昭和生まれ、アナウンサー西靖の育休日記

第9回

赤ちゃん返りはきっつい! でもね、、

2021.08.09更新

 妻と生まれて5日の赤ちゃんが帰ってきたニシ家です。次男が生まれて3年弱。ベビーベッドは早めにレンタルしてセットしたものの、哺乳瓶って捨てたりしてないよね? 新生児に使う「おくるみ」(バスタオルのように大きなガーゼだと思ってください)はどこに仕舞ったっけ? と、新生児を迎える慌ただしさは3回目でも慣れることはありません。ちなみにこの「おくるみ」は、タオルにもなり、昼寝の布団にもなり、緊急時には吐き戻した母乳を拭きとるのにも使える、たいへん便利なものです。大人用のおくるみがあったら欲しいくらいです。

 さて、親たちはそんなふうにバタバタと赤ちゃんを迎えるのに大忙しなわけですが、長男次男はそれで寂しそうにするかと思いきや、長男たすくはニコニコと赤ちゃんを見ながら「ちっちゃいね」「たすくもこれくらい小さかったの?」「いま、こっちを見たんじゃない? たすくのこと好きなのかな?」と優しさで包み込むような反応。一方の次男さとるは、赤ちゃんの頭をグリグリとなでて「ぎゃはー! 赤ちゃんだねー!」とか、お腹をグリグリと押して(本人はなでているつもりのようですが)「ねんねして! ねんね!」とか、なかなかアグレッシブ。それぞれのキャラクターが遺憾なく発揮されていますが、愛情を横取りされたような気分になって拗ねるのではないかという親の心配は、今のところ杞憂のようです。

 ところが。

 赤ちゃんがやってきて2日目の日曜日。この日も「抱っこしたーい!」とキャラクター全開で張り切っていた次男さとるが、夕方になって急にスローダウン。なんだかぼーっとしています。抱っこー、と弱弱しく要求してくるので抱き上げると、熱い。測ってみると38.8度。あらら、こうなるんですかー、、、

 月曜日は幼稚園を休んで近くの小児科に。我が家の子ども達がお世話になっている小児科の先生はどちらかというと投薬も検査も控えめな方なのですが、その先生が間髪を入れず「家に新生児がいるんですね? RSの検査をしましょう」と即断。幼稚園でRSウイルス感染が流行していたせいもあるんですが、新生児が感染すると重症化することがあるんだそうです。新しいおもちゃでも買ってもらったかのように赤ちゃんを抱っこしまくり、チューしまくりの次男の姿を思い出してちょっと胸がザワザワしますが、結果は陰性。まずはホッとします。
 私の世代が子どものころは一括りに「風邪」と呼ばれていたものも、RSだのマイコプラズマだのと、いろいろ分類されたり、リスクが詳しくわかったりで、安心できる反面、不安になることも少なくありません。このRSだって、感染がわかったところで特効薬があるわけでもなく、「症状が落ち着くまで安静にしていてください」というだけでのことです。極端な言い方をすれば、風邪っぽい症状の原因がRSウイルスかどうかは、知ったところでどうしようもないことです。一方で、新生児にうつればちょっと大ごとになるかもしれないという情報は、どうでもいいと片付けられるものではありません。
 しかし、さとるの発熱がRSウイルスによるものだったら、狭いマンションのなかで、さとると赤ちゃんをできるだけ遠ざけて生活しなくてはなりません。考えただけでもクラクラします。いや、ホンマに。

 月、火と幼稚園を休み、家でおかゆのような食事。大好きなバナナもさほど食べません。新生児がやってきて最初に離乳食を食べたのは君だったか。水曜日の朝は熱も下がり、多少元気になっていたので幼稚園に登園しましたが、お迎えにいくと、見るからにぐったりとした様子です。いつも元気に歩いて帰るのに、幼稚園で私の姿を見るなり、ヨタヨタと近寄ってきて、小さな声で「抱っこ、、、」。再び体調は悪化したようです。
 その後も、朝は元気でも夕方には熱が上がるという日が続きます。そして、出された食事に対して「違う! 食べない!」お箸を出せば「スプーンがいいの!」と大声を出したり、食卓に座る位置をめぐって「さとるがそっちに座りたい!」と長男に難癖をつけたりといったわがままを言うようになってきました。とくに困ったのは、私がトイレについて行ったり(現在、トイレトレーニング中です)、歯磨きの仕上げをしようとしたりすると「違う! ママにしてもらうの!」と癇癪を起すことです。手を洗うのもママ、身体を拭くのもママ、なにより、機嫌が傾くたびに「ママ抱っこ!」のママ限定の抱っこ要求の嵐。妻は授乳のために四六時中、赤ちゃんを抱っこしなくてはなりませんし、出産直後でほいほいと次男を抱っこできるような体調でもありません。でも、私が代わりに抱っこしようとすると全力で拒否し、妻の脚にしがみついて泣きます。あれれ? これは、世にいう

「赤ちゃん返り」?

