ちっちゃい焚き火で「共有」の感覚をとりもどす 小山田徹さんインタビュー(2)

第1回

ちっちゃい焚き火で「共有」の感覚をとりもどす 小山田徹さんインタビュー(2)

2022.10.07更新

昨日よりスタートした新連載「縁食と共有地を探す旅」。この連載は、ミシマ社から刊行した2冊『縁食論 孤食と共食のあいだ』(藤原辰史著)と『共有地をつくる わたしの「実践私有批判」』(平川克美著)のテーマである「縁食」と「共有地」について、それぞれの実践者や、これまさに! という事例をミシマガ編集部が取材・レポートするものです。

第一回にご登場いただくのは、今月からロームシアター京都で開催される「ちっちゃい焚き火(薪ストーブ)を囲んで語らい、いろいろ焼いて食べる会」の企画監修を務める、アーティストの小山田徹さん。ロームシアター京都の松本花音さんにも同席いただき、お話を伺いました。前編につづく後編では、今回の焚き火が実現することになったある出来事や、小山田さんが今いちばんやりたいこと、焚き火に「参加」するとはどういうこと? そんなお話をうかがいます。

(取材・構成:野﨑敬乃、撮影:大堀星莉)

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小山田徹(こやまだ・とおる)
アーティスト。京都市立芸術大学美術科(彫刻専攻)教授。1961年鹿児島に生まれる。京都市立芸術大学日本画科卒業。84年、大学在学中に友人たちとパフォーマンスグループ「ダムタイプ」を結成。ダムタイプの活動と平行して90年から、さまざまな共有空間の開発を始め、コミュニティセンター「アートスケープ」「ウィークエンドカフェ」などの企画をおこなうほか、コミュニティカフェである「Bazaar Cafe」の立ち上げに参加。

醸し屋さんからじわじわ変わっていく

――ロームシアター京都で10月8日からはじまる「ちっちゃい焚き火」のプロジェクトが動きはじめた経緯について伺いたいのですが、今年の2月に、ロームシアター京都主催でおこなわれた小山田さんと藤原辰史さんの対談[*]がきっかけだったと聞きました。

*2022年2月20日(日)開催。『いま』を考えるトークシリーズVol.17 「縁食」のススメ―ゆるやかに集うコミュニティの可能性(レポートはこちら

小山田 あの対談のときに、対談の主催でもあり、「ちっちゃい焚き火」の主催にもなってくれた、ロームシアター京都の松本さんがいてくれたおかげです。ロームシアター京都の関係者がいる状況で、僕がこれまでの「焚き火」プロジェクトについて発表して、「焚き火やりたいよね!」という藤原さんとの対話があって、その場の観客も全員が「うん、うん」とうなずいている。あの状態があれば、なにかをスタートするエネルギーはでるじゃないですか(笑)。

――私もその対談を聴きに行きました。あの場の一体感はすごかったですね。

小山田 だから、「ハーメルンの笛吹き男」みたいなものだと思うんですけど、マジックにかけるような。藤原さんもそういうタイプだと思うんです。言葉がマイルドで、ぶれてなくて、やわらかい。けど、的を射ている。そういうのって、心を動かされるじゃないですか。あの場の空気がそうさせたと思うんです。

――まずあの対談の場があって、実際の「ちっちゃい焚き火」につながった。小さな革命を起こそうと思ったとき、まずは実践の前の段階が、多くの人たちにひらかれているのは大事ですね。

小山田 そう。いろんな入り口を用意しておいて、各所からちょっとずつせめる。それで機が熟したらぽんっとできあがるんです。だから、けっこう僕は気長な人なんですよ。ものごとひとつは最低でも10年かかると思っている。実際そのぐらいのサイクルなんです。焚き火に関わりはじめてからも10年以上経っているし、なんとなく機が熟したり、時代が追いついてきたり、そういうふうに定着していくものってあるような気がします。

――10年ぐらい構えてやるのと、端的にすぐ結果を求めてしまうのとでは、同じことをやったとしても、結果の捉え方がまったく異なりますね。

小山田 藤原先生や僕のような、研究や知識に関わる仕事をしている人たちは、じつは「醸し屋さん」みたいなものですよね。触媒や酵母のように、それ自体が食えるわけではない。でも物事を変化させていく要素の一つです。酸素や二酸化炭素など、まわりにあるものを使って、反応を促進させる役割がある。ただ、「反応」なので、一挙に何かが変わるわけではないんです。じわじわと変わっていき、なんなら熟成の期間も必要じゃないですか。そういう役割をするのが僕らの立場で、今回の「ちっちゃい焚き火」にしても、スタートは切れるんですけど、こういうことが持続的に行われる中で、どういうものに変わっていくかという視野を持っていないと、一過性のイベントで終わってしまう。

 今回やるイベントを継続せよ、ということではなくて、ここで得られたことを次に翻訳する役割が必要なんだろうなと。それには出版は深く関わっている気がしていて、人々のあいだに経験とか感覚を共有できるものに変えるという役割。それは醸し屋さんのグループの一つだと思います。

焚き火のその先

――小山田さんのお話を聞いていると、「焚き火」を通して、小山田さんが見ているちょっと先の未来が気になります。いま小山田さんの関心はどこに向かっていますか?

