第22回
ちゃぶ台7刊行記念イベント「ふれる、もれる、すくわれる雑誌!?」
2021.07.14更新
『ちゃぶ台7』の刊行を記念して開催したMSLive!オンライン配信、「ふれる、もれる、すくわれる雑誌!?」。
ふれられない、もれが許されない、すくいのない状況がつづく中で、いまこのテーマで雑誌を出すことについて、毎号恒例となったちゃぶ台編集長の三島邦弘と、本屋 Titleの辻山良雄さんとの対談の様子をお届けします。
後半からはゲストとして、装丁を担当いただいたtentoの漆原悠一さんにも参加いただき、制作の裏側までじっくりうかがいました!
特集「ふれる、もれる、すくわれる」の誕生
三島:今回のちゃぶ台は「ふれる、もれる、すくわれる」という特集タイトルにしまして、これ本当に、めっちゃ面白い号になったんですよ。
辻山:(笑)
三島:こんなに雑誌って面白くなれるんだって思いましたね。
Title辻山さん(左)/ミシマ社三島(右)
辻山:もともとはそういう特集じゃなかったんですよね? 今回の特集テーマにどんどん変わっていった経緯をお聞きしたいと思うんですけれども。
三島:はい、当初は「お金を分解する」っていう特集タイトルを考えたんですよね。「生活者のための総合雑誌」を謳うからには、日々のお金のことは避けては通れないことなんで、「ちゃぶ台」としてもう一回考え直してみたいというのがありました。
それで、タルマーリーさんを招いたMSLive!「ちゃぶ台編集室」のときに「お金を分解する」をテーマにいろいろうかがったんです。納得することも多かったのと同時に、「お金を分解する」というテーマは壮大過ぎるなと思いまして......これから特集を深めていこうとすると、ちゃんと分解するまでには3年くらい掛かるかなと(笑)。
『ちゃぶ台7』 お金を分解する
三島:そこで、分解の手前の段階を考えた時に、去年出た人文書の中でも特に自分に響いた、伊藤亜紗さんの『手の倫理』(講談社選書メチエ)と藤原辰史さんの『縁食論』(ミシマ社)という2冊がありまして、伊藤さんが「ふれる」、藤原さんが「もれる」について言及しているんです。
「ふれる」と「もれる」という気になる2つの言葉について書いてらっしゃるお二人が対談したら、一体何がもれ出てくるんだろうと思って、対談の依頼をしました。
『ちゃぶ台7』 「ふれる、もれる」社会をどうつくる?
辻山:これは三島さんからの企画だったんですね。
三島:これも公開の「ちゃぶ台編集室」として配信したんですが、この対談の日が決定的でした。あまりにもその対談が面白かったんで、もう「ふれる、もれる」だ!って。
そして夜、家にもどってきて、「ふれる」、「もれる」......うーん......「すくわれる」みたいな?
辻山:もう一個出てきたんですね(笑)
三島:これで特集いける!と。突然そうなりました。
「すくわれる」言葉
辻山:対談の中では具体的に「すくわれる」というところまではお話されていなかったように思うんですけれども、書籍を読んだ人や、ライブで話を聞いた人は、かなり三島さんと同じ感じ方をしたと思うんですよね。なかなか今「ふれられない」とか「もれることが許されない」状況じゃないですか。
三島:僕もこの対談の「すくわれた」と言う感覚が何かわからなかったんですが、編集しているときに、伊藤先生が「非人間的なものが本当という感覚にすくわれる」と言う表現をされていて、その言葉が残っていたのかなぁと思いましたね。
辻山:なかなか言えないことですよね。
三島:そこの溢れてくる、はみ出てくる部分が人間というか、生き物であるということなんですよね。引かれた線から一本もはみ出ない、みたいな生活は窮屈だと思います。
辻山:今回の「ふれる、もれる、すくわれる」に関して三島さんが思いつく個人的な経験とかってあったりするんですか?
三島:僕個人の感覚で言うと、仕事も「ふれる、もれる、すくわれる」だと思うんですよね。まず仕事に「ふれる」というタイミングがあって、それでキャパを超えて「もれ」て、誰かが「すくって」くれる。
辻山:特にチームで仕事をするときに、仕事の中で自分の意思を超えてすっとなにかが入ってくる感覚はありますよね。
三島:自分が新人の頃に、面白い企画を考えた!と思っていたんですが、今振り返るとそれは先輩がわざと企画を「もらして」くれた、おこぼれだったんです。そのことに20年越しに気づきました。
「畑感」のある表紙
三島:後半は、前号『ちゃぶ台6』でのデザインリニューアルから装丁を担当していただいている漆原悠一さんにも参加いただきます。
漆原:よろしくお願いします。
漆原悠一さん(左端)
辻山:漆原さんは書籍のデザインのほうをやってらっしゃる印象があるんですけれども、書籍のときと雑誌のときとは主に何が違うんですか?
