第30回
『ほんのちょっと当事者』本日発刊です! 著者の青山ゆみこさんから読者の皆さまへ
2019.11.23更新
いよいよ本日、青山ゆみこさんの著書『ほんのちょっと当事者』が発売となります。「みんなのミシマガジン」での連載時から、掲載のたびに大きな反響が寄せられていましたが、書き下ろしの「いささか長いあとがきのようなもの」も加わり、一冊の本となった読み味はまた、格別です。
今日は、発刊に寄せて、著者の青山ゆみこさんから、ミシマガジンの読者の皆さまへ、ご寄稿いただいた文章を掲載します。心が苦しい日、ちょっと悲しかった日、もやもやした日、そんな日常に寄り添ってくれる本書が、一人でも多くの方に届きますように。
青山ゆみこさんからミシマガジン読者の皆さまへ
ミシマガジン読者の皆さん、こんにちは。
今日はミシマガジンで連載していた『ほんのちょっと当事者』の単行本発売日です。
それで、この本に関係するようなしないような、わからないけど(えええ?)、自分で一冊を通して読み返して感じたことを、書いてみたいと思います。
わたしは、翻訳家であり文筆家でもある村井理子さんの日常を綴ったweb連載『村井さんちの生活』をいつも楽しみに読んでいます。
いろんなご縁があり、個人的に親しくさせていただいているので、友人の近況報告を耳にするように言葉に耳を傾けている感じです。
今夏、「義父、倒れる」というドキッとするタイトルの更新がありました。
脳梗塞で倒れたお義父さま、夫の急病により不安を抱えたお義母様の心身の変化。それに伴い、二人が少しでも快適に暮らせる状況をつくるべく、理子さん夫婦がさまざまな手続きに奔走する日々を過ごしていたご様子が書かれていました。ほんとうに大変だっただろうなあ。そして今も・・・。しみじみ想像しました。
彼女がその文章のなかで、こんな一文を記していました。
『いま、でっかい「人生」という文字が、私の頭上にドカンと落ちてきている』
あああ、わかる。
「人生」って、突然そうやってドカンと落ちてくるものだよなあ。
わたしたちがこの世に生を受けて、心臓が鼓動を打ち、呼吸している限り「人生」はわたしと一心同体にあるはずなのに、ごく当たり前の日常生活で、わたしたちは「人生」なんて意識しませんよね。
「人生」を意識するのは、平常運転ではない、何らかの変化や突発的な出来事が起きたとき。
理子さんのように、近しい身内の老いや病気に直面したときに感じる「人生」もある。もちろん嬉しいことだってあります。誰かと恋に落ちて思いが成就した時だって、その誰かとの間に子どもを授かった時だって「ああ幸せな人生だなあ」と思うでしょう。
そういう「でっかい人生」がなぜ「でっかい」と感じるかといえば、わたしたちは日々意識もしないで「ちいさな人生」を生きているからだろう。
なんだかそのことを強く感じたのです。
わたしは最近、朝ウォーキングを始めました。
といっても散歩の延長のようなもので、自宅から徒歩30、40分圏内を歩き回るだけ。
一つだけルールを決めています。どんなルートを歩いても、必ず初めての道を少しでも通ること。
知らない通りを歩くと、初めて目にする小さな地味な公園やヘタウマ手描きの看板、潰れているのかと思いきや300円のモーニングを出して営業している暗い喫茶店、子どもを保育園にでも送ってきた帰りなのか、チャイルドシート付き自転車を斜めに止めたままお喋りに興じているお母さんたち・・・。
これまで目にしたことのない風景が、わたしの目に飛び込んできます。
唐突にそびえるタワーマンションを見上げて歩いていたら、そのねきには昭和がそのまま残っているかのような路地の長屋が密集していることに気づいたり、似たような築年数の戸建てが並ぶ地域は、神戸の震災で被災した地域なのかと想像したり。
それらすべての家々に、わたしの会ったこともない人が暮らしていて、日々の生活を営んでいる。わたしがこれまで知らなかったことなんて関係もなく。
そしてこの先もわたしと人生が交差することのないだろう人たちが、こんなにもたくさんいて、人生があふれているのだなあ。
