第36回
「これからのメディア」を考える
2020.02.01更新
今月と来月の特集で、「これからのメディア」を考えたいと思います。主には、私たちミシマ社自身が「これから」どうなるか、どうなろうとしているか。代表三島が年始に「自分の足元から少しずつ〜「思いっきり当事者」として」で書いたように、自分のいる業界をよくしていくために、まずは自分たち自身に何ができるか、を原点からふりかえってみます。
そういうことを考えていた折も折、驚天動地、といいますか、実際には怒髪天を衝く広告を新聞で目にしました(下に掲載)。
新聞メディアは、いうまでもなく、読者の購読と紙面に掲載する広告を主な収入源としてなりたっています。紙の雑誌もほとんど同じ構造といえるでしょう。
今回、問題としたいのは、メディアはこれからどうなっていくのか? すこし角度を変えていえば、メディアはどのようにして運営していけばなりたつのか?
新聞と私たちのような単行本出版社とは、運営形態がずいぶんとちがいます。が、私たちもこの「みんなのミシマガジン」というウェブ雑誌を運営したり、年に一度ですが、「ちゃぶ台」という雑誌を出しています。メディアとして、考えていかないけなければいけない問題、課題は少なからず共通しているはずです。
一回目の今回は、新聞広告から「これからのメディア」を考えてみたいと思います。
(文・ミシマガ編集部)
第1回 新聞広告から考えてみる
明日2020年2月2日(日)は京都市長選挙です。立候補者は無所属の3名。
選挙戦も終盤を迎えるという2020年1月26日(日)の京都新聞に、この広告が載りました。
(ちなみに、写真入りではありませんが、同じメインコピーを謳った広告は、同日の朝日新聞と読売新聞の京都版にも載っています)
・・・いかがでしょうか?
「あまりにひどい」
一見して、そう思われたのではないでしょうか?
京都にもオフィスをおく出版社としては、「これはあってはならない!」と怒りがこみあげてきました。すぐに思ったのは、為政者(広告の右枠に映る立候補者のかどかわ大作氏は現市長)が、ある特定の党を排除するような言葉を吐く。それも公器たる新聞紙上で・・・。
代表の三島は、自身のTwitterにこう書き込みました。
今朝、京都新聞を開けてびっくり。そして怒りがこみ上げてきました。一京都市民として、断じて許せない。政治、思想、信条の自由を侵す。門川さんは、それを公然と宣言したようなもの。こんな人が当選したら京都が差別の街になる。落選はもちろん、即刻市長から降りてもらわないといけない https://t.co/rBDnkxlE6q
-- 三島邦弘 (@mishimakunihiro) January 26, 2020
あまりにひどい。その声は、私たちだけでなく、ネット上でも拡散。「京都市民がんばれ!」「(対立候補の)福山さん、こんなやり方に負けるな!」といった声が全国から寄せられました。
翌日、ミシマ社も京都新聞に抗議の電話を入れました。
すると、いろんなことがわかってきました。
そのひとつは、これはあくまでも、「未来の京都をつくる会」が出稿した「意見広告」にすぎない、ということ。
よくよく見れば、かどかわ氏の写真の入った広告枠と、「大切な京都に〜」と大書された広告の枠とは、別。つまり、「つくる会」が一方的に、自分たちの意見を新聞紙上で述べたい、それをおこなった。ただ、それだけのこと。
なるほど、たしかに、「意見広告」というのは、新聞での掲載が認められた広告のようです。
「新聞広告ナビ」には、こう説明されています。
新聞での意見広告とは、見開きや1ページなど大きな広告スペースを用いて、社会や制度など、公に対する広告主の主張を「意見」として告知する広告です。あくまで「公に対する意見」ですので、個人などへの誹謗中傷や営業妨害などは記載できません。また、新聞の記事と混同されることを避けるため、様々な規程やハードルがあります。とはいえ、テレビやラジオでの意見広告(CM)は現実的に難しいため、意見広告に向いたメディアとして、様々な意見広告が新聞に掲載されています。
(「新聞広告ナビ」より引用 https://www.shinbun-navi.com/landing/lan08.html)
広告内には、個人への誹謗中傷はありません。そして、かどかわさんが出した意見でもない。
京都新聞側も、そのあたりの確認はとっていた、と言います。「選挙管理委員会からも問題ないと言われ、掲載しました」
しかし。
いくらなんでも、これは詭弁ではないでしょうか?
