第93回
『共有地をつくる』発刊特集 隣町珈琲のはなし(後編)
2022.02.22更新
新刊『共有地をつくる わたしの「実践私有批判」』(平川克美著)が、先週末2月18日(金)にリアル書店で先行発売となり、今週25日(金)には公式発売となります。
本書の中で、著者の平川先生は、次のように書かれています。
この社会を安定的に持続させてゆくためには、社会の片隅にでもいいから、社会的共有資本としての共有地、誰のものでもないが、誰もが立ち入り耕すことのできる共有地があると、わたしたちの生活はずいぶん風通しの良いものになるのではないかと考えている(本文より)
そんな平川先生が店主をしている喫茶店「隣町珈琲」には、独特の居心地のよい空気感があります。お店のスタッフの方との距離も、お客さん同士の距離も、近すぎず、遠すぎず。
「共有地」の元祖ともいえるその場所は、いかにして生まれ、続いてきたのか。
平川先生と、店長の栗田佳幸さんにお話をうかがいました。
(前編はこちら)
――構成:星野友里、田村洸史朗
左:栗田佳幸さん、右:平川克美先生
キャッチャー・イン・ザ・ライ
栗田 でも管理人になるということはつまり、管理というか維持することが目的ということですよね。
平川 そうそう。共有地をつくっているわけだけどさ、草をむしったりしないといけないじゃん。お隣にちょっときゅうりの畑をつくったりとかさ、いろんなことをしながら、何かゴールがあるわけじゃなくて。でも一番大事なことは自分が楽しむことだよね。自分が楽しめなかったらやってる意味がない。
栗田 いろんな色を入れていくという。
平川 共有地の管理人てさ、だからキャッチャーなんですよ。キャッチャー・イン・ザ・ライなんだよ。丘の上からこぼれ落ちそうな子どもがいたらそれを支えてあげるという。キャッチャーなんですよ。栗田くんにぴったりだよ。
―― この間、ミシマ社のスタッフが子連れでお店にきたら、栗田さんがすごくかまってくれたと言っていました。
平川 優しいからね。
栗田 保育士モードが入っちゃう。
平川 でもいいじゃん。キャッチャー・イン・ザ・ライのさ、自分は捕まえ手なんだと。共有地の捕まえ手なんだと。
栗田 そうですね。僕はそういうタイプですね。
平川 でも捕まえ手っていうのはさ、力がないとできないからね。想いだけではできない。
栗田 みんながわちゃわちゃしてくれると楽しいって感じです。自分はあんまり出たくない。
平川 ただ問題は、持続するかっていうさ。
栗田 そこですよね。
平川 だからそこだけは冷徹にっていうか、金勘定しなきゃいけないので。それは大原則なんだよ。同時に金勘定を全く度外視したこともやらなきゃいけない。度外視したことだけやってて金が入ってくるっていう虫のいいことはないんだよね。そこをわかってないような頭でっかちな奴が来ちゃうと、遊びじゃねんだぞっていうことをつい言いたくなっちゃう。言いたくないけどさ。
私有をやめる
平川 本のタイトルは『共有地をつくる』だけど、それは積極的な姿勢じゃないんですよ。「私有をやめる」なんです。どうやったら、「私のものでない」というところに行けるのかっていうことなんだよね。
栗田 別にコミュニティを作りたいわけじゃないですもんね。
平川 コミュニティはおれ嫌いなんだよ。コミュニティっていうのは、人に頼るっていう話、自分が生きられる場所がそこにあるみたいな話じゃん。そうじゃないんだよ。自分が犠牲になれるどうか、自分が私有しないことを快く思えるような心境になれるかどうか。で、実際やってみたらさ、快いんだよ、それは。
あとね、コミュニティだとなんかやるときに「合議制にしましょう」ってなるでしょう。おれそれは嫌なのよ。つまり責任を持つ人間だけで決めるべきだと。独裁とはまた違うんだよ。運用はみんなでやればいい。それはね、結構大事なことじゃないかなって思うんだよね。もたれかからないということだよ。人の褌で相撲を取らないっていうことがさ。
栗田 そこは徹底してますよね。
平川 社会のためにいいことをするとかそういうことじゃないんだよね。自分が一番楽な状態を追求していったら、私有を捨ててなるべく共有していくことになって、一番コストのかからない生き方をする方法が見つかったよ、と。自然とそこにいったよということだと思うんですよね。
それを押しとどめているものは何なのかということだよね。家族の絆だとかさ、いろいろありますよ、プライドが大きいかもしれないな。自分がこう人に見られたいとかさ。そういうのをどんどん削ぎ落としていって共有地にしていく。
だからよく例に出すけど、若い子で毎日違う服を着ているのがいたんだよ。で、「お前そんなに服に金使って」って聞いたら、一回着たらメルカリに出しちゃうんだって。要するにメルカリ全体の服が自分の服なんだって。なるほどねと。これだなって。
おまけ1 ネットの買い物は4回に1回当たればいい!?
