第4回
『日本習合論』装丁デザイナー尾原史和さんインタビュー
2020.09.20更新
こんにちは。営業のモリこと岡田森です。内田樹先生を師匠と仰いでそろそろ10年です。
昨日発売の内田先生の新刊『日本習合論』、もう手にとって頂けたでしょうか?
内容の素晴らしさはもちろんのこと、この書影の美しさをご覧ください!
『日本習合論』内田樹(ミシマ社)
内田先生も、Twitterでこんなコメントをされています。
三島さん、きれいな本を作ってくださってありがとうございます。「担当編集者がぐっと気合を入れて作った本」とそれほどでもない本て、本屋で見た瞬間に違いがわかりますよね。この本、気合入ってます! https://t.co/GAMuDul5Wn
-- 内田樹 (@levinassien) September 11, 2020
この素晴らしい装丁を手掛けてくださったのは、尾原史和さん。
『うしろめたさの人類学』など多くのミシマ社の本の装丁を手掛けてくださっている上、ミシマ社から尾原さん自身の著書『逆行』も出して頂いている縁の深い方です。
今日のミシマガでは、尾原さんに『日本習合論』の装丁誕生の秘密をうかがいました!
聞き手は、三島とホシノです。
対話しながら学ぶ「黒板」のイメージ
――まさに傑作が誕生した、という本ができあがりました!
尾原 いやあ、そう言っていただけて何よりです。
――100年後にも読み継がれるような。
尾原 長く読んでもらえる、愛蔵版のような、この本は一過性の本とは違いますよという雰囲気は出したいと思っていました。瞬間的に売れるというのではなくて、続く、ということが重要なポイントとして考えていました。
――色もいいです。
尾原 一般的には地味と言われる深緑色ですが、敢えてそれを選ぶことによって、落ち着いて読む感じになると思うんです。読む前にテンションを上げさせられるというより、自分から落ち着いて向き合う雰囲気になることを意識しています。
この深緑は、ピンポイントで何かをイメージしている訳ではないのですが、この色には幾つかイメージが繋がるものがあって、例えば黒板ぽい印象もありますよね。「学び」に近いものを感じてほしいというか。内容的に、読みながら著者の内田先生とコミュニケーションをとるような、会話するような本ですよね。「勉強」という感じだけではなくて、目の前で話を聴いているような。
――教室で先生と生徒が対話しているような雰囲気ですね。黒板の緑って独特ですよね。
尾原 今の若い子たちはホワイトボードになっているかもしれないけどね(笑)。でも潜在的に連想できる部分はありますよね。「思い出す」とか「よぎる」ということが本を読む行為としてはけっこう重要じゃないかと思ってます。
自然や風土が見えてくる見返しの色
――がんだれ製本も効果的です。
尾原 上製本のような重厚さや、並製本のカジュアルさとも違う表現ができたので、いい存在感になりましたね。開くと茶色の見返しが出てきて手に取った人によって違う次の場面が生まれてきます。
※がんだれ製本:表紙の袖を長くとって折り込むことで、表紙に厚みが出る製本方法。
――束見本(造本を確認するために、中身は印刷せずにつくる見本のこと)のときは黒でしたが、最終的に見返しが茶色になったのは何か理由があったんですか?
尾原 当初は特別な本にするという思いもあり、格式を意識して黒を考えたのですが、すこし強すぎる印象がありました。それよりも茶色が入ることで、自然とか風土が見えてくる感じというか、日本的な自然とのつながり、土や大地を潜在的に感じてもらえるのが、本の内容からしてもいいかなと思いました。それと共に箔の色、表紙の文字の色など別帳扉との親和性も意識しています。
――カバーの緑から、見返しの茶色、別帳の深緑への流れがいいです。
尾原 呼吸できる感じがありますよね。紙の手触りや厚さが少しずつ違うことで五感を刺激しますよね。装丁として行う大切な表現のうち、本文が始まる前の儀式的なことをいつも考えます。
この本でしか実現できないど直球のデザイン
――最初の頃にいくつか案を出していただいていて、じつはこの案もいいなという話もあったんですよね。どっちを選ぶかでだいぶ方向性が変わるなと思いながら。
尾原 丸を使うということは、ある意味、国をイメージさせることでそこから政治的であったり、時代を連想させることで、「日本」と密接になってきます。タイトルにある日本をどこまで表現するか、そことの距離感をどう取るかというのは考えましたね。プレーンな最終的に決まった案の一方だけではなく、違う道になるこういう方向性も、検証しておかないといけないと思いました。
――これもいい意味でクラシカルでもあるし、いいなと思ったんですよね。
尾原 明治とか大正とか、「日本人」というのが凜としてある感じの空気感は出ますよね。あとはグラフィックとして形があることによって、手に取ろうとする裾野が広がるので、瞬間的な売れ方を考えたら、こちらのほうがいいかもしれない。日本ではやはり「かわいい」のが売れやすいというのはあるので。丸の間の部分が星のように見えるということもあって、見方によって違うように見えるというのは、内容にも対応しているかなと思います。ただ、10年前でも10年後でも変わらないのは、決まったほうのデザインですよね。
――デザイン的にどっちが正解ということではないですよね。ただ本を売ることを考える営業のメンバーが、意外に最終案のほうを選んだということもありましたし、時間が経つにつれて、こちらの最終案がいいなと思ってくるんです。
尾原 自分の一番大事な本、というときに出せるような本ですよね。中身は面白いのに、装丁がガチャガチャしていて好きって言いにくい、という本もありますよね(笑)
――そうですね。あとはミシマ社としても、このデザインはここでしか切れないカード、という感じがしたんです。内田先生のこの内容で今出せるという、唯一無二の機会だなと思って。創業15周年企画の1冊目でもあるので、ど直球でいくことができて、よかったです。尾原さん、本当にありがとうございました。
尾原史和(おはら・ふみかず)
1975年高知生まれ。アートディレクター/株式会社ブートレグ(元スープ・デザイン)代表。雑誌や書籍、図録、ファッションカタログなどのデザインを中心として、店舗や展覧会のアートディレクションなど多岐にわたり活動。出版社としても写真集や画集などのアートブックや雑誌『ATLANTIS』を発行。1階はギャラリーを運営中。著書に『逆行』(ミシマ社)、『デザインの手がかり』(誠文堂新光社)、プロダクト作品『Rule Book』(E&Y)がある。
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『日本習合論』発刊記念 内田樹×三砂ちづる対談「少数派で生きていくために」
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日程:10月14日(水)19時~20時半
アーカイブ動画発売:内田樹×朴東燮「『日本習合論』発刊記念 これからの時代は<習合>で生きる」
オンラインで開催した本書の刊行記念対談の録画版の配信を開始しました。
朴先生が"内田樹研究者"として『日本習合論』と内田先生を読み解くエキサイティングな対談でした。内田先生が「朴先生は世界で一番俺のことを知っている」と漏らす場面も・・・!
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