【第38弾】電子書籍リリース記念、木村俊介さんの著作をご紹介します!
2023.08.16更新
こんにちは。編集チームのスミです。
今月、木村俊介さん著『善き書店員』『インタビュー』の電子書籍をリリースしました。
本日のミシマガでは、私スミがこの2冊の魅力をご紹介いたします!
この時代における「インタビュー」という営みの可能性と、それを通して聞こえてくる人の声について、深く深く潜って味わえる珠玉の2冊です。
善き書店員
この時代において「善く」働くとはなにか?
現役書店員6名へのロングインタビューを敢行。その肉声の中から見つけ、考えた、体を動かし普通に働く人たちが大事にするようになる「善さ」とは――。
肉声が聞こえてくる、新たなノンフィクションの誕生。
「話をうかがいはじめたら......すぐに、ああ、こういうゴツゴツとした手ざわりのある体験そのものを聞きたかったんだよなという手応えがあった。この分野ならずとも多かれ少なかれ抱えているものに、「書店員」という職業を通してさわっている気がした。いまの働く日本人にとって「これはあなたの悩みや思いでもあるかもしれないですよ」といいたくなるような声がたくさん聞こえてきて取材に夢中になったのである。」――最終章より。
木村俊介さんの職業は、インタビュアー。さまざまな人にインタビューをし、声を受けとめ、文章に綴る仕事を、二十数年間つづけてこられました。
そんな木村さんはミシマ社から『善き書店員』と『インタビュー』という2冊の本を上梓されています(※クリープハイプ著『バンド』でも、木村さんは「聞き手」として本づくりに携わっています)。一冊めの本書は、「働く人」へのインタビュー集です。
お話を聞く相手は、全国の書店員さん。6名のプロフェッショナルに、じっくりとロングインタビューを行いました。
出版社で働く私は、この本を読みはじめるとき、書店員さんの日々の仕事の内容や、書店から見たときの出版業界や社会の姿、また、それぞれの方がどういった心構えややり方で仕事をされているのか、といったことを知りたいという気持ちでいました。
実際に読み終えてみて、たしかにそういったことにも存分に触れることができたのですが、それだけではなく、予想もしていなかった感覚が自分のなかに残りました。
それは本書に綴られている「仕事の話」の温度が、スキルを身につける、経済や産業についての知識を得る、モチベーションを上げる名言に出会う、といった、論・情報・ハウツーとはまったく違うもので、しかし、仕事している自分自身の切実さにもっとも近くで寄り添い、「善く仕事していく」という道を示してくれるものだったからです。
どんな仕事も、仕事であるからには成果や結果を出さなければなりませんが、この本にはそうした意味での職業人のキャリアが記録されているという以上に、うまくいくこともいかないことも含めて、日々ひたむきに淡々と働きつづけてきた人の姿が書かれています。
ひとりひとりの書店員さんの語りは、40~60ページにわたって続きます。みなさん第一線で活躍されている方ですが、その声は訥々としていて、決して成功譚を語るのではありません。日々誰にも言わずにつづけてきたようなことや、素朴な楽しさ。そして、「不況」「厳しい」といわれる業界で、どうであれ働こうとしてきた身振りそのものが滲み出ています。弱いひとりの強さ、というようなものが、「善く」働く人の姿として伝わってきました。
仕事は、結果を着実に残すべきものであると同時に、毎日くりかえし、やりなおしていくものでしかなく、また、自分ひとりでは到底コントロールできないものにも晒されながら続けていくものなのかもしれないな、と私は最近感じています。だからこそ、「善く」あるということが働くことには欠かせないのだと、本書から学びました。
インタビュー
えんえんと、えんえんと、えんえんと、
訊 く。纏 める。インタビューとはなにか。
インタビューになにができるか。
インタビューをし続けていると、人は「誰」になるのか?インタビューとはなにか。この問いを出発点に、著者は途方もない旅に出る。
「道具」としての便利さ、使い方を懇切丁寧に伝えたあと、新たな問いを自らに課す。――その道具を使い続けると、世界や社会がどのように見えてくるのか。
「帰ってこられない」危険を感じつつ、「捏造や支配」が横行する現代においてインタビューだけが果たせる役割を見出していく。「植物的」とも言えるスタイルで綴られた異作ノンフィクション、ここに誕生。
『善き書店員』とぜひあわせて読んでいただきたいのが、こちらの『インタビュー』です。
本書は木村さんが誰かを取材する企画ではなく、自身が続けてきた「インタビュー」という営み・仕事・生き方について、とことん深くまで潜って綴った一冊です。
私は『善き書店員』を読んだあと、「こんなふうに、生活者の『普通でほんとうの姿』のようなものを取材で引きだし、受けとめ、綴ることは、どうすれば可能なのだろうか?」「取材することや書くことについて、木村さんはどんなことを考え、求めてきたのだろう?」という疑問をもちました。そして、本書を読むことにしました。
本書は、趣味や仕事としてインタビューをしている人や、してみたいと思っている人への手引き書でもあります。まず第一章「道具としてのインタビュー」では、依頼の仕方、準備、質問のつくり方、取材中の立ち振る舞いなどについて、著者が過去の経験を存分に生かし、血の通った実践的な言葉を綴っています。
そのうえで、第二章「体験としてのインタビュー」では、著者がインタビューをする人生を送ってきたことによって、どんなふうに世界を見、何者になっていったのか、また、今の時代の「言葉」を取り巻く状況(危機)のなかで、「インタビュー」が果たせる唯一無二の役割とはなにか、に迫っていきます。
入門書や実践書でありながら、ある仕事をこつこつと継続し探求しつづける人の「境地」にも触れることのできるノンフィクションになっているのです。
これらの文章は、著者が、自分しかたどり着いていない場所で見ている景色を、ぎりぎりのところで言葉にするようにして書かれています。ひとたび本を開けば、するするするすると、とめどなく、著者の頭の中に引き込まれていきます。渦の中に巻き込まれるような、こんな読書体験ははじめてだと、私はハラハラしながら読み進めました。
特に私の胸に残ったのは、木村さんが本書のなかで、何度も「暴力」という言葉を使っていること。ままならない、修羅場といっていいようなこの世界のなかで、それでも捏造や偽善や虚飾ではない言葉を聞き、見つけ、受けとめ、届けることは可能なのだろうか? そんな問いにピンときてくださった方には、是が非でも読んでいただきたい一冊です。
切実な実感が打ち明けられているとともに、本や言葉を愛する人には響くにちがいない、まぶしい可能性の書でもあります。
これからも、電子書籍、ライブ配信、アーカイブ動画、そしてもちろん紙の本。さまざまな形で「おもしろい!」をお届けしてまいります! 来月も、どうぞお楽しみに。