第82回
最相葉月×仲野徹「笑う門には人生案内!」(2)
2021.09.26更新
ミシマ社より8月に刊行した2冊『辛口サイショーの人生案内DX』と『仲野教授の 笑う門には病なし!』。同時刊行を記念して、それぞれの著者である最相葉月さんと仲野徹先生による対談が実現しました。最相さんが聞き手になって、仲野先生にたっぷり質問された大爆笑の前回。後半は攻守交代。仲野先生が最相さんの本について、人生案内について、根掘り葉掘り聞きました。すでに書籍を読んでくださった方も、未読の方も、最相さんと仲野先生の軽妙な掛け合いをぜひお楽しみください。(前編はこちらから)
(構成:野崎敬乃、構成補助:大成海)
「人生案内」という場所で、職人のように
仲野 そろそろ攻守を変えて、私から最相さんに聞いていきたいと思います。エッセイでも多少そうですけど、相談に回答するのは、自分の頭の中身を覗かれているような感じがしないですか? 『辛口サイショーの人生案内DX』を読んだら最相さんがどんな人なのか、よく分かる気がしました。中にはすごく厳しい人だと思わはる人もいると思うんですけど、ほんまに優しいというのは実はこういうことかもしれないなって思いました。「人生案内」のときの最相さんと普段の最相さんって一緒なんですか?
最相 違うと思いますね。読売新聞の「人生案内」は、いろんな作家さんが務めてきた100年くらい歴史のあるコーナーで、私ももう13年ほどやっているんですけど、この枠組みの中だからできるキャラクターがあると思います。「辛口サイショー」というのも、誰かがブログに書いてくださって、これいいなぁと思って書籍化第一弾のときからタイトルにさせていただいたんです(第一弾は『辛口サイショーの人生案内』ミシマ社刊)。
私の本業はノンフィクションライターですから、それはそれとして、「人生案内」では辛口サイショーのキャラが質問文を読んでいるんだと思うんです。ある種の職人のような感じですね。だからどこに行っても人生相談ができますか? と言われると、それはできないと思います。
もともと私は読売新聞に限らず人生相談のファンだったんですよ。記事に人生相談があると、回答のところを伏せて、自分だったらどういうふうに答えるかということを遊びのようにずっとやっていまして、まさか自分がそれをやるようになるとは思わなかったんですけどね。
相談者の先に、読者がいる
仲野 相談者の質問はどんなふうに届くんですか?
最相 最近はメールが増えていますが、便箋に直筆で10枚くらい書かれる方もいらっしゃいます。
仲野 10枚とかあるんですか!?
最相 あるんです。相談文を読むときは、この人は一体何を悩んでいるんだろう、ということを考えないといけないんです。いろんなことに悩んでいるようで、実は根底にはこんなことがあるんじゃないかと探ることが必要になる場合もあります。
仲野 最相さんは、精神分析ができそうですよね。
最相 それはどうかわかりませんけど、人が悩んでいるときって、視野狭窄になってしまうと思うんですよね。だからどうしてもそのことばかりに自分の意識が向いてしまう。この人の相談は、夫婦関係のことをひとつも述べてはいないけど、逆に夫の話が出てこないのはおかしいとか、そういうところから相談の背景を探っていくようなことはあります。相談文だけでそこまで言えるのか、ということはもちろんありますが。
仲野 相談には共感しながら読まれるんですか? 呆れるとか、怒るとかはないんでしょうか?
最相 人生案内がカウンセリングと違うのは、その人だけに答えれば良いというわけではないということなんです。現在の読売新聞がどれくらい読まれているのかはわかりませんが、一時は1000万人くらい読者がいました。大変読者の多い新聞なので、読者の方が読んでも読み物として楽しめるということを常に意識しますね。ここは怒ったほうがいいかなと思ったときは怒りますけど、怒るだけでは読み物として心地良い物ではないので、工夫しないといけないんです。
私は回答の450字で何かが根本的に解決するとは思っていなくて、少しだけ何かを横に動かすくらいの視点を差し上げることによって、相談者も読者も少し前に進めればいいな、という答え方をしています。
今なら違う答えをする?