 いや、でも単に鼻づまりや発熱で不快なだけでは? うん、そう思いたい。そうであって下さい、お願い。父と母は希望的観測にすがります。でも、おおよそ2週間が過ぎ、熱が上がったり下がったりのループからなんとか抜け出せた後も、癇癪とわがままはなかなか収まりません。
 さとる「お風呂はママと入りたい!」
 妻「いや、赤ちゃん産んだばかりで、今はお風呂には入れないのよ」→号泣
 さとる「ママが着替えさせて!」
 妻「今は赤ちゃんのオムツ替えてるからパパに着させてもらって」→号泣
 さとる「靴はママが履かせて! いつもの靴はイヤ! にぃにぃ(長男)と同じがいい!」
 妻「おんなじ靴なんてないわよ。いつもの靴、似合ってるよ」→号泣
 そして千本ノックのように続く
「ママ抱っこ! パパじゃない! ママ!!!」

 振り返って申し上げるなら、これはまあ、立派な「赤ちゃん返り」なんだろうと思います。妻はこの2週間について「記憶が曖昧なくらいキツかった」と言っています。新生児については妻しかできないことが多いうえに、次男のわがままが妻に集中している状況で、そりゃそうだろうと思います。私のほうは、妻のあきらめ顔を横で見なくてはならない無力感は小さくありませんでした。何のために育休取ったんだー! なんてちょっと思ってしまったりもしました。
 そんなわけで、赤ちゃん返りについて、こんな風に乗り越えました、などという教訓めいたことは全然書けません。大変でした。めちゃくちゃに。次男の癇癪はだんだんと減ってはいきましたが、いまでもときどき爆発しますし、比較的順調だったオムツからの卒業は、この時期を境に数週間、いや数か月は後退した感があります。
 ただ、これを「いやぁ、悪夢でした」で片づけたくもないんです。3歳前の様々な変化のなかで、本人も悩んだり、小さな体で日々、格闘したりしているはずです。お箸を使えた、トイレでオシッコができたといっては喜び、紙パックのジュースにストローをさして噴水のようにこぼしてうなだれ、コケて膝をすりむいて泣き、そして新しい家族が加わって、はしゃいで、熱を出して、そこでそれだけではない変化があったことを、嵐が過ぎてくれてよかったと思いつつ、あれは何だったのだろうと、自分で説明できない2歳8カ月に代わって大人が考えなきゃならないんだろうと思います。何度も「赤ちゃん返り」という言葉を使っていますが、本当のことを言えば、そんな簡単な言葉で括りたくもないんです。次男さとるにはさとるの個性があって、はいはい、赤ちゃん返りね、こんなふうに対応すれば大丈夫ですよ、なんて、彼に失礼なんじゃないかと。長男はわりと静かに5人目の家族を受け入れたように見えますが、それだってちゃんと目を向けていないとなと思います。ベタにいえば、それこそ「子育て親育ち」ってことなんでしょう。

 いや、それにしても最愛の息子から「パパ嫌い! あっちいって!」の連打を浴びると、わかっちゃいるけど凹みます。反抗期のことなんて考えたくないです~(涙)

西 靖

西 靖
(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。毎日放送(MBS)アナウンサー。大阪大学法学部卒業後、1994年にMBS入社。『ちちんぷいぷい』(2011年~2021年)、報道番組『VOICE』(2014年~2019年)、『ミント!』(2019~2021年)といった人気番組の司会やキャスターを務める。現在はMBSアナウンスセンター長。相愛大学客員教授。2021年6月から9月までおよそ4ヵ月間の育児休業を取得。著書に『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあ)、『辺境ラジオ』(内田樹・名越康文との共著、140B)、『地球を一周! せかいのこども』(朝日新聞出版)、『聞き手・西靖、 道なき道をおもしろく。』(140B)。

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