第66回
『時代劇聖地巡礼』発刊! 春日太一さんインタビュー&本書の一部公開
2021.04.20更新
いよいよ本日発刊となる『時代劇聖地巡礼』。時代劇研究家の春日太一さんが、京都・滋賀にある時代劇のロケ地41カ所を巡り、美しい写真とともに、撮影の裏側を解説した一冊です。
本日のミシマガでは、発刊を前に春日さんご本人に本書の魅力をうかがったインタビューの模様をお届けします。さらに、記事の後半では、本書の一節「流れ橋」も特別に公開します。
(写真:来間孝司)
「こういう本が読みたかった」と思える一冊
――『時代劇聖地巡礼』ができました!
春日 1年の長い取材と執筆を経て、ついに出ましたね。いつも本を作るときは、「こういう本が読みたいなと思っているけれど、だれもやってくれないので自分がやろう」ということが多いんです。
前々から、時代劇がどこでどう撮られていたのかを写真と一緒に解説していく、という企画を考えていました。それがついに理想形で実現し、「こういう本が読みたかったんだよね」と思える一冊ができあがりました。
――読み直してみて、特にお気に入りの箇所はどこですか?
春日 やはり一番力を入れたと言っても過言ではない、巻末の「『鬼平犯科帳』エンディング映像はここで撮られた!」ですかね。
今回の取材では、「インスピレーション」という曲に合わせて流れる『鬼平犯科帳』のエンディング映像のほぼ全カットを、同じ角度から再現して撮影しました。私が直筆で描いた地図を見ていただければ、みなさんも同じ角度から写真を撮ることができます。
「はしゃいでいる春日太一」を味わってほしい
――もう何度もお読みになったそうですね。
春日 読みました。自分の本なんですけど、スタッフの皆さんもいい仕事してくれたので、惚れ惚れする本ができました! まず見てください、この表紙。明るくていいですよね。晴天のなかでこれを撮るために、わざわざものすごく暑いなか、この流れ橋に行ったんです。昼の2時半から一時間、遮るものがなにもないなかで何往復も歩いて、いろんな角度から撮ってもらいました。みなさん家にいたりして、鬱屈しているところもあると思うんです。そんなときに、見た瞬間スカッとするこの一枚。これだけでも元が取れるんじゃないですかね。
――これまでの春日さんの本と、文体が違うようにも思うのですが。
春日 そうですね。当初は1か所1か所、その聖地だけを解説していくつもりでいたんです。ただ最終的に、旅程順に読むことのできる紀行文の形になりました。そうすると僕自身の持っている文体は硬いので、そこが合わない可能性があると思い、あえて柔らかめな「ですます調」で書いています。それによって「聖地を巡礼しながらはしゃいでいる春日太一」の楽しさを、柔らかく追体験してもらえるといいかなと思っています。
ここにあのスターがいたのかもしれない
――時代劇ファンでなくとも楽しめる一冊になっていますよね。
春日 そうですね。時代劇のロケ地というのは、基本的に京都の風光明媚な場所なわけです。そこに時代劇という角度を入れることによって、例えば、本来穏やかだった場所が、実は殺風景なシーンを撮っている場所だった、というギャップが生まれます。時代劇に興味が無かった方でも「ここでこんなものを撮っていたんだ」と知ると、興味がわいてくるかもしれません。
あと、なにげなく過ぎてきた観光地に向かうための場所ってありますよね。例えば中ノ島橋はみなさん通り過ぎるだけの橋なのだけれど、実は時代劇では、何百回、何千回と出てきた聖地なんですよ。ここにあのスターがいたのか。そう思うと、途端に世界が輝きますよね。そんな瞬間に、この本があればたくさん出会えます。時代劇に興味をもつきっかけ、それから、京都を旅したくなるきっかけの一冊にもなるかもしれません。
――この本ならではのおもしろみはどこだとお考えですか?
