おせっかい宣言おせっかい宣言

第53回

女性活躍

2018.12.10更新

 ある集まりで、「ワーク・ライフ・バランス」について8分間でプレゼン資料を使っていいから、話すように、と言われた。ワークが左、ライフが右、で年ごとに記入していくような表もいただいた。こういうことが苦手なのは、よくわかっていた。どこがワークでどこがライフかいつもわからないからである。

 もちろん仕事にもよるのだとは思うので、あまりにいい加減な言い方は避けるべきとは思えど、自分を振り返ってみると、本当に公私混同というか、仕事とプライベートはあまりに深く関わり合いすぎているというか、そんなにきちんと線を引けるものではなかった、としか、言いようがない。もう還暦で、若い方から見れば、それなりのキャリアを築いてきたように見えてしまう年齢なので、適当な言い方をすると、逆に嫌味に聞こえるかもしれない、と思いつつも、あえて書くと、私の仕事や勉強は、それだけで単体で存在したことなどなくて、いつも、「一緒に暮らしたい人」について行くことありき、で、あった。多くの場合、そこで働かないでいられるほど安定した収入の家族生活もなかったから、仕事を探して働いてきた、に過ぎない。

 だいたい25歳以降、つまりはプロとして仕事をするべき大人の年齢になってからの私はほとんど、一緒に暮らしたい男性がいるところに行っていた。20代半ば、ザンビアで働いていたけれど、ともに暮らそうとしていた人が東京に戻ったので、私もザンビアの仕事を切り上げて、東京に帰った。生まれてはじめて東京に住んだが、薬剤師だった私は、免許を使って仕事をすることの恩恵を感じつつ、東京の病院でしばらく働いた。そのあと当時のパートナーが、沖縄に行きたい、というので、琉球大学の大学院に行った。本当は勉強するなら東京にいたいと思っていたのだが、どうしても沖縄に行く、と言われ、何気なく新聞を見ていると「琉球大学保健学研究科」という大学院が突然できており、行きたい大学院ができていて、やることができてよかった。

 そのあとロンドンに一人で行ってしまったことが人生を変えるのだが・・・。それについての詳細は、今は省略。ロンドンに行ったあと、パートナーがブラジルに行く、というので、ブラジルについていけるように、ブラジルでの奨学金とかリサーチファンドを取って一緒に行った。一年後、ロンドンに戻ってくるというので、私もロンドンで仕事を探した。幸いロンドン大学が短期の仕事をくれて、あとは自分でお金を探してきて、大学での仕事が続くようにした。そのあとまた、パートナーがブラジルに行く、というので、ロンドン大学に籍を置いたまま、ブラジルで調査をしたり国際協力の仕事をしたりした。そのあとパートナーが東京にいるので、東京で仕事を探した。研究職で、そのあと現在の職場、女子大に就職することになって、ずっと東京にいることができたことは、とても幸運だったのだ。

 書き連ねていてもとくに自慢になるような話じゃないのだが、つまりは何が言いたいかというと、常に、仕事は「私」の部分に規定されていいて、ワークとライフの間の線はあるようでない、ということなのだった。そしてそのようにして仕事をしていると、今振り返れば、結構ハッピーにやっていけたのである。なんだかわからないけど仕事もプライベートもなんだか一緒にやってしまっていると、犠牲にしているものが限りなく少ないから、でもあるのだろう。

 8分間プレゼンの集まりの当日、何人かの、私よりは若いが、結構な年齢の有職女性たちが同じようなワークライフバランスの話をしており、みなさん私よりずっと立派にワークとライフを説明なさっていたが、どなたも実は似たようなこと、つまりは、仕事とプライベートはそんなにはっきり分けられない、とおっしゃっていたことは印象的だった。ほとんどの女性にとって、ワークとライフはきっとそんなに明確に分けられないのであり、それが分かち難く関連していた、とのちに感じられるほど、ワークライフバランスというものはうまくいきやすかったのだ、おそらく。後付けかもしれないけど。
 
