第33回
みんなちょっと当事者(1) 黒歴史をさらけだす
2019.12.28更新
『ほんのちょっと当事者』の著者、青山ゆみこさんをお招きして、12/6(金)に荻窪の本屋Titleさんにて刊行記念イベントを開催しました。題して「みんなちょっと当事者」。
自己破産、性暴力、親の介護と看取りなど、他人事のようで実は誰もが当事者になりうる問題について明るく語った本書の内容や、その周りの話を、Title店主の辻山さんを聞き手に語っていただき大いに盛り上がりました。
イベントの様子を2日にわけてご紹介します。
(構成:岡田森、写真:須賀紘也)
私の叔父が取材されていたんです。
辻山:この本は・・・、読めばわかると言いますか・・・。
青山:(笑)
辻山:私が今日青山さんにこの本に書いてあることを詳しく聞いても、この本と同じ話になってしまうので、今日はその周りのことを聞いていこうと思います。
さて、私と青山さんなんですが、実は同じ神戸出身なんです。さらに、実は青山さん前の著作の『人生最後のご馳走』という本がありまして、淀川キリスト教病院のホスピスに入った人のリクエスト食、つまり「死ぬ前に何が食べたいか」という話を取材した本なんですが、たまたま私のおじが取材されていたんです。
青山:そうですね。ツイッターで辻山さんが「この本に自分のおじが出ているようだ」と書いてるのを見て、すごいびっくりして・・・。誰やろう? って(笑)
会場:(笑)
青山:その方はあのときの取材の中でも、とくにたくさん話をしてくださった方なんです。たぶん録音テープを15時間くらい回していて、大半は取材と関係ない世間話や、歴史の話で(笑)、すごく仲良くさせていただいたんです。そういう方だったので、辻山さんのおじさんと聞いて、ほんとにびっくりしました。妹が亡くなって・・・という話もしていて。
辻山:はい、それが私の母ですね。
青山:あの時はTitleさんまだ準備中だったんですよね。
辻山:はい、その時はまだ以前の会社にいましたが。
青山:その時、辻山さんが「今度自分の本屋を開くので、青山さんの本を置きます」と言ってくださったりして。すごくご縁があるんですよね。
前に神戸に帰省された時に、私が歩いているのを見たらしいという話も・・・。
会場:(笑)
自分の「黒歴史」をひとつひとつ暴いていきました。
辻山:今回の本、細川貂々さんの表紙もすごく良いですよね。
青山:ほんと良いんですよ。
辻山:内容を読むと、すごくシリアスで、いくらでもシビアな書き方ができる本だと思うのですが、青山さんが自分にツッコミを入れながら明るく書いているところもあって、そういうユーモアの部分があらわれた表紙になっていますよね。
青山:これはほんと、装丁の名久井直子さんのおかげです。名久井さんが『ほんのちょっと当事者』というタイトルがわかるようでわからないので、それが伝わるようにマンガを使ったら良いんじゃないかと提案してくださったんです。それでちょっとバカっぽいコマを表紙に(笑)
辻山:「明るい」感じですね(笑)
青山:「自己破産します!」とかね(笑)
辻山さんが「シリアスな」とおっしゃってましたが、私にしてみれば、私の「黒歴史」をひとつひとつ暴いていくというか、ものすごく悪い「青山ゆみこ」という人がいて、その人が「ほんとスミマセン」みたいなことを書いていく本なんです。社会問題を語る、とか選挙演説みたいな主張じゃなくて、「恥ずかしいことに、こんなことがあってスミマセンでした!!」みたいな(笑)
ある種の懺悔本なので、こういう表紙になってすごく嬉しかったですね。
辻山:そういう「黒歴史」みたいなものって、普通は隠そうとしますよね。なぜ今回はこういう内容で書こうと思われたんですか?
