第7回
『銀河鉄道の星』発刊記念対談 後藤正文×名久井直子(2)
2018.11.22更新
ついに本日、『銀河鉄道の星』(宮沢賢治・原作、後藤正文・編、牡丹靖佳・絵)が発売しました! 発売を記念して、著者の後藤正文さんと、装丁を手がけてくださった名久井直子さんの対談を2日間にわたり、お送りします。
一昨日掲載した「あとがき」からさらに踏み込んで、後藤さんがなぜ、宮沢賢治を新訳しようと思ったのか、そして子どものころから宮沢賢治の作品に触れてきた名久井さんは、今回何を感じられたのか? たっぷりとお届けします。昨日の前編にひきつづき、対談後編をお楽しみください。
(聞き手:三島邦弘、構成:星野友里・須賀紘也、写真:三枝直路)
真面目なのもくだらないのも自分
後藤 初めて真面目な本を作ったからなあ。落差ね。『凍った脳みそ』との。
名久井 同じチームでつくっているとは思えない(笑)。
後藤 『凍った脳みそ』は破滅的にくだらないですからね。最近「おもしろかったです」って言われるたびに謝ってます。
名久井 でも後藤さんのことが身近に思えて、好きになると思う。後藤さんが書かれた本だと、『何度でもオールライトと歌え』はまだ真面目だったんじゃないですか。「ミュージシャン感」がありますよ。
後藤 まあ、真面目なのもくだらないのも、どっちも自分であるという感じがします。
―― 『凍った脳みそ』と『銀河鉄道の星』が続いて出るというのがたまらないですね。
名久井 アジカンのニューアルバム(『ホームタウン』)も出ますから、聴きながら一緒に本も読んでください。
一同 (笑)
名久井 また、物語を訳す仕事をやってみたいですか?
後藤 どうだろう、翻訳だったら自分の好きな英文学の翻訳をしてみたい。カズオ・イシグロの『Never Let Me Go』がすごく好きなんです。
―― 小説を書いてみたいと思うことはありますか?
後藤 それはあんまりないですね。すごい人の小説を読むとやめとこうと思います。「俺には音楽があるんだ」、みたいな(笑)。
名久井 プライベートで音楽を聴くときは、ミュージシャンとしての自分から離れて聴くことができますか?
後藤 はい。いち読者として本を読むときと同じで、そういうときは楽しんで聴きます。音楽は仕事でもあり趣味でもあるから、批評するときの耳と、楽しむときの耳は自然と切り替わる。でも切り替わらなくて、「怖いな」と思うときもあるんですけど。
名久井 なるほど。ついつい仕事っぽく聴いちゃうのかな、と思って。
後藤 そういうときもありますね。でも批評の耳が、必ずしも楽しみを邪魔するわけではないんです。「最新の音楽」というふうにうたわれている、誰かの新譜を聴くときとかは、趣味の時間でも「どう最新なのか、そういう耳で聴こう」となります。批評の耳も立ち上がっているからこそ、より深く「これめっちゃいい音だな」と感動できることもあるんです。
子どもが文芸書売り場に向かうための階段
―― 本屋さんに行くと思うんですけど、絵本や児童文学と文芸書の中間の本って少ないですよね。
後藤 そうですね。大人が読んでも楽しめるぐらい文学性が高い絵本もたくさんあるし、高学年向けには児童文学があって、読んだら面白い。だけどもう一息、子どもたちがいつか文芸書売り場に向かうための階段になるような本があるといいなぁと思います。みんなゲーム売り場に去って行くのが寂しいなと思う。「この子たちのうち、どれくらいが文芸の売り場に戻って来てくれるんだろう」と心配してしまう。
名久井 小さい本屋さんが少なくなっている影響もある気がします。小さい本屋だと漫画や絵本を買いに来た子でも、その本が置いてあるコーナーを探しているうちに、いつの間にか本屋を一周していたりします。そのあいだに幼年童話から大人の小説までいろんな本が目に入ってきますよね。
後藤 そうですね。
