第119回
秋の田んぼで出会った!いきもののりくつ
2022.11.04更新
こんにちは! ミシマガ編集部です。
ぐっと気温が下がり、木の葉も色づき、秋が深まりましたね。
10月某日、私たちミシマ社メンバーは、『もえる!いきもののりくつ』の著者・中田兼介先生の田んぼにお邪魔して、稲刈りをしてきました!
稲刈りでは、黄金色のお米をザクザクと収穫するうれしさはもちろんですが、「いきもの博士」の田んぼならではの、たくさんの生きものとの出会いがありました。
かれらは田んぼのなかでどんなふうに生きているの? たくさんの生きものに出会うための農業のコツは?
本日のミシマガでは、中田先生に解説いただきながら、秋の田んぼで出会った身近な「いきもののりくつ」をレポートします!
今回、稲刈りをした田んぼはこんな感じです!
ぎっしりと並ぶ稲。このなかに、いきものたちの楽園が広がっているのです・・・。
鎌で端から刈っていくと、足元や・・・稲の先に・・・いろいろないきものを発見!
ひとつずつ、写真とともにご紹介します。
さっそく、中田先生のご専門、クモが登場!
コガネグモの子グモ
(クモを見つめる中田兼介先生)
【名前】コガネグモ(たぶん)の子グモ
【りくつ】
夏のクモ。稲刈りの頃は、卵から孵った地味な子グモが暮しています。
成体は大きくて、お腹に黄色と黒の鮮やかな縞模様があります。田んぼだと水面のある内部より、まわりに多い印象です。網に、X字状の白い飾りをつけ、目立たせてエサの昆虫を誘き寄せます。
昔は人里に多いクモでしたが、最近減っています。ウチの田んぼまわりにはまだいるようで、うれしい。
近しい種類にナガコガネグモというのがいて、こちらは稲の株間に網をかけていることが多いです。
ヌマガエル
【名前】ヌマガエル
【りくつ】
南方系で西日本には自然にいるのですが、最近どうやら人が関東に持ち込んだらしく、温暖化の影響もあるのか拡がっています。
トノサマガエルもいるウチの田んぼですが、2歳で産卵を始めるトノサマガエルと違って、ヌマガエルは産まれた次の年に、しかも何回も産卵するので、数で圧倒しています。稲刈りの時には、最近までオタマジャクシだったような、尾が残っている子もいて、無事に越冬できるのかしら? と心配です。
クモやカマキリと一緒に稲につく虫を食べて、爆発的に増えるのを抑えてくれるありがたい存在。
キボシカミキリ
【名前】キボシカミキリ
【りくつ】
産業的じゃなく、小規模で自給的な田んぼだと、まわりに果樹があったり畑で野菜が育っていたりして、いろんな環境が混じりあっているものです。
このカミキリムシは、クワ科の植物を食べ、生木を中から食べる幼虫が木を枯らすこともあるらしい。
そういえばこの田んぼの横には写真右側に写っているようにイチジクの木(クワ科です)があって、我が家では時々実をもいでは美味しくいただいています。つまり、競争相手です。
チョウセンカマキリ
【名前】チョウセンカマキリ(たぶん)
【りくつ】
カマキリの大きな眼には黒い点が見え、瞳のよう。人間が移動すると、こちらを向いた黒い点が動きに合わせてついてくるように見えるので、「カマキリがずっとこっちを見てる!」って思ってしまいます。
ですがそれは誤解。黒い点は眼の奥底が見えているのですが、カマキリの眼は円錐状の小さな個眼が頂点を内側にぐるっと並んでできているので、人間の目の真正面からしか奥底が見えません。つまりこちらが動いて目の正面が移動すると黒い点も移動して見えてしまう、という「りくつ」になっています。
クビキリギス
【名前】クビキリギス
【りくつ】
田んぼには種々のバッタの仲間がいますが、クビキリギスはその中でもキリギリス科の一種です。緑色の個体と褐色の個体がいて、この写真は褐色型。棲んでいるところの湿度が高いと緑に、低いと褐色になることがわかっていて、背景の色に合わせて体の色を発達させているようです。
田んぼだと湿度が高そうに思えますが、そうとも限らないってことですね。
「いきもののダンス」に出会う!
中田先生いわく、稲刈り中にたくさんのいきものに出会うには、とっておきの秘訣があるそう。
それは、全方位から、真ん中にむかって刈りこんでいくこと。すると、いきものたちが、稲の残っているほうへとどんどん集まっていくのです!
最後に島のように残った稲のあいだには、虫たちがたくさん! あちこちで、飛んだり跳ねたり這いまわったりのダンス状態です。
間近で見ると、ざわざわとした生命力のシャワーを浴びられます。ぜひ動画で味わってみてださい!(※虫が苦手な方は、すこしご注意ください。)
視点や環境がちょっと変わるだけで、自分たちの身の回りにはこんなに多くのいきものがいるのだと、大発見でした。
そして、こんなに生き生きとした景色に出会えるのは、ここが殺虫剤や除草剤を使用しない無農薬栽培の田んぼだからこそ。
『もえる!いきもののりくつ』のこんな一節を思い返しました。
都市の光害や騒音に加えて、気候変動、過剰な殺虫剤の使用、農地をつぶし森を切り拓く生息地の破壊。少し前まで普通にいた虫たちが、数をどんどん減らしています。
(...)地球は虫の惑星です。虫は動物の中で種類も一番多く、数が減ると、生態系がうまく働かなくなり、私たち自身が困ります。
虫を食べる鳥や小さなほ乳類の数に影響しますし、花粉が運ばれなくなって農産物が思うように収穫できなくなるでしょう。子どもたちが夏に虫取りすることもできなくなります。この本だって、虫たちがいなければ成り立たなくなってしまいます。(170-171頁)
この本は、私たちが「虫の惑星」「いきものの惑星」に住んでいること、そして、それぞれが独自の「りくつ」を持って生きていて、それでいてお互いを支え合っている、ということを知るのにぴったりな一冊です。
ぜひ、読書の秋、収穫の秋に手にとり、田んぼ、河原、街角など、身の回りの風景をじっくり楽しむきっかけにしていただけたらうれしいです!
(終)