 卒業論文の季節で、毎日4年生のお相手をしている。学生の一人が福井県鯖江市でフィールドワークをしてきた。恥ずかしながら、福井県鯖江市が、「女性活躍」という意味で、抜きん出た指標をお持ちの市なのであることを学生の報告を聞くまで知らなかった。もともと福井県というところは、女性の就業率は53% で全国1位(※1) 、育児中の女性の有業率が81%で全国2位(※2) 、共働き率59%でこちらも全国1位 (※3)、さらに65歳から74歳の女性のボランティア及び社会活動時間が一人あたり全国位1位(※4) 、と並外れた「女性活躍県」なのだが、その中でも鯖江市は女性就業率が県下一位であるというのだ(※5) 。とりわけ20代から40代前半にかけての子育て期の女性就業率は、女性の活躍に関する指標において世界の先進国と言われるスウェーデンを上回ると言われる。

 学生さんはこの鯖江市で、市の関係者や、たくさんの女性たちの話を聞いていくのだが、そこで出た話も、私が言っていたようなこととはレベルが違うんだけれども、要するに「仕事とプライベートは分かちがたい」ような仕事の仕方ができてるところだ、ということであった。人口約7万人の鯖江市はもともとメガネ、漆器、繊維なども製造してきた地場産業の町である。とりわけメガネに関しては、メガネフレームの国内製造シェア96%を誇る、「メガネの聖地」なのであり、就業人口の7人に1人が、メガネ関連製造従業者で、市内にメガネ製造従業社は500社存在し、その半数以下は4人以下の事業所なのであるという。

 要するに、この町は自営業、というか、自分の家で会社をやっている方が抜きん出て多い、小さな商いを中心にしている町であって、家族全員で働いているから、女性たちも自分が経営者であることも多いし、自分が管理職みたいなものなのである。誰かの管理下にあるわけではなくて、自分の家の商売なのだから、自分で時間を采配できるので、子育てや介護や家事の時間は自分で調整しながら仕事ができる。学校行事があれば、休めるし、子どもが具合悪くても家にいるからなんとかなる。また、要するに家族事業所なので、三世代同居率も高いし、ある年齢になったから引退するということもなく、高齢女性も働けるし、嫁や娘の子育ての手伝いなど当然するのである。職住接近、近所もみんな働いているから、地域の結びつきは当然高く、時間も自由に采配できるから、当然、地域活動への参加率も高くなる。ワークとライフは、混在して存在している。

 学生さんがこの鯖江で聞いてきたことは「女の人は昔から働いていたから、今もずっと働いているので、急にほめられるようになってびっくり」しているというようなことだった。この町の女性たちにとって、「働く」とは「よそに働きに行く」のではなく、家で働くことだから、人生のすべてが連関して暮らしが成り立っていて、ここからが仕事、ここからがプライベート、という感じじゃないことがうかがわれた。

 これはどうも、世の中で言われている「女性活躍」社会というより、一昔前の自営業中心だった働き方に近い。女性が働く、とは「会社に勤めに行ってバリバリ働く」だけではなく、一昔前の矛盾を少しずつ解決しながら、「女性がおうちで働くこと」について考えていくモデルの方がよく機能する可能性がある。これは47回で書いたニートと自営業の減少とも、もちろん関わるようなことで、平川克美さんがおしゃっていたような「小商い」(※6) が未来の方向、ということでもある。みなさま、『小商いのすすめ』再読してみませんか。


(※1)総務省統計局 2015 年 『平成 27 年国勢調査』 アクセス日:2018 年 11 月 24 日
(※2)総務省統計局 2017 年 『平成 29 年就業構造基本調査』 アクセス日:2018 年 11 月 24 日

(※3)総務省統計局 2015 年、前掲
(※4)総務省統計局 2016 年 『平成 28 年社会生活基本調査』 アクセス日:2018 年 11 月 24 日

(※5)総務省統計局 2015 年、前掲
(※6)平川克美「小商いのすすめ」ミシマ社、2012年

三砂 ちづる

三砂 ちづる
(みさご・ちづる)

1958年、山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。沖縄八重山で女性民俗文化研究所主宰。津田塾大学名誉教授。京都薬科大学卒業。ロンドン大学PhD(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』『女に産土はいらない』『頭上運搬を追って』など多数。本連載の第1回~第29回に書き下ろしを加えた『女たちが、なにか、おかしい おせっかい宣言』(ミシマ社)が2016年11月に、本連載第30回~第68回に書き下ろしを加えた『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』(ミシマ社)が2020年5月に発売された。

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