第43回
鎌田裕樹×三島邦弘 トークイベント「本屋と出版社と、読者の『これから』を考える」
2020.05.04更新
2020年4月17日、「一冊!宣言~本屋と出版社と、読者の『これから』を考える」と題して、恵文社一乗寺店の鎌田裕樹さんとミシマ社代表の三島の対談イベントが開催されました。当初恵文社一乗寺店に50人ほどを集め開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響を受け、急遽、ミシマ社初(!)のネット配信形式に変更して開催されました。参加者の方々からは、「会場にいるかのような熱量を感じた」、「閉塞的な日常のなかで心がほぐれました」、「家中にマグマが溢れました!」など、大喜びの声を多数いただきました。その声を受け、当日配信された映像を、ミシマ社の本屋さんショップで5/6までの期間限定で販売することにしました!(参加者の方は無料でご覧いただけます)。ぜひ、視聴いただけると嬉しいです。本日は、「動画配信イベント、およびその動画販売」というミシマ社の新しい試みとなった記念すべきイベントの一部を、記事としてみなさまにお届けします。( ミシマガ編集部)
ワクワクしている部分もある
三島 本日は「書店と出版社と読者のこれからを考える」というテーマで対談できればと思います。昨日(4月16日)全国に緊急事態宣言が出されて、これまで対象範囲外だった京都府もその一部になったわけですが、ここ1、2週間のお店の状況を教えてもらえますか。
鎌田 休業を余儀なくされている店も多いなかで、どう言葉を選んだらいいか、難しいですが、最初の小池都知事の自粛要請会見までは、来店がむしろ多い1週間もありました。ただそれ以降極端に減っていって、今は普段の半分程度の客数です。恵文社では、現在、短縮営業という形をとっています。ただ、あくまで個人の意見として、不謹慎かもしれないですが、ワクワクしている部分もあります。新しいかたちの本の売り方ができるのではないか、と具体的に考えるようになりました。
三島 今考えることとして、喫緊の、今日明日、お店をどう維持していくのかっていうことがまずあります。プラス、次の時代に向けてどう変化していくかも考えていかないといけない。今日のイベントではそのどちらも考えていければと思います。
そういう意味で、このイベント自体が可能性の一つかなって思っています。『パルプ・ノンフィクション』を出してから、軒並みイベントが中止になり、本屋さんも閉まってしまったんですね。もしコロナがなかったら、日本全国イベントでまわるつもりだったんですよ。でもこうやって、オンラインで全国各地の方とコミュケーションをとれるっていうのは、すごく良い可能性だなって感じました。
※現在、恵文社一乗寺店さんにてサイン本を販売中です!
鎌田 そうですよね。京都の郊外に立地する恵文社でイベントを企画しようと思うと、ゲストの交通費や宿泊費などの経費がかかりますが、オンラインでの開催の場合それがなくなるので、そこはひとつのメリットだと感じています。一方で、東京でやるイベントと京都でやるイベントの性質が同じ場合、京都や地方で開催する意味がなくなってしまいますよね。だから僕らみたいな地方の中小の書店が、どうイベントを組んでやっていくかっていうところは、他店とシェアをしつつも、企画力を競い合っていかなければならない点だ、と考えています。
読者の方々へ、送料はご負担いただけると助かります
鎌田 恵文社ではずっとオンライン販売もやっていますが、最近になって痛感しているのが、システムを使うのにもお金がかかるということです。無料で通販サイト作れる一般的なサービスだと、だいたい1回の決済で手数料が5パーセントくらいとられる。さらに梱包にもダンボール1個30円とか40円とかするわけで、お客様が支払っている送料以上に経費がかかっているんですよね。だから、こういう状況になって、書店が急遽通販に切り替えるといっても、設計し直さなければならないことは多々あります。ただでさえ本の利幅は少ないので(取次経由の場合、書店の利益は約2割)、本当に利益を出すのが難しく、何が残せるのかと、考えてしまいます。
三島 送料無料キャンペーンをされている書店さんもありますけど、ほとんど利益が残らないですよね。
鎌田 むしろ赤字になると思います。僕は店も何事も継続することに意味があると思っているので、儲けがほとんどない設計のサービスが果たして正しいのか、正直わかりません。
三島 やはりそれでは不健全なので、読者の方にはオンラインで買うときは、送料は負担するものだ、と思っていただきたいですね。
鎌田 そうですね。大手の通販サイトに慣れていると送料無料ってあたりまえじゃないですか。申し訳ないけど、お客様に負担いただいた分は、その分、僕らがちゃんと対価として選書や他のサービスを提供する信頼関係を築くほうが健全だと思うので。そのための努力を積み重ねやっていきます。