漆原:書籍は改まった感じというか、一つの世界観のなかにぐぐっと集中していくようなところがあるんですけれども、雑誌だともうちょっと曖昧で広いイメージです。結構いろんなことが試せるというか。
雑誌が出来上がったあとに、ここをこうしたらよかったなとか、いくつか反省点があったとしても次号への糧になって、多少は許される......それも含めての雑誌ですね。書籍よりも思い切った表現ができて大胆になれます。でも雑誌のロゴや共通のフォーマットが全体のトーンを引き締めてくれるので、その枠の中で自由にできるというのがあります。
辻山:前号の6号から漆原さんに変わったわけですけども、だんだん自分の中でも変えていったりとか冒険したりとかそういう面があるわけですね。
漆原:今回は表紙がぎりぎりまで迷っていて、編集部の皆さんはもやもやされてたと思うんですけど......。ちょこちょこ「表紙は?」ってメールが来てたんですけど、それは見えなかったことにして......他の記事のメールに返信したりしていて時間を稼いでいました(笑)。
辻山:三島さんはこの表紙を見てどう思いました?
三島:これは見事! と思いました。
公開編集会議のときに「編集人生で初めて、表紙の提案をします」って言って、藤原辰史さんの顔のどアップが畑になっている案を提案したんですよ(なぜ畑かは、本誌の対談をご覧くださいませ!)。
一同:(笑)
辻山:まぁでもなんか、この表紙、なんとなく畑感ありますよね
三島:辻山さんのすくい方はすごいなぁ......
いろんな人が「ふれ」合う雑誌
辻山:漆原さんは多くの雑誌のデザインをされていますが、この「ちゃぶ台」は普通の雑誌と比べて、なにか違うなとか、デザインしながら思うことってありますか?
漆原:ミシマ社さん自体のイメージとか、出版されている本の雰囲気をふまえて、自分なりに答えをひねり出そうとしているんですが、なかなか絞りきれないところも楽しんでいます。毎号新鮮なきもちでデザインしたいなと思っています。
一般的に雑誌の場合、もうちょっとフォーマット感を強く感じると思うのですが、ちゃぶ台の場合は自分でデザインしていても不思議な存在だなぁと思います。
辻山:そういうフォーマットが「もらさない」ものですよね。システムというか。毎月出すからには......的な。
表紙が違っても、「ブルータスが出たな」とかわかるのが雑誌だけど、ちゃぶ台は毎回表紙も違うし、5号と6号で形も変わりますし、「ミシマ社だなぁ」と思います(笑)
三島:漆原さんが言ってくださったこととも通じるんですが、雑誌作りにおいて、編集者が答えを持っていて、読者をこっちに先導していくんだ!と言うような中央集権的なスタイルに行き詰まりが生じていると思います。
たまたま触れたものが漏れていって、それを編集者がすくって、デザインして......というようにしたいなと。
辻山:本屋でも、一人で本を選ぶよりも、いろんな人が関わった方が長続きするんです。自分一人でできることは全然大したことないので、お店に来る人に「ふれ」て、どんな本が良いとか知識を吸収しているんです。
三島:辻山さんでもそうなんですか!
辻山:自分一人だと全然面白くならないんです。「一人じゃ何もできないんだ」ってことを知るのが、こういう店や、雑誌なんだと思います。
いろんな人が「ふれ」あうのが「雑」ということ。それをそのままごった煮にして投げ出したほうが見ている人は面白いんですよね。
三島:そういう意味では、今回の編集を担当したメンバーの野崎から締めの言葉を頂戴しましょう。
辻山:笑
ミシマ社編集チーム 野崎
野崎:すみません......まさかの展開で......。
あの......、リニューアル号の『ちゃぶ台6』ができたときにすごく感動して、「自分たちの雑誌だ」と思ったんですが、今回その気持ちがより高まりました。
私たちが日々楽しく編集している感じがそのまま出ているんです。こんな感じなんです。
漆原:普段通りですよね。
野崎:そうなんです。自然に呼吸をするようにできあがったんです。完成した本を読んで、ミシマ社の空気感が共有できたのかなと思って嬉しかったです。すごく楽しい制作でした。
まぁ、いろいろ日々、「どうしよう」って思うことはあったんですけど......(笑)
一同:(笑)
三島:ということで、今日はありがとうございました!
編集部からのお知らせ
本イベントの全編を動画配信中!
『ちゃぶ台7』刊行記念 「ふれる、もれる、すくわれる雑誌!?」 ミシマ社 三島邦弘&Title 辻山良雄対談 動画
記事には書ききれなかった話を含め、2時間たっぷりご覧いただけます。ちゃぶ台7から話がそれて、辻山さんの新刊「小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常」(幻冬舎)や、ミシマ社の絵本など話が広がったアフタートークも収録!