。昨日からのミシマガジンでは、6/10に行われた第1回の内容を一部抜粋してお届けしています。この数カ月の周防大島の状況についてゲストの中村明珍さんと内田健太郎さんに教えていただいた前半につづき、後半はミシマ社編集メンバーも参加して、「ちゃぶ台の種」を探りました。

コロナで"何もできない"から、
島民生活の幸せを再発見する。

内田 都市部の知り合いが、「家から出ていない」「公園すら行っていない」というのを聞くと僕らとの差に驚いています。僕らが暮らしている田舎は、海も山もすぐそこにあるので、空間的には開けている。

 最近、家族でサイクリング始めて、みんなでどこかに出かけています。コロナ禍前だと、広島とか街の方へよく出かけていたんですけど、今は「遠出は必要じゃない」と思えてきます。2カ月ずっと島から出ていないんですけど、すごく楽しくて生活に満足しています。だから、この先、田舎に移住への目がどんどん増えるんじゃないかな。ニューヨークとかも移住の人多いって聞いたんですけど、そういう流れが強くなっていったらいいなと思っています。

三島 そうですね。『ちゃぶ台』創刊号のテーマのように、リアルにその方向に進んでいっているなと思いますね。

内田 "新しい生活様式"って、最近言いますけど、僕は「生きていく上での幸せ」ってなんだろうと考えるようになってきました。

 最近ふと、周防大島を代表する民俗学者・宮本常一さんの本を手に取ったんです。今という時代にこそ読み継がれるべき本ですね。本の中で綴られている名もなき市民の、名もなき村の人がどう生きていたのかという点が妙に大事に思えました。スポットライトに当たっていない人の話というのが、これからの生活を考える上で、大事なことなのかなぁ、って思いますね。

三島 本当にそうですね。幸せや豊かさとは何かを考え直す時間でしたね。幸せの度合いも自然に囲まれているかでかなり違いますよね。日々の心の持ち方から、生活そのものにも言えます。珍さんはどうですか。

中村 学校が休みになって子ども達と普段なかなかできなかった焚き火とか何か植えたり釣った魚を捌いたりとかできて、楽しかったです。自然豊かな環境だからこそ例えば30分~1時間だけでも気軽にできちゃったりして。

 あとは、今まさに梅の出荷作業をしているんですが、伝票を書いたりお手紙を書いていると、買ってくれた人の住所が東京、北海道とかあちこちなので思いを馳せます。今はそれぞれの場所で全く違う状況が生まれているので、どういう風な気持ちでいるんだろう、とか。想像力がなかなか及ばなくて、もどかしいと日々感じますね。だから、いろんな人の話が聞きたい。

三島 内田さんはお仕事に影響はありましたか。

内田 ミツバチにはコロナウイルスは関係なく、活発です。今まさに収穫期なので目まぐるしい時期ではあるんですが、基本的に早朝から仕事を始めて、昼までには帰るようにしています。まぁ、子どもがこの間まで休みだったので、そうすると、12時からずっと家族一緒にいるという、いい時間でしたよね。学校始まっちゃったから今はそうではないですけど・・・

三島 なんなら学校が始まらなくても・・・(笑)

奇妙なバーチャル生活が
地域格差をなくす!?

内田 このZoomを用いたオンライン講座のように奇妙な生活・・・つまり、バーチャルな世界ばかりがコロナ禍でどんどん加速しているような気がします。そのテクノロジーのおかげで今日も参加できているので、恩恵もたくさんあります。ですがその反面、大切な身体の感覚を置き去りにしてしまっているように感じます。バーチャルな世界ではお腹は膨れませんしね。例えば僕自身は蜂蜜を作っているわけですが「食べ物を作っている」というのはものすごい強さだと今回実感しました。非常時であっても、食べ物はあるわけですから。食べ物に関しての不安がない。農家を目指す人の多くが「農業で食べていけると思うの?」って言われたことがあると思うんですけど・・・

中村 僕、「あの人(自分)食っていないでしょ」って言われたことが(笑)。

一同 (笑)

内田 だけどさ、今だと「農業だから非常時でも、ものが食べれる」じゃん。日本の食料自給率は39%と低いじゃないですか。非常時、食料が減っていくかもしれないから、その時に備えて、150%ぐらいになってよその国を救えるようにすべきじゃないかなって思います。そういう部分も含めて、新しい様式じゃなくて、新しい国の形を考えたいと強く思います。

三島 都市部しかない良さもあるけど、都市に行かなくても済むような、"文化的なものへのアクセス"の手段も変わったなと、出版社をやっている僕もリアルに感じていています。

 コロナ禍に見舞われる3カ月前のミシマ社と今とじゃ全然違うんですね。まさかオンラインの形で「MS!Live」をやろうと3カ月前の企画会議で夢にも思っていなかっただろうし。6月13日の釈先生と内藤先生の「コロナをどう弔うか?」のような対談形式って、東京や京都、大阪で行われること多くて、どうしてもその地域の人たちしか参加できなかった。だけど、オンラインで、全国どの人もアクセスできるようになりました。藤原辰史さんと(鈴木潤さんと)一緒にオンラインで「パンデミックを生きる構え」をテーマに鼎談したんですけど、全国から「待っていました」と反響がありました。

 僕らはそのような言葉に触れて、一冊の本の形にして多くの人に届けています。けれど、非常時、この瞬間に届けないと意味がない言葉があって、しかもその人でしか発せられない言葉を届ける一面も出版社の役割でもある。出版メディアのあり方を柔軟に捉えて、ライブイベントを頻繁にやっていこうと、5月から急いで方向を変えました。1カ月実施して実感することは、都市部でしか出版業はできないという概念は無くなったということです。「MS!Live」を東京で見ても周防大島で見ても全く同じなんですから。このような"文化的なものへのアクセス"の垣根がなくなったと思います。

