第21回
ホホホ座とミシマ社の反省会 山下賢二×三島邦弘トークイベント
2019.07.28更新
こんにちは。ミシマガ編集部です。
6月刊『ホホホ座の反省文』の刊行を記念して、著者の一人である山下賢二さんとミシマ社代表・三島が代官山蔦屋書店さんで対談しました。
「ホホホ座とミシマ社の反省会」と題して7月18日に行われたこのイベント、山下さんの考え方や、ホホホ座とミシマ社の経営の話、新レーベル「ちいさいミシマ社」の話など盛りだくさんの内容でした。
今日のミシマガでは、イベントの様子の一部をお届けします。
(構成:岡田森、写真:須賀紘也)
全国に10店舗ある「ホホホ座」
三島 今日来ている方はご存じかと思いますが、まず山下さんからホホホ座がどういう団体なのか、ということを説明して頂けますか。
山下 そうですね、本をお読みいただいた方はなんとなくご理解頂いてるか、余計混乱しているか、ちょっとわからないですけど(笑)、もともと僕は京都の左京区で「ガケ書房」という本屋をやっていました。その時にホホホ座という編集グループをやっていて『わたしがカフェをはじめた日。』という本を出したんですが、今はその「ホホホ座」という名前を使って新しい店をやっています。
僕の店は京都の浄土寺なんですが、「私もホホホ座をやりたい」という人が少しずつ現れて、いいよー、と言ってたら、いつの間にか全国10店舗になっています。
三島 おおー!
山下 10店舗あるんですけど、僕たちは全く経営に関わっていないんです。フランチャイズでもなく、マージンをせしめていることもなくて、それぞれが独立採算でやっています。僕も口出ししーひんし、向こうも口出してきーひん。
三島 それで成り立つのがすごい。
山下 業種もバラバラなんですよね。ライブハウスとか、カレー屋さんとか、いろいろあるんですけど。こないだ一日だけ全店舗集まるイベントをやったんですけど、その時はじめて会う人もいたりしてね。
三島 僕も行ったんですけど、皆さんはじめまして、はじめましてって言ってて。
山下 よそよそしいですよね(笑)
三島 このあたりは『ホホホ座の反省文』の中で「ホホホ座のやり口」として紹介しております。今日イベントの前に改めて読み直してきたんですけど・・・すっごい面白かった。
山下 今さらですか(笑)
三島(左)と山下賢二さん(右)
「センスが良い」の多様性
山下 今回の本の大きなテーマの一つが、「センスがいい」の定義が一つにになってきていることなんですね。僕が小さいころに見てきたものや、現在でも海外に目を移すと、「センスがいい」にもっと多様性があると思うんですよ。でも、今メディアに出てくる「センスがいい」というのは、小綺麗でプレミアム感のあるものに限定されてきている。
三島 本の中で「清潔と特別」と書いていらっしゃいますね。
山下 それが提示されると「すごい、センスいい!」ってみんな簡単に言っちゃう。でも、もっとゴッチャゴチャでも「センスがいい」ってあると思う。そういうことを「酔いどれ」という章に書きました。セレクトショップは店主も客も雰囲気に酔っているという。もちろん、セレクトショップはそれが正しいんですよ。醒めたらダメです。でも、そうではない<皮肉>だったり<風刺>だったり、ユーモアがわかりあえる関係もあっていいんじゃないかと思う。間合いを見ながら、ブラックジョークを飛ばしあうようなセンス。京都だとそういう毒舌の関係性があったりするんですよ。
三島 なるほど。
山下 実は昨日、オクノ修さんという人のライブにいったんですよ。今度ミシマ社さんから本を出す。
三島 「ちいさいミシマ社」という新レーベルで『ランベルマイユコーヒー店』という本が出ます。
山下 この人は六曜社という京都の老舗の喫茶店の店長さんで、シンガーソングライターでもあるんです。60代半ばで、歌もずっと歌ってらっしゃる。その歌がすごくモダンでかっこいいんですよ。生ギター一本で。だけど、MCは全部毒舌なんです。
三島 ああー。
山下 バランスが取れてるんです。これでMCまでかっこよかったら、僕は興ざめします。彼は、酔いどれでなくシラフなんです。そういうのがいいなーと思ってて、「そういう価値観、ちょっと誰か思い出してくれへん?」みたいな感じの本なんです。
三島 そうですよね。あんまり類のない本になったと思っています。こういう本をみんな待ってたと思うんですよね。ほっといたら「清潔と特別」ばかりになりかねませんから。
店を続けるということ
山下 この本のもう一つ大きなテーマは、店を続けていくということです。本の中で、店をやり続けることのしんどさを、全国のホホホ座にインタビューしています。小売業は製造業じゃないから、粗利がもともと少ないわけですね。商品を横流しして、その<横流し料>をもらってるみたいなところがあります。その中から家賃払ったり人を雇ったりするので、本当に大変なんですよ。
三島 その大変さを全面的に本に書いていただきましたね。
山下 本の中で加地くんがうまいこと言ってましたね。「テトリスの最後のほうずっとやってる感じや」って。
三島 「テトリス」と「ファーマー(農夫)」という表現が、加地さんのすごさというか面白さだと思いました。
山下 僕の中でも、「ファーマー」という言葉ではわかってへんかったけど、農夫のように目の前のことに従事する、先の不安よりも眼の前の現実に向き合うって感じですよね。毎日。ほんまそれしかないんですよ。心の処世術として。僕なんか朝起きると不安を数えてしまうんですよ。
三島 マジすか。
山下 朝起きて「アレ不安だな・・・」とか「アレ終わったよな・・・」とか考え始めて、店に移動する車の中ではずっともやもやしている。でも、自分の店の中に入ったら、もやもやがパチンと弾けるんです。結局、現場に行かないといつまで経っても現状変わらないんですよ。現場に行ったら現状を変えられるから、そこでまな板の上の鯉じゃないけど、よっしゃーとハラ決めれるみたいな感じがあります。
三島 そうなんですね。だから、店にいる間は迷いがない。
山下 本当にファーマーですよ。土地の上に立って、土いじって、みたいな。そうせんとやってられないですよ。
ミシマ社のスモールヒット経営と、ちいさいミシマ社
山下 ミシマ社さんのそういう話も聞いてみたいです。話せる範囲でいいですけど。どーすか、黒? 赤?
