第84回
『思いがけず利他』本日発刊します!
2021.10.20更新
本日10月20日(水)は、中島岳志さん著『思いがけず利他』のリアル書店先行発売日です! 来週の25日(月)には、オンライン書店を含むすべての書店で公式発売となります。ミシマ社の「創業15周年記念企画」となる、大切な一冊です。
本日のミシマガは『思いがけず利他』発刊を記念して、著者の中島さんからのメッセージ動画、書店員さんからのご感想コメント、そして、ぜひこの秋にあわせて読んでいただきたいミシマ社の人文書をご紹介します!
他者を思い、自らの行動を変える。これは今、私たちにとって切実な問題のひとつです。多くの人が共に困難に向き合っているときほど、「自分は利己的に振る舞っていていいのか?」「利他って何だろう?」と考える機会は増えるのではないでしょうか。
本書はそんな時代において、私たちの感覚と思考を思わぬ方向へと導き、人と人とのあいだに結ばれているはずの豊かな関係性を再想像させてくれる一冊です。本書で中島さんは、「誰かのためになる」ことや「他者と共に生きる」ことを根底で支えているのは、善意や合理性ではなく、意思を超えて「思いがけず」人を動かす力なのではないかと問いかけます。
「利他」と「利己」はメビウスの輪
まずは、発刊にあたって中島岳志さんが寄せてくださった書籍紹介コメントをご覧ください!
私は、「利他」と「利己」というのはメビウスの輪のようにつながっているものなのではないかと思います。
すごく利他的なことをやっている人でも、その内面に「褒められたい」とか「名誉を手にしたい」という思いが強くあると、それはとても「利己的」であったりしますよね。「利己」と「利他」はなかなか分けにくい。厄介な問題があるのではと思っているんです。
では、本当の利他とは何なのか? といったときに、キーワードは「思いがけず」なんです。あるいは、「偶然」。
人間の意思によって何かをやる、ということを超えたところで起きてしまう行為や現象。そのなかに、利他の本質があるのではないか。(※動画より一部抜粋)
書店員さんからの熱い声
9月末に行われたMSLive! ミシマ社創業15周年記念鼎談「著者、書店主と考える これからの本のこと」では、東京・荻窪の書店Titleの店主である辻山良雄さんが、本書について「人生の隠された秘密を垣間見るような本です」とおっしゃってくださいました(本イベントの詳細は、「編集部からのお知らせ」をご覧くださいませ)。ほかの書店員の方々からも、熱い声を続々といただいています! その一部をご紹介させていただきます。
◯紀伊國屋書店 鳥羽遼太郎さんより
利他に潜む暴力性。日々の自分が「良かれと思って」行っている行為が相手にとって重荷になってはいないか、考えずにはいられませんでした。(...)
「私の存在の偶然性を見つめること」。その言葉によって、利他の内包する複雑な糸が解かれていくのを感じました。私が私ではなく、目の前にいるその人だった可能性を思うこと。それは自ずと利己という考えから抜け出すことに通じ、そして今まで自分にばかり向いていた矢印を外側へと反転させる一つのきっかけになるのではないかと思いました。(...)
「利他」とはなんだろう、聞いたことはあるけどよく分からない、そんな方にはもちろん、利他について負のイメージを抱いている方にも本書はとても大きな気づきを与えてくれると思います。本書を読んで利他について理解が深まるのはもちろんのこと、その先、利他から開かれていく新たな日常というものに胸をふくらませずにはいられませんでした。
◯ブックハウスひびうた 村田奈穂さんより
本書を読むまでは、利他的行為というものはもっと主体的な意志に基づくものだと思っていたので、中島さんが「利他」をもたらすものとして、人間のどうにもならなさ、無力を提示されていたのは印象的でした。(...)