平川 こないだ、シャワーヘッド買ったんだけど、失敗しちゃってさ。
栗田 型番とか見ないで買っちゃいますもんね。
平川 いや型番は合ってたんだよ。でもシャワーヘッドを支えるやつがゆるくてさ。シャワーの水が水平に飛んで頭上を通過していくわけ。
栗田 (笑)
平川 あれは悲しかったな。
栗田 iPadのケースなんかも型見ないで買っちゃうから、全然合わないですもんね。それですぐ人にあげちゃうっていう。
平川 インターネットで買ったら余計にダメだな。カーテンなんかも間違えて二倍の量買っちゃったしさ。でも四回に一回当たればいいのよ、インターネットの買い物なんて。くじみたいなもんだから。
栗田 いやいや、ちゃんと調べて買えばそんなことないですよ。それに気になったらすぐ買っちゃうでしょ?
平川 買って、そこで使い道を考えるんだよ。何にも合わないケースをさ、何に合わせるかって。これがブリコラージュなんだよ。
栗田 何だこれ、届いちゃったみたいな。とりあえず取っとくか、みたいな。
平川 そういう買い方をしてると、ピタッと合うときの嬉しさは格別ですよ。服はでもダメだな。標準体型してないから、ほとんど合わないね。栗田くんくらいの体型だったらほとんど合うでしょ?
栗田 いや、でも僕手が長いんで。
平川 そうか。おれ手が短いんだよ。手が短い割に胸囲だけがやたら大きくてさ。そういう特殊サイズの服あるけど・・・。
栗田 あると思いますよ。
平川 あるんだよ。久が原のお店のね、おじさんコーナーに。股下がすごい短くて、腹回りが大きい服とかが売ってんの。「楽々おじさん」だっけな、そういうブランドで。
おまけ2 平川さんの偏愛のはなし
栗田 平川さん、偏愛ですよね。銭湯が好きとか、偏ってますよね。
平川 気に入るとね、飽きるまではとにかく。今は、これ(隣町珈琲の開発中メニューを指しながら)。
栗田 ボルシチね。
平川 昨日もさ、お店と関係ない知り合いにまでボルシチ食わせて。ボルシチってなんで飽きないんだろうな。本当不思議だわ。
栗田 飽きますよ、そのうちたぶん。
平川 カレーは飽きるんだよね。でもここのタイカレーは飽きないね。最初からあんまうまくなかったから。すごいうまいスパゲティは飽きるんだよ。要するに濃いんだろうな。
栗田 ハマるとずーっとそればっかり食べてますもんね。ステーキにハマってたときは本当に毎日食べに行ってましたもんね。
平川 ステーキは毎日食べたいのよ、今でも。でもお金がないから食べれないんだけどさ。で、安いステーキ、不味いステーキを食うことほど不幸なことないもんね。ステーキだけはさ、何千円か払わないとうまいステーキ食えないよね。別もんだよね。同じ牛なのに何でこんなに違うんだ。
栗田 ちょっと前はもんじゃ焼きでしたね。
平川 もんじゃ焼きはずーっと続いてるよ。もんじゃ焼きと大阪のぼてぢゅう形式の焼きそばはね、俺にとってのお粥だからあれ。体調悪いときにあれを食べる。
編集部からのお知らせ
平川克美×辻山良雄「小商いをはじめたら、共有地ができてしまった——喫茶店店主と書店店主が語る」アーカイブ動画を配信中です!
平川先生は、経営する会社を畳んで隣町珈琲店主に。辻山さんは、大手書店チェーンを退職して「Title」店主に。大きな組織やビジネスに関わったあとで個人のお店を開き、中心からすこし離れた場所に新しい「共有地」を作ってこられたお2人。『ちゃぶ台9』のテーマ「書店、再び共有地」を体現している店主同士に、それぞれの実践を語っていただきました。
・何が共有地を成り立たせるのか
・お客さんと自分の「間」で本を並べる
・共有地は目的がなくても行ける「something for nothing」の場所
などなど、”共有地”実践者ならではのお話が盛りだくさんの90分間です。