小山田 いま具体的にいちばんやりたいのは、子どもたちとの散歩です。最近ちょっと夢中になっている言葉で、「ワンダリング」というものがあって、迷うとか、彷徨うとか、放浪するという意味があります。

 脳科学の世界では、脳が認知したものを記憶に変える回路のあり方が、「ワンダリング」と呼ばれていて、なにかを見たり経験したとき、認知はしているんですが、それが直接記憶に入るわけではなく、とりあえずいろんな脳の回路をたどって、とんでもないものと結びつきながら、最終的に記憶としてしまわれたりする。とくに寝ているあいだ、ものすごく行ったり来たりするみたいです。ある匂いを嗅いだときに突然思い出す何かがあったりとか、触ったときに過去の記憶が蘇ったりする、それはワンダリングという脳の仕組みによるらしいんですけど、子どもたちと共有したいのはまさにそういう感覚ですね。

「無駄話って楽しいやん!」ということを、当然大人たちとも共有したいし、焚き火はそれが誘発される場所でもあるんですけど、とくに無目的な散歩を他者と一緒にやるときは、同じ方向を見ながら訪れてくる状況があるので、話題が尽きないですよね。ものすごく心地いいし。

 でも、そういう楽しさや心地よさは、いまの子どもたちが置かれている教育の場からは完全に取り除かれています。目的を設定して、それに到達する。与えられた課題をこなす。そういう教科の設定と教育しかなく、教科同士も連結してなかったりするじゃないですか。

 大学も昔はわけのわからない知のジャングルの中に入って、いろいろ経験してみて、自分でそういうものに出会う感覚というのをつくれたんですが、国の方針でどんどん別の方向に行ってますよね。

 子どものころからの経験の中に、無目的な遊びが楽しいとか、遊びでない遊び、約束しない遊びができる環境というのが必要で、ふらっと集まって、ふらっと起こった出来事を喜びあう、それがいちばん楽しい瞬間やねん。

 いま興味あるのは、そういう感覚の世界をどうやったら自分たちは獲得し直せるのか、ということですね。簡単にいうと「教育」という分野に近いことかもしれないですが、僕らの世界の捉え方を深めたり共有したりする、ということをしたい。それには美術が深く関わっていると思うんです。だから、とにかく無駄話がしたいです。

――最高です!! でも、無駄を大事にすることは最高だ、と思うと同時に、「はい、無駄は大事です。ではいまから無駄話しましょう!」となるのもちょっと変というか、嫌というか、世の中には、そういう流れもありますよね。

小山田 本もたくさんありますね。

―― そうじゃない方法でなんとかしないといけないし、相当難しいことだと思うし、時間もかかるだろうけれど、すごく大事なことですね。

その行為が選ぶ、適切な人数がある

小山田 だからこそ、散歩か焚き火、やねん。でもそれも、適正な人数というのがあって、それは、その行為が選んでるんです。焚き火にも適正な人数があるし、だれかと一緒に歩くときも適正な人数があると思っていて、それは、「イベント化」しないための歯止めになっている気がします。

――今回のプロジェクトのタイトルにも「ちっちゃい」とあり、小山田さんはコラム(「焚き火について」)にも「大きな焚き火より小さな焚き火の方がより有効だと思うのです。大きな火は強力な陶酔感と高揚感を与えますが、支配力が強すぎて個々の対話には向いていません。5、6人が囲うぐらいの火が丁度いい感じです。人が多い時は、小さい火が沢山あればいいのです。」と書かれていましたね。やっぱり細かい設計と、だからこそひらかれる自由さはセットなのだな、と感じます。

小山田 「選ばれた人しか参加できないのか」という声に対しては、社会にたくさんの種類があればいいだけの話で、選択肢がひとつしかないのが問題なのだ、というところに論点を持っていきたいんです。

 これまで私自身がやっていることごとのほとんどは、パテントがない状態のものをわざわざ選んでいるような気がしています。「おべんとう」にしても、「焚き火」にしても、「歩く」にしても、だれにとってもあたりまえのことじゃないですか。

 表現化しているけれど、作家として見られるけれど、自分がやっているものたちは、個人の作品でもないし収蔵されるべき対象物でもないので、それぞれがアレンジしてやっていくようなものを選んでいるような気がします。

焚き火にぜひ「参加」してください!

