第51回
「深、呼、吸、和、書、集」 〜世間の空気、私の心、解きほぐす本〜
2020.07.26更新
ステレオタイプや先入観。強迫観念。焦燥感。
世間でいわれていることをなんとなくそのまま受け入れて過ごすうちに、社会や他人への見方が凝り固まって、視野が狭くなってしまうことが、あるように思います。
結果、自分自身のマインドも柔軟さを失って、周りの人に対して攻撃的になってしまうことも。
もしかしたら、その心持ちや、そこからうまれた軋轢が、自分自身も苦しめているかもしれません。
今日は、ほっとひと息ついて、社会に対して、周りの人に対して、そして自分自身に対して、もう一度とらえなおすのにおすすめの4冊をご紹介します。
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「魔の正体は、自己憐憫と罪悪感です」
まえがきで三砂先生が書かれているように、なぜだか私たちには、自ら自分自身をいじけさせてしまう心の傾向があるように思います。その原因を、「親のせい」「社会のせい」などと言い募れば、いくらでも外に求めることはできるのですが、同時に、そういう「何かのせい」は結局、つらい心も人間関係も、救ってはくれないようにも感じます。
「~~のせい」の呪縛から、いったいどうすれば逃れられるのか...。もしかしたら私たちは他人も、そして自分自身も「許せなく」なってしまっている・・・?
「献身のエトス」「親を許す」「アイ・ラブ・ユー、バット」etc・・・
ご自身の体験、体感に根ざした三砂先生の言葉は、「時代の常識」をも越えたところにある人類の深い知恵とつながっているような気がします。
「さばく」ことに一生懸命なあまり、「ゆるす」ことができなくなった心を、温め、ほぐし、励ましてくれるような一冊です。
『モヤモヤの正体~迷惑とワガママの呪いを解く~』尹雄大(著)
「迷惑だ」「ワガママだ」と他人の行いを断罪する言説が、メディアでも、日常生活でも、幅を利かせています。そしてそう言われたほうは、なぜか萎縮してしまって、相手に従わざるを得なくなってしまう・・・。
でも、その「迷惑」や「ワガママ」は、本当にみんなにとって「迷惑」や「ワガママ」なのでしょうか? そう言っている人は、もしかしたら、自分の主張を通すために、あるいは「自分への配慮」を求めて、世間(みんな)を持ち出すことで、自分の正しさを押し通そうとしているだけなのかもしれません。しかも、自分自身でも無意識のうちに・・・。
電車内、職場、教育現場、メディア・・・さまざまなシチュエーションで日々巻き起こっている「モヤモヤ」を丁寧に見つめ直し、解き明かしていく一冊。こんなに深く潜れるものなのかと、尹雄大さんの思考の呼吸の深さに驚嘆してしまいます。
ニュースで目にする事件や社会問題。
実はあなたも「当事者」なのかも・・・。
なんてこと言うと「意識高い」本だなんて思われてしまうかもしれませんが、この本の特異ところは、そんな大上段に構えた論を展開することは一切なしに、著者の青山ゆみこさんご自身の体験談を中心に、エピソードや思い、考察が語られているところなのです。
あんまり赤裸々に語られているので、「そんなことまで書いて大丈夫?」と読んでいるこちらが心配になってしまうくらいなのですが、深刻な話も、なぜだか明るく、ときにコミカルに感じられる。シンプルに、読んでいてめっちゃおもしろい。
青山さんご自身も「魂のお焚き上げ」と語る本書。語りづらい話だからこそ、あえて蓋をあけて風を通してくれる、稀有な一冊です。
『坊さん、ぼーっとする。~娘たち・仏典・先人と対話したり、しなかったり~』白川密成(著)
今、必要なのは、情報でも評価でも判断でもなく、
期待せずに、平気で待つ勇気。
と帯文。本書刊行の2月時点では、社会の状況がこれほど厳しいものになるとは、予想だにしていなかったです。でも、このスタンスは、以前にもまして大切だと感じます。
もちろん情報も評価も判断も大切なのですが、過度に情報や評価に反応し、振り回され、疲弊してしまう・・・これがこの数ヶ月の私たちだったようにも思うのです。
父として、住職として、市井の一生活者として過ごすミッセイさんの日常と、真言密教の経典『理趣経』の教えを行ったり来たりしながら、心のチューニングをしてくれる一冊。読むとなんだか落ち着きます。
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人の感情という、見えないものと向き合うときは、画面の世界の条件反射的な速度よりも、ゆっくりかみしめながら、行きつ戻りつできる本の速度のほうが、向いているかもしれません。
ぜひ、これらの本と一緒に、自分のペースで時間をお過ごしいただけるとうれしいです。
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