春日 この一冊さえあれば、実際に俳優たちが立っていた、その場所にみなさんも実は簡単にいくことができます。ある種、時代劇スターの気分を味わうことができるんです。ヒーローになりきることもできます。それと同時に、それを撮っているスタッフとか監督のポジションになることができるわけですね。この角度から撮ったら背景はどう映るだろうとか、どこをどう切ったら、この景色は時代劇としてかっこよく映るだろう、なんて監督気分になれるので、カメラを片手に実際に聖地へ行くことをおすすめします。
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さて、ここからは本書に収録されている聖地のひとつ、「流れ橋」の一節をお届けします。
本書の一部公開! 「流れ橋」
京都府の南部、八幡市にあります。木津川にかかる全長三五六・五メートル、幅三・三メートルの巨大な木製の橋で、正式名称は「上津屋橋」。河川増水の際、水に流されることを想定して作られたことから「流れ橋」と呼ばれています。「時代劇に出てくる橋」といえば、まずここが浮かぶ方も少なくないのではないでしょうか。
ここの特徴はなんといっても、その長さと高さ。そして欄干がないこと。そのスケールの大きさのため、多摩川、荒川、木曽川、天竜川といった巨大な河川を渡る場面で使われます。
登場人物たちにここを歩かせるだけで「長い旅の途中」という旅情感が画面にもたらされる。そのため、大名行列を渡して参勤交代の場面を撮ったり、旅姿の主人公を歩かせたりして、「江戸へ向かう」「江戸を出ていく」という場面の象徴になってきました。
また、橋げたの幅が広い上に、南岸は水が少ないときは砂地になっていることが多いので、それを利用してアクションシーンも撮られています。テレビシリーズ『服部半蔵影の軍団』第二話(一九八〇年、関西テレビ)では千葉真一VS倉田保昭という世界を股にかけて活躍するアクションスター同士の激闘の舞台となりました。テレビスペシャル『闇の狩人』(一九九四年、テレビ東京)のクライマックスでは橋の上で闘いが繰り広げられ、その下で侍が馬を駆るという立体的なシーンにする効果をもたらせています。
また、河原のスペースの広さは合戦シーンの撮影場にもなりました。テレビスペシャル『白虎隊』(一九八六年、日本テレビ)では前編では鳥羽伏見の戦い、後編では会津の婦女隊による激戦の場面が撮られています。同じく日本テレビのテレビスペシャル『五稜郭』(一九八八年)では箱館戦争の激闘が展開、土方歳三(渡哲也)の壮絶な立ち回りと戦死が撮られています。
ただ、この取材日は梅雨の真っ最中というのもあり、あいにくの悪天候。思うような撮影ができなかったので、八月に改めて撮影をしました。今度は天気は良かったのですが、四〇度近い気温。一つ間違うと身の危険があるレベルの陽射しを浴びながら、橋を何度も往復してさまざまなアングルから撮影をしました。過酷ではありましたが、その分、狙い通りにこの橋ならではの旅情感ある写真が撮れたのではないかと思っています。
その中に、橋の上であぐらをかいている写真があります。これは、本当は足を垂らして、橋に腰かけている感じにしたかったんです。イメージは『必殺仕置人』最終回ラストのおきん(野川由美子)と半次(秋野太作)の感じで。ところが、思わぬ高さに、足を投げ出すことができなくなり、この体勢になってしまいました。それだけだとなんだか寂しい感じなので、いちおう手を広げています。
普段は地元の方が通行用に使っており、取材当日もご年配の方が徒歩や自転車で渡っていました。欄干がないだけに危ないよな―と思いつつも、こんな風情のある橋を日常で使っているというのは、なんとも贅沢な気もしました。
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このように、ロケ地41カ所の聖地について、どんな場所なのか、どの作品にどのように使われているのか、などを取材に同行している気分でお楽しみいただけます。さらに、巻末には「京都、水の点描」「石段の見分け方」「『鬼平犯科帳』エンディング映像はここで撮られた!」という、時代劇ファンにはたまらない3つの特集コーナーも収録しています。
時代劇の大ファンだという方も、これから時代劇を観てみようという方も、時代劇に興味はないけれど「聖地好き」という方も、ぜひお手に取ってみてください!
(終)
編集部からのお知らせ
サイン本・特典付書籍情報
春日太一さんの直筆サイン本、特典ポストカード(1枚)および、特典冊子「観たら『時代劇聖地巡礼』したくなる作品10選」(春日太一(選・文))付きの書籍を一部店舗で販売しています。
春日さんコメント動画を公開中です!
発刊記念MSLive!「時代劇聖地巡礼 舞台裏ツアー」開催します!
時代劇聖地巡礼』の発刊を記念して、MSLive!(オンラインイベント)を開催します!
執筆・撮影・編集、それぞれの立場から『時代劇聖地巡礼』に関わり、共に聖地を巡った3人が、取材や本書の制作過程の模様をお話しします。
日時:2021年5/14(金)19:00~20:30(途中休憩5分あり)
※イベント翌日に、申込者全員にアーカイブ動画をお送りします。
出演:春日太一、来間孝司(カメラマン)、三島邦弘(編集者)
チケット:¥1,100(税込)