第15回
新レーベル「ちいさいミシマ社」第1弾!!(1) 『ランベルマイユコーヒー店』
2019.06.12更新
いよいよ7月、「ちいさいミシマ社」という新しいレーベルが創刊になります(「ちいさいミシマ社」創刊にいたった経緯や思いについては、代表ミシマによるこちらの記事をご覧ください)。
今月の特集では、その記念すべき第1弾の2冊について、今日と明日の2日間にわたり、ミシマガ編集部からお伝えいたします。
本日ご紹介するのは、『ランベルマイユコーヒー店』。
京都の老舗喫茶店「六曜社」のマスターでもあり、シンガーソングライターのオクノ修さんの名曲『ランベルマイユコーヒー店』。この曲をぜひとも絵本にしたいと、絵本やアニメーションなど多方面で活動する画家のnakabanさんが10年以上温めつづけられた作品です。装丁デザインは、お二人と親交の深い、横須賀拓さんにお願いしました。
まずは、本書の表紙と本文の絵の一部を、本邦初公開。
オフィスに届いた原画を取り出して、思わず「うわああ」と声を出す編集ホシノのまわりに自由が丘のメンバー一同集まり、「おおおー」とどよめきが起こるほどの素敵さです。紙に印刷されたものを、ぜひぜひ、見ていただきたいです。
ここで、nakabanさんから、本書の発刊に寄せていただいた文章をお届けします。
オクノさんと「ランベルマイユコーヒー店」のこと
今からもう20年近く前だろうか。僕が絵を描くことを仕事にしようと思い始めたころ、世の中はカフェブームだった。たんに美味しいコーヒーの時間を愉しむということだけでなく、カフェ店主の人物像にも関心が持たれ始めていた。
京都の六曜社でコーヒーをドリップするオクノ修さんは、そんなカフェブームを牽引する多くの若きコーヒー店主から尊敬されていたひとだった。コーヒー豆をひとり小屋で焙煎し、そして六曜社のカウンターに立ちドリップする。そんな静かな毎日の中で職人として在るひととして。もちろんそのような巷のカフェブームなどというものからも一歩距離を置いて。
今でこそ、静けさのかたわらで職人的な仕事に従く若いひとも多いと思うけれど、そのころ、そのような世界を夢見るひとにとってのお手本になるひとはとても少なかったと思う。何かの雑誌でオクノさんのことを知った僕は、自分の目指す絵の仕事もそのようにできたらいいのに、と強く憧れた。美術の世界ではなく他の分野にそのような「先輩」がいるということに気づいて嬉しくもあった。
オクノさんはシンガーソングライターでもある。僕は音楽が好きで、その頃からとくに好きだった「オフノート」という音楽レーベルを主宰する神谷一義さんに会いに行ったとき(当時、僕は尊敬するひとに勇気をふりしぼって会いにいっていた)、神谷さんはオクノさんの歌の素晴らしさをとつとつと語っておられた。そして別れしなに「オフノート」から発売されているオクノさんのCDをいただいた。聴いてみるとギターと歌のみのシンプルなアルバムだった。オクノさんははっきりと歌うので「詩」が耳からすっと入ってくる。仕事や日常での哲学的な気づき、恋愛や寂しさのこと、アイルランドの歌。けれどもそれらの歌はけして重くなく、あえてこう表現するけれども、とても洒脱に響いていて、それはもう、はっきりとオクノさんというひとにしかできない音楽なのだった。
コーヒーのことを直接歌った歌は意外にも少ない。それを簡単に歌にしないことでオクノさんはどこかコーヒーの秘密を守っているようなところがあるように思ってしまう。そんな中、「ランベルマイユコーヒー店」は、オクノさんの数少ないコーヒーの歌だ。ランベルマイユというオクノさんの心の中の街の、コーヒーの香る朝の風景を歌っている。短いけれどその歌はとても印象深くて、その街もそのコーヒー店もどこかに本当に存在しているように思えてしまう。そう思うのは僕だけではないらしく、オクノさんを知る誰もがその歌について語るとき、ほんの少し夢見がちな遠い目になるのだった。うまく言えないけれど、「そういうこと」ってすごくいいなと思う。そしてこの世界には「そういうこと」が少し足りないなとも思う。オクノさんのコンサートの会場に行くといらっしゃる神谷さん、今回この本のデザインをしてくださった横須賀拓さん(オクノさんの深い理解者でもある)、そしてオクノさんご本人に言い続けた。「あの歌を絵本にしたいです」。
