第53回
『残念こそ俺のご馳走。――そして、ベストコラム集』刊行直前特集(1) まえがきを公開します。
2020.08.28更新
今週末の日曜日(30日)、バッキー井上さんの著書『残念こそ俺のご馳走。――そして、ベストコラム集』が発売になります。
『残念こそ俺のご馳走。――そして、ベストコラム集』バッキー井上(ミシマ社)
関西のライフスタイル情報誌『Meets Regional(ミーツ・リージョナル)』で、創刊から30年間連載され続けてきたコラムのベスト版です。
書かれたのは、ひとり電通、画家、漬物屋や居酒屋の店主、そして日本初の「酒場ライター」と、様々な仕事をしてきたバッキー井上さん。(その半生は『人生、いきがかりじょう』でも書かれております)
その数奇な人生が導き出すのか、「傷があるから不況に勝てる。」「古漬は曲がるが浅漬は折れる。」「ココロ折れても、生きる」などなど、沁みる名フレーズとバッキーさんの哲学が、200ページのいたるところに詰め込まれています。
そして、バッキーさん独特の文章にも注目です。バッキーさんの仲間の話や思い出される過去の話、昭和ポップスの歌詞やその他もろもろを、酒場を舞台に入れかわりたちかわり登場させながら、探偵小説を思わせるハードボイルドな文体で綴られています。
まえがき
「なぜ踊らないイノウエ、街のカーロス・リベラよ」と宣言したと思ったら、ココロ折れても生きるとわめきだし、美人おっさん論をぶち上げ、やんちゃなハタチの奴らとの戦いを赤裸々に書き、「酒よ酒よ、酒さんよ」とドリブルした途端に「酒は時間の引換券」だと書いている。
イノウエのイノはイノベーションのイノだと吹いたあとに伝説のアゴ族しゃくれ協同組合で泣きに入り、傷があるから不況に勝てる、手間を惜しめば人生に泣くなどとそれらしいことを言っている。
そして挙げ句の果てには「百の扉、千の酒は俺達の不滅の動機」とか「全部許して飲もうじゃないか」と叫んで何もかも肯定し始めている。
いったい俺は何をして何を伝えようとしているんだ。
権藤(ごんどう)、権藤、雨、権藤。モカマタリやパリーグの男。祈りとバクチは別の世界と言い放ったワイン一〇本男。酒場ライター養成講座を裏寺(うらでら)の居酒屋で開催。鷲田清一先生が朝日新聞で連載されている折々のことばに取り上げていただいた「あー手練れ、あー修繕」の文章はなんと錦市場(にしきいちば)の漬物屋で発行している新聞に書いたものだった。
意味不明ゾーンに入ると、「森の住人」「ヘンコリスト」「赤三兵」に「シアワセの火の玉」「絶壁の証明」「トゥモローカムバック」ときて最後に「安物のスッポン、サカズキチュウチュウ」で締められている。
拾い続けてきたフレーズは子供の頃と六十を過ぎた今も水道の青いホースみたいなものでつながっている。子供の頃に親父から授かった太モモ馬カポリは俺がしっかり受け継いでたくさんの女性達にやってあげたし、おやすみマイボーイも歌えるし、何かに目覚めた小三の夏休みから白髪のおじいになった今までずっと同じことをし続けている。
けれど岡林信康が歌っていた「もう随分長い間見ることもないが 遠い日のぼくの春には つばめがとぶ」という歌をくちずさむことはなくなり、コロナ禍以来、六十一歳の俺は近藤真彦のハイティーン・ブギばかり歌っている。
「ハイティーン・ブギ 未来を俺にくれ ハイティーン・ブギ 明日こそお前を 倖せにしてやる これで決まりさ」
さあ今宵も地団駄というステップを踏んで街で飲もう。それでいいと思う。
(明日も『残念こそ俺のご馳走』の発刊記念特集をお送りする予定です)