第1回
「時間の裁量権」と「居場所」を考える
2018.04.21更新
2017年1月、「しごとのわ」というビジネス書レーベルを、インプレスさんとともに立ち上げました。仕事の一部のみ(お金儲けとか)を取り出すのではなく、生活の延長線上にある仕事の「わ」をひろげることで、働き方や生き方を探るレーベルにできたらと思っています。
おかげさまで、創刊から1年と少しで9冊の本が発刊されました。このコーナーでは、「しごとのわ」をもっと知っていただくべく、新刊や既刊のお知らせ、しごとのわ編集部が最近考えていることなど、つれづれにお届けしてゆきたいと思います。
ミシマガジンリニューアル後、最初の今回は、レーベル1冊目『生きる場所を、もう一度選ぶ』と、レーベル8冊目『会社をつくれば自由になれる』のご紹介です。先日青山ブックセンター本店で行われた著者の小林奈穂子さんと竹田茂さんのお話の一部と、書籍からの抜粋を合わせてお届けします。
それぞれ「移住」と「起業」について書いていただいたお二人の著書に共通していたキーワードは、「時間の裁量権」と「居場所」でした。
時間の裁量権をもつということ
オンもオフも自分で決めればいい。土からは遠い、誰かに用意されたものの中で生きていることに変わりはなくても、時間の使い方の裁量を引き取ったら、景色が変わりました。
『生きる場所を、もう一度選ぶ』p185
中年起業はカネをゴールにしてはいけない。そもそも、さほど儲かるものではない。むしろ重要なのは、長く続けることである。そして、裁量権が100%自分自身にある自由を楽しめるかどうかに尽きる。
『会社をつくれば自由になれる』p56
小林 たとえば、いまこの瞬間、デスク上で仕事をしているよりも、映画に行ったり公園に行ったほうが、仕事のためにすらよいと確信していたとしても、やはり会社勤めをしていると、その通りに行動するのは難しいですよね。働き方について誰かに指図される立場ではなかったとしても。起業してそこが自由になったことは、想像以上に大きくて。もちろんラッシュアワーに通勤電車に乗らなくていいですし。そうしたら、東京を好きになってきたんですよね。
竹田 最近仲間内で話題になっているキーワードに「贅沢」っていうのがあるんです。「贅沢」というと今まで、物質的な希少性について言われていたんですね。たとえばダイヤモンドとか。でもそれは団塊の世代がつくりだした幻想で、今後は、時間的な希少性を意味するようになっていく。それは今、小林さんが仰ったみたいに、好きな時間に映画を観に行くこととかを含めて。
なので、いわゆる「働き方改革」の長時間残業がどうしたということを、外部から言われるのは、余計なお世話ですよね。働きたければ働けばいいし、眠たければ寝ればいいわけですから。好きなことをやっていれば、長時間でもつらくない。重要なのは、時間の裁量権をいかにして持つかということで、そのためにはやはり、会社をつくるしかないのではないのかな、と思うんですよね。
人生100年を見据えて、あらためて居場所をつくるということ
いまの居場所を「ここしかない」と考えることは、ときに人をとても苦しくさせると思います。選択肢があると知るだけで、視界が開けることもあります。自分の生きるべき場所を見いだし選択肢を示してくれる人たちに、深く共感する所以を、私自身はそのように感じています。
『生きる場所を、もう一度選ぶ』p3
"居場所"は、仕事とは何かという根源的な問いに答える時に必ず登場する重要なキーワードだ。仕事とは、互恵的であるほうが上手くいくことを発見した人類が行う行動のすべてである、と言ってもいいだろう。・・・つまり、「あ、俺はここにいていいんだな」ということを確認できることこそが仕事にほかならない。
『会社をつくれば自由になれる』p210
小林 私の場合は、転職という形でそのときどきの居場所を手放すことへの抵抗感はかなり低いほうだと思います。実際、業種を問わず転職が多いほうです。なぜかと自分を振り返ってみると、子どもの頃に学校という場所でうまくやれないときがあって、それでも他の環境を選べないということが、すごくしんどかったんですよね。だから大人になって、ここがだめでも、もっと自分に合うかもしれない別の場所を探せるって、なんて素晴らしいんだろうと思ったんです。そんなことも影響しているかもしれません。
会社を辞めたり、住む場所を変えたりを決断するのには、もちろん勇気がいるんですけど、やってみるとそれほど怖いものでもないし、リセットすることでキャパシティが増えたりもするので、自分を偽りながらしがみつくのが一番だめなんじゃないかな、と経験的には思っています。私の本に登場する移住した方たちも、みなさんそうやって、手放してひろがっている感じがします。
竹田 居場所っていうのは、心理的な空間なんじゃないかな、と思うんですよね。物理的な場所というよりは、相手から「ここにいてほしい」と思われるかどうかなので、残念ながら自分で決めることはできない。それをどうやって獲得していくかというのが、仕事ということなのかなと思いますね。
必ずしもたくさんの人に「いてほしい」と思われる必要もなくて、一人の人に強く求められるのでもいいのかもしれない。こちらの受け皿としての懐の深さも必要になってきますよね。
いかがでしたでしょうか。気になる言葉があった方は、ぜひこの2冊を手にとってみてくださいませ!
小林 奈穂子(こばやし・なおこ)
合同会社みつばち社 プランナー兼ライター。 北海道出身。2名のユニットからなるみつばち社の 1号で、小野寺洋(現ロンドン在住)と共 に活動している。海外をめぐり、複数の職場を渡り歩いたのち、化粧品メーカーでバスストイ レタリーブランドの立ち上げ・店舗展開にかかわる。前職の10年間では、大手企業のCSR 関連企画を多数プロデュース。並行して情報発信のための企画・設計を手がけ、以降数百 本の取材のディレクション、ライティングを担う。2013年にみつばち社として独立。立ち上げ 以来"small is beautiful"を掲げ、主に小規模な自治体や企業、NPOなどの、小さいからこ その魅力を引き出して伝えるコミュニケーションデザインに取り組んでいる。
竹田 茂(たけだ・しげる)
1960年生まれ。新潟県上越市出身。日経BP社にてBizTech(現在のnikkeibp.net)の立ち上げを皮切りに同社の様々なインターネット事業の企画・開発業務を統括、「日経ビジネスオンライン」など主要ビジネスメディアや様々な実験的メディアをプロデュース後、2004年にスタイル株式会社を設立。およそ年に1本のペースで主にB2B分野にフォーカスしたWebメディアを創刊・運営。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997~2003年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社、2003年)など。起業したくない人の起業術について情報を発信している「42/54」プロジェクトも主催。
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