――ロームシアター京都で開催する「ちっちゃい焚き火」の本番がもうすぐです。参加してみようかな、という方に向けて、ぜひロームシアター京都の松本さんからもメッセージをお願いします。

松本 ロームシアター京都の中庭(ローム・スクエア)を中心に「OKAZAKI PARK STAGE」の企画をするのが今年で4年目です。2019年から毎年この場所を使って企画を繰り返していくと、地元の方やお客様のほうから「今年は何をするのか」と聞いていただけるようになりました。聞いていただけるのはとても嬉しいですが、同時に場所やコンテンツが「消費されていく」感覚もありました。

 この場所は、もともとは共有空間であり、だれもが通り過ぎる場所であり、ここを目的としない人もいる場所なので、劇場側としては、ここをどういう場所にしたいか、していこうか、という関わり方に企画自体を変えていくほうが健康的なのではないか、と思いました。なので、今年はこの企画としては初めて、明確なステージも組んでいないですし、「ハレ」と「ケ」のように特別な時間とそうではない時間を分けることをしたくないと思ったんです。

小山田 それはすごく重要なポイントですね。

松本 だから全体として、企画の毛色がこれまでと異なっている部分はあります。
「今回、ステージはありません」と言うところからはじまって、そうするとやはり、いままで演者としてやってこられた方々は戸惑われます。「ステージはありません。でも広場はあるから、踊れます」ということを言っているんですが、なかなかすぐには伝わらない。場所の使い方や「ここはこういう場所だよね」という認識を固定するのがあまりよくないと感じてこういう形式にしたのは今年が初めてなので、チャレンジの年です。

「ちっちゃい焚き火」に来てくださる方たちは、そういう場所を一緒につくることに興味を持ってくださる方が多いと思うので、場所や時間、体験のあり方を一緒につくっていくような、共犯関係に近い、そんな仲間になりたいという方々に、集まっていただけたらいいなと思っています。それから、やはりその中にもルールがあるはずで、自治のルール、信条、そういうものを一緒に考えていけたらと。

――ありがとうございます。小山田さんからも、ぜひお願いします!

小山田 集客イベントではないので、サービスが至らないことがいくらでも起こりうるんです。「座れないじゃない」とか、「ちょっと子どもが多すぎひん?」とか、いろんなことが起こると思うんですが、そういうことこそを、その場のみんなで考えながら解決したいんです。困ったなあということが起きたり、ご意見を言ってこられる人が現れたときに、さあどうしよう、ということを常にみんなで考える。しかも、攻撃的にではなく、受け止めながら、よきものに変えていく方法を、考えたい。会話しながら考えて、実行できる、そういう集まりになっていくことを願っています。

 ベビーカーを押した人が来た瞬間に、あ、あの方どこにいくやろ、とか、そっち風下やで、とか。もう腰を浮かしている人がいたりとか。みんなが考えはじめる。でも正解はないんです。トライアルができて、それでもし失敗が起きたとしても、責める社会じゃない、次を提案しあうとか、そういう関係性がつくれる人々の集まりになりたいなと思うので、ふらっと来てもらって、そういう意味で参加してほしいです。

――小山田さんのような主催する立場の人がそういう態度だと、参加する側にも仕事がある、やるべきことがある状態というか、不思議な感覚です。みんなで「挑む」わけではないんですが、みんなでつくっていく余地がのこされているところに、予定調和ではないおもしろさですね。

小山田 僕はよき時間とよき風景をつくりだしたいので、そのためにはなにが必要かを常に考えている感じです。今回参加していただく方は、ここでのよき風景をつくることを担って、果たして欲しいです。

――小山田さんと松本さん、それぞれの立場で、それぞれの考えと思いがあって、それがうまくクロスして、場が生じる。みんながみんな同じ思いや目的ではないからこそ、関わり方が、もっとほかにもいろいろ生じていくのだと思います。おもしろかったです! ありがとうございました。ぜひ、読者のみなさま、ちっちゃい焚き火を囲んで語りましょう!

(終)

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OKAZAKI PARK STAGE 2022/ステージ インキュベーション キョウト
ちっちゃい焚き火(薪ストーブ)を囲んで語らい、いろいろ焼いて食べる会

◎開催日時・会場

2022年10月8日(土)、10月15日(土)、10月22日(土)、10月30日(日)
各日17:30~20:30
会場:ロームシアター京都 ローム・スクエア
定員:約70名(7名×焚き火10か所)
※雨天・荒天の場合は中止いたします。

◎問い合わせ

ロームシアター京都 TEL.075-771-6051(代表)

詳しくはこちら

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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