あとは「助ける側と助けられる側」という関係になってしまうと、コロナが終息した後に対等でいられるのかということも考えます。もちろん飲食店やクラブ、ライブハウス、映画館は、性質上そう言っていられない状況があるので、いま進んでいる様々な活動を否定する気は全くないんですけど、ちゃんと終息後に何を返していけるのか、そもそも終わりはくるのか、総合的に考えて取り組んでいきたいですね。
三島 そうですね。だからこそ支え・
鎌田 例えば、双子のライオン堂さんやREWIND-BOOKSさんもプリペイドカードみたいなサービスをやられています。twitterなどを見ていると、個別にはみなさん面白いことをやられているので、それをみんなでシェアして、より良いアイデアを生み出していきたいです。
築地市場みたいなサイト
三島 「そういうものだから」と言って今まで改善されてこなかった、出版社と書店のいびつな関係性を、しっかりと変えていきたいな、と以前から考えていました。そのためには、出版社と書店と読者が、気持ちよく共存できるプラットフォームがないといけない。自分たち仕様のプラットフォームがないことが、かえって自分たちの自由度を奪っている。たとえば、注文はFAXでしかやりとりできず、結局、「転記」のときに「3」を「8に」読み間違え誤って「8」と入力してしまったり(笑)。こういうことがまだ現実にある。そういう部分は、双方使いやすい共通のシステムがあるほうがいい。と、ようやく昨年あたり思えるようになりました。そこで今年1月に、カランタというミシマ社の子会社を作って、「一冊!取引所」というサービスを始めることになりました。書店さんが小さい出版社の本を注文するときって、それぞれの出版社のホームページなりを見て、個別に注文しないといけなかったですよね。それはものすごい手間でした・・・。
鎌田 確かに、出版社との直取引だと書店の利益率は若干改善されるんです。ほんとに若干ですし、じゃあそればかりやればいいかっていうと、話はそれほど単純ではなくて。直取引だと、まずそれぞれの出版社のホームページに行って商品を確認して、それぞれ電話なりメールなりFAXなりで注文して、それぞれ振込みを行う必要があるので、その分業務は複雑になります。三島さんが以前おっしゃっていたんですけど、なぜ「一冊!取引所」をやるのかっていう理由の1つが、書店の煩雑な業務が減らし、本来の仕事により注力できるようにすることだと。本当にそうなったら素晴らしいことだと思いました。
三島 そうなんです。このサイト内でワンクリックで注文できるっていうことは最低限やっていきたいこと。プラス、単純な注文サイトというよりは、出版社から見たら出版社の営業サイトという役割も果たしてきたいです。今までは、新刊を出すとき「こんな本が出ます」って個別に1店1店伝えて、注文をもらうってことをしていたんです。これって、出版社も大変だし書店さんも大変なんですよね。それだったらその本のことが伝わる動画を1本撮ってアップして、それを見てもらえば、双方、時間的にも空間的にも制約されずにすむ。さらに言うと、それを内向きなものにしません。誰もが見ることができます。いわば築地市場みたいなものです。プロが取引をしながら、一般の人も周りで見ていて、一緒に食べることもできるっていう場になっています。
鎌田 営業とプロモーションがコンテンツにもなっているっていうことですよね。
三島 そうです。本屋さんも読者の方も「なんかここを訪ねていたら面白い、なんか毎日見てしまう」っていうサイトにしていきたいですね。
一冊取引所の現在のトップページ
開催方法、内容ともに、まさに「これから」の空気を感じずにはいられなかった今回のイベント。このイベントを皮切りに、ミシマ社の動画配信形式でのイベントは続々と開催されていきます。
このイベントの1週間後にも、京都の書店、メリーゴーランドさんと共同で、藤原辰史先生をお迎えして「パンデミックを生きる構え」というイベントを開催しました。コロナ禍の中、われわれはどういう心持ちで日々を過ごせばよいのか? 藤原先生が過去のパンデミックの歴史資料から紐解き、重みのある言葉をもって語って下さいました。(くわしくは以下の編集部からのお知らせをご覧ください。)
これからもミシマ社は、出版メディアとして「本当におもしろい」、「いま必要とされている」コンテンツをみなさまにお届けしていきます。ぜひご期待ください。
編集部からのお知らせ
4/25開催「パンデミックを生きる構え」イベント動画を期間限定で販売中です!
藤原辰史先生をお迎えして行われた「パンデミックを生きる構え」のイベント動画を5月10日までの期間限定で販売中です。
「これからの『ものづくり』と『小売』を考えるナイト2〜ALL YOURS のやり方を学ぶ!」
木村昌史 × 山下優 × 三島邦弘
オンラインイベントが開催されます!
日時:5月9日(土)16:00〜
主催:青山ブックセンター
開催方法:WEB会議ツール「ZOOM」を使用したオンライン配信
アパレルブランドALL YOURS代表の木村昌史さんと、青山ブックセンター本店店長の山下優さん、そしてミシマ社代表三島の3人によるトークイベントがオンラインで開催されます!