最相 イベント視聴者の方から「かつて答えた質問で、今なら違う答えをするなという質問はありますか?」というご質問をいただきました。なるほど。いい質問ですね。新聞なので、本来は書いたらそのまま流れていってしまうようなお仕事なんですけど、今回のように本にしていただくときにゲラの状態で読み返しても、回答はほとんど直しませんね。
仲野 そうですか。
最相 ただ今回、ひとつだけ回答を書き直したものがあるんです。これはクイズにします。買っていただいた読者の方ならわかるかもしれない。それはどれでしょうか! 解答は言いませんので、ぜひ読んでたしかめてください。
仲野 それはどうして直されたんですか?
最相 編集と校閲の方から、こういう意見もあります、こういうふうに感じる人もいるかもしれないです、という指摘があったんです。これまでだったら、それで書き換えることはなかったんですけど、今回は少し考えたんです。時代と読者の方の年齢をあらためて考え直しまして、特にコロナもあったりして、いろんな価値観が揺さぶられている今だったら、もう一歩進めないといけないなと思って。ちょっと私自身の頭が昭和になってたところもあって、それを書き直しました。
仲野 最相さんって、自分で書いたものを全部覚えていらっしゃいますか?
最相 覚えているのはあるんですけど、ほとんどが流れていってしまいます。
仲野 最相さんなら全部覚えてはるかなって思ったんですけど。
最相 いやいや。まるで他人が書いたみたいって思うような原稿もありますよ。
仲野 あ〜。安心しました。僕も自分の文章読んで「なんでこんなにおもろいんやろう」って思うことがときどきありますからね。
最相 (笑)。
時代を映す相談が飛び込んでくる
最相 今回の本をまとめながら、こういう時代がきたんだとすごく思ったのは、私は男女平等雇用均等法の第一世代なんですよ。同世代には会社の役員をやったり、大学教授をやったり、そういう人たちもいるんですけど、そろそろ引退が近づいてきている。最初に就職した組織ではそろそろ引退。次にどうするかという年代で、そういう質問が今回初めて来たんです。時代を映す相談というのは、ときどきふっと飛び込んでくるものですね。それが人生案内の面白さでもあります。
ずっと長く続いているコーナーなので、嫁姑問題とか、自分の顔で悩んでいるとか、学歴の問題とか、そういう時代によって変わらない普遍的な質問もありますけど、振り返ってみると毎年新しい話題があります。
仲野 昔、大正時代の人生相談を読んだことがあるんですけど、嫁姑問題とかはけっこう普遍的ですよね。ずっとあるやつはありますよね。でもおっしゃる通り、ちょっとずつ変わっていうような面はあるんでしょうね。
最相 やっぱり時代を写すので、LGBTとか、性的虐待を幼少期に受けたのを思い出して、ご高齢になっているけど今も苦しいというような相談もありますし、多分それは今までは出てこなかったものですけど、こういう時代になってようやく書けたのかなぁ、ペンを取れたかたなのかなぁというような気はしましたね。
仲野 そういう相談を読んでたら、長く持たずにもっと若い頃になんとかできないかなっていう感じはしますよね。それは日常生活では匿名でそういう相談をする場所がないということなんでしょうかね。
最相 そうだと思いますね。相談すること自体が恥だとか、相談する人によってリアクションがあまりいいものではないと傷ついてしまって、さらに相手を恨んだりすることもあるでしょうし、なかなか顔が見える関係での相談はできないものが寄せられてくるのかなという気はしますね。
それから、逆にコロナになって減ってしまったのは、ちょっと面白い相談ですね。旦那がクマのぬいぐるみが好きとか。第一弾のほうに載っていた、ちょっとふざけてるんじゃないかと思うような相談が今は本当に減ってきている。余裕がないのかもしれない。
仲野 やっぱりみんな自粛気味なんですかね。
最相 そうですね。それはちょっと残念なところですかね。
仲野 これは読売新聞次第かもしれませんけど、回答者をずっと続けられる予定なんですか?
最相 私は回答者の中で、2番目か3番目くらいに経験が浅いんです。ほかのみなさんは、本当に何十年戦士ですよ。
仲野 へ〜。そうなったらもう生活の一部になってくるんでしょうね。
最相 リズムですよね。ある種の職人としてみなさん続けておられるので、私も望まれるうちはやっていきたいなって思います。
(終)
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この対談、とにかく、最初から最後までおもしろすぎるんです・・・!
記事化されていない部分もふくめて、映像でじっくりとご覧いただけますとうれしいです!