第11回
「関わりしろ」をつくり、お客さんを主役にした売り方(2)
2020.03.12更新
2020年1月23日、『ほどよい量をつくる(しごとのわ)』の出版を記念して、「僕たちがこれを選ぶ理由。これからの売る・届けるを考えよう」をテーマに、下北沢の本屋B&Bにてイベントが開催されました。
ゲストのALL YOURS代表の木村まさしさんと、ブックマンションの中西功さんは、『ほどよい量をつくる』の本や連載でスポットを当てた方々。「つくる量と価格」「お客さんとのつながり」「届け方」という3つの柱のうち、「お客さんとのつながり」と「届け方」に特色のある展開をされています。木村さんはアパレルブランドとして、中西さんは新しい形の本屋さんとして。
お客さんとの距離感、オンラインとリアルの使い分け、「余白」の作り方・・・。初対面とは思えないほどドライブしていくお二人のお話に、会場のお客さんがぐんぐんと引きこまれていくのを肌で感じました。お話の内容を、2日間にわたりお届けします。(文・編集部)
決済はどこからでもオンラインで。リアルの接点を増やす
甲斐 いま木村さんはリアルのお店に加えて、EC(Electronic Commerce)、クラウドファンディングと、お客さんと接するチャンネルがいくつかあると思うんですけど、それぞれの役割とか位置づけについて考えてらっしゃることはあるんですか?
木村 今はオンラインでの販売がメインなんですけど、オンラインとオフラインを分けて考えていなくて。どこで買っても結局、決済は同じなんですよ。お店に来られてもオンラインで注文していただいて後日送るスタイルなんで。どううちの服を体験してもらうかを重視していて、決済はその次なんです。
甲斐 対面かどうかはあまり重視していない?
木村 ただ洋服って着てみないとわからないし、手に取って見たいという人が多いので、オンラインで注文しても自宅で試着できる制度を作っています。リアルでどううちの服を体験してもらうか。その1つの試みとして、47都道府県でイベントを行う企画を始めました。まだあと2県残ってるんですけど、去年は93箇所でやって。
甲斐 それ以前は、オンラインのクラウドファンディングなどで販売することが多かったですよね?
木村 最初はお客さんを切り捨ててたんですよ、わざと。「オンラインで決済できる人しか買わなくていい」と思っていたんで。でもその人たちが「これ着たらすごくよかった」と広めてくれるようになると次の層に届いて、実物を見たい人も増えて。それで池尻大橋にお店を作りました。
でもお店には在庫を置かないと決めています。在庫があると、売りたくなっちゃうので。こっちにはそんな気が無くても、お客さんが押し売りに感じてしまうことが、絶対にある。
甲斐 普通アパレルのお店に入ったら、すごく声をかけてくるじゃないですか。ALLYOURSさんに行ったとき、確かにそれが無いなと感じました。
木村 プレッシャーが無い状態で、こころゆくまで試着してもらえるように。うちはパンツが一番履き心地がいいんですよ。でも試着するのめんどくさいでしょ。だからそれをお願いするために押し売りはしないようにしてるんです。別にそのとき買わなくてもいいんですよ。のちのちパンツを買いたいな、となったときに、うちを思い出してもらう状態をどう作るかということです。
甲斐 それにしても、47都道府県試着会をやろうと思っても、一つ一つ打診していたら大変ですよね。でも木村さんは、こういうことやりたいんだけど・・・ってつぶやくところから全プロセスをオープンに見せているから、向こうから「うちにも来て欲しい!」って声をかけてもらえる流れができていましたよね。
木村 そうですね。僕らがイベントやったのってほとんど洋服の販売店ではなくて。コワーキングスペースやゲストハウス、本屋さんとかカフェとか、その町の拠点になっているようなところ。そういうところに集まる人たちって、知っている人からものを買うって感覚の人が多くて。その時に顔が見えてるかどうかって差があるでしょ。
甲斐 確かに。本でも紹介しましたけど、ろくろ舎という漆器を行商スタイルで売っている方の話で、全国いろんな場所で販売会をやったけど、徳島県の素麺工場で一番売れたって話が印象的でした。それってイベントの主催者にその地域内で信頼があるので、この人のやるイベントなら...って人が集まっているからなんですよね。人通りが多い場所かどうかはあまり重要じゃないというか。
木村 そうそう。今ってもうウィンドウショッピングって終わったと思っていて。みんなすごく調べた上で来るので、一から商品の説明されると逆にうざいんですよね。それより、お客さんと仲良くなることの方が大事。
お客さんを主役にする
甲斐 なるほど。中西さんもブックマンションをオープンする前は、建物の改修している時からその様子をツイートしてらっしゃいましたよね。
中西 そうなんです、一人では何もできなかったんで「手伝ってくれる人募集!」って投稿して、知らない人でも手伝いに来てくれる人がいたりして。完成してからオープンしましたっていうよりその方が面白いかなと。無人の本屋さんでも、本を寄付してくれるって話のさらに先があって。数ヶ月後に自分が置いた本が売れていなかった時に「すみません」って謝られたことがあったんです。その人が売れる本を寄付できなかったことに責任を感じてくださってるんですよね。僕以上にお客さんの方がお店に興味を持ってくれているんですよね。
甲斐 すごい話ですね。お客さん同士の間にも、コミュニティができていたりしますよね。
中西 そうですね。ブックマンションの行われるイベントも僕が考えるよりお客さんのやりたいとことを実現した方がニッチで面白いものができるんです。数学好きな人が7人くらいで集まって、過去に出題された東大の数学の入試問題がどうとかって話で盛り上がったり。お客さん自体をコンテンツにしちゃうというか、主役として立ってもらうというか。
栃木県から毎月来られてる人がいるんですけど、その方がカープファンでカープについて話せる相手がほしいってことでイベントを企画されて、じゃあ面白そうだからやりましょうって。店だと場所代もかからないので。集まったのは5人くらいですけど、みんな話しながら涙ぐんでるんですよ。ニッチだからこそ、熱量が高いというか。お客さんも、サービス提供者も関係なく交われるってことが重要なのかなぁって思いますね。
お客さんが広めやすいネタを提供する
甲斐 お客さんと一緒にお店やブランドをまわしていくってそれだけ聞くととても素敵な話に聞こえるんですけど、経営的な視点から「今月の顧客増加率はこれくらいで、もうちょっと上を目指そう」みたいなことを社内ではやられているのでしょうか?