青山:私の母が2017年に亡くなったんですが、母がその前の16年間、父を介護していたんです。なので、母が亡くなったことで、介護が必要な父が残されることになって、そうなった時に、初めて自分が介護問題の当事者になったことに気づいたんです。
今まで他人事だと思っていた介護が自分ごとになった時に、そういえば介護に限らず、自分は他にも色々な問題の当事者だなということに気づいたんですね。
第一章に書いた「自己破産しかけた」という体験談とか、「あの時こうすればよかった」みたいなことが今になってわかってきたので、そういう自分の経験だとか、失敗談を書いて、ミシマガジンに『ほんのちょっと当事者』として連載していたんです。
辻山:お母さんの死が一つのきっかけになったんですね。私も、母親が亡くなる前の時期に、人がだんだん崩れていって死ぬところを見るという体験をして、自分が変わったように思います。「結局は自分一人でしかない」「何も隠すこともないな」と感じるようになりました。
青山:そうだったんですね。私は母が亡くなった時にすごく悲しかったんですが、それをなかなか人に言えなかったんです。親が亡くなったら辛い。でも、みんなあまりそれを人に言わない。だから私も語りづらい、という気持ちになっていました。それも、この本を書こうと思ったきっかけの一つなんです。
何か特別なストーリーがあるわけでもない、些細な日常の中のモヤモヤは、実は語りづらくて、けっこうしんどい。そういうことを、吐き出していこうというか、「なんでも言っていいんだよ」と言っていきたいんです。
辻山:「私も言ったよ」って(笑)
青山:そうそう(笑) 「私もつらいよ、そうだよねー」とみんなで言い合えるようになればいいなと思っています。
さらけ出したからこその反響
辻山:連載中や、本を出してから、どういう感想がありましたか?
青山:そうですね、やはり両親の看取りに関しては、経験された方は身につまされるという感想をいただくことが多かったですね。あとは、私と同じように「女は黙っとけ」みたいな感じの家で育った人の声がけっこう多かったです。やっぱり昭和の時代の父親っていうのは、今とは全く違ったんですよね。昭和の父親に育てられた女達の怒り、みたいな感想が届いて(笑)
辻山:(笑)
青山:私は母が亡くなった後に父と介護で向き合うことになり、和解というか、父のことがちょっと好きになるんですね。腹立ちながらも、文句言いながらも、好き、というなんとも言えない複雑な感じなんですけど。ただ、やっぱりお父さんがご存命で、今も圧がかかっている女性がいるんですよね。
辻山:関係性が一度決まってしまうと、ずっとそれが繰り返されますよね。
青山:そうですよね。で、父親はだんだん老いていくんですけど、娘はだんだん強くなっていくじゃないですか。ふてぶてしさとか、たくましさとか。そうなると、溜まっていた怒りやモヤモヤをはっきり父に向けられるようになるんじゃないかと思っているんです。ある種、立場が逆転するんだけど、関係性の微妙さは変わらなくて、同じようなしんどさがあるんですよね。
同時に、何人かの方が、私の連載を読んだことで、遠ざけていた父親母親に対して、「いつかはいなくなるんだ」と感じて、帰省の回数をちょっと増やすとか、そういうふうに変わったという話もしてくれていて、それはすごく嬉しかったですね。
あとは、性暴力の話は、アクセスも多かったですし、リツイートとかすごくされたのですが、表立ってコメントをくれる人はほとんどいなかったんです。ただ、メールや対面で打ち明けられることがすごく多くて・・・。ほんとに何十年も前の痴漢だとかが、すごく嫌な気持ちとして残っているんですね。そして、その時一番「助けて」って言いたかった親に言えなかった、みたいな話が個別メッセージで来るんです。やっぱり語りづらい話題なんだということを感じましたね。
あと自己破産の話は、「実は自己破産したことあります」という方から感想がきました(笑)
会場:(笑)
辻山:それはけっこう明るく?
青山:そうですね、やっぱり自己破産した人は、一皮剥けた感じがするんですよね(笑)
辻山:憑き物が落ちたと言うか・・・。
青山:そうですね。いや、実際ついてた借金が落ちたわけですからね。
会場:(笑)
青山:いろんな方からたくさん反響をいただいたんですが、基本的に自分も似たような経験をしたという方からの感想が本当に多かったです。
辻山:やっぱりそれは青山さんが自分をさらけ出したからというのがあったんでしょうね。同じ熱量で返ってきたと言うか。そうじゃないとたぶんここまで届かなかったと思います。
編集部からのお知らせ
『ほんのちょっと当事者』書評・紹介が続々!!
『ほんのちょっと当事者』発売から約一カ月のあいだで、様々なメディアに取り上げていただいております!
・北海道新聞に『21世紀の楕円幻想論』著者・平川克美さんの書評が掲載されました!