「意見広告」と言いつつも、選挙日の1週間前のタイミングで出して、この広告が選挙と関係ないものとして読む人はいません。もし、新聞社が「選挙と関係のないたんなる意見」と思って広告を掲載していたとしたら、それは自分たちの読者をあまりに愚弄するものではないかと疑いたくなります。
また、これがとても大きな問題と私たちは思ったのですが、「共産党の市長は「NO」」という文言が、そもそも「虚偽」と言えないでしょうか。なぜなら、今回の市長選は全員、無所属での立候補です。
共産党の市長など、生まれ得ない。にもかかわらず・・・。
それが起きようとしている。市民の皆さん、こんな事態を許していいのですか?
さも、そう言わんとしているように読めないでしょうか?
これだけ大きな文字でこのような言葉を打ち出すということは、事実に基づかない「印象操作」をしているとしか思えません。極めて悪質と言えるでしょう。
「法律的には問題ないから」という理由で、実体として印象操作をおこなう、虚偽の情報を流す広告を掲載する。これって、メディアとして「あり」なのでしょうか。
一般的に新聞に広告を載せるときには日本広告審査機構などの「審査」があり、ミシマ社も広告を出稿する際には情報の「エビデンス」を提出することが要求されています。たまたまですが、3日後の1月29日(北海道・西部は30日)に、朝日新聞に広告を出す機会がありました。
こういう商業ベースの広告でさえ、審査が厳密におこなわれます。たとえば、『胎児のはなし』の広告内で、「2019年年間ランキング1位(丸善ジュンク堂書店グループ(生物・2019))とありますが、これなども当然、裏取りをされます。まあ、当たり前のことですよね。
にもかかわらず、今回このようなことが起きてしまった。
「共産党の市長」など誕生しようがないのに、かどかわさんではない市長になったときには、それが起きる可能性がありますよ。
そう言わんとする広告が掲載されてしまった。
その上、この広告の下には、「未来の京都をつくる会」の推薦人として写真付きで9名の方々の名前が挙がっています。後日、半数近くの方々から「知らされていなかった」とクレームの声があがりました。つまり、許可をとらずに掲載していたのです。
さて、ここからが本題です。
これからのメディアは、こういう悪質な広告に対しては、それこそ「NO」というふうに言ってもいいのではないでしょうか。
法律的にはぎりぎり問題なくとも、自分たちの読者をまちがった方向に導く広告が出稿者から来たときには、「NO」と言う。
実際に今回の件でも京都新聞にそういうメディアであってほしいと、問い合わせの電話がたくさんあったようです。
では、どうすればそのようなメディアになれるのでしょうか。
ちなみに、この「ミシマガジン」は、広告をとらずに、運営をしております。サポーターに支えられているからこそなのですが、それだけで成り立っているのか、あるいは成り立っていないのか(笑)。そこについては次回以降、考えていきたいと思いますが、広告だけに頼らない、メディアの運営の仕方を今、もう一度みんなで考える必要がある、そういう時期にきていることは間違いないでしょう。
※※※
以下、蛇足です。
この記事をつくっている真っ最中の1月30日、京都市選のもう1人の立候補者を支持する団体が、こんな広告を出しました。
この広告についてコメントは、あえてするまでもないと思います。
明日(2月2日)は、京都市長選の投票日です。京都市民の皆さま、ぜひ投票に行きましょう。
(ミシマガ編集部)