この世界には、どれだけの「でっかい人生」が、どれだけの人に落ちているのだろう。
そして「ちいさな人生」がどれだけ繰り広げられているのだろう。
そう想像して、なんだか泣きそうになるのです。なぜだかわからないけれど。
この『ほんのちょっと当事者』は、うまくいえないけれど、「でっかい人生」と「ちいさな人生」が交差したような一冊だなと、読み返して改めて感じました(自分の書いた本なのに、変な言い方ですが)。
最初の章を書いたのは、2018年6月でした。母を亡くしてから1年半ほどの頃です。
実は、「親を亡くす」という「でっかい人生」が落ちてきた衝撃で、わたしは自分の思いを「書く」ことから遠ざかっていました。
ようやく心のなかに溜まったものを「言葉」にしようと思い、書き始めたら、結果的にこの本になったように感じています。
ここにはわたしだけではない、いろんな人の人生が含まれています。なぜなら、「でっかい」「ちいさい」にかかわらず、わたしの人生は、常にわたし一人のものではないから。
そのこともこの本を書くことで、改めて気づかされたことでした。
書いている途中に、認知症が進行してきた父も旅立ってしまいました。
親を亡くすという「でっかい人生」が落ちてきた二度目の衝撃は、一度目とはまた異なるものでした。悲しみの強度では語れないその「違い」は、いったいなんだろうと今も考えています。まだ時間がかかりそうですが、考え続けていきたいと思っています。
長くなりました。
母のこと、父のこと、いろんなことがあったこの数年、「今日はちょっとしんどかったなあ」ともやもやした夜に、お風呂でいつも読む本がありました。
益田ミリさんの漫画エッセイ『今日の人生』です。
奥付を見ると、初版が2017年4月となっているので、母を看取って2か月ほどの頃に出会った本だったんだなあ(と今、気づきました)。
『今日の人生』は「でっかい人生」というより、ほんとうに小さな人生の一コマが綴られた1冊です。焼きたてのパンに出会えた嬉しさや、喫茶店で小耳に挟んで思わずにやっと笑ってしまうような会話・・・。
お風呂に浸かりながらそんな一コマを眺めていると、じんわりじんわりと心の芯まで温まっていきました。
心が苦しくて、吹き出しの台詞が頭に入ってこない日もあったけれど、それでもミリさんの「今日の人生」は、「そんな日もあるよね」と語りかけてくれて、胸の奥のささくれに柔らかくて優しいものを塗ってくれたような気がします。
そうか、ミリさんの人生も『ほんのちょっと当事者』に含まれているのだなあ。人生って不思議で面白いなあ。
『ほんのちょっと当事者』のスピンオフの章みたいな文章になりました。笑
本編もお読みいただけますと嬉しいです。
編集部からのお知らせ
2019年12月7日(土)『ほんのちょっと当事者』刊行記念・青山ゆみこさん×平川克美さんトークイベント開催!@隣町珈琲(東京)
隣町珈琲ブックレビュー対談「平川克美 著者と語る 第十四回 ゲスト 青山ゆみこ」
■日時:2019年12月7日(土) 14:00〜(開場:13:30)
■出演:
・青山ゆみこ(エディター・ライター)
・平川克美(文筆家・隣町珈琲店主)
■参加費:
・3000円(1ドリンク付)
■お申込み
参加ご希望の方は、隣町珈琲Facebookイベントページの「参加予定」ボタンをクリックするか、
隣町珈琲 TEL:0364513943 までお問い合わせください。
予約が完了となり、清算は当日現金にてお支払いただきます。複数分の予約をご希望の方は、隣町珈琲にお電話(03-6451-3943)にてお申込みください。
また、キャンセルの場合は、隣町珈琲にお電話をいただくか、Facebookからお申込みいただいたお客様は「参加予定」を「不参加」にしてください。
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ほかにも、イベント続々決定しています!
詳細は後日お知らせいたします。
◆2019年12月21日(土)15:00〜17:00@隆祥館書店(大阪)
◆2020年1月18日(土)18:30〜@1003(神戸)