第91回
『気のはなし 科学と神秘のはざまを解く』発刊!!
2022.01.19更新
明日20日(木)、ミシマ社の今年1冊めとなる『気のはなし』(若林理砂著)が、ついに発売日を迎えます!
2020年夏に開催したMSLive!サマー講座での若林さんのお話があまりにも面白かったことから、急遽「気のはなし」をテーマにした連続講座を2020年秋に開催。その内容に大幅な加筆を加えて1冊になったのが今回の書籍です。
「気」というと、なんだか怪しげな雰囲気も感じますが、じつは、東洋医学の根本を成すともいえるキーワードの一つ。中国の古典を遡ることから始まり、易や風水、そして東洋医学での「気」の捉え方、科学で捉える気、などなど、あらゆる角度から「気」の世界を俯瞰していくと、古来、人類が練り上げてきたこの概念の豊饒さに打たれます。
本日のミシマガでは、本書の「はじめに」を特別公開いたします!
『気のはなし』はじめに
この書籍は、ミシマ社の「大人のためのサマー講座」で、東洋医学の最重要古典である『黄帝内経・素問』の四気調神大論篇を解説してみたところ、代表の三島邦弘さんが大変面白がってくださって「若林さんにぜひ、古典を読みながら『気』についての授業をしてもらいたい、そしてそれを書籍化できたら」とおっしゃったのがきっかけで生まれました。
それならば・・・私が専門としている東洋医学分野での「気」と、東洋思想・宗教周辺での「気」について、俯瞰するような講座を作るのにチャレンジしてみようと。大変無謀な試みなのですが、おそらく、今までそんな講座を一般向けに行った人はいないでしょうからね。私は誰も歩いたことがない道へ、先人がいないほうへいないほうへ進むのが大好きなのです。
「気」というのは怪しげで捉えどころのない不思議な力として、現代日本では受け止められていると思います。もしくは、漫画やアニメで「手のひらから出す癒しの光線」であったり、「空中を流れる光の粒」「敵に当てると攻撃できる光のボール」などで表現される、何か超越的なエネルギーというイメージを持っていらっしゃる方がほとんどではないでしょうか。
実際のところ、そのイメージは「気」の一部分を言い当ててはいるのですが、それは大変狭い範囲なのです。本書では、みなさんが持つその偏狭なイメージを一気に拡張することを目標としています。
私は、東京医療専門学校を卒業し、鍼灸師の国家試験に合格してから早稲田大学第二文学部の思想宗教系専修に進学しました。目的は、東洋思想と、世界のメジャーな宗教をひと通り学ぶことだったのです。
長い間臨床に立っていると、患者さんが亡くなることも起こります。日本人には信仰する特定の宗教というものがない人がほとんどのため、死の恐怖に立ち向かう際、たった一人で、何にも頼らず耐えなければならないという、とてもつらい状況に陥ります。死期が近い患者さんが、よくわからない怪しげなスピリチュアル系の何某かに絡からめ取られ、かわいそうな状況のまま亡くなることも経験しました。
孔子の言葉に「怪力乱神を語らず」というのがありますが、「怪力乱神」を理詰めで語れるようになり、患者さんたちの利益につながる形で宗教的な話を臨床でしたい......と考えたのでした。
宗教というのは、論理的な医学と対極にある「理不尽なもの」と思われている節がありますが、人の命というものには理屈だけでは語れない部分が多く存在しています。あらゆる人に必ずおとずれる人生の終わりに、魂を救われるような経験をする場合、理屈抜きの「わけのわからないもの」が関与していることがとても多いのです。
「なにごとのおはしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる」(西行)ですね。最先端の疼痛緩和ケアを受けながら、僧侶や神父・牧師などの宗教者の訪問を受けるのがそれです。神や仏がなんなのかは実際のところはわからないのですが、そのありがたさになぜだか心底救われるのです。
私のことを直接知っている人は、誰もが「ものすごく理論的」「理詰めで話をする人」「エビデンスベース」と評します。某所で知り合ったサイボウズ社長・青野慶久さんなんて、「若林さんみたいに理詰めで話をする人が、なんで陰陽だの五行だの言うんだろ? ってものすごい不思議だったんだわ」とおっしゃいました。ですが、「若林さんの授業を受けてみて、『効くんだったらなんでも使うんです。臨床だから、ダブルスタンダードなんですよ』っておっしゃったでしょ。それですごく納得したわ」と言葉を継がれたのでした。
そう、東洋医学の臨床というのは、ダブルスタンダードなのです。
科学の目で見たエビデンスベースの治療方法と、機序はブラックボックスで、なんだかわからないけれど効くので利用するという治療方法が並行して行われるのが、わりと普通なのです。ここまでは解剖学・生理学ベースの治療、ここから先は「なんだかわからないヤツ」というのが、私の臨床ではなんらコンフリクトを起こすことなく、ごく普通に行われます。人生の終末期においての、医療と信仰の関係性みたいに。
実際、手から「何か」を出す・・・いわゆる手当て・外気功の手法も私は臨床上使います。効けばなんでもいいのです。それが人を害することがないのなら。だから私は、東洋医学の治療のことを「医と巫のはざま」と呼んでいます。医術だけでなく、巫術だけでもなく。そのどちらにも偏らず、巫術すらも理屈で読み解き、科学と神秘のはざまを自由に行き来するのが現代の東洋医学使いだと思っています。
私自身にはいわゆる怪奇・心霊現象の経験がたくさんあります。まあ、実際に見えたもの、聞こえたものは仕方がないです。それは私にとっては現実ですからね。ですが、これを特別なこと、素晴らしいこととして捉えるのは、私としては良いことではないと思うのです。世の中に不思議なことはたしかに存在するけれど、それを見た自分の脳みそが壊れているんじゃないかと疑える理性は、同時に持ち合わせていたいのです。
そんなバランス感覚で、これから展開される「気」の世界を俯瞰してみましょう。おそらく、読者の方々は「気」がこれほどに広大な領域に広がったもので、こんなにも多種多彩な意味を持っていたのかと驚かれることでしょう。
おまけ:若林家、資料で埋まるの巻
本書のあとがきにも綴られていますが、コロナの状況下で本書を執筆いただいたため、図書館なども思うように利用できず、大量の資料を買い込んでくださった若林さん。その修羅場をこちらの写真が物語っています・・・!
刊行記念イベント、開催します!
『気のはなし』刊行記念オンライン対談 坂本美雨×若林理砂「先生、気のことが気になります!
若林先生の患者でもある、ミュージシャンの坂本美雨さんとのオンライン対談が実現!
気について知って、東洋医学や養生をより深く実践できるようになるお話がたっぷり、2022年を元気に過ごせるようになるイベントです!
本書のもとになった講座のアーカイブ動画を再販!
若林理砂さん連続講座「気のはなし」アーカイブ動画視聴チケット(書籍化記念復刻)
「気のはなし」が若林先生の声と動きでわかる! 各回90分×8回の講座をまるごとアーカイブ動画でご覧いただけます。
書籍に収録しきれなかった部分もたっぷりありますので、あわせてお楽しみください!