長い人生のうちで一日の始まりがつらい日も多い。でも一杯のコーヒーのその香りに包まれているうちに、いつの間にかそのつらさから救われてしまっている、ということはないだろうか。僕にはある。それに、どこかで同じようにコーヒーをすすっているひとがいると想像すれば、不思議と呼吸は深くゆっくりになる。きっとこの歌は、そのようなことを歌っている。オクノさんは謙遜するに決まっているけれど、世界中のかけがえのない朝に贈る、これはとても大切な歌なのだ。
絵本版の「ランベルマイユコーヒー店」はそのようなことを思いながら制作しました。
だれかの朝からだれかの朝への贈り物になったら嬉しいです。
Photo: Ryo MItamura
2019年6月 nakaban
続いて、デザインを手がけてくださった横須賀さんのご寄稿です。
東北の町から京都の大学へと進学し、卒業後もそのままフリーランスのデザイナーとして京都に居着いてしまった90年代のこと。あの頃の自分を包み込んでいた居心地の良さとはなんだったのだろうと今にして考えるとき、そこには京都のあちこちに点在する喫茶店へと出入りする20代の僕がいた。なかでも「六曜社」で飲むコーヒーが日常の大半になっていったのには、地下店のカウンターに立つ、修さんの存在が大きい。日々手際よくコーヒーを淹れるその人が、ミュージシャンの顔を持つことを知ったのもその頃のこと。六曜社でアルバイトをする友人の誘いでライブへ通うようになり、ごく自然な形でオクノ修の奏でる音楽と歌声が自分のなかに染み込んでいった。そんな修さんが作る「六曜社」が好きだった。
20代の終わりに、仕事の場を東京に移してからずいぶん経ったが、今でも「六曜社」のコーヒーが好きな人、修さんの音楽が好きな人に出会うと嬉しくなる。仕事を通じて知り合ったnakabanさんとの距離が縮められたのも、その〈好き〉の気持ちが引き合わせてくれたように思う。nakabanさんから「ランベルマイユコーヒー店」をいつか絵本にしたいという話を聞かされたとき、僕もその夢を一緒に見たいと思った。
絵の構想が送られてくるたびにワクワクした。わずか1分30秒ほどの短い詩にのせて、ランベルマイユという架空の街に暮らすひとりひとりの仕事や夢や希望が見えてくる。コーヒーいっ杯に込められた日常賛歌としての物語が紡がれていた。
そして思うのだった。あの頃、「六曜社」のカウンターに座っていた僕もまた、まだ何者でもない、夢ばかり見ていたただの若者だったのだと。長く聴き込んできた「ランベルマイユコーヒー店」という曲が、nakabanさんの絵の世界を通じて、自分の物語の一部になったような感覚だった。
2019年6月 横須賀拓
そして最後に、オクノ修さんからも、
大変光栄です。
nakabanさん、横須賀さん、ミシマ社さん、
京都に拠点をもつ出版社として、またコーヒー好きの多いスタッフ一同、この絵本を発刊できるご縁に感謝しつつ、喜びを噛みしめています。
発売まであと1カ月ほど。どうぞお楽しみに。
「来月、書店に並ぶまで待ちきれない!」という読者のみなさま、ちいさいミシマ社の第1弾、『ランベルマイユコーヒー店』と『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』は、現在ミシマ社の本屋さんWEBショップでご予約受付中です!!(※2019年度のミシマ社サポーターには、特典としてこちら2冊をお贈りいたします!)
編集部からのお知らせ
「ちいさいミシマ社」スタートします!
「ちいさいミシマ社」は2019年7月20日にスタート予定です。
創刊は下記2冊となります。
◆仲野徹『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』(価格1,900円+税)
◆絵・nakaban、詩・オクノ修『ランベルマイユコーヒー店』(価格2,200円+税)
注文するぞ! と思ってくださった書店さんは、こちらまでご連絡いただけましたら幸いです。
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