第33回
中田兼介×本上まなみ 「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」
2022.11.01更新
7月に発刊した動物行動学者の中田兼介先生の『もえる!いきもののりくつ』。本書の刊行を記念して、中田先生と俳優の本上まなみさんとのイベント「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」を開催しました!
本上さんは、幼少期からさまざまないきものとふれあい、現在も京都の鴨川など、自然の中でお子さんと一緒にいきものにふれあっていらっしゃるという大のいきもの好き。ミシマガ連載「一泊なのにこの荷物!」の中でも、いきものに関するエピソードがたくさん出てきます。
左:本上まなみさん、右:中田兼介さん
イベントでは、本上さんが『もえる!いきもののりくつ』の中で特に気になったテングシロアリ、クロソラスズメダイ、キンチャクガニなどのエピソードを中田先生とさらに深堀り。さらには、本上さんの身近で起こった「ハチがいなくなる」という現象のりくつや、「オニヤンマのブローチをつけると虫が寄ってきにくくなるってほんと!?」といったいきものに関する疑問まで、中田先生にお答えいただきました! 本書をすでにお読みの方も、まだの方も、いきものが好きならみなさん楽しんでいただける、いきもの愛あふれるイベントとなりました!
本日のミシマガでは、中田先生が『もえる!いきもののりくつ』に込めた思いや、本上さんが本書をどう読んだのか、といったイベントの一部のお話を、記事としてお届けします(一部加筆・修正をしています)。アーカイブ動画にて全編ご視聴いただけますので、ぜひそちらもご覧ください!
いきものを見ていると生きるのが楽になる
中田 本上さんは、小さいときからいきものと触れあってこられたんですよね。
本上 そうですね。家のまわりでドジョウを捕まえることもありましたし、家の中に昆虫やクモなどがいると、目線を下げて横から「なんかかっこいいなあ」と思って見ていました。私が小さい頃は、超合金のロボットみたいなものが流行っていましたけど、それと同じ感覚です(笑)。フォルムが全く人間とは違って、進み方もガクガクしていたり、めちゃめちゃ速かったりするじゃないですか。小さい頃から、自分とはまったく違ういきものの生態に「何だこれ?!」と魅せられていました。
中田 いきものって、ぼくらと違うところがいっぱいあるじゃないですか。そういう姿を見ていると、「あ、なんか違う世界があるぞ」って自然と気がつきますよね。人間社会の外にもなにかあるんだ! って。それってすごく大事なことだと思います。そこからものごとを観察する視点や理解のための物差しが生まれてくるし、なにより、生きるのが楽になる気がします。
本上 確かに、自分とはまったく違う価値観で生きているいきものの姿を見たときに、「自分はこんな小さいことでクヨクヨしていたけど、この人たちはそんなこと考えていないかもしれないな」なんてことを想像して、ふっと楽になるときはありますね。
中田 そうですよね。外の世界があるって思うことは、人間を楽にさせるんですよ。ここしかないって思い込むと、うまく行かないときに息が詰まりますけど、どこか他がある、と思うと気が抜ける、っていうか。いきものは、私たちに外の世界を体感させる良いきっかけをくれるのだと思います。だから子供のときにいろんないきものに触れるっていうのは大事なことだと思っています。
本上 私は小さいころから、実際にいきものに触れるだけでなく、図鑑や物語を通じても触れあってきました。そんななかで中田先生の本は、自分が知らなかったようないきものの生態をたくさん教えてくださいます。そしてなにより、中田先生ご自身がものすごく興奮していて、めちゃくちゃノっている、というのが手に取るようにわかるんです。それで気付くと、興味のなかったいきもののことでも自分も乗せられて興奮しています。
中田 ありがとうございます。仕事で学会とかに参加すると、まだ他の人が知らないような新発見をいち早く聞けるのですが、これが楽しくて仕方ないんですよ。そうしたら、人に喋りたくなるじゃないですか。それが結実したのが、この『もえる!いきもののりくつ』だと思いますね。
世界がファっと広がる一冊
本上 中田先生は動物行動学を専門にされていますが、なにが中田先生を動かしているんですか?
中田 いきものが好きだっていうことと、びっくりさせてくれるっていうおもしろさですかね。
いきものを見ているときに素朴に思うのが、「何考えてんねやろなあ」っていうことなんです。人間相手でも同じですよね。でも、いきもの相手だと「何考えてるの?」って聞けないので、色々工夫して調べてみると、こちらの予想と違うことが多いんですよ。そこでびっくり。楽しいですよね。同じようなことは、他の研究者もやってくれていて、そういう話を聞いて、またびっくり。
本上 『もえる! いきもののりくつ』でも、世界中の動物行動学者のいろんな論文から、先生が読んでおもしろいと思ったものを厳選して紹介してくださっていますよね。やわらかい語り口で、本当の論文から、わたしたちはそのエッセンスを受け取ることができて、この一冊の本をきっかけに「世界ではこんなことが研究されてるんだ」っていう発見がたくさんありました。私の場合は、テングシロアリについて興味を持ったので調べてみたところ「シロアリの羽からこんなこと調べている人がいるなんて!」と世界がファって広がったんですよね。
だから「苦手だな」と思ういきものがいたとしても、知らないエピソードに惹かれてもっと知りたくなる、そんな入口になる本でもあると思います。
中田 あまりいきもののことに興味がなかった方にも、ぜひ本書を手に取って、新しい世界、外の世界を見てもらえたらと思っています。
それから、今は、たくさんのいきものが絶滅するなど、本当になんとかしないといけない時代に来ていて、この本の中でも「人新世のいきものたち」という章を設けました。これまで人間は好き放題してきたと思いますが、これからはそこを少し抑えて、まわりへの配慮がちゃんとできるようになると良いな、と。そのためには、やっぱりいきものを好きな人が増えるのが早道だと思うんですよ。好きは配慮の第一歩ですから。そういうことも、本を書いているひとつの動機ですね。
(終)
編集部からのお知らせ
「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」アーカイブ動画を期間限定配信中です!
本記事のもととなったイベント、中田兼介×本上まなみ 「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」のアーカイブ動画を、11月末までの期間限定で配信中です。ぜひ、記事に収まりきらなかった全編を、動画でご視聴ください!