 あと、地方移住の人がよく抱く心配事の「話があう人が地元にいるのか、わからなくてさみしくなる」って、結局、都市にいて同じなんですよ。むしろ周防大島のような風通しのいいところで話すほうが人と会える。都市のしがらみを感じなくなり、寂しさがなくなるのではないかな。東京の食料自給率は1%切るかなり危機的なもので、つまり「食べ物の生産を完全放棄した都市」です。外から食べ物を持ってくることを完全に決め込んだ街だから、そこを「自分たちでおこなっていく」方向転換をする方が安全です。そうすると、ひとりひとりが全体として受け入れて個人の心配事とか薄れていくかなと思います。そういうアイデアをいっぱい持ち込んだ『ちゃぶ台Vol.6』を目指したいです。

女性リーダーが
これからの社会を牽引する

星野 私は、コロナ禍の影響で今、人生史上一番リアルな意味での政治に興味を持っていると思います。『ちゃぶ台Vol.5』で扱った政治とは、あくまでもそれぞれの持ち場で生活のことをするという意味だったと思います。この前、目黒区役所でどうしても区役所に行って提出しなければならない書類があって。自転車で片道何十分の道を漕いで行きました。正直、今まで行政のことはできるだけ関わらないようにしてきたけれども、突然何か起こった時に関わらねばならないから、行政と完全に絶つことはできない。行政で働いている人たちの仕事は他人事ではなく、自分たちのことなんだなと。

 ニュージーランドの首相と私は同世代だから親近感があります。同世代の彼女が、自分の言葉で国を動かしているから、私は何もできないとは言えないなと刺激を受けました。そして、彼女のYouTubeを見て、どういうことを言っているのかと聞こうとしましたが、わからず寝落ちしてしまいました・・・が、そのような知りたい衝動が起きました。

 目で見える範囲の規模の組織を営む人がコロナ禍の間にどういうことを考えたのか、どういう対策を講じて、どういうことに困ったのか、聞いてみたいです。多少の差があれど、政治と生活はつながっていて、政治に関心を持つ事は大事だなと実感します。政治って、自分の中で切実に接点を痛感している瞬間に取り入れないと、意気込みを忘れてしまいそうです。もしも、これを聞いている方のなかで、役所で勤めている方がいらっしゃれば、私たちが知らない間に行政のどういう方が、どんな事に対して頑張っているのか教えていただけたらいいなと思います。

中村 それ同感です。

三島 それやりましょうよ。ニュージーランドの首相についても。

星野 一応ニュージーランドの首相を調べてみたんですけど、彼女は十代から労働党に入っているんですよね。それで、ニュージーランドの現役首相やイギリスのブレア元首相の事務所で働いた経験を経て、今の姿があるみたいです。でも十代から政党に入るとか、日本だとありえないじゃないですか。だから、彼女まではいかなくても、自国がどうなっているのか学ぶ環境がないと、37歳で首相就任なんて今の日本では絶対にありえない。ニュージーランドにはあって、日本にはない政治家を育てる仕組みを知りたいです。あと、ニュージーランドにも、必ずお年寄りがいて、それぞれ違う価値観と立場の人が大勢いる中で、どのように政治を執り行なっているのかなと。国規模になると話が大きくなるので、日本の中で組織を執り仕切る人から話を聞きたいなと思います。

中村 僕、周防大島でも島外でも、星野さんと同じようなことを感じて話してくれる人が少なくないように思えて。僕の妻や内田くんのところもそうだと思うんですけど、東日本大震災の時も、女性が先に危機を察知して、すぐに行動したところが強く印象に残っています。それは今回のコロナ禍でも同じで。「男」「女」という分け方も丁寧に考えないといけませんが、これから、今までと全然違う形が浮かび上がるんじゃないかなと僕自身とても気になります。

星野 日本でも、そう遠くない将来に若い女性が、私たちが『ちゃぶ台』で話しているようなことを政界で発言したり行動するような方が現れるかもしれません。もしかしたら、今すでにいらっしゃるのかもしれないし、その発端みたいなものが、今すでにあるのならば、聞いてみたいなと思いますね。

(ちゃぶ台編集室第1回レポート・終)


●ちゃぶ台編集室とは?

2020年秋刊行予定の『ちゃぶ台Vol.6』をともに考える全4回の連続オンラインイベントです。各回単発でのご参加、4回通しでのご参加、いずれも可能です。イベント終了後、お申し込みいただいた方へアーカイブ動画をお送りいたします。リアルタイムでのご参加が難しい方も動画でイベントの内容をご覧いただけます。

ミシマ社の雑誌編集の過程を読者のみなさまと共有する初の試みです。一冊の雑誌が企画段階から成長していく様子をぜひ間近で体感いただけたらと思います。みなさんのアイデアもお待ちしております。奮ってご参加ください!

次回開催日 2020年7月16日(木)19時〜
ゲスト:平川克美さん(文筆家、隣町珈琲店主)

詳しくはこちら

●ミシマ社の雑誌『ちゃぶ台』とは?

お金や政治にふりまわされず、「自分たちの生活 自分たちの時代を 自分たちの手でつくる」。創刊以来、その手がかかりを、「移住」「会社」「地元」「発酵」「政治」「宗教」などさまざまな切り口から探ってきました。

災害、毎年のように起こる人災。くわえて、外国人労働者受け入れ策など議論なきまま進む政策。すさまじい勢いで進む人口減少。 大きな問題に直面する現代、私たちはどうすれば、これまでとまったく違う価値観を大切にする社会を構築できるのか。「ちゃぶ台」が、未来にたいして、明るい可能性を見出す一助になればと願ってやみません。

本誌編集長 三島邦弘

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ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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