第157回
「がんばるわたしが嫌いじゃない」フェアに寄せて ある人間の苦悩と回復
2023.09.05更新
今年8月より、「がんばるわたしが嫌いじゃない」というタイトルで、「しごと」を切り口にミシマ社の本を紹介するフェアを各地の本屋さんで展開いただいています。
くどうれいんさんの『桃を煮るひと』、山本ふみこさんの『家のしごと』、大瀧純子さんの『女、今日も仕事する』、前田エマさんの『動物になる日』、井川直子さんの『ピッツァ職人』。この5冊からはじまり、お店によっては、書店員さんのおすすめ本を加えていただいたりしながら展開中です。
それぞれの本の魅力は、ぜひ本屋さんの店頭でじっくり向き合っていただくとして、このフェアをどんなふうにつくっていったのか、今日はそんな話をしたいと思います。
(文責:ミシマ社出版チーム・ノザキ)
ある人間の苦悩
8月1日。京都オフィス。打ち合わせ部屋(和室)
「・・・それって丸投げってことですか?」
(私の中の一人が机を激しく叩いて部屋を出て行く。別の私が隅でメソメソ泣き始める。すでに口が勝手にものを言ってしまっている。あー、また始まってしまった。)
数秒前に遡ります。私は上司に呼び出され、「××プロジェクトを、一任したい」と言われました。会社にとっても、もっと大きい目でみても、大事そうだし何より面白そうだし、やったらいいだけの話だと自分でも思います。しかし「はいがんばります」とか「いやわたしにできるかどうか・・・でも・・・」とか、冷静に考えたら別の言葉があったでしょうよ、と今では思うけれどそのときは、先の言葉が勢いよく自分の口を出ていきました。上司は困った顔をしていました。
私は今、この会社に入社して6年目、今年30歳です。
入社1年目の頃に、完成までに何日もかかっていた手書き新聞づくり(ミシマ社サポーターのみなさまに毎月お送りしているサポーター新聞のことです)が今なら4時間ぐらいでできるようになったり、眉間に皺をよせて書いていた書籍の企画書が、楽しい気分で書けるようになったり、「微々たる」であっても変化は変化じゃ、と思えることがいくつか増えてきました。もちろんできないことはいろいろあります。
その状況で、上司は私にあらたな仕事を与えようとしていました。編集や営業の仕事、イベントの企画や運営の仕事、この会社にいるといろんな種類の仕事がゲリラ豪雨のように突発的に降ってきて、そのなかでなんとかやっていくことが多いのですが、そういう仕事とは別に、もう少し長い目で取り組むプロジェクトをやってみませんか? という誘いのようなものだったんだろうなと想像しています。
が、「んなもんできるわけないでしょうが!!!」と半ギレ(いや全ギレ)の状態で帰ったのが私です。今やっていることで精一杯で、精一杯今やっていることをやっているわけで、私のどこにそんな新たなことをする余裕があると思ってるんですか!(当時の心の叫びです、後から思えばほんとに最悪な奴だわとちゃんと思っています。)
その日は全仕事を中断してとにかく早く帰りました。できるかぎり速く自転車を漕いで、夕飯もパッとすませてお風呂もすぐ入って、自分の体勢をととのえて、家にあるちゃぶ台に向かい、真剣に、本気で、本を読みました。
一冊目。山本ふみこさんの『家のしごと』。山本さんが本当に最高。
二冊目。大瀧純子さんの『女、今日も仕事する』。昔読んだ時と全然違う読み心地。
三、四冊目。フェアのラインアップには入れなかったけれど、ほかのミシマ社の本。
五冊目。前田エマさんの『動物になる日』。本の制作の時期が懐かしい。いい本。
六冊目。井川直子さんの『ピッツァ職人』。どうしても感極まってしまった。
七冊目。くどうれいんさんの『桃を煮るひと』。コンビニのアメリカンドッグと共に。
心が燃えたぎってもいるし、ちょっとの刺激で号泣するぞ、という一触即発の精神状態の私が、それぞれの本から「これはッ!」と沁みた一節をひたすら抜き出しました。「がんばるわたしが嫌いじゃない」フェアのPOPには、その一節たちを展示しています。
ある人間の回復
ミシマ社から刊行された本は、もう少しで200冊になるというぐらいの量です。エッセイ、人文書、小説、絵本、実用書、ほんとうにさまざまなジャンルの本が集まっていて、普段あまり機会がないのですが、振り返って並べてみると、生ものでありながら普遍性もあって、(手前味噌ですが)いい本、と思うものがたくさんありました。
フェアで紹介している本は、近刊もあればもう10年近く前に発売された本もあります。昔出た本だから内容が古い、ということはまったくなく、自分自身が著者と本に追いついてくる感覚は、なんとも味わい深いものでした。
そして、なんといっても「しごと」が指すものの幅の広さ。自分にとってベストな仕事本を見つけることをし始めたら、それはものすごく壮大な読書の旅の入り口になってしまうわ・・・という直感がしました。会社で働くこと、と一重に言っても、ちいさな会社を経営する立場もあれば、企業に雇われ働く立場もある。家に帰って待っている仕事も、齢を重ねる中でさまざまに発展していくし、世の中には名前のついていない仕事だって山ほどある。
本屋さんには「ビジネス書」コーナーがあるけれど、そのジャンルをはるかに超えた「しごと」の本の持つ横断的な広がりに、一瞬慄いてしまいました。
本を読み、こんなことをぐるぐると考えていたら、なんとか明日も会社に行くぜという気力が湧いてきたのであったと思います(いや次の日もムキーーーッ!!!という態度だったかも)。とにかく、それぞれのタイミングと好みで、いい本に出会って欲しい、その一心です。ぜひ本屋さんへお立ち寄りください。
展開店一覧
<東北>
ひらのや書店(秋田県)
みどり書房 桑野店(福島県)
<関東>
リブロ イオンタウン守谷店(茨城県)
有隣堂 アトレ川崎店(神奈川県)
オリオン書房 アレア店(東京都)
ブックファースト 自由が丘店(東京都)
<北陸・東海>
ジュンク堂書店 名古屋栄店(愛知県)
TSUTAYA ウイングタウン岡崎店(愛知県)
くまざわ書店 一宮店(愛知県)
明文堂書店 金沢野々市店(石川県)
明文堂書店 TSUTAYA KOMATSU(石川県)
<関西>
大垣書店 烏丸三条店(京都府)
恵文社一乗寺店(京都府)
大垣書店 京都ポルタ店(京都府)
大垣書店 堀川新文化ビルヂング店(京都府)
ジュンク堂書店 姫路店(兵庫県)
ジュンク堂書店 明石店(兵庫県)
ジュンク堂書店 橿原店(奈良県)
MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店(大阪府)
<中国・四国>
啓文社 コア春日店(広島県)
啓文社 BOOKS PLUS 緑町(広島県)
廣文館 新幹線店(広島県)
丸善 岡山シンフォニービル店(岡山県)
ジュンク堂書店 高松店(香川県)
<九州・沖縄>
岩切書店(宮崎県)
ジュンク堂書店 那覇店(沖縄県)