主体的であることがよいことだとされる現代社会に、人間とはそもそも偶然を受け止める「器」のような存在なのであるという本書の主張は、新鮮な驚きをもたらすものだと思います。
自分に与えられた毎日を一生懸命生きることこそが、自己という器を育てることであり、「利他」が生まれ循環する基になるという本書の一節を読むと、「立派な人がやること」という利他的行為に対するハードルが下がるように思います。まずは本書を手に取る人たちの間で、「利他」的な生き方の循環が広まっていけばいいなと思います。
ミシマ社 秋の人文書――自己責任論や国家の機能不全を超えて生きる
これからの時代、自分たちはどう生きていけばいいのだろう? 政治や社会制度の機能不全を解く手がかりはどこにある? 他者との関わりあいを実感するには? こうした問いを考えるための人文書が、この秋にミシマ社から続けて発刊することとなりました。
『思いがけず利他』とあわせて読んでいただきたいのが、9月に刊行された松村圭一郎さんの『くらしのアナキズム』です。
左:『思いがけず利他』 右:『くらしのアナキズム』
中島さんは『思いがけず利他』のなかで、現代社会において利他の循環を断ち切るイデオロギーとして「自己責任論」を批判します。リスクには「自助」で対処すべき、という自己責任の規範が浸透することは、生活や命を守る共通のセーフティネットが機能不全に陥っていることと裏表の関係にあります。中島さんは、この発想を超えて自己と他者をつなぎ、社会に利他を呼び込む際に重要なことは、自己という存在の「偶然性」への気づきだと書きます。人が生きる環境のほとんどは、自らの努力を超えたところからもたらされたものです。それを自覚するとき、「今の私は存在しなかったかもしれない」「隣にいる人のような人生を送っていたかもしれない」という想像力が働きはじめます。
松村さんは『くらしのアナキズム』のなかで、「無力で無能な国家のもとで、どのように自分たちの手で生活を立てなおし、下から『公共』をつくりなおしていくか」と問いかけます。松村さんは人類学の知を参照しながら、政治の場を生活のなかへ取り戻すためのヒントを呈示します。そこで取り上げられるのは、支配権力に強制されなくても、秩序を生み出し、富を分けあって生きてきた人びとの姿です。共同体での暮らしには、立場の相違を超えて対話し、富も困難も共有しながら共に問題に対処する知恵が備わっていました。
私が他者へと開かれ、互いの喜びや苦しみが「ふいに」伝わることで、共に生きてくための関係が結ばれる。『思いがけず利他』と『くらしのアナキズム』はそんな世界の豊かさを再発見させ、これからの社会や政治のかたちを考える力を与えてくれる2冊です。
私たちをその脆さや弱さごと受け止める血の通った思想に、この秋ぜひ、触れていただけますとうれしいです。
中島岳志さん×松村圭一郎さん対談を開催します!
中島さんと松村さんが、11月29日(月)にご対談されます! テーマは、「くらしをよりよくするために、自分たちが「政治」にできること――アナキズムと利他を手がかりに考える」。私たちは今、実際に「政治」にどう関わっていけばいいのか? お二人とともに考えます。
まもなく開催! 中島岳志さん×タルマーリーさん対談
また10/29(金)、中島さんと、鳥取県智頭町でパン屋とビール工房を営むタルマーリーの渡邉格さん・麻里子さんがご対談くださいます! その名も、「思いがけず発酵」です。
政治学者の中島さんと、パンやビールを作るタルマーリーさん。意外な組み合わせだと思われる方も少なくないかもしれません。しかし、利他の思想は、タルマーリーさんが野生の菌との向き合うときの姿勢と深く響きあっているのです。
タルマーリーさんは、ミシマ社から今年5月に『菌の声を聴け――タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』を刊行されました。空中にいる野生の菌を採取してパンやビールを作るタルマーリーさんは、発酵を「因果」ではなく「縁起」として捉えています。たとえば発酵が失敗したとき、その要因は曖昧で動的なもの。はっきりとした因果を突き止めようとすることで見失っているものが多いのではないかと考えます。
そして中島先生も、『思いがけず利他』のなかで、利他を導く構造を「因果」ではなく「縁起」と述べておられます。発酵は、作為や理性を超えて、ふいにやってくる利他として生じるものです。
思いがけず、よりよい、生きやすい社会へ――。そのためのヒントを、両者の初対話を通して探ります。
編集部からのお知らせ
中島岳志さん×辻山良雄さん×三島邦弘による「ミシマ社創業15周年記念鼎談」
記事で触れさせていただいた、Title店主の辻山良雄さんと中島岳志さんがご出演のイベント。アーカイブを販売しております!
中島さんと辻山さんは、ミシマ社の活動をいつも応援くださり、雑誌『ちゃぶ台』や「MSLive! Books」シリーズといった新しい本づくりを最も近くで支えてくださっています。ミシマ社創業15周年を記念して、出版に深く携わってきたお二人とともに、著者、書店、出版社というそれぞれの立場から、本の世界のこれからの可能性を語り合いました!
サイン本を限定販売いたします!
『思いがけず利他』のサイン本を、全国約30の書店にて冊数限定で販売いたします! 詳しくは、下記からご確認くださいませ。