木村 KPI(Key Performance Indicator)という、組織において一番重視する指数をさす言葉があって、あとお客さんが自社のことを言っている投稿のことをUGC(User Generated Contents)って言うんですね。で、うちのKPIはUGCなんですよ。何人の人がうちのことを言っているか。これが増えていけば増えていくほど、バイラル(口コミを利用し、低コストで顧客の獲得を図るマーケティング手法)が強いということなので。
甲斐 それを増やすのが、一番難しいんですよね。
木村 そう。だってそこはコントロールできないでしょ。
甲斐 はい。だから大企業とかはお金を投下して、なんとか書かせようとしていますよね。
木村 そうそう。でもそうじゃなくて、純粋な投稿者をどう増やしていくか。でもこれって、すっごく簡単なんですよ。
甲斐 おっ! 教えてください。
木村 お客さんが言いたくなるようなネタを提供するのが、オフィシャルアカウントの役割なんです。ということは、お客さんのことをよく知っていないといけないんですよ。それができれば、勝手にお客さんが広めてくれるんです。
うちの営業時間の案内って、シャッターにマグネットで貼ってあるんです。それをオンラインショップで売ってるんですよ。
甲斐 え(笑)?
木村 「お店のシャッターに貼っておいたら3回ぐらい盗まれたんで、ニーズがあると思って販売します」って言ったらみんなおもしろがってくれて。1枚も売れないですけど(笑)。でも「こういうことをやるブランドっておもしろいよね」みたいなことを言ってくれると、またその投稿から人が入って来るから。
甲斐 なんだかイタズラ感があって、おもしろいですね。そういうお客さんが喜ぶようなことを仕掛けていくってことですね。うわさの力を借りるというか。
「関わりしろ」から、関わる価値のあるものへ
甲斐 お二人ともお客さんを主役にしながら、という点は共通していると思うんですけど、ALLYOURSさんならALLYOURSさん側に、強烈に発信しているメッセージがあるから、それが成立しているようにも思うんです。中西さんで言えば「本屋を増やしたい」「シェアして本屋をやりたい」という想いが柱としてあって、それにお客さんは共感する、安心して楽しんでいる、というところがあるのかなと思うんですけど、それについてはどう思われますか?
木村 音楽でいうと、どのコミュニティに属しているのか?を意識できているミュージシャンは成功するって話があって。つまりお客さんがどういう相手かをよくわかっていて、そのコミュニティに対してコミットしている人たちは強いと。不特定多数っていないって話だと思うんですね。
甲斐 それって、マーケティングとして言われる何十代、男性とかいう話ではないわけですよね。
木村 そうです。昔はパンクロックが好きだったら細いパンツをはいて革ジャン着てたらそれだってわかったけど、今ってそうじゃないですよね。パンクが好きでも格好は普通で、食物はオーガニックが好きとか。人が多面的になっている。なので、僕らがお客さんに近づいていって、よくどういう人たちかを知らないと、誰に向かって発信するのか、誰にいいと言ってほしい商品なのかがわからなくなっちゃうと思っています。
中西 僕の場合は、無人の本屋にしてもブックマンションにしても、「どんな本屋ですか」と聞かれたときに、「僕の解釈ではこうです」とは言えますけど、答える人によってそれぞれ違う解釈のほうがいいなと思ってるんです。結局、僕が「こうです」と定義してしまうと、その形に固まってしまうけど、「関わってくれる人たちの、関係しているものの集合体」としてブックマンションというものがあればいいなと思っていて。
木村 今って誰でも発信できるし、なんでも言えるわけじゃないですか。そうするとお客さんが編集してくれることに価値がありますよね。自分が思ってもいないような見方をしてくれたり、商品も全然想定していない使い方をしてくれる人がいたりとか。
甲斐 「関わりしろ」があるってことですかね?
木村 そうですそうです。もはや自分たちがブランドをやっているというより、お客さんと一緒に売っている感覚の方が近いというか。だからうちではお客さんのことを共犯者って呼んだりするんですけど。今の時代って信じられる宗教観みたいなものがなくなって、もっと身近に信じられるものが求められているんじゃないかと思ったりするんです。アパレルでもお客さんに何を信じるかとか、関わる価値みたいなものを提供できるんじゃないかって思ってるんですね。買い物は投票だって言いますけど。そういう意味で支持される、面白がってもらえるブランドでありたいなと思います。
編集部からのお知らせ
「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!
大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、
成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前とい
そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」