名久井 辻村深月さんと対談したことがあって、辻村さんも私も大きい本屋さんのあるところで育たなかったので、小さい本屋さんのなかを回っているうちに、表紙がかわいい絵の海外文学の本を買ったりして、それまで知らなかったものもいっぱい読めたっていう話になりました。そうやっていつもと違うジャンルの本に出会うことが、今では難しくなっています。
後藤 小さい本屋がなくなることで、いろんな本と触れあう「交差点」がなくなっているということですよね。だから事故的な出会いもない。そうだよなあ、大きい書店に行って、うっかりビートルズの本とか買って読んだりしないもんなあ。相当奥にありますから、音楽本コーナーは(笑)。
名久井 そう、「うっかり」がないんですよね。
後藤 でも一方でカフェのような店構えの、独自で本をセレクトしている本屋も増えて。地方に行ったときに、そういう本屋さんを見つけると入っちゃいますね。
名久井 いいですよね。店主の趣味が色濃く出て、楽しいですよね。
後藤 そうそう。とにかくもっとたくさんの人が本屋に行くといいなと思いますね。
種山ヶ原の夜空の下での朗読劇
後藤 今回は1冊の本にできたことがなにより一番の喜びです。だから、売り上げは寄付することにしました。
名久井 あっ、そうなんですね。
後藤 はい。「ハタチ基金」という、東日本大震災で被災された方々のために活動している団体に。岩手にはお世話になっているので、お返しができたらいいなと思って。
―― そうですね。
名久井 さわや書店さんとか、岩手県の本屋さんにもならびますね。
後藤 そうですね。そういえばこないだ空港の売店に、『銀河鉄道の父』(門井慶喜著)と『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子、岩手ご出身)が2冊並んでいました。
―― 賢治が今、再注目されていますよね。澤口たまみさんの『新版 宮澤賢治 愛のうた』も話題になりました。
名久井 私、同時並行で3つくらい賢治関係の仕事をしてます。なんでだろう?
―― 後藤さん、何か感じてらっしゃいますか?
後藤 古川日出男さんが『銀河鉄道の夜』の朗読劇をやっていて、2年前に僕も一度参加したんですよ。
名久井 古川さんの朗読すごいですよね。
後藤 そうなんです。古川さんの『銀河鉄道の夜』の朗読劇を映像で観て、すごく感動したことがきっかけで。古川さんが「種山ヶ原で上演したいんだ」と言っていたんですよ。種山ヶ原というのは、賢治が生前、星を見ていた場所なんです。僕もそれは絶対実現してほしいと思っていて、種山ヶ原で開催されている「KESEN ROCK FESTIVAL」という音楽フェスに掛けあいました。それでフェスの夜中のステージで上演できることになって、僕もロックンローラー役で出演しました。
名久井 何ですかその役は、原作には出てこないですよ(笑)。
後藤 古川さんはめちゃくちゃ書き足すんです(笑)。上演しているときにブワーッと真っ白な霧が立ち込めて、すごく幻想的な風景でした。感動しました。
―― そういう場所に立った体感が、いまだに残っているわけですね。
後藤 そうですね。『銀河鉄道の星』の翻訳をスタートしたのは5年くらい前ですけど、書きながらそういう体験もして、賢治が注目されている今に完成したというのは、なんだか腑に落ちるタイミングだなと思います。完成してみて、物語りの中に流れている風景とか、東北はいろいろありましたが、作品の中に出てくる静かな、とても大切な何かとか、いろんなことが頭の中に浮かびます。どう読まれるのか、すごく緊張しています。
(終)
編集部からのお知らせ
『凍った脳みそ』好調3刷、発売中です!
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのニューアルバム「ホームタウン」が発売になりました!
後藤正文さんがボーカル&ギターを担当する、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの約3年半ぶりとなるニューアルバム「ホームタウンが」12月5日に発売となりました。2019年3月〜7月にかけては全国ツアーも開催されます。