三島 (笑)。まあ、なんとかやれてます。小売業と製造業の一個大きな違いは、一つで局面変わるんですよ。大ヒットじゃないにせよ、スモールヒットがあって、それで保ってる感じですね。もう資金がないというギリギリの状況になるたびに、ヒリヒリした感覚の中で「こっから次行くぜ」みたいな気持ちになって、そういう時にヒットが生まれる。
山下 でも、それでなんとかやれてるけど、スモールヒットが出ずにもう一回コケることもあるかもしれないじゃないですか。
三島 そうです。最初の12年間はずっとそのやり方だったんですけど、今年13年目に入って、「安定って大事なんだな」とようやく気づきました。
山下 おぉ! それが「ちいさいミシマ社」ですか?
三島 いや、これは全然安定のほうに向いていないです(笑)。「ちいさいミシマ社」レーベルでは、少部数で読者に濃く届く本を出そうとしています。さらに、書店さんへの条件を、ミシマ社の本だと定価の70%で卸しているのを55%にして、しっかり利益を取ってもらおうと考えています。
山下 出版社の取り分めっちゃ少ないですよね。
三島 15%減らしました。リアルに。
山下 なんでそんなことしたんですか。
三島 なんでかな・・・
山下 (笑)
三島 やらざるをえないと思ったんですよね。これでボンボン売れていったら、利益率が全然違う。
山下 55%ですもんね。
三島 本屋さんの利益が45%。
山下 皆さん知ってますかね、本屋の利益率を。普通に取次経由で本をいれたら2割ですよ。1,000円の本を売っても200円しか儲からない。
三島 はい。
山下 それが今回は・・・社長!
三島 450円!
会場 (笑)
三島 本屋は薄利多売の商売になっているんですが、この先「多売」がどんどん難しくなっていくと思っています。本屋さんがなくなったら、出版社は売り先がなくなって一番困るのに、本屋さんとの条件が半世紀も前にできたルールのまま。しかも完全に出版社有利の条件。不平等条約なんです。
そういうところに手を付けずに「本が売れない」とか「出版不況」とか言ってるのはすごく良くないと思っていて、出版社がまず自分たちの身を削って次のあり方を示さねばならないと思っています。少なくとも、たくさん売れる本と、少部数から始めて1冊売れて良かったと思える本は、条件を変えるべきじゃないかと思っていて、1出版社2条件ということを謳って「ちいさいミシマ社」をはじめました。
第一弾として、先程山下さんのお話に出てきたオクノ修さんと画家のnakabanさんの『ランベルマイユコーヒー店』、そして仲野徹先生の『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』という本を出します。
これから年に6冊くらい、ちいさいミシマ社レーベルとして出していくので、ぜひ応援お願いします。
オクノ修・詩/nakaban・絵『ランベルマイユコーヒー店』
仲野徹(著)『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』
山下 『ホホホ座の反省文』も応援していただいて、スモールヒットにしていただければ・・・。
三島 皆様よろしくおねがいします(笑)。では、山下さんから最後に一言お願いします。
山下 京都にお越しの際は、ホホホ座浄土寺へのご来店をお待ちしております。・・・急になんか・・・はんなりしましたね。
三島 はんなりしましたね(笑)
(終)
編集部からのお知らせ
2019年8月4日(日)「仲野徹と西靖のそろそろ大阪の話をしよう」@紀伊國屋書店 梅田本店
新レーベル「ちいさいミシマ社」より、7月20日(土)発刊の『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』の発刊イベントを開催します!
今回の発刊記念イベントでゲストにお呼びするのは、
「ちちんぷいぷい」のメインパーソナリティーや、報道番組「VOICE」のメインキャスターとして活躍し、いまもお茶の間で強い支持を得る、MBSの看板アナウンサー西靖さんです!
開催概要
■日程:2019年8月4日(日)14:00~(開場13:30~)
■会場:阪急グランドビル26F貸会議室 8・10号室(大阪市北区角田町8-47 阪急 梅田駅より徒歩3分)
詳細・お申込みはこちらのページをご覧ください。
『ランベルマイユコーヒー店』原画展
【会期】2019年8月9日(金)~9月8日(日)
◆内容
コーヒーとともに日々を刻む、すべての人たちへ。京都の老舗喫茶店「六曜社」のマスター、オクノ修さんの名曲に触発され、画家のnakabanさんが10年以上温め続けた絵本『ランベルマイユコーヒー店』がついに誕生。その刊行を記念して、nakabanさんによる本作の原画を展示いたします。